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開催レポート「職業人としての障がい者(雇用と生業づくり)と社会モデル」 | PwDA+クロス8

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2024年8月5日、虎ノ門本社のIBM Innovation Studioにて、「職業人としての障がい者(雇用と生業づくり)と社会モデル」と題したイベントが開催されました。

「多様な意見やアプローチを混ぜたり重ねたりしながら、多様な人の多様な働きかたをみんなで考えよう。」——こんな思いからスタートしたこのイベント。当記事では、登壇者によるプレゼンテーション部分を中心にお伝えします。

なお、イベント前半部分(登壇各社による取り組み紹介およびパネリストによるディスカッション)を、アーカイブ動画にて公開しています。ぜひ以下URLよりご覧ください。

https://ibm.box.com/s/utif2yzo70qcp78lcs144285c3u2y99q

 

目次


 

日本IBM チーフ・ダイバーシティー・オフィサー 今野 智宏

「個社それぞれで取り組んでいくべきことやできることはたくさんあります。私たち日本IBMも、本日のイベントを主催している社員コミュニティー「PwDA+*」を中心に、社内での取り組みを進めています。

しかし一方で、個社ではなく、企業や団体が一緒に頭を悩ましながらともに取り組むことで、実現できることはもっとたくさんあるはずです。

本日は、本当に多様な方々に当イベントにご参加いただいております。会場でご参加いただいている皆様におかれましては長時間となりますが、後半の『仲間づくり』のためのグループセッションまでお付き合いいただき、あらゆる人の才能や能力を活かした働き方や雇用についてみんなで考えていきましょう。」

*「障がいの有無に関わらず誰もが自分らしく活躍できる社会」の実現を目指し、障がいのある社員とアライ(当事者を支援する社員)がともに活動する日本IBMの社内コミュニティー。PwDA+は”People with Diverse Abilities Plus Ally”の意。

 

日本IBM チーフ・ダイバーシティー・オフィサー(CDO)の今野さんがオープニングスピーチでこう語ったように、この日会場に集まったのは70名近い参加者。

障がい当事者として企業で働く人、就労支援団体の運営者やそこで働く人、社会福祉士や企業の人事部門に勤める人、官公庁職員や地方自治体の議員など、立場や取り組みを異にする多様な顔ぶれが揃っていました。

会場の様子

 

ここからは、この日登壇した4社4名のスピーカーによるプレゼンテーションの中から、いくつかのトピックをピックアップしてご紹介します。

最初に登壇したのは、小学校低学年の頃から「知的障害がある友人も楽しめるゲームを作りたい」とプログラミングを行っていたという、ヘラルボニーの橋本さんです。

 

株式会社ヘラルボニー 経営企画室 橋本 梓龍

・ 「障害に対する社会のイメージを変容する」。そのための手段として、主に知的障害のある作家と契約(2024.8時点で241名)、アートエージェンシーとして作品やアートデータの管理・プロデュースを行っているのがヘラルボニー。

・ アートを取り入れたシャツや小物などの商品開発・販売のほか、 JAL、丸井、JR東日本、成田空港、阪急阪神百貨店、ディズニーなど、多くの企業とアート・プロジェクトなどのコラボレーションを行い、アートをモノ・コト・バショに展開している。そこから得た作品使用料を契約作家や契約施設に報酬として支払っている。

・ 今年から、企業向けの本格的なDE&I研修事業もスタートしている。外面的に判断しやすい表層的なダイバーシティーにとどまらない、深層的ダイバーシティー(内面的な多様性)にまで踏み込んだもので、受講企業からは非常に高い評価を得ている。

参考 | 組織のDE&Iを促進する企業向け研修「ダイバーセッション・プログラム」

・ 「障害」は個人の側にあるのではなく、障害は社会側にあり、その仕組みや環境によって個人に不便や不利益をもたらしてしまうことがあるという「障害の社会モデル」に立脚していることを明確に示すために、「障がい者」ではなく「障害者」という漢字表記にすることをポリシーとしている。

 

