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[事例] 空調(HVAC)システムをIoTで管理しパフォーマンスを最適化。最大40%節約

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アームストロング・フルイド・テクノロジー社(建物・施設の省エネエキスパート・カンパニー)事例

 

建物や施設の建設や運用は、エネルギー関連の温室効果ガス排出量(GHG)の39%以上を占めています。 アームストロング・フルイド・テクノロジー社(以下「アームストロング社」)は、IBM Watson IoTプラットフォームの予知保全分析を用いて、建築物のエネルギー使用量を削減して顧客の排出量削減を支援するクラウドベースのサービス「Pump Manager」を開発しました。

 

■ 導入事例のポイント

・  ビジネス課題

アームストロング社は、従来のポンプの効率向上を超える価値を、予測メンテナンス技術を通じて顧客に提供しようとしていました。

・ 課題への取り組み

アームストロング社は、ポンプ性能を管理しリアルタイムの洞察を提供する、クラウドベースの高機能ポンプ性能追跡サービスを開発しました。このサービスにより、建物の所有者は空調システムの最適効率操作、および管理を実施できるようになります。

・ 導入結果

  • 中国の鄭州大学の空調管理エネルギー使用量を78%削減し、年間43,303kgのCO2排出量削減と45,499人民元(6,600米ドル)のコスト削減。
  • カナダの商用ビルのエネルギー使用量を87%削減し、年間131,053kgのCO2排出量削減と121,692加ドルのコスト削減。
  • 米国の高齢者施設のエネルギー使用量を74%削減し、年間18,735kgのCO2排出量削減と4,325米ドルのコスト削減。

 

■ ビジネス課題の背景 – エネルギー効率への新たなアプローチ「ポンプ」

温室効果ガスの排出削減は、人類が直面している最も差し迫った課題の1つです。

米国グリーンビルディング協議会によると、世界の温室効果ガス排出量の約39%、世界のエネルギー消費の30%を建築分野が占めています。そして建物内のエネルギー使用量と二酸化炭素排出量の40%近くが、暖房、換気、空調(HVAC)システムにより消費されています。

 

エネルギー効率の高い空調ソリューションを用いれば、建築物のCO2排出量は大幅に削減できます。ですから、現在では建物の新築時に省エネ対策を取り入れるのは常識となっています。

でも一方で、既存の建築物の温室効果ガス対策は、年に1〜2%しか進んでいません。

アームストロング社のパフォーマンス管理サービス部門のグローバルディレクターであるプラティック・シャルマ氏は、その理由を建物の所有者の視点から以下のように解説してくれました。

 

「多くのオーナーにインタビューをした結果、2つの問題が際立っていました。多くのオーナーがこう言っていました。”もちろん、私だって地球環境に優しい存在でいたいと思っているんです。でも、私は投資に対する責任を負う立場にいるんです”と。持続可能性の経済性についてが1つ目の問題です。

2つ目は、建築効率改善ソリューションへの信頼性の低さです。以前から”2年間で大きな削減効果をもたらします”と謳う製品は、以前から市場にありました。でも、オーナーたちはそれが実証されたことはないと、信頼していませんでした。」

 

それらの背景から、建物所有者の多くは、エネルギー効率の改善と言えば最も高価な機器である冷房装置にばかりこれまで注力してきました。

「空調システム内の流体は、ポンプで制御されています。つまり、ポンプは建物の心臓部と呼べるものです。でもオーナーの皆さんは、水を組み上げてさえいればポンプは問題ないと、ポンプではなくモーターばかりを重視していたのです。

“ポンプは機械的な装置であって、インテリジェントな装置ではない。インテリジェントな装置にはなり得ない”とね」シャルマ氏はそう説明します。

 

地球の持続可能性への貢献を強く宣言しているアームストロング社は、そこに機会を見出しました。従来とはまったく異なる新しいアプローチに注力したのです。それが空調システムにおける最小コンポーネントの1つ「ポンプ」です。

建物の心臓部であるポンプが、もしインテリジェントになったら、一体どうなるだろうか? と。

 


IBM Watsonが大量のデータを調べて、メンテナンスに関連する予測を行ってくれるので、

顧客は早期に問題に対処できるのです。

— アームストロング社、パフォーマンス管理サービス・グローバルマネージャー  アシワジュ・トゥンジ


 

■ 課題への取り組み – 心臓と頭脳を持った建築物

アームストロング社はIBMとチームを組み、クラウドベースの資産パフォーマンス管理サービスである「Pump Manager」を開発し、同社のデザイン・エンベロープ・ポンプ製品群の一部として顧客に提供しています。

Pump Managerは、IBM Watson IoTプラットフォームとそのテクノロジーにより実現する予測保守分析を用いて継続的に機器を監視・分析し、建物の所有者にリアルタイム洞察を提供して空調システムの運用・管理を最適効率化します。

その流れは以下の通りです。

 

  1. Pump Managerは、デザイン・エンベロープ・ポンプの機能を用いて圧力レベル、流量、エネルギー使用量、振動などのデータを収集する。
  2. データは自動的にIoTプラットフォームを介して同社のプライベートクラウドに送られ、顧客にウェブブラウザーあるいはアプリを通じてデータを基にした予測と長期トレンド分析を提供する。
  3. 分析により過剰な稼働時間や振動などの異常が見つかった場合は、Pump Managerがお知らせや警告を即時に送信し、オペレーターに機器の故障回避や無駄なエネルギー消費の回避を促す。

 

