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アイデアミキサー・インタビュー | 河野 英太郎(作家、アイデミーCOO、他)前編
2021年11月17日
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オーソリティー(権限)とオートノミー(自律)
「アイデアミキサー」第6回は、日本IBMへの入社と退社を2回繰り返したというちょっと変わった経歴をお持ちで、複数の肩書きで活動している河野 英太郎さんにお話を伺いました。
(インタビュアー 八木橋パチ)
河野 英太郎 | Kono Eitaro
1973年 岐阜県生まれ。東京大学文学部卒業、同水泳部主将。グロービス経営大学院(MBA)修了。
電通、アクセンチュアを経て、日本IBMに16年勤務。金融・IT・製造・通信・教育・複数社の人事制度改革やコミュニケーション改革、研修開発・実施、人材育成、組織行動改革などを推進。
現在、株式会社Eight Arrows 代表取締役、株式会社アイデミー取締役執行役員COO、グロービス経営大学院客員准教授などを務める。
■主な著書
『どうして僕たちは、あんな働き方をしていたんだろう?』(ダイヤモンド社)
『99%の人がしていないたった1%の仕事のコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) ※2013年ビジネス書大賞書店賞受賞。および同シリーズ。
— 河野さんはたくさん肩書を持っていますが、ズバリ、今の河野さんは「何者」ですか?
その前に、今日のこのインタビューの趣旨をもう一度聞かせてもらっていいですか。パチさんは、この「アイデアミキサー」って記事で何を実現したいんでしたっけ?
— アイデアの語源には「発想」と「アイデンティティ」の2つの意味があると言われています。その両方の力を発揮している人の話を伝えることで、「越境して新たなチャレンジに踏み出したいけど、やっぱりちょっと不安…」って人の背中を押したいと思っています。
なるほど分かりました。昔、一緒に越境イベントをやったことを思い出しましたよ。
では改めて。今の僕が一番時間を注いでいるのは、2年半前にジョインしたアイデミーという会社を大きく育てることです。なので何者かと聞かれれば「アイデミーの人」というのが答えになりますね。「DX人材の育成支援」を通じ、企業価値を最大化するために日々活動しています。
株式会社アイデミーは「先端技術を、経済実装する。」を企業理念とする、2014年創業のベンチャー企業です。
2017年に「10秒で始めるAIプログラミング学習サービスAidemy」をリリース後、約3年で登録ユーザー数10万人を突破し、日本最大級のAI学習オンラインサービスとなりました。
現在、法人向けにもサービスを展開し、AI/DXプロジェクト内製化に向け人材育成から実運用まで一気通貫で支援しています。
企業が一番に追いかけるべきは「お客様の成功」
—今日はアイデミーのオフィスにお邪魔させてもらっていますが、今、社員数は何人ですか? その中で河野さんの配下に何人くらいいるんですか?
一番の役割は事業本部の本部長ですね。営業を統括しています。
アルバイトを除くと社員数は50名くらいで、そのうちの40名くらいですね、僕と同じチームで一緒に働いてもらっているのは。
— ほぼ全社員を率いてるんですね!
僕、あんまり「率いる」って言葉が好きじゃないんですよね。先導するっていうよりも「どうしたら彼ら彼女たちの成長に寄与できるか」を考えて行動している感じなので。
— 河野さんは、IBMにいた頃から「成長支援が一番のやりがい」って言ってましたよね。
そうです。その観点からも、今アイデミーは人間で言えば成長期を迎えた中学生のようにぐんぐんと成長しているところなので、本当に支援のしがいがあって毎日楽しいですよ。しんどいことも多いけど(笑)。
成長といえば、記事には詳細な数字は載せないで欲しいんですけど、ここ4年くらいで、売上の数字が100倍くらいにアップしているんです。あ、「僕がアップさせた」って自慢しているわけじゃないですよ(笑)。そうじゃなくて、それくらいの勢いで成長しているってことが言いたかったんです。
— 成長を「営業売上」という数字で計っているんですか?
