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AIとエッジが変革する移動体験と都市空間 | 在りたい未来を支援するITとは? シリーズ4 | 自動車とモビリティと都市の未来

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「在りたい未来を支援するITとは? シリーズ4」では、2020年10月に開催された「一般社団法人経営研究所(以下、経営研究所)」主催の「自動車とモビリティの未来を考える研究会​」から、「IoT/AI 技術の活用。つながる車とモビリティ・サービスの未来」と題されたセッションを紹介している。

それでは第4回「AIとエッジが変革する移動体験と都市空間」を見ていこう(第3弾はこちら)。

 

4名の登壇者

村澤 賢一  (テクノロジー事業本部 ガレージ・テクノロジー本部長)

新しい社会や人間の在り方にどうテクノロジーを活かし、社会基盤をアップデートしていくべきかを追求。2011年から日本IBMの各種事業組織を担当、現在に至る。

 

坂本 佳史 (CTO of Edge Computing in Japan)

テクノロジーがいかに人を幸せにできるかを研究している日本IBMのエッジコンピューティングCTO。Distinguished Engineer(IBMにおけるエンジニア最高職)。

 

磯部 博史  (コグニティブ・アプリケーション事業部  Master Shaper)

2008年に発表されたIBM Smarter Planet構想以降、都市の効率化や製造、モビリティーなどを中心に社会実装に取り組んでいる技術者。

 

渡邉 毅(ソフトウェア&システム開発研究所 IoTソリューション開発 部長)

入社以来、主に開発部門にてソフトウェア製品開発に従事。近年はつながるクルマから見えてくる新しいモビリティ&ライフスタイルを支えるソリューションの開発に取り組む。

 

前回はCASE時代のコネクテッド・カーを支えるテクノロジーを紹介しました。今回は、クルマ以外のモビリティのユースケースをまずご紹介します。

IBMは、アルプスアルパイン株式会社様、オムロン株式会社様、清水建設株式会社様、三菱自動車工業株式会社様と共にコンソーシアムを設立し、視覚障害者の生活向上と実社会におけるアクセシビリティの推進を目指し、AIを活用した移動のコミュニケーションをサポートする「AIスーツケース」の開発と社会実装を目指した実証実験、デモンストレーションを行いました。

「一般社団法人次世代移動支援技術開発コンソーシアム」 共生社会の実現に向け、AIスーツケースの実証実験を開始

 

AIスーツケースの実証実験とデモには、複数のIBMのクラウド技術が活用されています。

視覚障害者にとって、AIスーツケースはウェアラブルデバイスであり、ナビゲーションロボットでもあります。移動体であるスーツケースの位置や周囲の混雑状況など、センシング・データを収集、リアルタイム分析、フィードバックすることで、障害者の移動を支援します。

とりわけCOVID-19禍においては、密集や口頭によるコミュニケーションが避けられる状況であり、こうした障害を持つ方を支援する技術が、さまざまな事情を抱える個々人の行動や暮らしに役立つ場面も少なくありません。

そしてまた、混雑回避や経路提案などの他、不審物発見への貢献などのユースケースも想定でき、今後、施設やビル管理などのサービス改善や向上にも活用されることが期待できます。

 

このようにIBMの技術は、現在も自動車のみならず、人、ロボットなどの移動を支えるプラットフォームやインフラ構築をサポートしています。

そしてこの先には、クラウド技術やAI技術に加え、AIチップ(AI処理に特化した半導体基盤)や量子コンピューターなどのテクノロジーを適切に用いることで、MaaSや都市OSなど人びとの暮らしを支えるインフラを進化させていく必要があると考えています。

なぜなら、それこそが日本が今抱えている「超高齢化社会」と「都市部への人口集中」という大問題と、それにより引き起こされるさまざまな周辺課題の解決へとつながるであろうと私たちは信じているからです。

日本政府がSociety5.0として掲げている「人間中心主義」社会の実現をテクノロジーで後押しすること — 私たちはそれがIBMに課された重要なミッションであると認識しています。

■ 多様化する消費者 | IBMからの提言

現在はオンラインで自動車が購入できる時代です。

技術進歩やライフスタイルの変化に伴い、シェアリングやサブスクリプションのようなサービスが消費者に広く受け入れられるようになっています。COVID-19によりモノをシェアするサービスに幾らかの停滞は見られるものの、今後も激しい変化が続き、5年前にはあり得なかったシチュエーションが次々と目の前で起きていくことでしょう。

 

このような消費者の多様化とその志向と動向の変化は、将来的な自動車開発に影響を及ぼすようになっています。

最近のとある調査によれば、消費者の86%が先進国や途上国に関係なく「今後10年の間に車を所有する」と回答しています。しかし興味深いのは、日本のみ、所有の意思を示したのが6割程度しかいないという点です。さて、この結果から、私たちはとりわけ日本ではシェアリングやサブスクリプションへの需要が強く存在していると捉えるべきなのでしょうか?

