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アイデアミキサー・インタビュー | 西村勇哉(特定非営利活動法人ミラツク 代表理事)前編

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現在やっていない、あるいはやらないという時点で、出発すらしていません。

 

軸となる強い自己やアイデアを持ちながら越境や開拓を続けている方に、これまでの足取りや未来へのビジョンについて語っていただく「アイデアミキサー」シリーズ。

第10回は、既にある未来の可能性を実現するNPO法人「ミラツク」を率いている西村勇哉さんをお招きし、ミラツクと西村さんの取り組みについて、そしてそこから生まれてきた株式会社エッセンスについて、さらに現在実施中のクラウド・ファンディングについてなど、幅広くお話を伺いました。

西村 勇哉 (にしむら ゆうや)

NPO法人ミラツク代表理事
株式会社エッセンス代表取締役

1981年大阪府池田市生まれ。大阪大学大学院にて人間科学の修士を取得。人材開発ベンチャー企業、公益財団法人日本生産性本部を経て、2011年にNPO法人ミラツクを設立。セクター、職種、領域を超えたイノベーションプラットフォームの構築と、大手企業の新領域事業開発支援・研究開発プロジェクト立ち上げの支援、未来構想の設計、未来潮流の探索などに取り組む。2021年に株式会社エッセンスを設立。2021年9月に自然科学、社会科学、人文学を領域横断的に扱う先端研究者メディアesse-senseをリリース。感性のデータで最適の先につなぐ、偶然の幸運に出会えるメディア空間の構築に取り組む。滋賀県大津市在住、3児の父。
大阪大学社会ソリューションイニシアティブ特任准教授、大阪大学人間科学研究科後期博士課程(人類学)在籍

もくじ

(インタビュアー 八木橋パチ)

私は西村さんに「身近な知の巨人」というイメージを持っており、これまでお話を伺って「そういうことだったのか!」と気付かされたことが何度もあります。その1つが「読むのに時間がかかるつまらない本ほど良い本である」という話です。

「つまらないということは、自分がそれに関して知らないために理解ができないということです。だから読むのに時間がかかります。でもその本こそが、自分の世界を広げてくれる良い本なのです」。

 

―― 今日はよろしくお願いします。まずは軽めの質問から。今、何の本を読んでいますか?

西村: 今読んでいるのは、ブルーノ・ラトゥールという人類学者の『地球に降り立つ』です。

ラトゥールの本の中でこの本は買ってはいたものの、読んでいないままになっていたんです。

それがちょっと前、この本を読もうと思ったきっかけとなることがあって。少し古い『現代思想を』…ちょっと待ってくださいね。それもバッグに入っているので出しますね。

これこれ、2017年12月号の『現代思想: 人新世 ―地質年代が示す人類と地球の未来』を読んだら、人新世に関するラトゥールの論文が載っていたんですね。それがメチャクチャ良くて。これなんですけど。

(たっぷりの赤線と書き込み。「西村さんはこうやって本を読むのか」と感心してしまいました。)

物理的な結果は未来に来るかもしれない。でも、未来側に原因があり現在側に結果があると捉えることで、物事の概念間の関係性は逆転する。そういう見方で気候変動というテーマから社会を捉え、見ていく必要が書かれた書籍です。

 

 —— 気候変動についての本なんだ。読もっと。

西村: 今、もう1冊並行して読んでいます。こちらは文化人類学者の宮崎広和さんの『希望という方法』という本で、希望というものがいかに自分たちを動かしてくれるか、希望があることで人の振る舞いがいかに変化するか、そうした希望というものの効果について書かれた本です。

先ほどの「未来に原因があり現在に結果がある」と、「希望が原因となって自分たちの現在を規定する」という話には、近いものがあるなと思っているんです。

 

自分たちが決めたと考えていることや、選択したと感じている物事は、はたして本当にそうなのか。そこには、中間的な要素や能動でも受動でもないものが作用しているのではないだろうか。数カ月前、西村さんとはそんな「主客、そしてそのあいだ」についての話をしました。

西村さんとの会話では、私の知らない知識や概念がしばしば登場します。でもそんなとき、西村さんは私の理解が及んでいないことを敏感に、そして瞬時に察知して、いつもそれを踏まえた形で話し直してくれるのです。

 

