IBM Sustainability Software
IoTで農業デザイナーを宇宙へ送り出したい(ネポン アグリネット インタビュー)
2019年07月16日
カテゴリー IBM Sustainability Software | プラットフォーム | 事例
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IoTを活用して農業界に大きな変革を起こしているアグリネット。そのキーパーソンである太場さんにインタビューしました。
■ ネポンと太場さんの出会い
— まず、簡単にネポンのことを教えていただけますか。
はい。ネポンは70年の歴史を持つ会社で、創業者は「開拓者」、今でいう「イノベーター」で熱交換技術を用いた設備を日本で初めて完成させました。その後、施設園芸用機器を中心に発展してきた会社です。
ここ数年は、アグリネットという農業支援IoTサービスにも力を入れていまして、私は主にそちらを担当しています。
— 太場さんはネポンでの社歴が長いんですか?
私がネポンと深く関わるようになったのは2009年で、そのきっかけは、現社長であり3代目の福田から相談を受けたことでした。
当時、私はデジタルハリウッドで起業家育成をしたり、いくつかの企業のアドバイザーをしていましたが、福田社長の相談を聞きその想いに共感するうちに、社外からアドバイザーとして支援するのではなく、同じ社内のチームメンバーとして具体的な課題に取り組みたいと思ったんです。
そんなわけで、本気で一緒に進めていきたいので社員にして欲しいと社長に依頼して、ネポンに入社しました。
— すごい熱意と行動力ですね! 社長の想いに共感して入社を決めたとのことですが、その想いとはなんだったんですか?
主に4つあります。まずこれは私自身の想いとして、「IT業界で取得したノウハウを農業に活かすことで、農業界にイノベーションを起こしたい」ということ。そして社長の「イノベーターとして創業者を超えたい」という想いと「ビジネスを通じて農家や生産者を幸せにしたい」という想い。
そして最後に、人間だけではなく動植物を含めたあらゆる生態系へ向けた「みんなが豊かな生活に」というネポンという会社の想いに共感しました。
— 私も、家畜や動物にも心理的な豊かな暮らしをという「アニマルウェルフェア」には興味を持っているのですが、さらに植物まで含めた「豊かな生活を」という理念の大きさには驚きました。日本にそんな会社があったんですね!
■ 難産だったアグリネットのスタート
— アグリネットについて、簡単に教えてください。
現在3,000件の農家さんにご利用いただいている次世代農業経営支援サービスで、ITを縁遠く感じる農家の方にも、使いやすく分かりやすい機能とサービスを低額で提供しています。
主なサービス内容は、農業ハウス内の温度や湿度、二酸化炭素濃度や照度などのデータを可視化し、遠隔制御で最適な栽培環境を作り出すことで、生産者が幸せになるお手伝いをしています。
— 太場さんの入社以降、アグリネットの取り組みは順調に進んだのでしょうか?
いいえ、最初は大変でした…。
最近でこそ「アグリネット」の名は知られていますが、園芸用温風暖房器のリーディングカンパニーとして7万件もの農家さんたちとつながりを持ち、IoTやクラウドなどの先端テクノロジーとは縁遠い会社でしたから、「新しい道を見つけよう。イノベーションを起こそう!」と言っても、社員はなかなかその必要性を感じてくれませんでした。
— いきなり畑違いの人がきて「新しいことを!」って言いだしたら、まあそれが普通かもしれませんね。では、農家の方たちはどうだったんですか?
農家さんたちも最初は同じで、いきなり「データを活かしてカイゼンしましょう!」と言っても相手にされませんでした。
これも考えてみれば当然で、やっぱりそれまでの自分たちの経験に自信も誇りもある農家さんからしてみれば、「この太場というのは誰だ? 何を言っているんだ?」となりますよね。
— 社員からも反発され、農家さんたちにも受け入れられない…。波乱のスタートですね。
はい。ですからまず、農家のみなさんに信用してもらおうと勉強しました。
例えば「飽差値」という、空気1立方メートルあたりの水蒸気の空き容量を示す指標があるのですが、こういった言葉を学び、IoTを使ってベストな飽差値環境をデータを基に作り出せることを科学的に示していったんです。
それで、実際に少しずつIoTでのデータ取得と自動制御技術を試してもらい、成果を見ていただくと、「この太場という人は自分たちのやりたいことをしっかり支援してくれる」とすっかり信頼していただけるようになりました。
— 自信と誇りの高い農家さんにも?
はい。むしろ「篤農家」と呼ばれる研究熱心な農家さんたちって、自分たちの経験と技術に自信を持っている一方、それをきちんと説明するための理論やデータも求められている方も多いんです。
IoTで彼らの経験を裏付けるデータや理論が得られるようになり、さらにそこからより高度な分析や実験をしてカイゼンを進められるわけですから、とても喜んでもらえました。
それに、農家の人たちって心意気を大切にする人たちが多いんですよ。だからこちらの熱意を受け止めていただいてからは、むしろ率先して応援していただけるようになりました。
— 応援ですか。例えばどんなふうにですか?
いろいろありますが、ネポンの営業担当者が農家さんを訪問した際、「このあいだ同行したIT担当がいいことを教えてくれた。また連れてきてくれ」なんて言ってくださったり。本当にありがたかったし、うれしかったですね。
それに、営業担当者も「飽和値のデータから二酸化炭素の放出タイミングを変えようかと考えてるんだけど、どう思う?」なんて農家さんに聞かれるようになってきたら、答えられるように勉強しなきゃなりませんよね。
そんなふうにアグリネットをご利用いただいている農家の皆さんが、私たちネポンを変化させてくれました。
(撮影場所: 日本IBM本社 クライアント・ショールーム Watson IoTエリア)
■ アグリネット世界へ! そして宇宙へ?!
