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こころが震えたあのとき(海老原 天紀) – テクノロジー・エンジニア、クライアント・エンジニアリング事業部

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目次

 


 

 

● 「アウトプットで判断されたい」

 

「自分がやってきた事の中から自分で選択して、それを自分の言葉で説明するのならいいんです。でも、周辺的な情報で判断されるのはあまり…。いや、あまりじゃなくて好きじゃないです。アウトプットで判断されたいという気持ちが強いんです。」

 

インタビューを始めて数分、筆者の「オンラインではあまり海老原さんの情報を見つけられませんでした。これまで意識的にソーシャルメディアなどでの『発信』を控えられているのでは?」という質問に応えての言葉だ。

自身の行動や言葉を通じて自分を理解してほしいと思うのは自然なことだと思う。だが、飾り立てて実体よりも大きく自分を見せようとする人が多い社会で、それとは逆のアプローチを取り、初対面の相手にもしっかり自分を伝えようとする人は決して多くはないだろう。

 

背筋が伸びた。

海老原さんの「こころが震えたあのとき」のことを聞きたい。改めて思った。

海老原 天紀(えびはら たかのり) | 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 クライアントエンジニアリング事業部 テクノロジー・エンジニア
2023年4月日本アイ・ビー・エム入社。大学時代は公認サークル「funAI」を立ち上げ、部長として50人の部員とともに活動。趣味は「ドライブですね。ふらっと。細かく予定を立てたりしないで、気が向いたときに気が向いた先へ走らせるのが好きなんです。」

 

 

● 自分から「新卒入社2年目」とは伝えない

 

——普段は社内の仲間にはなんて呼ばれているんですか?

えびちゃんです。

 

——それではえびちゃん、簡単に自己紹介をお願いします。

はい。新卒で日本アイ・ビー・エムに入社して、クライアント・エンジニアリング(CE)に配属となり1年半ほどです。職種はテクノロジー・エンジニアで、クラウド環境におけるクラウド環境におけるシステム構築作業やアプリ開発を行い、お客さまに価値の説明などを行なっています。

…汎用的な自己紹介はこんな感じですね。ただ、普段は自分から「新卒入社2年目」という情報は相手にお伝えすることはしていません。

…理由ですか? うーん、やっぱり自分に余計な情報を付け足したくないから、でしょうか。

 

——なるほど。勝手なイメージに基づいて「レッテル」のようなものを貼られるのが嫌ってことですかね?

そうですね。嫌です。

…とは言え、やはり能力不足なのは否めないので、「新卒2年目です」と付け加えることもあります(笑)。

 

——この話、この後の話にもいろいろと関係してきそうな気がします。

 

● 世界平和を実現できるのではないか? | AIとの出会い

 

前述のとおり、インターネット上では、えびちゃんの「これまで」はほとんど見つけることができない。ただ一つ例外は、はこだて未来大学時代のAIサークル「funAI」の活動についてのインタビュー記事だ。

記事について、そして学生時代について語ってもらった。

大学でのAIサークル活動中の1枚(赤がえびちゃん)

参考 | 公立はこだて未来大学 『「学び」と「自由」と「自律」と。 未来大のクラブ・サークル活動

 

たしかに「知っていただきたい」という気持ちもあったのでこの取材は受けました。

…はこだて未来大学を選んだ理由ですか? それは当時、「この先生の元でAIについて学びたい」と思っていた方が未来大にいらっしゃったからです。

入学後はAI同好会を作り、それが公認サークルとなりました。

僕が入学した2017年当時、AIはまだ今のような盛り上がりは見せておらず、「ディープ・ラーニング」という言葉や概念の方がよく語られていたかと思います。

きっかけはアニメです。周囲の年長者の方に紹介されて観た『シュタインズゲート』という作品の二期にAIが出てきて。衝撃的でしたね。それで、自分でもAIを使えるようになりたいと強く思ったんです。「AIで世界平和を実現できるのではないか?」って。

 

 

● テクノロジー・エンジニアの第一人者として認められるように

 

未来大時代、えびちゃんがAIと同時にもう一つ強く興味を持ち、活動していたものがあるという。

 

「学生時代はAIとシステム開発の2つの軸で活動していました。

自分の中には、「第一人者として認められたい」という承認欲求と、「しっかりお金を稼ぎたい」という2つの強い欲求がありました。IBMへの入社動機もその欲求に関係していて、

システム開発をもっと追いたいという気持ちからです。

でも、今、パチさんからのさまざまな質問に頭を巡らせている中で気づいたのですが、どうやらその2つよりも上位に、「おもしろいことをしたい」という強い欲求があるようです。まずはおもしろいことをしたい。そしてそれが認められることで稼ぎたい、ですね。

だってやっぱり、自分自身がおもしろいと思えるものに力を注ぎたいじゃないですか。」

 

——AIではなく、システム開発を選んだのはAIよりも「おもしろいこと」と思えたということ?

