IBM Sustainability Software

「PAIRSから衛星データを使ってみよう」セッションレポート

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IBMのテクノロジーに関連するさまざまな話題を、オープンにお届けするカンファレンス「IBM CLOUD FESTA ONLINE 2020」が先日開催された。

20近くのセッションの中から、「Weather/Data | PAIRSから衛星データを使ってみよう」の一部を紹介する。

 

セッション紹介資料より

 

セッションの冒頭、スピーカーの高田颯(たかだはやて)は、1854年にイギリスロンドンの中心部で起きた「ブロード・ストリートのコレラの大発生」について語った。

「150年以上前、大流行していたコレラは空気感染ではないのではないかと疑ったジョン・スノウという医師が、感染発生場所を地図にプロットしました。そして最終的に発生源が感染エリアの中心に近い井戸にあることを突き止め、行政に訴えコレラ大発生を収束させました。」

参考: Wikipedia ブロード・ストリートのコレラの大発生

 

物事の真の意味や原因を調査する際、分析に統計的アプローチを用いることの力強さを示すこの逸話は、現代の私たちにも大きな示唆を与えてくれる。

それでは現在のテクノロジーを用いて過去を分析し未来を予測する際、用いることのできるデータにはどのようなものがあるのだろうか。そしてどのようなツールがそうした作業や判断をより的確に支援してくれるのだろうか。

現代の莫大に増え続けるデータと進化を続けるテクノロジーを活用し切るためには、それに見合う機能を持つ高度なデータ統合/統計プラットフォームが必要だ。今回のセッションで紹介された「PAIRS(ペアーズ)」は、それに見合うものだと高田は言う。

 

「PAIRSは、衛星写真などからの緯度・経度の地理空間データ・ストアをベースとして、そこに位置情報や気象情報など、時間軸により変化していくさまざまなデータ群を統合することができます。

お客様が保有する自社独自データを追加することもできますが、それを行わなくてもPAIRSには元から730のキュレーションされたデータセットが揃っています。

こうした多数のデータセットを地理的、時間的に共通グリッドに合わせこんで整理し可視化する機能の他、貯めたデータを外部BIツールと連携することができるのがPAIRSの大きな特長です。」

 

以下は、地理空間データを大きく4つにまとめたものだ。

PAIRS 地理空間データ例

 

だが、いくらデータが詳細で豊富であっても、正しく活用されなければ意味をなさない。そして多くの場合、正しく活用するには特殊な技術や専門性、そして「手間」が必要となる。高田はこう話した。

 

「センサーデータを中心としたIoTデータ。気象や土壌などのパブリックデータや空撮写真によりイメージデータ。そして各企業が独自に保有している社内データ。こうしたデータは単体ではなく、組み合わせて分析することでその価値を大きく増します。しかし実際には扱いが難しく、有効に活用している企業はほとんどありません。

それは、それぞれのデータをダウンロードして、空間軸と時間軸を合わせて、レイヤーを重ねて表示するのに高いスキルが求められるからです。やったことがある人なら分かるでしょうが、はっきり言って至難の業です。」

 

作業を難しくしているのは、増え続けるデータの量と、多岐にわたるフォーマットだと高田は言う。

「地理空間データの容量は肥大化しています。欧州の地球観測光学衛星であるセンチネルは一日あたりテラバイト単位、年間でいうとペタバイト単位のデータを生成しています。

さらに2025年にはIoTデバイスが生み出すデータ量が年間で180兆GBにもなると言われています。もう多すぎて、なんだかよくわからないですよね…。

さらに地理空間データはいろいろな様式で保管されています。点と線とポリゴンで表現するベクターデータ、画像系のデータであるラスターデータ、ライダーによる3Dベクターデータ、時系列データなどが挙げられます。」

 

高田はそう説明したあと、作業の複雑さを示す一例として、損害保険会社の自社データである契約者情報、道路や区画などの地理情報、暴風雨や洪水などの被害状況をあらわす衛星写真データのレイヤーを重ねて表示するユースケースを紹介した。

地理空間データ分析では多くの異なるデータを組み合わせる必要がある

 

PAIRSは、気象、衛星、人口統計、IoT、土壌、河川などバラバラに存在しさまざまな形式で存在するデータを、PAIRSのデータ構造に変換してデータストアに保持する。

ユーザー企業は保険、農業、電力、小売などの自社事業やサービスにより異なる外部アプリケーションから、API経由でPAIRSのデータストアにアクセスする。そこで自社が使用しているBIツールと連携させ、さまざま切り口からデータ分析を行うことができる。

それを示すのが以下の図だ。

PAIRS Geoscope: 地理空間データ分析プラットフォーム

 

PAIRSの優位性は以下の3つの観点から説明できるという。

データ準備の効率化

  • 共通フォーマットでカタログ化しデータを保管
  • 取り込んだデータのフォーマットを揃えてデータストアを拡張可能
  • さまざまなデータレイヤーを組み合わせ相互に関連付けた分析が可能

 

最適化されたデータクエリ

  • 空間や時間解像度の柔軟な設定によるデータの合わせ込み
  • 期間内のデータの最大最小平均などの基礎統計量の算出も容易

 

付加価値の高い分析作業

  • 正確で信頼度の高い結果を迅速に導出
  • データサイエンティストの業務をより効率化し、組織の課題解決などより付加価値の高い業務に注力することが可能

 

高田はこの後、NASAのLandsat衛星データから日本の人口密度の変化を可視化するデモンストレーションを実施した。

PAIRSの見やすく分かりやすいインターフェースから、対象範囲の変更やグレースケールからより見やすい表示色への変更、密集度合の設定数値の変更などが簡単に実行できることが確認できた。

 

高田に続いてもう1人のスピーカーである田中保夫がバトンを受け取ると、PAIRSの機能をその一部として有しているIBM Vegetation Managementと呼ばれる電力会社向けの植生管理ソリューションを紹介した。

 

電力会社が持つ送電線や設備情報をPAIRSに追加することで、植生管理に大きな変化がもたらされていると言う。

「従来の植生管理には大きなコストがかかっていました。また、的確さを欠くと大規模停電などの大問題にもつながりかねません。電線近くの植栽の伐採対象を素早く見つけ出すことができることには大きな意味があります。」

田中はそう話した後、アメリカ サンフランシスコのダウンタウンのデータを用いたデモンストレーションを行なった。

 

なお、「樹木の今後の育成予想をして先手を打ちたい」という相談は、国を問わず大変多いそうだ。

そして該当地区の樹木の種類が判明していれば、衛星画像から樹冠と呼ばれる樹木の地上部分のサイズを割り出すことで、統計的に来年どれくらいの大きさにまで成長するかを予測することが可能だという。

 

この電力会社の例のように、企業はそれぞれ事業毎に異なる個別のニーズを持っているだろう。田中と高田はそうしたニーズを持つ企業に、リクエストや相談があれば下記より問い合わせて欲しいと話した。


 

このセッションの資料と映像は公開が予定されている。公開完了時にはこの記事からもリンクする予定だ。

また、PAIRSは詳細気象データを使いやすくまとめた「IBM Environmental Intelligence Suite」の一部としても提供されている。
IBM Environmental Intelligence Suiteについてはこちらの記事「気象ビジネスの新時代到来! | 詳細気象データ・スイート「IBM Environmental Intelligence Suite」にてより詳しく紹介しているので、ご興味をお持ちの方は参照していただきたい。

 

問い合わせ情報

 

「天候データを活用した風災被害AI予測モデルの共同開発」レポート

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(TEXT:八木橋パチ)

 

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