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アイデアミキサー・インタビュー | 村上春二(株式会社UMITO Partners代表)後編
2022年08月04日
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組織が生みだすインパクトの大きさは未来を変える可能性の大きさ
前編ではアメリカでの越境からサーモンにぞっこんになった理由、環境保護以外の柱と漁師さんたちとの関わり方などについてお話しいただきました。
後半では会社組織や科学へのこだわり、そして村上春二とUMITO Partnersの未来についてお話を伺いました。
(インタビュアー 八木橋パチ)
村上春二 (むらかみ しゅんじ)
福岡県出身。サンフランシスコ州立大学にて自然地理学とビジネスを専攻。アメリカでのビジネス実践後、NGOの日本支部立ち上げなどに従事。
2021年6月UMITO Partnersを設立。漁業者・企業・シェフ・自治体などと連携し、サステナブルな漁業や地域のために伴走中。 https://umitopartners.com/
もくじ
1. 会社組織で取り組むわけ
−− UMITO Partnersという企業について教えてほしいのですが、メンバー7名のうちお2人が科学者ですよね? 結構な割合だと思うのですが。
村上: そうですね。ただ、先ほどもお話ししたように、僕らの仕事の大部分を研究や分析が担っているんです。たとえば「環境負荷の低い牡蠣の養殖方法」と言っても、科学的に正しい判断を下すために必要なデータは地域の状況により異なってきます。それがきちんと分かるのは科学者です。
そして適切なデータの取得を関係各社と連携して行った後は、しっかりとした分析が必要となりますが、こうした技術を持ち取り組んでいる科学者は日本にはまだ決して多くないのが現状です。僕らがやろうとしていることに彼らは欠かせません。
−− ちょっと突っ込んだ質問ですが、正直、村上さんのネームバリューがあれば、フリーの個人として、あるいは一人会社としてやっていくという方法も考えられますよね。社員を雇用する企業組織でやるのはなぜなのでしょう?
村上: 「楽さ」で考えれば、正直フリーのコンサルタントとしてやる方が楽でしょうね。でも、社会を生態系というシステムとして捉えて考えると、個人よりも組織の方がやはり大きなインパクトを与えることができると思うんです。
そして組織が生みだすインパクトの大きさは未来を変える可能性の大きさだと思うんです。そう考えると、たとえ大変であっても、個人ではなく会社という組織でやろうと思いました。
まあそれ以外にも、もともと経営者一家の家で生まれ育ったというのも関係しているのかもしれませんね。
−− そう考えると、UMITO Partnersを応援することは、ウミとヒトの関係性や働きかたの選択肢を次世代へとつなぐことと同義とも言えそうですね。
2. 漁獲量はすでにピークの7パーセント!? 海は「タンパク質危機」を救えるのか
−− 世界を見れば人口は今後も増え続け、必要とされるタンパク源の量も増え続けますよね。UMITO Partnersが取り組む「サステナブルな水産資源」は、全人類を助けられるものとなるのでしょうか?
村上: 難しいけれど重要な質問ですね。まず前提として、海は陸地に比べ、メチャクチャ効率のいいタンパク質の供給源です。ただしそこには「ちゃんと管理すれば」という但し書きが付きます。
そしていただいた質問にきちんと答えるのにも、ちゃんとした管理をするのにも、サイエンスが必要です。現在、一体どれだけの水産資源が海に存在しているのか。養殖なども含めて今後どこまでそれを伸ばすことができるのか。これらを判明させるには、データの取得とその解析が欠かせませんから。
−− たしかにそうですね。個人的には、海に囲まれた日本がきちんとした管理方法を確立できれば、食糧難に喘ぐ世界の国々を支援することもできるのではないかと期待しています。
村上: そうなれればいいなと私も思っています。ただ、調査によっては、世界の約93%の水産資源量は「限界ギリギリ」もしくは「獲り過ぎ」な状態で、潤沢で豊富な水産資源は約40%から7%程度まで下がってしまっているのではないかとも言われているんです。
−− 7パーセントまで…。それは恐ろしい数字です。でも、海という大自然の偉大な復元力を考えれば、現在の10数倍にまで増える可能性もあるということですよね。
村上: その通りですね。繰り返しになりますが、そうした分析を行うにも、今はデータが足りません。科学的な根拠に基づいた提言を行える科学者も足りていません。
さらには、それぞれの地区の漁師の方たちや水産業従事者の言葉に翻訳してそれを伝えられるコンサルタントやアドバイザーも足りていない。それが現状です。
−− 私たち人間は、海と社会の未来を変えていけるのでしょうか?
