IBM Sustainability Software
お客様と社会の「いざ」を気象データで支えるために(ウェザービジネス 加藤 陽一)
2020年04月28日
カテゴリー IBM Sustainability Software | ウェザービジネス
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AI Applicationsチームメンバー・インタビュー #28
加藤 陽一 ウェザービジネスソリューションズ
IoTやAIに代表されるテクノロジーと、どう関わっていくのか。個人として、IBMとして、社会とどう関わってきたのか。そしてこれからどう関わっていこうと考えているのか。
— そんな観点でAI Applicationチームのメンバーに語っていただいているインタビューシリーズ、第28弾となる今回は、先日Watson IoTチームと合体したウェザービジネスソリューションズの加藤 陽一さんにご登場いただきます。
(インタビュアー 八木橋パチ)
— 加藤さん、こんなご時世ですからオンラインでのインタビューとなりますが、今日はよろしくお願いします。まずは簡単に自己紹介を…そうですね、私もまったく知らないので、経歴を教えてもらえますか?
こちらこそよろしくお願いします。
新たにAI Applicationsチームに加わった、ウェザービジネスソリューションズの加藤陽一です。私は1984年に日本IBMに入社しまして、それ以来IBM一筋です。
入社後は11年間金融事業部でSE(システムエンジニア)をやっていました。その後コンサルタントにキャリアチェンジしてさまざまな業種のお客さま向けのIT戦略や業務変革のコンサルティングを担当させていただいた後、ビッグデータ解析や最適化に関する製品・サービスを担当する事業部に異動しました。そして3年前にウェザービジネスを日本IBMで立ち上げるリーダーとなりました。
— ウェザービジネスへの異動はご自身で希望されたんですか?
最初はWatson事業への異動を希望していたんです。IBMの中で一番おもしろいのはやっぱりWatsonだと思っていたので。
そうしたら思いがけず「新しくウェザービジネスを立ち上げることになったので人を探しているところだった。社会的な意義もある。そこでリーダーをやってみないか?」と言われて頭の中がぐるぐる回りましたが、数日考えて「やります」と答えました。
— 「やります」までは何日ほど? その間どんなことを考えられていたんですか?
2日間だったかな。それまで「天気のビジネス」というものを真剣に考えたことがなかったですからね、まず、自分にできるのだろうか? ってことですよね。そしてそれがどうにかなりそうだと思ったら、元々自分が持っている「新しいことへの挑戦」とか「まだ誰も日本アイ・ビー・エムでやったことがないことへの一番乗り」とか、そういうワクワク感を感じましたね。
— 実際にウェザービジネスのリーダーになって、どうでしたか。想像通りでした?
いやー大変でしたよ、それはもう。メディアの注目度も高くて、取材もたくさん受けましたし、社内外から今まで関わったことのない色々な方から問い合わせを毎日のように受けました。
毎日グローバルチームや日本の気象予報士に教えを受けながら猛勉強していたとはいえ、まだやっぱり初心者です。十分な知識の裏付けや経験を持っていない中で、取材いただく記者さんやお客様には専門家として対応しなければなりませんから、かなりの冷や汗ものでした。
— たしかにそうですね。「そんな難しいこと聞かないでください」とはなかなか言えないですもんね(笑)。
— 「ウィズコロナ」「ポストコロナ」「ニューノーマル」など、考えることがいろいろある昨今ですが、現在の加藤さんの日常生活はどんな感じですか? 幸いにも、私は今はまだあまり不便さは感じていないのですが。
私も同様ですね。日本IBM箱崎本社に設置している気象予報センターの予報士は24時間体制で気象予報業務を続けなければならないため、どうしても外出が必要になることもありますが、在宅で勤務できるようオンライン環境を整えています。私は不便さよりも通勤時間がなくなったことで生産性が向上しており利点を享受しています。
— ウィズコロナの暮らしや生活で、どんなことを感じられていますか?
命に関わる大ごとなので軽々しく言うべきではないとも思うのですが、学べることもすごく多いなと感じています。ほぼすべての時間を自宅で過ごすようになり、外の人と過ごす時間が減った分、家族と過ごす時間が本当に増えました。
そして時間だけじゃなくて、家族とのつながり方が濃くなったと言うか…。月並みな言い方ですが、絆が深まったと思います。
— 外の人と言えば、最近は「オンライン飲み会」も流行っています。加藤さんもされていますか?