そうですね、売上と売上見込みです。
もちろん、「企業の成長」が意味するところが規模や売上だけじゃないことは僕も重々承知しています。企業が一番に追いかけるべきは「お客様の成功」です。これは、僕が企業人として多くの影響を受けてきた、尊敬する先輩からの教えでもあります。
ただ、売上と売上見込みは「お客様の成功」を測る指標として一番分かりやすく可視化されるところだとも思っていて、営業統括という僕の立場からも毎日そこを確認しています。
— 河野さんは、組織の成長と社員個々人の成長を、どんな関係性として捉えていますか?
その2つって、結びついている部分も多いけれど、必ずしも常に「個人の総和が組織」ということでもないですよね。そして先ほど僕が「アイデミーが中学生」って言った成長の話と個人の成長の話は、似た視点の部分もあるけど基本的には異なるかなと思います。
個人の成長って、必ずしも組織内における「プロフェッショナリズム」を前提とした成長である必要はないので。
— 「成長にも職業と直接関わらないものもある」ということでしょうか?
そうですね。組織におけるプロフェッショナルとしては、お客様の成功に寄与するために「自分のスキル」を上げていくことが必要ですが、組織とは関係なく、個人として自分自身の目標を追う中での成長というものもありますから。
たとえばアーティストとして自己表現を追い求めていくことであったり、求道者として一つの道を極めるということであったり。
— なるほど。組織の成長とは直接的には繋がらないですね。多様性を組織に持ち込むという観点からは違ったことも言えそうですが。それでは今、河野さんはアイデミーで社員個人の成長に寄与できているという手応えを感じていますか?
ガンガン感じていますよ。アイデミーは20代の若い社員が多くて、彼らにしっかりと提供できるものが自分の中にあると自負していますしね。それが感じられなくなったら、そのときはここにいるべきではないのかも…。
とは言え、もちろん、僕が感じているだけじゃなくて、彼、彼女らにその価値を感じてもらえていなければいけないし、今後、ある局面においては、逆に社員に煙たがられたりウザがられたりしても、僕が伝えていかなければならないという場面も出てくるかもしれないですね。
— どんな局面が思い浮かびますか?
そうだなぁ…。ちょっとすぐには思い付かないかな。
でも、これまでの経験から言うと、組織として成長していく過程において、「もっと社会が必要としている“共通善”にフォーカスするべきじゃないか」と言うような場面が、今後どこかで出てくるのかもしれないなんて想像はしています。
日本の仕事文化 | 電通、アクセンチュア、IBM、デロイト…
— 先日、英語でのインタビュー記事『Japanese Working Culture』を読みました。これまで河野さんから新卒時代の話は聞いたことがなかったので新鮮でした。電通、アクセンチュア、IBM、デロイトといろんな会社を渡り歩いていますが、そこでは一体何が足りなかったのでしょう?
いい質問ですね。そうですねえ、双方が足りない部分を相手に感じていたとは思いますが、まず、僕の側に足りなかったのは経験ですね。特に新卒入社した電通とその後のアクセンチュア時代においては。
そして相手側に足りなかったのは…、電通の場合は「現代社会へのアップデート」じゃないですかね。今は違うかもしれませんが、僕が入社したときの電通は「昭和」という時代のまんまの、化石のような会社でしたから。
— なぜアップデートしないままでいられたのでしょう?
いろいろな理由が絡まっていると思いますけど、一番の理由は、電通が身を置いていた場所が「放送」や「電波」という、規制にとても近いところであったこと。そして電通のお客様も規制産業にいる最大手が多かったですしね。そういう非競争分野においては変化する必要性がまず低いですから。さらには、むしろ変化しないことが戦略となることもありますから。
そういえば、電通とアクセンチュアですごく対照的な経験をしたことがあったのを思い出しました。
— どんなことでしょう?
