Client Engineering
オタフク × watsonx | 人事規程AI取り組み事例
2024年07月30日
カテゴリー Client Engineering | IBM Data and AI | IBM Partner Ecosystem
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「私が入社した時、『新しいことも恐れずやってみる会社だな』と思ったものですが、テクノロジーを用いた新しいチャレンジに積極的なグループの姿勢は、現在まで変わらず引き継がれていますね。」
——オタフクホールディングス株式会社 執行役員IT推進部部長 岡本 侯子氏に、オタフクの生成AIの取り組みを中心にお話を伺いました。
目次
- オタフクとAI | 新ソース開発からAI需要予測まで
- 人事規程AI | オタフクの生成AIの取り組み
- 生成AI導入が目的ではない。欲しいのはそれが生みだす価値
- 組織は人 | 好みを持ち寄り笑顔で鉄板を囲めば
オタフクとAI | 新ソース開発からAI需要予測まで
「先日のNHK様の取材記事をご覧いただいた? そうですか、ありがとうございます。
あの記事を少し補足すると、紹介されていたソリューションは生成AIではなくて、いわゆるビッグデータ解析系のものです。当社が持っている『ソース』に関する大量の定性的・定量的なデータの中から、お客様からリクエストと共にいただいているテキスト情報やサンプルデータを元に、過去のレシピからご希望に近しいものを見つけ出すものです。
経験が少ない社員だと、お客様が希望される味を『材料構成』や『バランス』へと、いわば因数分解していくスキルが、どうしても十分ではありません。そのため、試行錯誤する時間が非常に長くなってしまいます。
あの取材で取り上げていただいたAIシステムは、完成品の味のゴールを100としたら、そこを目指すスタート地点をこれまでの0(ゼロ)からある程度のレベルまで押し上げてあげようというものですね。」
誰もが知っている代表商品「お好みソース」をはじめ、酢やタレなど、さまざまな液体調味料製造・販売を中心に活動しているオタフクソース。その商品数は2,000種にのぼるそうです。
そんなオタフク社内で、IT推進部のトップとして、多くのITプロジェクトを統括しているのが岡本さんです。ここからはIBMとの取り組みについてお話しいただきました。
「当社とIBMには長い付き合いがあり、これまで多くのITプロジェクトでご支援いただいてきました。
AI全般では、生成AIが爆発的に流行り出す前の2019年頃には、家庭用ソースの需要予測を行う「AI需要予測システム」をWatsonを活用して一緒に作り上げていただきました。
その後、コロナ禍や過去に類を見ないレベルでの原材料費の急騰などの社会の荒波に揉まれながらも、システムは成長を続けています。日常的なギャップ分析を通じてさらなる精度向上を目指しつつ、在庫管理や発注・物流など、サプライチェーン全体最適化に取り組んでいます。
生成AIに絞ってお話しさせていただくと、昨年からIBMの生成AIであるwatsonx.aiを用いた実証実験を行っています。
IBMの方には最初から「他業務との兼ね合いなどもあり、担当者の限られたリソース内での取り組みとなる」旨はお伝えさせていただきましたが、それでも多くのMVP(最小限のアプリケーション・プロトタイプ)作成などを通じ、貴重な体験を積むことができました。また、watsonx.aiのおかげで生成AIの勘所をつかみ、さまざまなLLM(大規模言語モデル)を試す経験ができたのも大きいですね。
ChatGPTを使ったプロジェクトの中には本番稼働に至るまで苦労するという話もあるようですが、たしかに生成AIは思っていたよりもずっと難しいものですね。『実用への道のりは一筋縄ではいかない』ということを実感しています。」
人事規程AI | オタフクの生成AIの取り組み
「私はこれまでの経験から、「小さくスタートして、然るべきタイミングが来た際に大きく広げる』というアプローチがIT導入プロジェクトには合っていると思っています。たとえばオンライン・コミュニケーションツールへの転換も、準備は以前からしておき、コロナ禍の初期に一斉に全社へと広めました。こうした方法だと社内への説明・説得時間を大幅に短縮できますから、常に『鼻を効かせて』おくようにしています。
watsonx.aiの試行も当初は「お好み焼きAI」という壮大なプロジェクトを考えていましたが、ファーストトライアルとしてまずは教師データや用途範囲を限定する事とし、人事規程に関する支援システムに狙いを定めました。『人事規程AI』とでも呼ぶべきでしょうか。人事制度や規程について、社員からの問い合わせに対応する生成AIシステムを、watsonx.aiで構築中です。