同居している娘は頻繁にやっているようですけど、私はもともとあまりお酒を飲まないこともありやっていないですね。
あ、でも「オンライン雑談」はよくやっています。私自身もそうですけど、やっぱり人間は「人とのつながり」への欲求を強く持っているのだと思います。
— そうですよね。私もオンライン飲み会は飲みすぎちゃうので控えめにしています(笑)。加藤さんはどんな方たちと雑談されるんですか、趣味仲間とか?
私はこれといった趣味は持っていないのですが、職種や年代がさまざまな友人たちのグループがあるんです…価値観の近い仲間の集まりというか。
— 価値観の近い仲間ですか。一体どんな人たちでどんな価値観なんでしょう?
うーん、どう言えばいいのかな…。価値観の合う人たちに共通しているのは、自己中心的ではなくて社会のために、あるいは誰かに喜んでもらうためにだったり、そういう活動や暮らし方に意義を見出しているってことですかね、利他の気持ちというか。
そしてそういう考えを実践している人たちが多いです。別に大それたことではなく、道に迷っている人を見かけたら声をかけるとか、会議室にゴミが放置されていたら捨てにいくとかそういうちょっとしたことも含めて。
米国アトランタ郊外にあるThe Weather Company本社にて(2019年撮影)
— すごく共感します! 加藤さんもそういう人なんですね。仕事の面ではどうでしょうか?
IBMは、お客様や社会から最も必要とされる「essentialな存在となる」ことを掲げている会社ですから、そのために働けることは私にとっては嬉しいことなんです。
そしてウェザービジネスは中でもその価値観を実感できることがとても多いので、私は幸せ者だなと感じています。
— ウェザービジネスが「社会のためや人のためを感じることが多い」というのは、具体的にはどういうことでしょう?
去年の11月に、ウェザービジネスの気象予測精度がこれまで以上に一層上がりました。それは予測モデルそのものも進化しましたし、世界中のセンサーやレーダーからのデータ取り込み量も大幅に増加しましたし、データ解析に世界最高レベルのスーパーコンピューターを用いるようにもなりました。
これで、いままでの予測対象範囲の細かさが12キロメートル四方単位だったものを、3キロメートル四方単位にすることができました。より細やかに気象現象を捉え、AIも活用して半径約500メートル単位のほぼピンポイントで精度の高い予報をリアルタイムに全世界の人々に届けることができるようになったんです。
— なるほど。でも、天気予報の対象範囲が細かくなることって「社会のためや人のため」にそれほど意味があるのでしょうか?
新型コロナウィルスのことで頭が一杯となって、もしかして忘れてしまっているかもしれませんが、去年、台風と集中豪雨で日本には甚大な被害が起こりましたよね。悲しいことに、多くの命も失われてしまいました。
気象予測の範囲が細かくなるってことは、世界中隈なく、より狭い地域ごと豪雨や強風など災害につながる気象の予測をより早く正確に届けられるようになるということです。もちろん、災害による被害を可能な限り小さくするには、気象予測だけではなく事前のアラートや避難誘導の方法などのデザインも欠かせないわけですが。
— たしかにそうですね。私の日常生活だと「傘を持って出かけるかべきか」くらいしか意識しないけど、当然それだけじゃないですね。
はい。日常的には「今日は晴れるか雨が降るか」が気象予測かもしれませんが、実際は、日射量がどれくらいになるか、風の向きと速度はどうか、降水量は特定量を超えるか、湿度はどれくらいになるか — こうした情報を的確に把握しそのほかのデータと掛け合わせて分析をすることで企業活動や人々の生活の安心・安全や利便性の向上とロスの低減につながる意思決定につなげることができるわけです。
天気の影響を直接受ける航空会社、物流企業は安全なオペレーションのために気象予測は必要不可欠ですし、小売・流通業では商品販売の需要予測に以前から活用されています。
電力会社でも、再生エネルギーの割合が増えてくると、太陽光や風力発電量予測、需要予測にもこうしたデータ活用の重要性が増していきます。
— 他にはどんな事業分野が活用例として多いですか?