また、同調査によると、16カ国中10カ国で消費者が自動化された車に最も求めるのは自己修復となっており、調査対象国の中で日本とインドネシアのみがMaaSを最優先としています。

 

■ 多様化するMaaSと求められるもの | IBMからの提言

以上の結果を踏まえると、近い将来の消費者がトランスポーテ―ションに何を求めるのかが、ある程度推測できます。

「所有せずにモビリティを利用するカーシェアリング」「サービスとメンテナンスのための分析と予測」「自己修復」「ソーシャルへ接続し他のサービスとつながるクルマ」など、さまざまな形態のサービスが考えられます。

 

しかし、カーシェアリングや自己修復には、課題も存在しています。

自己修復やクルマの自己診断を考えてみましょう。1台のクルマが多くの人にシェアされ自動運転で走行されるようになると、クルマの稼働率は今の数倍となることが予測されます。(特にレベル4以上での)自動運転で「ドライバー」がいない場合、誰が「故障」というクルマの自己判断を確定するのでしょうか。

あるいは、乗用車が壊れているとAIが判断した場合、どのタイミングで壊れていたのかが確定できるでしょうか。そして故障が判明した場合には、次のユーザーへの譲渡にどのような制限をかけるべきでしょうか。このように議論の余地がまだまだあるのです。

 

これらの議論を進めて問題を克服していくには、高い信頼性に加え、高度な故障検出能力や診断能力を備える自動車が必要となります。そしてその実装には、部品単一ではなくセンサーを含めた部品間の統合化を進め、信頼性を上げていくことが求められます。

また、収集したデータを使った高レベルな解析を行い、ソリューションの質を高め続けていく必要があります。そこで重要な役割を果たすのが、現実の物理世界に接続されて相互連動するデジタル仮想世界「デジタルツイン」です。

今後の自動車のものづくりを見直しと進化に、設計や実装、テストなどあらゆる場面でデジタルツインが不可欠なものとなるでしょう。

デジタル・ツイン〜2019年に調査するべき戦略的テクノロジー・トレンド

 

以前、IBMが実施した自動運転とカーシェアリングの実証実験の結果は、ユーザーからのフィードバックから判断すると、芳しいものではありませんでした。

移動できることとシェアリングできることへの満足度は高かったものの、出発地点からカーシェアリング地点までの最初と最後の移動手段がないという、いわゆる「ファーストワンマイル問題」と「ラストワンマイル問題」の存在が解消されていなかったことがその最大の要因でした。

複数の移動手段を用いる「マルチモーダル」の対応方法をしっかりと準備して担保するなどして、最初と最後の移動手段を担保しなければ、カーシェアリングの利便性は低下してしまいます。

 

この問題の具体的な解決策には、シェアリングカーに自転車や電動キックボードを持ち込めるようにすることや、それなりに利便性の高い別の移動手段と組み合わせるなどの整備が必要だと私たちは考えています。

とりわけ地方や中山間地においては、「この問題の解決なしにシェアリングサービスの本格は浸透しないのではないか」というのが、現段階で私たちが実証実験から見出した経験的知見です。

 

■ 自動運転とAI

自動車のさまざまな側面が自律的になってきています。そしてAIが、搭乗者、クルマ、周囲をつなぐキーファクターへと近づいています。

自動車業界にいらっしゃる方がたは、自動運転に関しても各所で多様な取り組みが進んでいることは耳にされていることと思います。AIの観点から見ると、主に自動運転における使用されているAIは、周囲に何が有るかをすばやく正確に捉えるための外界認識センサーとして活用されています。

そしてAIのトレーニング方法は、センサーが収集した画像データをサーバーに集め、畳み込みと呼ばれる操作を用いるCNN(Convolutional Neural Network)により深層学習したモデルをクルマに搭載し、推論を行っています。

 

自動車開発のエンジニアや研究員に聞いたところでは、今後は走行環境などの外界の認識に加え、車両の運動制御へのAI活用が期待されています。

現在の自動車は、多くの部品の集合体により作られています。ですが、まだ、サスペンション、トランスミッション、モーターなどが設計段階から十分に組み合わされているかと言えば疑問が残るところです。現状は統合的に開発されていると言うよりは、それぞれが個別に設計されており、最終的に上手くすり合わせて調整して快適な乗り心地を実現していると言えるのではないでしょうか。

今後は、設計段階からサスペンションやトランスミッションなどのサブシステムにAIが活用され、統合制御を調和して最適な運動制御を実現できるようになっていくでしょう。すでに、より「人間の感覚に合った制御」の実現に向けて、AIを活用したボディ系と車室内の快適性の向上に向けた動きが盛んになっています。

 

私たちは現在、いまだかつてないコンピューターの変革期にいます。AI活用を支えるコンピューティング・パワーについても、AIアクセラレータや量子テクノロジーの進展に伴い、近い将来は多大なパフォーマンスをもたらすことが期待されています。

まださまざまな制約はあるものの、人間の頭脳に迫る処理能力をコンピューターが備えられるようになってきているのは事実です。そしてエッジデバイスの進化により、今後もクラウドと高速ネットワークがもたらす恩恵は社会の隅々にまで届き、その根幹まで変化させていくことでしょう。

エッジコンピューティングを擁するさまざまなインテリジェント・デバイスが世の中に浸透していくという、歴史上類を見ないこの変革期において、行政、企業、市民が手を取り合い、一層パーソナライズされたサービスを提供できる体制と、それを適切に使いこなすデジタルリテラシーと倫理観を育てていく必要があるのではないでしょうか。

 


 

最終回となる次回は、「個人と地域のウェルビーイングを織り合わせていく」と題し、これまでのまとめとセッション当日のQ&Aをご紹介します。

 

在りたい未来を支援するITとは? シリーズ4

 

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TEXT 八木橋パチ

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