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資産管理・設備保全の統合プラットフォーム IBM Maximo 後編(月刊誌「食品機械装置」より)

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株式会社ビジネスセンター社発行の月刊誌「食品機械装置」2021年11月号に、『資産管理・設備保全の統合プラットフォーム』という、コグニティブ・アプリケーションズの野ヶ山尊秀の寄稿記事が掲載されました。
その内容を2回に分けて転載します(前編はこちら)。

なお、寄稿全文をPDFファイルとしてダウンロードしていただくことも可能です。印刷して読みたい方や社内で回覧したいという以下よりダウンロードしてご利用ください。

PDFファイル: 資産管理・設備保全の統合プラットフォーム


 

4. 統合プラットフォーム IBM Maximo Application Suite

欧米や中国などは先進的な工場を建造し,競争力が高い製品を世界に展開している。

こうした工場では IoT や AI を活用し高度な設備保全が実現されている。しかし,こうした高度な機能は導入コストが高い。また検討段階では自社の資産管理システムからデータをエクスポートして名前解決やテーブル結合などの多くの前処理を行わなければ実証試験ができない。

また導入にあたっては同様に資産管理システムと IoT/AI 活用システムとの間のデータ連携機構を作り込まなければならない。

 

IBM Maximo Application Suite *3) は,IBM Maximo Manage を含む,IoT や AI を活用するアプリケーションを統合したプラットフォームである。

アプリケーションは簡単にインストールでき,ライセンスも柔軟に再割当てが可能なため,必要に応じてアプリケーションを利用・停止することが可能となる*13)*16)。

各種アプリケーションと IBM Maximo Manage を連携させ,より高度で先進的な設備管理(予知保全,遠隔支援など)を機能追加していける。

*3)IBM,“IBM Maximo Application Suite”, https://www.ibm.com/jp-ja/products/maximo
*13)富田 亜紗美 , 磯部 博史 ,“IBM Maximo Application Suite が成長に寄与する理由”, IBM Cognitive Application Blog(2021), https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/iot-mas2/
*16)橋本 佳道 ,“Maximo 新サービスで設備管理の今と将来を同時に。お得に。”, IBM Cognitive Application Blog(2020), https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/iot-mas/

 

A. IBM Maximo Application Suite が持つ多彩なアプリケーション

IBM Maximo Application Suite で利用可能なアプリケーションを列挙する。

 

● Manage(設備保全管理[CMMS/EAM])

前章で解説した,設備保全管理ソリューション。

 

● Monitor(IoT モニタリング,異常検知)

AI を活用して大量の設備をリモートで監視することで,設備と業務の可用性を改善できる。
既存の OT システムからデータを収集し,単一のデータレイクを使用して IT システムと運用システムを融合して,異常を検出する。

 

● Visual Inspection(画像認識 AI による異常検知)

画像・映像認識に特化した AI モデルの開発をユーザー部門でも容易に行える開発プラットフォームを提供。
開発した AI モデルを iOS デバイスやドローンなどのエッジ・デバイスに配布し,統合管理を実現できる。また画像認識結果を IBM Maximo Monitor と連携し,保全と品質管理のワークフローを統合することで,分析に基づいて迅速に対応できる。

 

● Health(設備のヘルススコアリング)

計測データ,保全費用,設備寿命などのヘルススコア値に必要なデータを IBM Maximo Manage や IBM Maximo Monitor 経由での IoT センサー値から定期的に取得し,現在のヘルススコア値を算出し,状態基準保全(CBM)を実現する。

 

● Predict(設備の性能予測)

定期的な保全作業から,状況に応じた対応の実施に移行し,機械学習とデータ・アナリティクスを使用して今後発生する故障の可能性を予測することで,コストと資産の障害を削減する。
IBM Maximo のその他の機能と Watson Studio を活用することで,データに基づく意思決定を実施し,予測モデルを構築できる。

 

● Mobile(現場作業員向けモバイル・アプリ)

いつでもどこでもどんな設備・機器でも管理を行える。Maximo Mobile は,業界のベストプラクティスや保全と点検のワークフローなど,設備保全管理ソリューションのすべての機能を統合し,現場から工場に至るまでの生産性を改善する単一のプラットフォームを提供する。

 

● Safety(作業員の安全管理)

安全性の中心にコンプライアンスを据え,職場における危険の特定と排除を容易にする。同時に,職場復帰に関する政府と医療の新しいガイドラインを遵守する。
さまざまなデバイスからの高度な分析とほぼリアルタイムのデータ・アクセスを組み合わせることで,施設と従業員両方の安全衛生を総合的に管理することができる。