村上: 変えなければいけないと思っています。だからこの仕事をやっています。
社会というシステムにおいて、急速にイノベーターを増やすことは難しいです。でも、イノベーター理論で言うところのアーリーアダプター(変化や新しい流れをいち早く受け入れ実践する人。早期導入者。オピニオンリーダーとも)を増やすことはできると思うんです。考え方を受け入れて自分たちのやり方に取り組むのが「アダプト(適応・適合)」ですから。
水産現場でアーリーアダプターを増やし、市場や外食の現場でもアーリーアダプターを増やしていく。そしてアーリーアダプターたちを掛け合わせていくことで、マジョリティに影響を与えるスピードを上げることができるはずです。
3. 村上春二とUMITO Partnersの未来
−− ここまでダイナミックな越境を続けてきた村上さんですが、今後も越境を続けられますか? 未来予想図があれば教えてください。
村上: 個人的には、学問の世界もきっちりと治めて博士号を取りたいと思っています。それは今後も科学的な基盤を持った取り組みを行う上で重要ですし、これまでの学びのまとめとしても大事であろうと思うからです。
そしてこれはちょっとUMITO Partnersの社員や関係者をドキッとさせてしまう言葉かもしれないけれど、どこかの段階で「住」と関わる仕事をスタートしたいと思っています。衣食住の「住」です。
−− おっと爆弾発言きた(笑)!
村上: 僕はパタゴニアで「衣」をやり、この10年間はひたすら「食」をやってきました。これまでの経験を活かしさらに広げる意味でも、どこかのタイミングで「住」を通じて世の中に関わっていきたいという気持ちがあります。食も包括した「地域のグランド・デザイン」にしっかりと関わりたいんです。
2年ほど前に国土交通省が発表した資料には、「2050年には全国の居住地域の約半数で人口が50%以上減少するだろう」と書かれています。それ以前には、「2040年には全国1800市区町村の半分の存続が難しくなる」との予測もまとめられています。
→ 参考 | 令和2年10月23日 国土政策局 総合計画課 | 2050 年を展望した国土の方向性と課題を公表します ~「国土の長期展望専門委員会」※ 中間とりまとめ~
僕はこれを十分現実的だと捉えています。そしてそうした未来を踏まえると、現在のあたかも「東京に資源を提供するための地域・地方」という状態を、「生産だけではなく消費まで循環する地域」へと変換していくことが必要だと思うんです。
僕は、国や地方行政とつながりながら、食も含めた社会の生態系としての「場づくり」を行いたい。
そのためには、その地で必要となる食やエネルギーなどの資源量調査や、未来に十分な量を確保するために必要な投融資額の割り出し、それを支えられる企業や銀行との仕組みづくりなど、データを通じて「自然環境と金融」をつなげていく必要があるだろうと考えています。
−− 壮大ですが、とても重要なことですね。なんだか村上さんが、自分の人生のすべてを活かして川へと向かっていくサーモンのように見えてきました。それではそのとき、UMITO Partnersと村上さんはどのような関係になっているのでしょうか?
村上: 僕がどんな形でUMITO Partnersと関わっているか…正直、その形は分からないです。ただ、この会社には残り続けていてほしいし、僕も必ずなんらかの形で関わり続けていたいと思っています。
インタビュアーから一言
「なんね、ほんなこつやるしかないちゃん!」 −− こんな感じの言葉を村上さんはちょくちょく使うんです。それもそこだけ早口で。どうやら、これは東京弁では伝えられないパッションが込められているようです。というわけで、今回はすべて東京弁で書いていますが、実際の熱量はこの15%増しくらいで読んでいただけるとちょうど良いかと思います。
ところで、博多弁をよく知らない私ですが、なんだかどこかそれとも少し違うような…と思って少し調べたところ、どうやら「宗像弁」というのが存在するようです。それだったのかな? 今度村上さんに会ったら聞いてみよっと。
(取材日 2022年6月20日)
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