続いて登壇したのは、重度の障がいがある子どもを支援するNPOでも活動されているPwCの当新さんです。この日は予定スピーカー急病につき代理でお話しいただきました。

 

PwCコンサルティング合同会社 公共事業部 当新 卓也

・ 昨年「重度障がい者の方がどんな働き方をしているのか」を、厚生労働省のプロジェクトの一環として調査研究した。当人と勤務先人事部の方にインタビューを行い事例集を作成したが、そこで見えてきたのは、みんなが「普通に」働いているという事実。

・ 厚生労働省が推進している「重度障害者等就労支援特別事業」という施作を知ってもらうことも調査研究の2次的な目的。事例集には、訪問看護制度を利用しながら1日6時間週5日勤務(通勤4日)されている方のインタビューなど、5名の事例が掲載されている。

・ お話を聞いた当事者のうち複数が、「この会社で働きたい」という思いから応募し、障がいの有無とは関係なく採用されていた。また、人事部門の多くの方が、障がいの有無とは関係なく「会社が求めている成果を出してくれるか」どうかで採用していると話していた。

・ 改めて感じたのは「障害のあるなしとはなんなのか」。状況に応じたケアや休息が必要なのは皆同じ。個別に人を見て、必要な準備やサポートをすれば、障害は障害ではなくなり誰もが働ける社会へとつながる——そんな希望を感じる調査・インタビューだった。

参考 | PwC Japan – 重度訪問介護利用者の働き方と企業による配慮の好事例集(PDF

3番目の登壇者は、イベント4日前に会社創立10周年を迎え、記念イベントでのサプライズに大泣きしてしまったという小野さんです。

 

VALT JAPAN株式会社 代表取締役 小野 貴也

・ 「20年後には1,000万人を超えると推定されている労働供給力不足」と、「障害を主理由に就職できずにいる約1,500万人の就労困難者」という、相反するかのような日本の2つの社会問題に対し、まったく新しい経済モデルを作ることで解決しようとしているのがVALT JAPAN。

・ 就労継続支援事業所でワーカーに支払われている工賃は月16,000円程度(B型事業所の場合)。この状況を変えるために、受注者責任をVALT JAPANが負い、大型案件を受注できるBPO事業「NEXT HERO」をスタート。事業所への分散発注によりわずか3カ月で工賃の大幅増加を達成。

参考 | 就労困難者特化型BPOプラットフォーム「NEXT HERO

・ 福祉的就労から一般就労への移行割合は、昔から変わらず1%前後。つまり施設での仕事以外を知らないままの人が圧倒的多数。一般就労にチャレンジしたいと思っていてもその機会すら得られない状態の方もいる。それを変えるための仕組みも用意している。

・ 受発注を通じて就労困難者が企業と一緒に働くことを評価する「法定協働率」。この新たなモノサシの制定を、政策提言活動として永田町で行っている。これが実現すれば、障がい者と企業がパートナーとなる新しいモデルとして、日本から世界を変えていけるだろう。

 

最後の登壇者は、日本IBM社内唯一のD&I専任担当者であり、障がいのある人向けのインターンシップや女性管理職育成プログラムのオーナーでもある鳥居さんです。

 

日本IBM 人事 ダイバーシティー & インクルージョン リード 鳥居 由起子

・ アメリカで公民権運動が始まる1950年代後半より前の1953年、当時の社長トーマス・ワトソン・ジュニアが差別禁止と機会均等に関するポリシーを明言した「Corporate Policy Letter 117」を発信。現在までアップデートを重ねており、これがIBMのD&Iの礎。

・ PwDA+コミュニティーでは、当事者とアライが自主的に課題の把握、分析、施策の提言、社内外への発信を積極的に行っており、その活動をCDOやエグゼクティブスポンサーが支援している。

・ 障害関連の特徴的な活動としては、PwDA+に加え、「一般社団法人企業アクセシビリティ・コンソーシアム(ACE)」のコアメンバーとしての活動と、「Access Blue Program(ACB)」という障がいがある人たちに特化した有償長期のインターンシッププログラムがある。