 

● Assist(遠隔支援)

AI および遠隔での人による支援を得て,資産保守プログラムを拡張し,技術者が必要なときにいつでもどこでもオンデマンドの支援を得られるようにする。
AI を活用したこのソリューションは,業界をリードする IBM Watson 技術を搭載しており,継続的な学習を行うことで,使用するにしたがって推奨事項が改善され続ける。
技術者がより迅速かつ 効率的に問題をトラブルシューティングして修復できるように支援することで,コスト削減,稼働時間の改善,資産寿命の延長を実現する。

 

IBM Maximo Application Suite の管理画面を図 6 に示した。

後述する App Point を割り当てて起動したアプリケーションは緑色のアイコンによりアクセス可能状態になっていることが分かる。ログイン後にこれらのボタンをクリックすることで個々のアプリケーションの画面に遷移することができる。

図6 ボタンをクリックするとアプリケーションが立ち上がる。追加アプリの導入も簡単

 

IBM Maximo Application Suite のモバイルアプリの画面を図 7 に示した。

こちらもログイン後にアプリケーションのボタンをタッチすることにより,個々のアプリケーションのモバイル画面にアクセスできる。

図7 IBM Maximo モバイルアプリケーション

 

B. アプリケーション活用による設備保全業務の段階的なデジタル変革

IBM Maximo Application Suite のライセンスは,App Point と呼ばれるポイントを購入し,それを使って各アプリケーションのインストールを行う(図 8)。

図8 IBM Maximo Application Suite の柔軟なライセンス形態

アプリケーションは必要に応じて利用すればよいが,小さく始めて徐々に利用範囲を拡大していくロードマップを 図 9 に示した。

保全管理の基盤システム IBM Maximo Manage(左下)で足元を固めつつ,設備の状態をモニタリング(Monitor)し,異常を AI が検知する。また収集されたデータか ら設備稼働の健全性(Health)を分析&判断し,故障予知を行う(Predict)。

作業者の遠隔サポート(Remote)や AI による対話的サポート(Assist)へ拡張することもできる。また,人の動きを集約し作業員の安全や健康をサポートする(Safety)ソリューションもある。モバイルはこれらのアプリケーションをスマートフォンで操作できるようにする。

図9 製造・保全現場のデジタル変革を実現するIBM Maximo アプリケーション

 

C. 事例:Novate Solutions 社での IBM Maximo Monitor 活用

Novate Solutions(以下 Novate 社)*11) は, カリフォルニア州ウェストサクラメントとリバモアを拠点として,産業メーカーに専門的なサービスを提供するエンジニアリングおよびテクノロジーサービス会社である。

機械および電気工学をベースに,制御および自動化の統合,生産ライン構築,産業用セキュリティ・ソリューションなどを提供している。その中で,Novate 社は致命的な故障が発生する前にその予兆を発見できるシステムが必要であると認識し始めた *10)。

*10)Kate Carroll de Gutes,“Using cognitive capabilities to spot the imperceptible”, https://www.ibm.com/jp-ja/case-studies/novate-solutions
*11)Novate Solutions, Inc., https://www.novate.com/

 

設備機器には,数十万のデータを生成するセンサーが装備されており,正常稼働を確認することができる。しかし,データだけではプロセス全体の状態把握や意味のある洞察,そしてこのあとに起きるであろうこと(特に致命的な故障)を予測することはできないと Novate 社は考えた。

異常を予測するためには,それらのデータの意味や背景,ほかのデータとの関連付けが必要となる。しかし,そのデータ分析作業は技術者にしかできず,属人性が高くスケールしないという課題があった。

つまり,データ分析技術者は最新の視覚化ツールを使用しても,すべてのデータと傾向を把握することは不可能で,また 24 時間 365 日監視し続けることもできない。

 

この課題を解決し,設備のダウンタイムと運用コストを削減するには,データ分析技術者に代わって

  1.  データを提供する設備についての深い洞察を行い,
  2.  設備の状態をリアルタイムで把握し,
  3.  障害の根本原因を迅速に特定する

ようなシステムが求められる。

そのため,Novate 社は AI と IBM Maximo Monitor ソフトウェア *6)を使用して,プロセスの信頼性を向上させ,最終的には産業用プロセス制御を強化する革新的な新しいアプローチを開発している。

