IBM Sustainability Software
「今だからこそ必要な”地方創生xTech”」ディスカッションレポート
2020年09月08日
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9月2日午後、日本IBMの新しいコミュニティー発足を記念する「IBM Community Japan GO LiVE」イベントが開催されました。
著名な有識者4名による「未来を創るテクノロジーは豊かな社会を実現できる?」と題されたパネル・ディスカッションや、10を超えるさまざまな参加型グループ・ディスカッションが開催された中から、今回「今だからこそ必要な”地方創生xTech”」と題されたオンライン・ディスカッションの様子をお届けします。
「IBM Community Japanの基本方針『マナブ・ツクル・ツナガルを通じて、未来を共に紡いでいく』に則りながら、このセッションでの自由な対話を通じて、より良い未来実現に向けた糸口が、ご参加の皆様それぞれのお立場から見えてくれば良いなと考えています。皆さんぜひ、積極的に対話しましょう」というオープニングの言葉に続き、地球上で活動する現在の人間の活動領域を4領域で表した一枚の図が、『未来に向けたディスカッション』を進める上での参考として紹介されました。
チャートについて説明するセッション・ファシリテーター AI Applications事業部長 村澤 賢一(以下「村澤」)
(クリック/タップで別画面にて拡大表示されます)
以下、村澤が話題提供として語った内容です。
たくさんのキーワードが書かれていますが、左に見えるA〜Dは、大まかに以下の領域を示しています。
A. ゲマインシャフト: 生産性と経済合理性を中心とした企業主導のゲゼルシャフトへの対抗軸として『共同中心社会』を再整備。人びとが『より良き市民』として生き、『より良い生活』を営むための基盤。デジタル・テクノロジーを活かし、地域社会を再生する実践の場。真の地方創生の起爆剤・基盤となりうる仕組み。
B. デジタル・ガバメント: 日本においては地方自治体/中央政府のデジタル化が急務。国内外政府間の情報連携強化をとおし有事の際の即応・柔軟な協調強化を実現する環境整備が必要。
C. ゲゼルシャフト: 利益追求型組織である企業が先導する変革領域。拡大を続けて来たグローバリゼーションの波も、今回の地球規模でのCOVID-19災禍により弱さを露呈。ゲマインシャフト主導の経済活動との正しい距離の置き方や、賢い活かし方について再考を迫られている。一方、企業・組織自体も、持続可能な成長モデルの再構が存続の急務となっている。
D. ニューフロンティア: 人類全体が一緒に取り組み競争していく分野。宇宙開発など。
今回のテーマ「地方創生 x Tech」は、まさにA.におけるデジタルポリス領域での取組み。COVID-19以前のここ数年も一層顕著になりつつありましたが、C.の企業による価値創造活動とのギャップが大きく広がり続け、人びとの生活やメンタリティの観点から、その歪みがさまざまな領域において社会課題となり現れているのではないでしょうか。
それら課題への具体的な対応として、日本でも転居に対する障壁が比較的低い20代-30代の若手人材を中心とした地方への移住や、企業の本社組織の地方移転(パソナグループの本社淡路島移転など)など、ある意味で象徴的な出来事が実際に起きています。これはA.で上げた“『共同中心社会』を再整備。人びとが『より良き市民』として生き、『より良い生活』を営むための基盤”整備へと向けた動き、即ち本日のテーマである地方創生へとつながっていく流れの様に感じています。
それでは話題提供はここまでとして、本題であるディスカッションに入りましょう。
ここからは、国内外のさまざまなスマートシティプロジェクトにも参画している東京電機大学 システムデザイン工学部 知的情報空間研究室 主宰の松井 加奈絵 准教授(以下、「松井准教授」)にも参加者として知見や見解を共有いただきながら、興味深いディスカッションが繰り広げられました。
その中からいくつか、筆者にとって印象的だった発言や対話をピックアップしてお届けします。
参加者Aさん: 私の場合、現在はCOVID-19の影響で働き方が「自宅からのリモートワーク」に限られています。でも今後、「自宅」という枠が無くなれば、オフィスの近くにこだわらず地方に暮らしながらでも働けるようになるのではないでしょうか。
その際、オフィスの在り方とはどのように進化していくのでしょうか。
村澤: 働き方や働く場所は、ゲマインシャフトとゲゼルシャフトをつなぐ非常に大きな要素ですよね。私の周囲では、デジタルを大幅に取り入れつつも、実際に会って顔を合わせた方が良い業務も考慮した「アクティビティ・ベースド・ワークブレース(ABW)」という概念についてのディスカッションを進めているチームもあります。
これまでの従来のオフィスが、人間のパーソナルスペースを「76センチ」と捉えてデザインされているのに対し、今後は「2メートル」というソーシャルディスタンスや、リモートワークという「物理的には今そこにいない相手」との業務を意識したデザインへと大きく変化する必要があると考えています。今、その方向性でのオフィスやワークプレース作りを一緒に手がける仲間探しをしているところです。
参加者Bさん: 東京で暮らしていた時期もあったが、現在は限界集落をより身近に感じられる岐阜県で暮らしています。そこで分かるのはガソリンスタンドもコンビニもなく、公共交通機関も少ない高齢者ばかりの地区こそ、電気自動車や自動運転車へのウォンツが都会よりもはるかに強いということ。
…ただ、住民数が少ないが故に母数が小さく、経済合理性が出にくいので企業は進出しづらい…。ここをどうにかしたいのだけれど。