最近は製造業での活用が増えています。日本を代表するグローバル企業のお客さまなど、世界に点在する工場の稼働や販売への気象影響を把握しリスクを低減することだけでなく、製品自体や製品のユーザー行動と気象条件の関係を分析して製品品質や顧客サービスの改善、新商品・サービスの開発に活用しています。その他、農業では農作物の病害予測や収量予測、ヘルスケア分野では特定疾患の発症予測にも活用されています。
それから、これはつい先日発表になったばかりですが、損害保険国内最大手の東京海上日動火災保険さまには、気象データと契約者データなどを活用して台風など自然災害発生時に被害を受けた可能性の高い契約者の家屋等の場所をいち早く把握することで保険金支払いのスピードアップを目指した取り組みが始まっています。
災害に遭われた方の中には、一刻も早くお金を手にしなければ生活再建がままならないという方もたくさんいらっしゃいます。大変な目に遭われたばかりの被災者の方により簡易な方法で迅速に保険金を手にしていただくことを目指しています。また、防災減災につながる情報発信もさらに充実させようとしています。
参考プレスリリース(2020年4月28日)
天候データを活用した風災被害AI予測モデルの共同開発について
— それは非常に社会価値が高いですね! 今日はとってもいい話が聞けて私も幸せな気分です。最後にもう2つ質問させてください。まず、2035年に加藤さんが見たい景色は?
分断のより少ない社会、お互いを尊重し協力し合う社会が見たいです。
世界はつながっています。例えば今年の冬、日本は記録的な暖冬になりましたが、これは昨年、夏から秋にかけてインドの西の海上での対流活動が活発となり、その影響が地中海におよび、偏西風が蛇行することで、日本の冬の時期に高温をもたらしたと言われています。
有名なラニーニャやエルニーニョは南米大陸の西海上の海面水温と東風の強弱が発端となって日本の冷夏や猛暑、暖冬や寒波に影響を与えています。
出典:気象庁 | インド洋に見られる海面水温の偏差パターンと日本の天候
このように気候変動、自然現象には国境がなく、全世界規模で相互に影響し合っている現実の中で、自分たちの国や地区だけなんて分断ができるわけないと思いませんか?
— そうですよね。強く同意します。
日本のウェザーチームでは、米国やイギリスにいるチームで相互に協力して、世界中の国々の気象予測を提供しています。日本チームの管轄はアジア・オセアニア地域ですが、中にはアフリカのアルジェリアのような今までのIBMのビジネスでは関わりのなかった国も担当に含まれています。米国やイギリスの予報士もアジアの国々の予報を支援しています。
その意味で、IBMのウェザービジネスチームの間には既に国境はなく、相互信頼のもとで、グローバルに「見たい景色」を実現しているともいえるかなと思います。
— それでは最後の質問です。加藤さんの好きな言葉、座右の銘を紙に書いて見せてもらえませんか?
ちょっと待ってくださいね……「LIFE IS ART」です。
— 説明を聞くのは野暮なのかもしれませんが…そこにはどんなメッセージがあるんでしょうか?
まあ文字通りと言ってしまえばそれまでなんですが、人生というか、生き方ってアートだと思うんです。人生には自分自身が現れるものですし、アートもそういうものですよね。一人ひとりが異なるのがアートです。
— 誰かの人マネの人生では、自分自身の人生じゃない。本当のアートではなく贋作ってことですね。
マネのままだったらそうですね。消化して自分のものとして生きていけば、それがその人のアートです。
インタビュアーから一言
加藤さん率いるウェザーチームと旧Watson IoTチームが正式に一体化したのは一カ月ほど前なのですが、ちょうどコロナ対策で全社的なリモートワークへの移行と重なってしまいオンラインでのインタビューとなりました。
記事内には入れませんでしたが、とても印象的だったのが「今の日本IBMに、自分よりもウェザーカンパニーのリーダーとしてふさわしい人はいると思いますか?」という質問への答えでした。
「答えづらい質問だろうな」と思いつつ訊いたのですが、3秒くらい考えられた後に「いないんじゃないかな…うん。私が一番ふさわしいと思います」ときっぱりとお答えになる姿にグッときました。実は、私も同じように感じてるんです!
(取材日 2020年4月21日)
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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