*6)IBM,“IBM Maximo Application Suite:リモート・モニタ ー”, https://www.ibm.com/jp-ja/products/maximo/remote-monitoring

 

Novate 社は,顧客の制御システム・インフラストラクチャとプロセスデータを,IBM クラウドベースの AI とサポート・オペレーション・センターに直接組み込まれている IBM Maximo Monitor と統合している。

それにより,Novate 社は通常の監視システムでは認識できない異常を探してデータを分析できるようになっている。

異常が見つかった場合,システムは Novate 社のサポート・オペレーション・セン ターのエンジニアに警告が報告されるようになっており,Novate 社の熟練エンジニアが,警告が障害を示しているかどうかを判断する。必要ならば,技術者と協力して予測される障害を防ぎ,設備停止を回避する。

その結果,IBM Maximo Monitor によって設備の状態がリアルタイムに監視できることにより 30% の製品品質の向上が得られ,既存のセンサーから得られた新しいデータにより,15% の不良品廃棄 の削減を実現した。

図10 クッキーの製造ラインの例

Novate 社の顧客である,1 日に約 400 トンのクッキーを製造する世界的な食品製造会社の最先端の製造施設では,毎日約 20 トンのクッキーを計画外の設備停止で失っていた。

そこでその食品製造会社は,3D 点群データソリューションや拡張現実技術を利用して計画外設備停止を削減しようと試みていた。しかしそれには巨額の投資と広範なトレーニング, さらには製造プロセスの再定義などが必要となるものだった。

 

一方,Novate 社が提供するソリューションは,通常は監視および警告されないような問題を検出できた。その例として,生産ラインの最後にある包装機器のサーボモーターの動作に気付いた例を紹介する。

まず Novate 社のソリューションは,時間の経過とともに平均トルク値が増加することに気づいた。トルク値の増加は予期しない動作であったため,機器に検査のフラグを立てた。現地での包装機器の分析の過程で,作業履歴とは異なりオイルが交換されず完全に劣化していることが分かった。

その結果としてサーボモーターが激しく作動するようになり,ソリューションによって検出されたのだった。

食品工場にはこの不具合を検出できるような仕組みはなく,IBM Maximo Monitor によりリアルタイムに監視されたデータの上で AI が気づき,Novate 社の技術者がそこから解読した結果初めて検出されたのであった。

 

5. おわりに

本記事では,日本における設備保全業務が抱える課題についてまとめた。こうした課題への解決策として,IBM Maximo Manage(IBM Maximo EAM)による資産管理について簡単に紹介した。

IBM Maximo Manage はほかにも資産管理・設備保全に関する非常に多くの機能を有しテーラリングによって業務に適合できるため,先に紹介したような多種多様な業界のニーズを満たすことができる。

本記事ではそのすべてを紹介することはできないため,基本的な部分と典型的なシナリオについてのみ触れた。IBM Maximo Manage についてより詳細に知りたい場合は,“IBM Maximo Application Suite:資産管理”*4)などを参考にしていただきたい。

*4)IBM“,IBMMaximoApplicationSuite:資産管理”, https://www.ibm.com/jp-ja/products/maximo/asset-management

 

諸外国の製造業は IoT や AI を活用したスマートファクトリー化などにより高度な設備保全を実現し,その結果として競争力がある製品を市場に提供している。

こうした状況の中,クイックに自社の資産管理データの下で IoT・ AI 活用アプリケーションを検証し導入していくスピードが求められる。本記事では,こうした課題に対応するため,IBM Maximo Application Suiteを紹介した。

これはIBM Maximo Manage を含んだ各種アプリケーションの集合で,IoT・AI 活用による予知保全や 遠隔支援など高度な設備保全が可能となる。ア プリケーションの追加も,システム的にもライセンス的にも簡単である。

 

IBMは世界中のさまざまな業界の企業と IBM Maximo を通じて設備保全業務に関わっているため,それぞれの業界の経験を持ち,IBM Maximo Manage の業界向けテンプレートなどを通じてそうした経験をフィードバックしている。

ほかにも多くのソリューション,事例を持っており,IBMソリューションブログ *15)にて紹介している。問い合わせや相談があれば,日本IBM コグニティブ・アプリケーション事業部 に連絡をいただきたい。

*15)日本 IBM コグニティブ・アプリケーション事業部 ,“コグニティブ アプリケーション ブログ”, https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/category/watson-iot/

 

問い合わせ情報

 

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