松井准教授: 海外の事例ですが、以前オーストリアの人口1,000人程度の南アルプス地区に視察に行きました。その村は、たしか取り組みを始めて10年ほどで人口を約1.3倍に増やしたんです。若い村長さんを中心に地域エネルギーに取り組み、地域内の移動手段を電気自動車や昔ながらの馬車を利用したものへと転換しました。そして高級ホテルを誘致し、元からあった小規模な宿と並列させることで魅力的な観光地へ転身させ、小さいけれども地域経済圏を作っていったんです。
オーストリアという文化も歴史も日本の中山間地とは大きく異なる場所ではあるのですが、私たちにとって参考にはなる点も少なからずあるのではないかと思いお話させていただきました。
参加者Cさん: 地方再生という言葉が指すものは幅広く、皆さんは何を活動の目的としていらっしゃるのでしょうか? 私個人としては、生活者としても企業人としても、一極集中が引き起こす自然災害などへの脆弱性が最も気になっています。
村澤: 5年前にスタートした第一期地方創生は、地域産業やそれぞれの地域特性を活かしながら、地元の人びとが活躍する魅力的な地域をつくることがその柱となっていました。その目的自体は今年スタートした第二期でも大きな変化はないと考えています。ただ、5年前と今を比べて、はたして状況が良くなったかと言えば…そんなことはなさそうですよね。
新型コロナにより、都市の変化の必要性と、地域が果たす役割の大きさに、多くの人が改めて気づきました。私個人的には、大規模都市圏の生活者として、「人間の耐えうるストレスの限界」が見えたのかもしれないという意識があります。「満員」という言葉では表現しきれないほどに混み合った通勤電車など、わかりやすい例じゃないでしょうか。
冒頭に触れさせていただいた若手人材の移住やワーケーションの広がりも、地域のポテンシャルに気づく人びとの動向を表している現象だと思います。
参加者Dさん: 実家が農業をやっています。私は東京でオフィス勤務ですが、このまま在宅ワークが続くのなら、地元に戻って働くのもいいかも? と考えています。そのとき、テクノロジーがどのように農業を支援できるのか、してくれるのかが気になっています。
村澤: まず現状として、日本のカロリーベースの食料自給率は40%弱が長年続いています。圧倒的に足りていない状態です。TPPをはじめとした政治的な締め付けもあり、日本の一次産業は戦後ずっと弱り続けてきていますよね。
近年になって、野菜の画像診断AIや農作業の自動化、室内栽培の環境制御テクノロジーなどITによる効率化や収益性を上げるための取り組みはスピードを増しています。このエリアの裾野は広く、可能性はかなり大きいことは間違いありません。IBMも気象テクノロジーによる食物生育支援やブロックチェーンによる食の安全性向上支援を行っています。
他方、トヨタ自動車をはじめとした大企業の異業種参入も続いています。これは「裾野の広さと可能性の大きさ」がそれだけ魅力的だということですが、同時に多くの日本の企業が機会と同時に危機感を持っていることの表れかもしれません。
ともあれ、日本人であればおそらく誰だって「安全で美味しく旬を楽しみたい」という気持ちを持っていると思います。新しい流通体系などの取り組みもいろいろとスタートしてきていますし、「規模と収益性」という難しい問題はありますが、消費者として生産者をどう支援できるのか — これはみんなで考え続ける必要があると思います。
参加者Eさん: 一口に「地方」と言っても県、市、町、集落といろいろな分け方やレベル感があるし、抱えている課題も異なります。どういう規模で、どういうスピード感で取り組めばいいものなんでしょうね。
村澤: おっしゃる通りで違いが大きく、それぞれに必要なものも違いますよね。ただ一方で、共通する要素や横展開できるものもあるんじゃないかとも思っているんです。そうやって現状を見てみると、まず共有するためのプラットフォームができていません。第一期地方創生の5年間でもそれぞれの区割りでの取り組みがあり、いいものも多数あったはずですが、それが「点」のままになっている…。これをどう「面」や「線」にしていくのかが重要だと思います。
松井准教授: 私は企業や行政とは異なる大学という組織に身を置き、この問題を少し違う立ち位置から見ています。そこで感じるのは、大学は「垣根の低い」存在で、僭越ではありますが、地域、産業、教育からなるエコシステム作りを担える存在ではないだろうかと思っているんです。
多くの地域で人口減少が始まっています。そして今年はCOVID-19の影響で通学ができず、オンラインだけで授業をしている大学もあります。「共創の在り方」に対する新しい動きは加速していて、来年以降大きな変化があるのではないかと思っています。その中で、地域に根付いた大学が大きな役割を果たすのではないかと私は考えています。
ディスカッションは止まることなく、予定終了時間がとても早く訪れた感がありました。
最後に、クロージングの言葉として村澤が話した言葉をお伝えします。
「地方創生は日本の未来を左右するテーマで、それがどんなものであれ一つの組織が抱えるには大き過ぎるものです。
SDGsやESGという言葉をよく目や耳にするようになっているのも、『経済合理性』だけで存在する企業がもはや持続可能ではないこと、つまり、環境や社会をより良くしていくための貢献者でなければならないということを、改めて多くの方が感じているからではないでしょうか。
サステナブルな次の時代へむけて、一人ひとりが良き市民として貢献していくことが何よりも重要だと思いますので、引き続きみなさんとの共創を続けさせてください。」
問い合わせ情報
お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 cajp@jp.ibm.com にご連絡ください。
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