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IDC寄稿 | 公共インフラプロジェクト全体の安全性と品質の最適化
2021年08月31日
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ソフトウェア駆動型のデジタルスレッドが、公共インフラ基盤に必要な理由
道路、橋、鉄道、トンネル…。公共インフラの多くが大規模メンテナンスをどれほど酷く必要としている状態であるか。アメリカだけではなく、世界中の多くの国で、その必要性をメディアが取り上げています。
既存インフラストラクチャの維持が、どれほど莫大な負担を強いるものか…。国家だけではなく、州や地方の行政も恐々としています。
さらに、既存インフラ維持だけではなく、人口動態の変動や社会的行動の変化、気候変動などが新たなインフラの必要性を高めています。スマートシティの開発も忘れてはなりません。
大規模インフラプロジェクトのほとんどは、企業と公的機関のパートナーシップにより進められるので、費用に関する課題は民間部門と公共部門の両者に関係してきます。
公的機関は、厳しい予算の制約に対処するのと同時に、納税者からの説明責任を求める声にしっかりと応えていく必要があります。また企業も同様に、時間と予算内での提供に対するプレッシャーとマージンの減少という、厳しい現実に応えていく必要があります。
公共部門も民間部門も、循環型の設計、開発、コラボレーション、および最適化を可能にするエンジニアリング・プラットフォームなしで、複雑なプロジェクトを成功裡に収めることができないことを十分に理解しています。
世界中のあらゆる場所で、関係者は誰もが、大規模公共インフラプロジェクトのエンジニアリング開発アプローチに変化が必要であると認識しているのです。
■ 課題 | 絡みあう複数の面での複雑さ
大規模公共インフラプロジェクトは、複数の複雑な要素が相互に関与し合うものがほとんどです。
最重要項目である安全性と品質、サブコントラクターやサプライヤーへの非常に高い依存度、プロジェクト管理やインフラの監視・運用に用いるソフトウェア、どれも成功に欠かせない大きな要因であり、しっかり注視しなければリスクは膨れ上がります。
中でも絶対に欠かせないのは、コンプライアンスおよび条例や規約の要件を満たすことです。たとえば、新しいトンネルを通過する新鉄道路線や、新空港へとつながる高速輸送システムなどの大規模プロジェクトであれば、トンネル、鉄道、空港、輸送システム、それぞれが多数のコンプライアンスや規制要件を有している可能性が高く、それらに多面的および複合的に応えなければなりません。
これらの要件を満たしていくことは、プロジェクト開発と成果物の品質と安全性を直接的に保証しているだけではありません。
もしも、なんらかの過誤や不手際があったり、プロジェクトのルーチンに正しい手順が組み込まれていなかったりして、コンプライアンスや規約に違反していた場合には、作業のやり直しや多額の違約金などの命令が下される、莫大なリスクの可能性があるのです。
プロジェクトの規模や複雑さと比例するように、指数関数的に増加していくサブコントラクターとサプライヤーの管理も大きな課題です。すべての利害関係者間のコラボレーションとコミュニケーションが管理できているかいないか…。これが、成功と失敗の分かれ目となる可能性も高いのです。
全員が最新の同じバージョンの計画で作業し、最新のステータスを把握し、それぞれの責任範囲とスケジュール上の重要なマイルストーンを理解して動くこと – 確実にこれを実現するのは大きなチャレンジです。しかしこれに失敗すれば、巨額のやり直し費用、コスト超過、スケジュールの破綻、指揮系統の混乱、チームの信頼と士気の低下に直面することとなります。
■ インフラの進化はプロジェクト自体の進化を要する
公共インフラストラクチャにおいてソフトウェアが果たす役割は、ますますその重要度を増しています。そして公共インフラ開発プロセスにおいては、ソフトウェア開発も全体の一部として他のプロセスと完璧に連動していなければなりません。
ソフトウェア開発には、機械システムや電気システムの開発と比較して特異な点が多くあります。ですから、エンジニアリングチームは、物理的なモノの構築を基盤とした設計・開発プロセスを再考しなければなりません。
従来のインフラプロジェクトは、一般的なメンテナンスを除き、それが完成した時点でプロジェクトは終了していました。しかしソフトウェアがネットワーク性やデータ分析、機能追加などのソフトウェア独自の特性をもたらしたことにより、開発プロジェクトの多くが進行性を持つものへと進化を遂げたのです。
その進化性は、インフラストラクチャを管理、監視、および運用するソフトウェアが更新またはアップグレードされ、当初のデザインにはなかった新しい機能がインフラに導入されることなどで表れます。そしてこの進化には、新たな統合テストや認証が求められる可能性があります。
このように、進化していくインフラストラクチャには、モデルベースのシステムエンジニアリング(MBSE)アプローチが必要となるのです。MBSEにより、プロジェクト開始時だけではなく、継続的なモデリング、シミュレーション、およびテストが可能となり、時代の要請に見合う品質と安全性が確保されるのです。
■ インフラプロジェクトのデジタル変革が強く求められる理由