— アグリネットを基にした新規プロジェクトもいろいろ進んでいると耳にしました。
はい。従来の農業ハウス内IoTの延長線上にあるプロジェクトとしては、全国的に有名な高糖度トマトでブランド展開を行っている生産法人様の、安定供給のための産地間リレー・プロジェクトなどがあります。また最近は、従来の範囲に収まらないものもどんどん増え、多方面に拡がっています。
まだオープンにできないものも少なくないのですが、お伝えできるものとしては、北海道旭川の水田プロジェクトがあります。水田への水放出のタイミングをIoTデータを基にコントロールして、安全で信頼できる高品質な米作りを実現しています。
— 水の放出タイミングが重要なんですか?
そうなんです。米の質そのものにも重要ですし、別作業をしやすい工程づくりなどで生産活動に大きな影響を与えるんです。
また、取り組みや作業内容がきちんとデータに残るので、食品安全や環境保全に配慮した「持続的な生産活動」に与えられる「グローバルギャップ」という国際認証を取得することができました。それもあって世界的な企業とのお取引につながっています。
— すごいですね。
さらにここ数年、植物以外の農業でも積極的に使われるようになってきています。
一例としては養鶏施設で熱・温度管理などを通じて鶏にとっての豊かな暮らしの提供に役立てていただいており、「動植物を含めたあらゆる生態系の豊かさ」というネポンの理念にちかづけてきているんじゃないかと喜んでいるんです。
— 温度や湿度、照度などはあらゆる生き物に重要ですもんね。
その通りです。そして業種の拡がりだけじゃなく、活用地域の拡がりについてもものすごく大きな可能性を感じているんです。
私は、日本の農家の高い技能を、アジアや中東でも活かしたいんです。単純に日本で生産して輸出していては環境負荷が高くなってしまいます。かと言ってすべてをオープンにして現地で生産をしてしまえば、技術が流出してしまい強みを失ってしまい、持続的ではありません
— 難しい問題ですね。打破する方法はありますか?
アグリネットなら、現地の雇用者と共同作業をしつつ、最重要データや仕組みをブラックボックス化したままで現地生産ができますよね。日本にいながら遠隔制御することだってできます。
このやり方なら、持続性を保ったまま世界に美味しくて安全な食品を提供できるようになり、生産者をより一層幸せにできるんじゃないでしょうか。
— たしかにそうですね。Watson IoTの画像診断ソリューションやウェアラブルを活用した遠隔支援ツールを使えば、簡単に実現できそうです。
参考: セッションレポート – ウェアラブルの伝道師による「産業用ウェアラブルデバイスの動向と将来」
参考: 些細な障害も見逃さず、より迅速・正確に検出して生産品質を向上
きっとそう遠くない未来に、アグリネットを基にモジュール方式でどこでも栄養価の高い野菜が作れる「オールインワン」パッケージを作れるんじゃないかと思っているんです。そうしたらきっとNASAも、宇宙飛行士たちのために採用するんじゃないかなって。
今も週に一度、私はデジタル・クリエイターを目指す学生たちを教えているのですが、早く集まってくる学生たちにこう言いたいんです。「ゲームデザイナーやウェブクリエイターもいいけど、かっこよく宇宙を股に活躍できて稼ぎもいいのは、アグリ・デザイナーだぞ」って。
実際、デジタルの力を活かした遠隔制御にはその可能性がたっぷり眠っていますから。
— 世界だけじゃなくて宇宙にまで拡がるんですね!
そうですね。これまでデジタルの世界とアナログの世界はそれぞれ別世界でした。でも、これからIoTが当たり前となる未来では、仕事や日常生活で2つの世界をつなげていく人たちが必要になります。
そういうデザイナーやクリエイターを増やしていくのが、これからの私の使命なんじゃないかと感じているんです。
そしてさらに、アグリネットを支えるWatson IoTのプラットフォームも今後さらに発展するでしょうし、当然私たちアグリネットも進化していきます。そのときにはこの基盤をモジュール化して、教育業界や高齢者介護にも役立てることができると思うんです。
— アグリネットは教育や介護にも拡がるんですか?
はい。まさに今、IBMさんにも協力頂きIBM Cloud上に構築しているプラットフォーム「Chabu-Dai」を、「人とモノ、人と情報」を活用する新たなサービスプラットフォームとしてデザイナーやクリエイター、エンジニアに開放し、展開しようとしているところです。
企業がいきなりIoTのビジネス展開を始めようとしても、ハードルが高いのが実情です。そのハードルを下げ、検証から導入への時間をショートカットでき、大きな投資を行なわなくても参入できるプラットフォームを、一人でも多くの方がたに知ってほしいと思っています。
— Chabu-Daiについて、もう少し資料があればおみせいただけますか?
こちらになります。
これからもIBMさんにはぜひご協力頂きたいので、どうぞよろしくお願いします。
(クリックで別画面に拡大表示)
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関連記事: 次世代工場ソリューション・ショールーム(ISE Technical Conference 2019レポート)
(撮影場所: 日本IBM本社 クライアント・ショールーム AIエリア)
TEXT 八木橋パチ
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