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地域に寄り添った解決策を | IBMの医療MaaSと共創の取り組み(北海道喜茂別町)

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日本が抱えている「都市部への人口集中」と「超高齢化社会」という大きな社会課題の解決に、重要な役割を果たすことが期待されているのが、バスや電車、タクシー、飛行機など、さまざまな移動手段をデジタル技術でシームレスにつなぎ、スマートフォンアプリなどを接点とすることで利用者の利便性を高めるサービスの総称「MaaS(マース: モビリティ・アズ・ア・サービス)です。

さまざまな分野で活用例が広がっているMaaSですが、中でも「医療MaaS」と呼ばれる医療分野における取り組みが大きな注目を集めています。その理由は、過疎化および高齢化が日本の国土の7割を占める中山間地域でとりわけ加速しており、タイムリーな医療や関連サービスの提供が難しくなっているからです。

深刻度を増す医師や医療機関不足という問題は、一朝一夕に解決できるものではなく、腰を据えたアプローチが必要ですが、具体的にどのような動きや対策が取られているのでしょうか。

複数企業の連携・共創でこの問題に取り組んでいる日本IBM クライアント・エンジニアリングチームのコンサルタント中山透に、「MONETコンソーシアム」および「MONET LABO『医療』」での取り組みと、北海道喜茂別町での活動について伺いました。

 

MONET LABO『医療』」とは、医療×モビリティサービスでのビジネス創造を通じて、患者・医療従事者にとって快適・安心・最適な医療サービスの提供を目指す事業開発プログラム。

ソフトバンクとトヨタの共同出資により誕生した「MONET Technologies(モネ テクノロジーズ)」を中核とした「MONETコンソーシアム」と、シミックホールディングスが、プログラムを共同運営している。

 

Q1: 日経産業新聞に「医療MaaS」に関する記事が掲載されたこともあり、改めて注目度が高まっていると思います。そもそも、どういう経緯でIBMがMONET LABO『医療』」に加わることとなったのでしょうか?

→ 参考: 「医療MaaS」事業育む シミックHDやMONETが主導

A1: IBMは世界各国で自動車業界と密接な関係にあり、それはここ日本でも同様で技術だけではなくさまざまな観点からご支援させていただいています。

私自身も自動車業界を20年以上ご支援させていただいているのですが、ただここ数年は、「このままでは、電気自動車などと同様にMaaSでも世界の後塵を拝するものとなってしまうのでは?」と、日本の自動車業界におけるMaaS事業の立ち上がりの遅さに危機感を感じていました。

そんな中、2019年にMONETコンソーシアムに参加させていただき、昨年「MONET LABO『医療』」がスタートした際にすぐに名乗りを上げさせていただきました。

 

Q2: 新聞には、日本IBMとトヨタ車体、パーソルプロセス&テクノロジーの3社で北海道喜茂別町での取り組みを行っているとありました。どのような形で進めているのでしょうか。

A2: 記事にも書かれていたように、日本各地で医療MaaSの取り組みは行われているものの、多くが実証実験から先になかなか進んでいないというのが実情です。私たちは、その原因の一つが、地元の人たちの本当の気持ちや感じている必要性に寄り添えていないからではないかと考えました。

そこで3社のメンバーで喜茂別町を訪問し、町長や行政の方たちだけではなく、古くからの地元住人や地域おこし協力隊などさまざまな人びとにご協力いただいてヒアリングを行い、意見の集約や課題の理解と深掘り、そして解決に向けたアイデア・ワークショップなどを行いました。

こうしたボトムアップ型での共創の取り組みは、コンサルタントやサイエンティスト、デザイナーやエンジニア、そしてアーキテクトと複数職種のプロフェッショナルが集まっているIBM クライアント・エンジニアリングチームの得意とするところなので、私たちが喜茂別町MaaSプロジェクトをリードする形となりました。

喜茂別町への提案作成の足取り

 

Q3: 現在はどのような状況でしょうか。内容について具体的に教えてください。

A3: 今は喜茂別町への最終提案を提出し終えた段階なのですが、実は、フィールドワークとワークショップの結果、当初の仮説からは大きな変更を行いました。

当初、私たちは地域住民の健康や医療を支援するためのモビリティを最優先課題として捉えていたのですが、喜茂別町の方がたは、「人口減少」が最大の課題であり、その解消なくしては医療サービスの問題も根本的な解決にはつながらないだろうとお考えになられていたのです。

具体的には、町のことをもっと知ってもらい、まずは「訪問してみたい」「一時的であっても過ごしてみたい」と思っていただくことが重要であり、その延長線上に医療サービスを提供できる専門家の関わりが生まれ、近辺に暮されることを検討されたり、あるいは複数拠点生活の対象地域としてご検討いただけるようになるのではないかと考えていらっしゃることが分かりました。

ですから、まずは最初に「関係人口の増加と移住・定住の促進取り組み」を、そして次に「高齢者へのサポートや医療問題、地域活性化へのアプローチ」という2段構えのプロジェクトとしてご提案させていただきました。

ソリューションコンセプト

 

Q4: それはたしかに大きな変化ですね。地域住民の方から何か具体的なエピソードなどが出てきたのでしょうか?

A4: はい。喜茂別町の人口は2000名ほどですが、病院は町立のクリニックが一軒、薬局もその隣の一軒だけで、ドラッグストアはありません。ちなみにコンビニエンスストアも町の中心に一軒あるだけです。

クリニックの院長にお話を伺ったところ、以前、この町への移住を検討してくれる医師を探したことがあるとのことでした。しかし、若手医師ほど先端医療や新たな医療技術の研鑽に貪欲であり、都市部から離れることに抵抗があるため、見つけることはできなかったそうです。これは私たち技術を扱う専門家にとっては、分かりやすくとても納得のいくお話でした。

しかし、現在のネットワークテクノロジーやエッジコンピューティングなどの技術進化を、そして暮らし方やライフスタイルの多様性の拡がりを考えると、都市部からの遠隔医療、移動診断車両の活用、医療データ連携によるシームレスな地域医療サービスの提供も、そう遠い話ではないようにも感じます。そうなれば、スキーリゾートで有名なニセコ、ルスツからも近く、アウトドアの魅力に溢れた喜茂別町を拠点にしようと考える医療関係者も、きっと出てくるのではないかと思います。

 

Q5: 最後に、中山さんのMaaSやモネラボへの想いを聞かせてください。

A5: 私は、社会の無駄や無理をなくして資源配分を上手くできるようにすれば、より多くの人がもっと健康的で明るい生活を楽しめる社会が実現するのではないかと思っています。ただ、こうした考え方が社会に広がっていくには、企業がもっと共創型にならなければならないでしょう。なぜなら、複雑化が進んだ現代では、一社がすべてを提供することは不可能だからです。

そしてMaaSの世界は、一社独占を追うような古いやり方では成立しないということが、顕著に分かる分野ではないかと思っています。

「独占」や「寡占」ではなく、それぞれが得意なところを持ち寄り協力しながら進めていく。共創に加わり価値提供ができるように、個人も組織も自分たちの武器を磨いていく。そういう活動をMONET LABOでのMaaSの取り組みを通じて広げていきたいですね。

 

 

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