・ ACBのゴールは、インターンに「就労ビジョンを描き、エンプロイアビリティ(雇用市場にて雇用され得る能力)を高めていただく」こと。一方、IBM側も社内セミナーや期間中のOJTなどを通じ、多くの社員が障がいについて学ぶ機会を持ち、ともに働くことで制度や設備だけでなく、自身の意識を見直すきっかけとなっている。

参考 | 障がい者向けインターンシップ・プログラム「Access Blue Program 2024(PDF

4名のプレゼンテーションに続いては、パネルディスカッションです。

それに先立ち、モデレーターの株式会社Connecting Point代表の阿部 潤子さんから自己および活動紹介、そしてこの後のパネルディスカッションを踏まえた問いかけが行われました。

 

株式会社Connecting Point 代表取締役 阿部 潤子

・ 障害のある人の声や想いを尊重し大切にできる場や社会を作るための活動をライフワークとする社会福祉士/精神保健福祉士。2015年に立ち上げた株式会社Connecting Pointのミッションは、「障害がキャリアを積む上での”障害”にならない社会を実現する」こと。

・ 障害の有無に関わらず、私たち一人ひとりが、自分らしさを表現できる社会には欠かせない概念「セルフ・アドボカシー」を普及すべく「The Motivator 100(商標登録申請中)」に現在は注力。その一環として今年3月から「月間インクルーシブトーク」という月例公開対話イベントを開催している。

参考 | オンライン公開対話~月間インクルーシブトーク

・ 国連開発計画(UNDP)が発表している『障害を持つ人々に関するファクトシート』によれば、「平均余命70歳以上の国の国民は、生涯の11.5%の期間を障害とともに過ごすことになる」。つまり誰しもが、障害あるいは障がい者という体験をし得る。

・ そもそもなぜ、障がい者の場合は「就職」ではなく「就労」という言葉が使われるのか。分ける必要はあるのか。私たちは「自分には障害がない」と思い込んでいるだけで、実際は「ない」と思える環境に自分たちがいるだけではないのか。

 

パネルディスカッション & 仲間を見つけるためのグループセッション

左からIBM 村澤、VALT JAPAN 小野、PwC 当新、へラルボニー 橋本、Connecting Point 阿部(敬称略)

 

この先のパネルディスカッション・パートについては、トピックと、そこから派生した対話を見出し形式で紹介します。

なお、日本IBMからは、PwDA+エグゼクティブスポンサー 村澤 賢一さんがパネルディスカッションに参加しました。ディスカッションの模様は以下URLよりアーカイブ動画にてご確認いただけます。

https://ibm.box.com/v/pwda-nariwai

 

  • 平均と分散 | 「平均値」で捉える社会から分散・ブレ幅へ着目するモデルへ
  • ミクロとマクロ | 個人とビジネス、それぞれをもっと丁寧に見ていく
  • システムと現状維持 | 制度には維持しようとする力が働く。それを変えるには
  • 当事者不在 | 重要なのは選択肢を増やしていくこと。ただ、そこに当事者はいるのか
  • 進化スピード | テクノロジー進化は速くなってきたが、社会の制度や仕組みは
  • 何を大事に | 障がいがある人たちが当たり前のように活躍できる社会へ

 

この後、会場では参加者が4つのグループに分かれて自己紹介を行い、それぞれの活動や今日の感想について共有する「仲間を見つけるためのグループセッション」が行われました。

途中シャッフルタイムを挟みグループ替えを行うなど、多くの方と知り合い、話ができるようにするための工夫が盛り込まれていたせいか、イベント終了後もたくさんの方が会場に残り、連絡先の交換を行っていたのが印象的でした。

参加者の対話セッションの様子

 

PwDA+コミュニティーでは、今後も社会との共創を積極的に行っていく予定です。

PwDA+コミュニティーとの共創活動にご興味をお持ちの方は、ぜひこちらのアドレスまでご連絡ください。


TEXT 八木橋パチ

 

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