電通時代、先輩に「飲みに行ったら、絶対仕事の話はしちゃダメだ。盛り場の話かギャンブルの話だ、いいな、馬鹿話以外はダメだぞ」と言われていました。それがアクセンチュアに転職して、初めて飲みに行ったら、先輩たち全員が仕事の話以外しないんですよ。
「どうすればもっといい仕事にできるか? どうすればもっと社会を良くできるか?」って。本当にそういう話しかしていなかったんです。
— そりゃまたずいぶんと両極端ですね! マンガみたい。
でしょ! でも本当に対照的でしたね。
もう一つ、面白い実話があるんです。アクセンチュアに転職したての頃ですが、自分が作った企画書を先輩に渡したところ「お前、これ、本当にちゃんと考えて作ったのか?」って言われて、ポカーンとしてしまったことがありました。
— 練り上げた、自信のある企画書だったからですか?
その逆です。「え! 仕事って、考えてするものなの?」ってビックリしてしまったんです(笑)。
それまで仕事とか企画って、頭を使って作るんじゃなくて、体力と根性でお客様に毎晩付き合って、そこで聞いたものをまとめれば作れるものだと僕は思っていたんです。だって、そういう風に教わってきてましたからね(笑)。
だからその後のアクセンチュア時代は本当に鍛えられましたね。20代だからどうにか突っ走り切ることができたって感じで、今じゃちょっと考えられないくらいメッチャ働きました。でも、若いうちに両極端を見ることをできたのが、僕にとっては本当に大きな財産になっていますね。
オーソリティー(権限)とオートノミー(自律)
— アクセンチュアで足りなかったのは休息と精神的余裕ですかね。それでは、IBMは何が足りない会社だと思いますか?
日本IBMは僕が一番長く在籍して、一度は退職したのに再入社したくらい思い入れがある会社です。だからってこれを言うわけじゃないですが、もっともバランスが良くてオトナな会社でしたね。ひたすら突っ走るように働かされることも、昭和の体育会系的な働き方を求められることもなかったですし。正直、日常的な業務の中では「足りなさ」を意識することはありませんでした。
ただ、二度目にIBMに入社して、事業部を任されていたときには、「権限」の足りなさを感じていました。権限という言葉が適切かどうかは分かりませんが、グローバル本社とのやり取りの中で、「日本における事業を信頼して任せて貰えている」という感覚を持てませんでした…。最終的には、そこに納得いかなくなって、退社してアイデミーにジョインする決心をしました。
— IBMで足りなかったのは「自由にできる責任範囲」だった、と。
そうです。ただしこれには「事業責任者」という職務範囲の中での話です。
IBMは社員一人ひとりを本当に大人として扱う会社で、僕が経験した中で間違いなく一番社員の「自由」と「自律」、そして「公正」を大事にしている会社です。
ただそれでもやっぱりアメリカの会社だな、と。事業の進め方や戦略については、事業部トップであっても自律性は足りず、各国の意見や状況が十分取り入れられていると感じられませんでした。
— 権限と自律。英語で言うとオーソリティーとオートノミーですね。
英語のオーソリティーとオートノミーは、本来は対立概念的に捉えるものではないですが、日本人にとってはオーソリティーは「強制力」を、オートノミーは「自己裁量」を感じさせる言葉で、英語の方がしっくりくる感じがありますね。
僕が言いたいのは「権限」という言葉がイメージさせる「偉さ」みたいなものではないです。他の誰かが決めるのではなく、自分で自分のことを、あるいは自分たちのことを決めていけるということです。
— たしかにそうですね。オーソリティーは相手が7を使ったら自分には3しか残らない感じ。オートノミーはそれぞれがお互い10持っているようなイメージです。
そう。同じパイの奪い合いではなく、両者それぞれが自分のパイを持っている感じですよね。
個人主義と自分主義…いや、個人主義と利己主義の違いですね。利己主義は自分の利益や立場だけを追求して周りのことは気にしないで行動する。一方の個人主義は、自分の意思や主体性を軸にしつつ社会との関係を考えて行動する。自分も周囲も同じように大切にして。この違いで説明した方がピンと来る方が多いかも知れないですね。
後編では「意味のない我慢の撲滅」「続けることと発信すること」「生産性は幸せになるため」などについてお話いただきます。
(取材日 2021年10月22日)
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