 −− 「未来と希望が原因となり現在がある」は、主観と客観のあいだで大きな流れが決まっているのではないか? という話とも関係していそうです。

西村: そうなんです。この「ありたい未来が原因となり現在を規定してくる」というのは、自分の”未来の現在性”の研究にもダイレクトにつながってくるなと思っていて、

この本で展開されるラトゥールの主張を分かりやすく言うと、気候変動も含め世界の課題はローカルかグローバルかという捉え方で進んできていて、「ローカルに戻るのか。それとももうちょっとグローバルを進めて頑張るのか」みたいに今なっているけれども、戻るか進むかではないだろうということです。

ローカルもグローバルも、どちらも地球を「人間活動とは無縁のシステム」の如く扱っている点には変わりなくて。でも、そうではなく両方が影響を与えあっていることは明らかになっています。だから、行くか戻るかではどちらでも一緒だと。

そうじゃなくて、行きもしない戻りもしない、この課題を解消する「第3のアトラクター」が何かを考えようということが書かれています。

 

 —— ローカルとグローバルの2極対立的な見方では気候危機は解決しない。そういうことですか?

西村: うーん、ちょっと違うかも。地球を「物質しての存在」として捉えるのではなく「動的なシステム」として捉え、どういう仕組みで成り立っているのかを考えれば、自分たちの「振る舞い」は変わっていくのではないか。目指すのべきはそっちではないのかという、そういう考え方ですね。

そうやって見ると、さっきの「希望を原因として自分たちの今の振る舞いを変える」という話や、「未来が現在を規定する」という話と同じようにつながってきます。

「なんだ!未来が中動態的に現在を作っているという話は、ラトゥールがもうすでに言っているじゃないか!」となったんです。すごいなって。

 

 —— 「今読んでいる本は?」という質問はウォーミングアップのつもりだったのですが、気づけばいきなりど真ん中に来た感じです…。ところで、未来も希望も、その反意語は両方ともに過去でしょうか?

西村: 連続性で見れば、希望よりも未来の方が強い連続性を持つものではあるけれど、どちらも時間軸だけで捉えるのもちょっと違うなと僕は思っています。

希望は、まだ今存在してないもの。未来も、今まだ存在していない。存在していたら、現実であったり現在になっちゃったりしますからね。今まだ存在していないという点において未来と希望は共通していて、可能性の幅も限りなく広い。そこはすごく近いなと。

ただ、希望の反対は絶望でいいんじゃないでしょうか? そこは普通に。そして絶望は、可能性や存在を打ち消す力をも持っています。

『希望という方法』 宮崎広和 2009年7月9日 以文社刊

 

「既にある未来の可能性を実現する」というのはミラツクの紹介文に必ずと言っていいほど書かれている言葉です。成り行きや偶然ではなく、意志と因果関係により「来るべき未来」がやってくるということなのだろうな…と想像はしていたものの、これまではこの言葉の意味をなんとなく分かったような気持ちになり、ちゃんと考えたことはありませんでした。

そして可能性、あるいは実現性という言葉から考えたときに、はたして「存在しない未来の可能性」というものもあり得るのだろうか…? そんな疑問をぶつけてみました。

 

 —— 今日、入館の際に、西村さんが昨年スタートされた「株式会社エッセンス」と書くのか、それとも「NPO法人ミラツク」と書くのかに興味を持って見ていました。

西村: それはもちろんミラツクですよ。なぜなら、概念的にミラツクの方が大きいですし、エッセンスはその具体という位置にあります。

別の角度から見ると、ミラツクは組織作りをしていて、エッセンスはもの作りでありプロダクト開発をしていると考えています。

 

 —— エッセンスについてはまた後ほど。まずはこの質問を。ミラツクの「既にある未来の可能性を実現するNPO」とは? ミラツクという枠に収まらない、あるいは乗らない未来というのも存在する?

西村: この「既にある未来の可能性を実現する組織」というビジョンは、これまでもう何万回と、それはもうまるでお経のように唱えてきた言葉で、内在化させ自分たちと一体化しています。

そして「その枠に収まらない未来」というのもあります。それは口で言っているだけの未来ですね。連続性がない未来はただの想像だと思っています。

何を想像するのももちろん自由ですが、それが現実に起こり得るかどうかというのは別の話なんですよね。それが「起こる」には、口だけではなく、そのための行動が伴っている必要がある。

 

 —— 先ほどの「希望」の話とも大いにつながっていそうです。…可能性や実現性は「主体性」や「主観」にかかっている?