パフォーマンス管理サービス・グローバルマネージャー、アシワジュ・トゥンジ氏は次のように語りました。

「分析において、振動ほど多くを語るものはありません。それぞれの機器の故障にはそれぞれの機器と故障特有の振動があるのです。

例えば、当社のセンサーが通常とは異なる振動を記録したとします。それはすなわち何らかの異常を意味しています。私たちはその振動を察知したら、対応準備をするように必要な先へアラートを送信します。お客さまのご要望によっては、ポンプに何が起きているかを直接顧客にお伝えしアドバイスを送信する場合もあります。

多くの顧客がこのサービスを気に入ってくださっています。対応そのものに関わりたいと思っているお客様はわずかですが、常に情報は入手しておき、何が起きているかは把握しておきたいということでしょう。」

 

Pump Managerはパフォーマンスの傾向を分析して、潜在的なメンテナンス要件や、効率性の変化や傾向を特定して機器の全体的な健康度合いを診断します。

アシワジュ・トゥンジ氏は、こうした機能に対して、次のように語っています。

「予測分析は人間には気づくことのできない長期にわたる微小な変化を傾向として見出してくれます。IBM Watson IoTソリューションを用いて大量のデータを調べて、メンテナンスに関連する予測を行ってくれるので、顧客は早期に問題に対処できるのです。」

 

Pump Managerがこれほど好評なのは、ユーザーへの安心感の大きさでしょう。 機器に何らかの問題があっても、Pump Managerが自動的にメンテナンスやチェックを業者に依頼してくれます。オーナーも管理者も何一つ関わる必要はありません。

そして依頼には必要な情報がすべて含まれているので、業者や作業担当者も持参すべきツールや部品を準備した上で、現場に到着後すぐに心配なく作業を始めることができるのです。

 


IBMとのパートナーシップにより、建物から得られる情報を明晰な頭脳で分析できるようになりました。

スマートシティの開発に、私たちは大きな役割を果たせていると感じています。

— アームストロング社、パフォーマンス管理サービス・グローバルディレクター  プラティック・シャルマ


 

■ サービス導入実績 – エネルギー消費とCO2排出量を大幅削減

建物の所有者にとって、問題に先んじることは利益創出へとつながります。さらに、Pump Managerの導入によりエネルギー消費量と温室効果ガス排出量を大幅削減することは、大きなコスト削減をも実現します。

「Pump Managerをご利用いただけば、導入初日から大きな効果が得られますとオーナーの皆さんにはお伝えしています。導入が早ければ早いほど、その分多くのコストを抑えられますよ、と。」プラティック・シャルマ氏は言います。

 

シャルマ氏の言葉を裏付けるように、アームストロング社のサービスを導入したインド、中国、アメリカ、カナダ、ヨーロッパの世界の20のビルディングで大きな効果が証明されています。

それらの効果は、国際的な第三者認証機関であるビューローベリタスによる評価として、アームストロング社のウェブサイトでも公開されています。ここではその中から3つご紹介します。

 

  • 中国の鄭州大学: 50,000平方メートルの管理棟に10機のデザイン・エンベロープ・バーティカルインラインポンプとPump Managerを導入し、各ポンプの効率を向上させました。
    導入効果は、鄭州大学の年間エネルギー消費量の78%削減。CO2排出量は43,303kg削減。2年弱の費用回収期間で45,499人民元(6,600米ドル)のコスト削減を実現しました。

 

  • カナダ、オンタリオ州トロントのカールソン・コート(商用ビル): 300,000平方フィートの施設に4機のデザイン・エンベロープポンプとPump Managerを導入してポンプを分析。
    導入効果は、エネルギー消費量を87%削減。CO2排出量は131,053 kg削減。年間121,692加ドルのコスト削減を実現しました。

 

  • 米国イリノイ州キャルメット・シティの高齢者専用住宅ベルナルディン・マナー : 既存の設備に替えてデザイン・エンベロープ・タンゴポンプとPump Managerを導入し、パフォーマンス管理を実施。
    導入効果は、エネルギー消費量を74%削減。CO2排出量は18,735kg削減。年間4,325米ドルのコスト削減を実現しました。

 

Pump Managerは、効率寿命を高めることでも費用対効果向上に貢献します。資産パフォーマンスを継続的に管理することで、目に付きづらい資産劣化や効率低下によるエネルギーコストの上昇を防ぐのです。

また、それまでの設備投資や修理、メンテナンスの実情に照らした洞察を継続的に提供することで、所有者の運用判断を支援します。

 

アシワジュ氏は次のように説明します。

「私たちのデータ分析を通じて、技術者たちは建物に足を踏み入れる前に、高確率でそこでどんなトラブルが起きているか、どんなメンテナンスや修理が必要となるかを事前に理解しています。

これが本当に大きな違いを生み出しています。適切な交換部品を用意して現場に向かえるのですから、翌日出直しということがないのです。出張メンテナンスサービスの回数がかなり減ります。」

 

最後に、シャルマ氏はこう述べました。

「こうした効果を生み出せたのも、資産のパフォーマンス管理ができたからこそです。Pump Managerがこれらを実現できたのは、Watson IoTを中心に構築したからです。

IBMとのパートナーシップにより、建物から得られる情報を明晰な頭脳で分析できるようになりました。スマートシティの開発に、私たちは大きな役割を果たせていると感じています。」

 

アームストロング・フルイド・テクノロジー社について

1934年に設立され、カナダのトロントに本拠を置くアームストロング社は、流体機器をインテリジェントな装置へと変革する設計、エンジニアリング、製造のイノベーティブ企業です。

5大陸で8つの製造施設を運営しており、社員数は1,200人以上です。

 

 

問い合わせ情報

お問い合わせやご相談は、Congitive Applications事業 にご連絡ください。

 

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土屋 敦 | Technical Lead, Watson IoT

 

当記事は、Armstrong Fluid Technology – Manage HVAC systems to optimize performance and save up to 40 percentを抄訳し、日本向けにリライトしたものです。

 

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