公共インフラストラクチャプロジェクトでは、依然、物理的なコピーが広く使用されています。インフラプロジェクト全体の管理をデジタル基盤だけで行なっている、あるいは全データのデジタル保持を実現しているプロジェクトは、とても少ないのが実態です。
そしてこれが、データの共有やデータ分析、影響分析、変更管理などでのデジタル使用が制限されてしまっている原因です。その結果、コンプライアンスや規制要件の検証が妨げられ、プロジェクト全体のワークフロー追跡と検証および検証テストの難易度が、非常に困難なものとなってしまっているのです。
公共インフラプロジェクトのデジタル変革が遅れたのは、プロジェクトの長期性という特性にも一因があります。先端技術を導入するタイミングが難しいのです。
現在、ほとんどの建築、エンジニアリング、建設・施工の専門企業や技師は、デザイン、シミュレーション、コスト見積もり、数量算出、機械・電気、配管(MEP)設備の管理、そしてプロジェクト管理をサポートする仮想設計と構築(VDC: Virtual Design and Construction)ツールを使用しています。しかし公共インフラプロジェクトにおいては、クライアントである政府がツールや方法に制約をかけてくることも少なくないのです。
また、建築・建設、エンジニアリング企業の多くは、これまで20年以上にわたりBIM(3次元デジタルモデルを使った建築物の分析・管理手法)を採用しています。
しかし、BIMは物理的な設計のデジタル化には非常に有効ですが、ソフトウェアの開発には役立ちません。
ソフトウェア開発には、ソフトウェア自体を含む全体的なインフラモデルの初期設計、シミュレーション、およびプロトタイピングのプロセスを含むMBSEが必要です。
インフラストラクチャにおいてソフトウェアがより重要な要素となるにつれて、ソフトウェアの設計、開発、テストを含む包括的なMBSEプロセスの欠如がその重大性を増しています。
ほとんどのBIMおよび建設管理システムは、インフラストラクチャ用のソフトウェア開発とモデリングも管理できるだけの十分な機能を有していません。なぜなら、以前はそれが必要なかったからです。しかし現在においては、それではもう成り立たないのです。
■ 公共インフラのデジタルエンジニアリング基盤を築く
ソフトウェアと建築物、つまりデジタルとフィジカルの両面で、初期設計と継続的運用の両者においてイノベーションが求められています。
そのために必要なのは、エンジニアリングライフサイクル全般を通じて取得される莫大な量のデータと、「つながるインフラストラクチャ」そのものが生み出す同じく莫大な量のデータを、即座に分析していく能力と、それを実現するためのソリューションです。
建築・建設、エンジニアリング企業に今必要なのはデータ戦略の進化です。グローバル・エンジニアリングチームが迅速にコラボレーションを行い、イノベーションを生みだすことのできるエンジニアリング・ライフサイクル管理(ELM)用のクラウドベースのプラットフォームの導入です。
デジタルスレッドは、セキュアで適切に構築されている環境で作られてこそ、その力を発揮します。
モノのインターネット(IoT)、AI、機械学習(ML)テクノロジーを適切に用いたELMは、データ〜分析〜最適化の循環ループを作りだし、予知保全や予測保守、事後保全や迅速なエンジニアリングを実現します。
このデジタルプラットフォームは、エンジニアリングとアプリケーションのライフサイクルをつなぐと同時に、インフラのライフサイクル全体にわたる可視性を提供するものです。
エンジニアリングデータの完全な透明性は、設計、開発、および品質保証のためのトレーサビリティを実現します。
『How to makeの変革 | モノづくり革命がもたらすチャレンジとチャンス#2』より
すべての関係者が同じ情報を同じ定義で用いて作業できていることを確信でき、コラボレーションとコミュニケーションが自然かつ反復的に行われるようになることで、イノベーティブなアイデアや取り組みがエンジニアリングにもたらされやすくなります。
このアプローチにより、最適な初期設計プロセスが実現します。そして適切な運用により最高の品質と安全性を備えたインフラストラクチャを造り上げることで、納税者からの高い信頼を得ることができるのです。
■ ゲスト投稿者、米国調査会社IDC ジェフ・ホイロからのメッセージ
市場で成功を収めているエンジニアリング企業の多くが、そのデジタル開発基盤として選択している主要ソリューションがIBM Engineering Lifecycle Management(ELM)です。
そしてELMは、適応性や運用性を考慮して設計されており、業界標準のオープンソース仕様であるOSLCをデータ交換に用いています。
つまり、ELMはますます複雑化する今日のプロジェクト管理に必要なデジタル基盤の提供だけではなく、将来を見据えて、今後あらゆるツールが必要とする接続機能が組み込まれた開発環境を提供するものなのです。
当記事は、IDCのジェフ・ホイロ氏の寄稿「Public infrastructure development: Optimizing safety and quality across the project lifecycle with engineering lifecycle management」を日本のお客様向けにリライトしたものです。
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