…う〜ん、難しい質問ですね…どうでしょう。AIについては、今はその道に進んでいないのでその興味を「停止」している感じでしょうか。

学生のときって、ただひたすら自分のしたいこと、欲しいものを追求できますよね。でも、就職したらそうはいかないじゃないですか。自分がおもしろいと思っているだけではなく、周囲にもその対象におもしろさを感じてもらえなければ、お金を費やしてはいただけないですよね。

なので、あの頃とは昇っている階段が変わったのだと思います。…階段という表現は相応しくないのかもしれませんが。

 

——それでは、テクノロジー・エンジニアの第一人者として認められるように歩んでいきたいということですね。

そうですね。データベースエンジニアやプラットフォームエンジニア、ネットワークエンジニアなど、テクノロジーのどの分野に特化していくのか。どこに自分を向けていくのか。

今はまだ、目の前のことで精一杯で、それを探しているところです。

 

 

● AIを活用した保険約款審査

 

——普段の仕事内容を教えてください。

プリセールスのテクノロジー・エンジニアとして、営業担当者と一緒にお客様へ技術的なお話をさせていただいたり、実際にお話を進めていく中で技術部分を担当したり、デモを作ってお見せしたりということをやっています。

所属しているCEはプリセールスに特化した部門です。AIエンジニアやイノベーション・デザイナーなどのさまざまなスペシャリストたちと共に、解くべき課題を明確化するためのワークショップをお客様と一緒に行ったり、MVP(価値実証可能な最小限のプロダクト)を作成したり、という感じです。

一言で言うなら、「AIを活かしたアプリケーション開発」が現在の私の主な役割です。

 

——最近の取り組みで社外に公開できるものはありますか?

はい。私は保険業界のお客様中心に対応しているのですが、直近ではAIを活用した保険の文書審査の案件をやっていました。

保険商品のパンフレットなどを作る際は、ベースルールが記載された保険約款を利用して、記載内容に違反箇所がないかを確認する必要があるのですが、その案件では、お客様は年2000件近くの審査を行われていました。非常に大変な作業です。

そのチェックをAIで行うことで、確認を担当されている部門の方の業務量削減に貢献するものでした。

 

——たしかに人手でやるのは大変ですね。鍵となるのは生成AIの精度でしょうか?

それは間違いなく重要です。ただ、生成AIの精度が高くても、お客様の業務環境や商習慣に見合った使い方ができなければソリューションとはなり得ません。私の役割は、テクノロジー・エンジニアとしてそうした環境を整備し、実行可能なものとすることが中心です。

 

● 心が震えるとき

 

——そんなテクノロジー・エンジニアのえびちゃんの「心が震えるとき」って、どんなときでしょう? そもそも、IBMで心震わせていますか?

震えますよ。震わされるとき、多々あります。

1番は、必要とされているのを感じたときですね。お客様に必要とされるときはもちろん、CEという組織に必要とされるときも、そしてIBMの他部門の方に必要としていただけるときもです。

まだ入社後数カ月の頃。同じチームの米坂さんと。お客様ワークショップにて

 

——仕事をする上で承認欲求はとても大切な要素だと思います。お客様とのエピソードなどあれば教えてください。

先日、1カ月ほどPoCに取り組んだ案件があったのですが、お客様への結果報告のとき、「これはすごい! 技術者として素晴らしい。あなたたちは独立して会社を立ち上げたほうがいいんじゃないですか?」と言っていただけました。

AIコード生成に関するPoCだったのですが、目的としていたコンセプト証明や説明がしっかりできたからだと思います。

 

——喜びのポイントは、えびちゃん個人への評価でしょうか? それともチーム全体?

もちろんチームへの評価は嬉しいですし、その大切さは分かっているつもりです。でも、「震える喜び」は自分のアウトプットへの評価ですね。

それは報告の場での説明の仕方を含めて、自分の仕事を評価していただけたということなので。震えました。

 

——わかります。それではCEやIBM社内ではどうですか?