西村: 「主観かどうか」をうまく説明するのはちょっと難しいんですけど、未来の可能性や実現性のあるなしの判断は、実に簡単です。1番分かりやすい可能性のない未来とは「ただ言っているだけ」の、単なる意見です。

僕たちの言う「既にある未来の可能性」、「起きるであろう未来」というのは、単なる想像ではない未来ということです。遠いかもしれないけれど、現在から連続性を持っていて実現し得る未来です。

「正論を言っているだけで、あなた実際にはやってないじゃないですか。あなたの現在とつながってないですよね?」って。

言っているだけでは想像に過ぎず、未来にはまったく繋がっていません。なぜなら現在やっていない、あるいはやらないという時点で、出発すらしていません。

ミラツクは可能性のない未来は扱わないし、無理矢理未来を作ることもしません。

 

個人と組織の関係を考えるとき、私の頭にはロックバンドのメンバーとしての活動とソロ活動を並行して行うミュージシャンが頭に浮かびます。次に浮かぶのは、会社員とフリーランスの二足の草鞋を履いた働きかたです。どちらも、身近に実践者がいるのでイメージしやすいからだと思います。

でも、西村さん頭に浮かぶ個人と組織の関係はまったく違うようです。細胞とリボソーム、あるいは細胞壁や血液…

 

—— 組織とはなんだと考えられていますか? そして西村さんにとってミラツクとは?

西村: 組織とは何か? はいろんな側面から語れるので難しいですね。人の集まりであり、システムの集まりであり、物の集まりでもあると。経済学では継続組織のことを「ゴーイング・コンサーン」とも言いますよね。ミラツクはまさにそういう組織なんじゃないかなと思います。そして僕にとってのミラツクは、僕の可能性をもっとも発揮できる「人の連なり」ですね。組織づくりを続けているけれど、何をやるかは決まっていない。ずっと動き続けていて、外のものと出会い反応して手伝ったり一緒に作ったりする。

ミラツクにはやりたいことはないんです。「こうじゃなきゃ嫌だ」とか「こうあるべきだ」とかもない。それはネガティブなニュアンスではなくて、持ち込まれた話やメンバーが見つけた「これは取り組むべき」というものに反応し、活動を深化させていく。そうすると「これは誰がやりたいことか」というのはもう関係なくなるんです。

だから、共通の目的も持っていません。僕にとってはそういう活動を続けている運動体がミラツクです。

 

 —— 共通の目的を持っていない…組織として成立しますか?

西村: 成立しますよ。組織は目的がなくても。

たとえば5人の人がいて、その5人がチームとして何か1つのプロジェクトにあたるときと、5人がバラバラに活動するときでは起き得ることが違いますよね。それが組織です。

こう考えると分かりやすいかもしれません。血液はたくさんの細胞から成り立っていますが、細胞がどれだけたくさん並んでいてもそのままでは血液にはなりませんよね。細胞たちが結集して組織化したとき、新たな機能が生まれ、役割が生まれます。それが血液です。そしてリボソームになったり細胞壁になったりする細胞たちも存在していて、そうやってみんなで1つの生命体を作り出しています。

共通の目的を持っているかどうかは関係なくて、組織化して新たな機能を生みだしているということですよね。ミラツクもそういう感じで、共通の目的を持ってコトにあたっているわけではなく、機能を生みだしているんです。

ただそうは言っても、機能として役割を果たす上で、目的はないけれど約束はあります。

 

 —— 目的ではなく約束…

西村: はい。じゃあまたさっきの5人がいるとして、彼らが可能にしたい未来がそこにあるとします。そのとき、やっぱり協力して機能するためには何かが必要で、それが僕らの場合は約束です。

「大切なことだから僕もやりたい」「重要なことだから私も実現させたい」「よし! じゃあそれをやろう。」—— そうやって「やる」と決めたことはやろうとするし、それを実現させるために努力はしようということ。約束を守ろうという努力です。

ときには実力不足でそれを実現できないことももちろんあります。それはそうなんだけど、でも、やろうと決めたんだったら努力はするということです。仲間も努力しているんだから自分も努力する。

ミラツクは「目的や目標を達成するためなら何がなんでもやり切るんだ!」というタイプではないですが、やっぱりお互いを信じ合えないと難しいですよね。

 

近日公開予定のインタビュー後編では、より具体的な活動について、そしてミラツク出版のクラウド・ファンディングの舞台裏についてなどお話しいただきます。

(取材日 2022年9月30日)


 

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