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炭素会計(カーボンアカウンティング)とは(その3)
2023年10月12日
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温室効果ガス排出量の的確な算定と、適正な排出量の削減目標を設定するために
「炭素会計(カーボンアカウンティング)とは(その3)」では以下3つのポイントをご紹介します。
- 複雑な炭素会計をマスターする
- ESGレポーティング・ソフトウェアの必要要件
- 炭素会計が生みだす機会
複雑な炭素会計をマスターする
ESGレポートの複雑性が増す中で、炭素会計の方法論や実務の複雑性も増化しています。炭素会計が進化を続け、監視の目が厳しくなる一方で、経験豊富な担当者でもつまずくような複雑な問題が浮上しています。
GHGプロトコルのコーポレート基準では、排出量は算出と報告のために3つのスコープに分類されます。
スコープ1には、社有車、製造工程からの漏洩排出、現場でのガス使用などの燃料燃焼など、企業からのすべての「直接」排出が含まれます。スコープ2には、購入した電気、熱、蒸気の消費による「間接的」排出が含まれます。
スコープ3には、原材料の生産から製品の使用、廃棄、従業員の出張・通勤など、自社活動に関連するものの企業が直接的には管理できない、バリューチェーンを通じたGHGの排出量が含まれます。企業が使用した紙や排出した廃棄物、社内で消費されたコーヒー、およびサプライヤーの排出量なども対象です。
バリューチェーンの長い製造業者にとってスコープ3は特に重要です。
スコープ1、2は、GHGの算定と削減において最も管理しやすいスコープであり、脱炭素化のロードマップの中心となります。
スコープ3は、この機会を活用し影響力の拡大を目指す大手企業にとっては、よい機会です。スコープ3の会計処理を通じて、バリューチェーンにおけるサプライヤーや顧客など、自社以外の排出者に働きかけ排出量の削減を呼びかけることができるからです。
マーケット基準方式による再生可能エネルギー購入の会計処理
GHGプロトコルは数年前に報告基準を改訂し、スコープ2の排出量算定に、ロケーション基準に加えて新たにマーケット基準の手法も求めるようになりました。
従来、企業は標準的なグリッド平均排出係数を用いて、スコープ2の排出量を報告することが求められていました。ロケーション基準として知られるこの手法に従うことで、すべての排出削減努力はGHGインベントリから除外されていました。
当初、この手法は組織を公平に比較することができるので理にかなっていると考えられていました。しかしその後、削減努力を伝えることができないケースや、グリーン電力購入分を排出量合計に算入できないケースなどが発生しました。
そうした問題に対処したのが、スコープ2のマーケット基準手法です。
マーケット基準手法では、再生可能エネルギー証書(RECs)や原産地保証のエネルギー属性証明書(EACs)などをエネルギー消費量に適用し、調達しているエネルギーの種類ごとに異なる排出係数を用いてスコープ2の排出量を算定します。
スコープ3のサプライチェーン排出量へのアプローチ
スコープ3の排出量は、企業がサプライヤーを巻き込み、グローバルに脱炭素化を加速させる大きなチャンスとなります。
たとえ少数であっても規模の大きな最終消費者メーカーが対策を実施すれば、サプライチェーン上の多くの企業の排出量が削減され、大きなフローオン効果を得ることができます。
とはいうものの、現実的にはスコープ3の排出量の開示と削減には、大きな障壁が存在しています。主要な課題を以下に挙げます。
- スコープ間の境界の確立。
- 無数のサプライヤーや拠点にまたがるデータを、体系的かつ監査可能な方法で信頼できるデータとして取得すること。
- 正確な計算を導き出すための排出係数の選択。
- 排出量の報告と削減の両面でサプライヤーと協力すること。
スコープ3の排出量の報告と削減は、CDPに報告している組織や、SBTi(科学に基づく目標設定イニシアチブ)に公約している組織にとっては、最も直接的な関係性を持つものです。
また、食品、建設、ファッション、日用品、電子機器、自動車、専門サービス、物流という、世界の温室効果ガス排出量の50%以上を占める8つのサプライチェーンのいずれかで事業を展開する企業にとっては、最もインパクトがあるものとなります。
ヒント
- ESGレポート専用ソフトウェアを活用し、骨の折れる手作業のデータ収集プロセスを自動化する。
- データ収集の一部においては、手作業による調査や、組織のサプライチェーンを代表する個人との会話が避け難いことを覚悟する。