私はCEではビジネス・テクノロジー・リーダーの東野さんと、ソリューション・アーキテクトの米坂さんと仕事をご一緒させていただく機会が多いのですが、そうした先輩方から「えびちゃんならこの件、1人でも大丈夫だよね」みたいな任され方をされると震えますね。

私1人に任せていただけているということは、これまでのアウトプットが評価されているということだと思いますから。

そして最近は他部門の方から、「この案件は海老原さんですかね」と任せていただけることが少しずつですが増えてきていて、それもとても嬉しいですね。震えます。

 

ここで、筆者が疑問に思ったのは、最初に言っていた「アウトプットで判断されたい」という言葉のことだった。構築したシステム環境や報告書といった、テクノロジー・エンジニアとしての「アウトプット」が高評価されることと、えびちゃんという個人への信頼とは、異なるものではないか? ということだ。

実際、仕事においてもプライベートにおいても、私たちの多くは周囲の人間をアウトプットの質だけで評価しているわけではない。成果物がどれだけ高品質でも、評価できない人間もいる。

 

「ああ、そういうことですか。そうですね、おそらくはアウトプットという言葉の定義範囲の問題なのかなと思います。

私は、相手の方との向き合い方、人への対応の仕方というのもアウトプットだと思っているんです。それが印象に残り、良いものだと捉えていただけるのはありがたいです。

ですから、これまで私のアウトプットを見て理解してくれている人が、私を認めてくれていることが喜びなんです。震えるのは、関係性を積み上げてきた東野さんというが、そうやって私を評価・理解してくれるからです。

 

初対面からわずか90分ほどのインタビューでこう書いたら、「パチさん、レッテル貼りにつながるような書き方はやめてほしいと言いましたよね。」と叱られてしまうのかもしれない。あるいは「もっと、僕の言葉と接し方を、主観を交えず書いてくれたらいいのに」と思われるのかもしれない。

 

だが、筆者は強くこう思うのだ。

えびちゃんはとてもまっすぐでピュアで、自分をよく理解しつつも、まだ掴みきれていないところもたくさんに違いないと。言葉の定義はともかく、えびちゃんが本当に欲しているのは、本当の自分への理解ではないだろうか。

インタビューの最後に、えびちゃんが言った。

 

「このインタビューも、実は心震えているんです。CE責任者の大澄さんが、私をこのインタビューに推薦してくれたとパチさん言っていましたよね。そういう風に見ていただけていたということが、とても嬉しいんです。」


 

 

● 共創メンバーからのメッセージ

 

最後に、2名の共創メンバーからのえびちゃんへのメッセージをご紹介します。

最初にIBMコンサルティング事業本部 保険サービス部 アソシエイトパートナーの椎葉友紀さんから、続いて、CEのビジネス・テクノロジー・リーダーの東野 洋平さんからのメッセージです。

椎葉 友紀(しいば ゆき)

海老原さんとは、私が担当している2社の保険会社様とAIを活用したPoCでご一緒させてもらっています。

強く印象に残っているのは、最初にご一緒したお客様の担当部長が、海老原さんの説明を聞き「彼のような人と新しい会社を作ったほうがいいよね」との絶賛コメントを下さったことです。普段辛口コメントが多めの方なのですが(笑)。

そして現在、2社目のお客様とのPoCを一緒に取り組んでいるところです。最近はお客様役員をご訪問させていただく際にも同行してもらうくらい、信頼と期待を置いておりますし、私自身の仕事の取り組みへ刺激をもらっているところです。

海老原さんの今後が楽しみで仕方ありません。これからもぜひco-workさせてください!!

東野 洋平(ヒガシノ ヨウヘイ)

入社後間もない頃からメンターとして一緒に仕事をしてきたえびちゃんと、昨年12月、はじめてお客様先に訪問してデモを行うこととなりました。

訪問前に、デモの素材だけを渡して打ち合わせを行なったところ、きっちりとデモを実演してみせたあとで、「説明の意図をもっとはっきりと教えてほしい」と的確なリクエストを貰いました。そして実際の訪問もうまくいきました。

それ以来、デモの実演はえびちゃんに任せています。訴求力を高めるにはどう作り込めばよいのか、そしてどう実演するのがよいのか——強い向上心を持って、MVPやデモの開発を行なってくれています。

今や、えびちゃんはCEの頼れる仲間の1人です。

 

TEXT 八木橋パチ

 

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