生成AIには誤情報が紛れ込む現象が含まれることは、最近ではよく知られるようになりました。ですが今回私たちが取り組んでいるのは『人事規程』です。大きな誤回答は認められませんし、分からない場合には「分からない」と答えてくれるようなシステムが必要です。
そういった点から考えると、私見ですが少なくとも正答率90%程度がサービスインの目安となりますね。」
今後プロジェクトはどのように展開していくのでしょうか——。詳細を伺いました。
「現状では、社員からの規程や制度に関する問い合わせのほとんどは社員から電話で入ってきています。人事部門の対応すべき業務は幅が広く、こうしたいつかかってくるか分からない電話対応に費やす時間を削減することの意味は大きいです。また、人事規定に関する質問は、社員個々の事情が複雑に関係しているケースも少なからずあります。
『機械ができることは機械がやればいい。人は人がやるべき仕事をするべし』というのは、以前から弊社の経営者が述べていた言葉ですが、このケースもまさにそれにあてはまるのではないかと思っています。
一問一答に近い単純な問い合わせは、生成AIが意図を汲んで答えてくれればいい。人はもっと、個々の社員が置かれている複雑な状況に寄り添って活動できることが望ましいですよね。
先ほどのサービスイン要件が達成されていることを前提として考えると、感覚値ですがおそらくこの人事規定AIは、入電への対応に関するワークロードをある程度削減するのではないかと想像します。詳細は頃合いを見て確認する必要がありますが。」
生成AI導入が目的ではない。欲しいのはそれが生みだす価値
「生成AIに関してもう一つ思うことは、『私たちは生成AIを導入する事が目的ではない。そこで生みだされる価値を求めているのだ』ということです。
私はIT推進を担当していますし、新しい技術を試し、どう取り入れられるかを考えるのはもともと好きなんです。でもだからこそ、それが生産性向上や組織力向上にどうつながっていくのかを強く意識して、『いつまでに何ができるようになるのか』というマイルストーンを設定し、タイムリーに効果を検証しながら進めていくことが重要だと考えています。
この点は一緒に共創を進めていただいているIBMの皆様にもご理解いただき、これまでと同様にご支援いただきたいと思っています。
今回のプロジェクトでは、カスタマー・サクセス・マネージャー(CSM)の小野さんには特にお世話になりました。私たちの困りごとやリクエストにきめ細かくご対応いただき、状況に応じてクライアント・エンジニアリングのスペシャリストの皆様たちをタイムリーにアサインいただきました。今後もよろしくお願いいたします。」
組織は人 | 好みを持ち寄り笑顔で鉄板を囲めば
「お多福グループの2030年ビジョンは「笑顔をデザインする会社に」です。栄養補給はもちろんですが、食の素晴らしいところは人を笑顔にする力があるところじゃないでしょうか。
食は幸せの気づきや実感を与えるものであり、胸襟を開いてともに食を囲むことで、人の関係性はグッと近くなりますよね。食品メーカーとして、それに寄与できるのは喜びです。
お多福グループは社員同士の、そして社会との関係性にも力を入れている会社です。お花見、バーベキュー、社員旅行と行事やレクリエーションも多く、『時代錯誤ではないか?』と思っている社員もいるかもしれません。
でも、やっぱり『組織は人』ですから。フォーマルな関係性だけではなく、人となりを知り合うことでより楽しく働けますし、やりがいは笑顔を生みだしますから。」
インタビューの後、WoodEggお好み焼館——お好み焼きの歴史や文化を発信する複合施設——を岡本さんにご案内いただきました。
「2008年の開館以来、本当にたくさんの方に毎年ご来場いただいています。
昭和30年代のお好み焼き店の再現展示や、調味料の製造過程の体験、お好み焼き教室やグッズの販売、お多福に関する美術品、社員やお客様からいただいたお好み愛にあふれる作品などなど、見どころたくさんですので時間の許す限りご覧いただきたいです。
こちらの展示でも紹介していますが、数年前に、豚肉とアルコールが禁じられているムスリムの方にも美味しいお好み焼きを食べていただけるよう、マレーシア工場で肉やアルコール由来の原料を使わないハラール認証ソースを製造し、日本でも販売しています。
『お好み焼き』は文字通り、その人の好みやライフスタイルに合わせてどんなアレンジもできるものです。『好み』ですから正解も不正解もありません。それぞれの好みを持ち寄って笑顔で鉄板を囲めば、それが地球の幸せにつながっていくのではないでしょうか。」
企業情報 | オタフクホールディングス(本社広島市)
大正11年に酒や醤油などの卸小売業として創業。2022年に100周年を迎えた。創業以来の使命である「健康」を軸に、国内外8社を擁してお多福グループを形成。
「お多福」は人生の甘いも酸いも苦いも知り尽くした「心の美人」の象徴。スローガンは「小さな幸せを、地球の幸せに。」
TEXT 八木橋パチ
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