- データ構造の柔軟性を維持する。サプライチェーンメンバーから提供されるデータファイルのフォーマットはさまざまです。正確で信頼性の高いサステナビリティ・レポートを作成するためには、それらのデータを取り込み、処理し、分析するのに十分な柔軟性のあるデータ基盤が必要です。
- 各ステップにおいて、アプローチと入力プロセスを説明し、決定を明確に記録し、詳細かつ徹底的な監査証跡を残しましょう。
- カンバン方式などのプロジェクト管理ツールやエンゲージメントツールを使用して、プロセス情報を利害関係者グループに提供し続けましょう。
- 拠点が国をまたがって分散している場合や、データ管理に関する異なる複数のルールに対応しなければならない場合は、専門家やコンサルタントに助言を求めることも検討しましょう。
ESGレポーティング・ソフトウェアの必要要件
ESGレポーティング・ソフトウェアを用いることで、信頼性の高いデータの取得が自動化され、単一システムに格納されます。これにより、企業は重要な洞察を生み出し、結果へとつなげることができます。
ESGレポーティング・ソフトウェアを評価する際には、以下の点を確認しましょう。
– データ収集の自動化: ESGレポーティング・ソフトウェアは、報告書作成プロセスの時間、コスト、労力を大幅に削減するために、複数ソースからのデータ取得を自動化できるものでなければなりません。
– 監査証跡とデータの健全性チェック: ESGレポーティング・ソフトウェアは、取得されたすべてのデータが正確に紐づけられ、データに加えられたすべての変更が監査証跡に記録されていなければなりません。
– 階層管理ツール: 排出量の経年比較を有意義に行うには、データセット間のGHGインベントリ境界が確立できることが重要です。インベントリ境界のセットと管理機能が組み込まれたESGレポーティング・ソフトウェアを選びましょう。
– 多国籍・多拠点対応: ESGレポーティング・ソフトウェアは、複数国、複数通貨、複数メトリクスの報告書をサポートできるものを選びましょう。加えて、現地の測定単位や通貨でデータを取得し、標準単位に変換できるものを選びましょう。
– 排出係数と炭素会計手法のサポート: ESGレポーティング・ソフトウェアは、国が認定した炭素排出係数データ表を維持できるもので、加えて、システム管理者が独自の時変要因を定義できるものを選択しましょう。
– ベースラインの設定と再計算機能: インベントリの境界変更が必要となる買収や売却による組織の構造的な変更が発生した場合、ベースライン排出量の再計算が必要となります。
必要時に機敏に対応できるよう、ESGレポーティング・ソフトウェアはベースラインの再計算プロセスが容易に実行できるものを選択しましょう。
– 目標追跡機能: ESGレポーティング・ソフトウェアは、目標に対するGHGパフォーマンスの収集と追跡を容易にするものでなければなりません。
また、社内レポートに必要な項目の選択や、コンプライアンスと報告要件に準拠するESGレポートの作成を合理化するものを選びましょう。
– 開示フレームワークや業界標準のサポート: さまざまなESG開示フレームワークへの報告に対応し、必要なアウトプットをすばやく簡単に得られるよう、データ整理をサポートし、ESGレポート作成を合理化するESGレポーティング・ソフトウェアを選択しましょう。
炭素会計が生みだす機会
投資家は、投資判断の決定に、財務パフォーマンスとともにサステナビリティ・パフォーマンスを精査するようになっています。
企業は、これらの成果の達成公約を求められています。したがって、排出削減パフォーマンスを把握・管理するためのプロセスやツールにも、財務データと同様に金融機関対応レベルの厳密性が求められているのです。
効果的な脱炭素化戦略の中核には、データが位置しています。戦略と戦術の策定に必要な情報と洞察を与え、強固で検証可能な開示とレポートに欠かせないのはデータの完全性と透明性です。
企業は、サステナビリティとエネルギーデータを適切に管理できるよう、チームを関与させて適正に数値化し、強固なガバナンス・プロセスを確立し、テクノロジーを活用して洞察を得る必要があります。
その先に待っているのは、脱炭素化目標に向けた進捗の加速と、未来の低炭素社会からのより大きな成果です。
「炭素会計(カーボンアカウンティング)とは」の(その1)と(その2)では、それぞれ以下をご紹介しています。
- 炭素会計(カーボンアカウンティング)とは
- 炭素会計が重要な理由
- 炭素会計の課題
- ESG専用ソフトウェアのメリット
- 金融機関対応レベルの炭素会計データの確立
- 報告・開示のためのGHG排出量の計算
当記事は『What is carbon accounting?』を日本の読者向けに編集したものです。
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