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2人ともママです! | わたしが手にしたものと、未来の社会のために。(前編)

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「みんな誰もがなんらかのマイノリティー。」

そんな考え方が一般的になりつつある一方で、当たり前の権利や具体的な配慮を手にすることができずにいる人も少なくありません。

「ありたい社会」や「理想的な未来」を思い描くだけではなく、そこに近づくための行動を通じて社会のアップデートに取り組む——。社会を構成するすべての「人」にこうした行動が求められているのではないでしょうか。

 

たとえば、日本アイ・ビー・エムという「法人」は「Business for Marriage Equality」の一員として名を連ね、同性婚の法制化に賛同する企業として取り組み支援を表明しています。

しかし今、「名を連ねる」活動から、さらに前へもう一歩踏み込むときが来ているのかもしれません。企業も、アライも、もちろん個人も。

田山 あきさんへの取材は、強くそんなことを感じる機会となりました。

 

<もくじ>

  1. 現在 | 「2人ともママです! 」海外での同性婚とご近所へのカミングアウト
  2.  過去 | 自分の負っているマイノリティ性だけに、すべてを費やさずにいれたらいいね
  3. 生活こそが最大の抵抗 | 憎悪のピラミッドを発生させないために
  4. 未来へ | リーディング・カンパニーの役割と、社会やアライへの期待

田山 あき(仮名)

1990年代生まれ。大学生時代は社会学を専攻し、2010年代に日本IBMに入社。CRM領域を中心に業務を行う。2022年に5年ほど生活を共にしてきたパートナーとカナダで同性婚をし、2023年春に出産。社会人大学院生として現在コミュニティデザインに関する研究科に在籍中。
趣味は暗渠化された緑道めぐり。


 

——まずは、ご出産おめでとうございます。そして、こんなに早く取材させていただけると思っていなかったので、びっくりです。

あきさん: ありがとうございます。ものすごく安産だったし、自分でもびっくりするくらい身体の回復も順調で、春から通い始めた学院のオンライン授業にも参加し始めました。

でもそれもパートナー実家の家族がすごくしっかりサポートしてくれるからで、改めて家族のありがたさを感じています。

 

——出産の1週間前、「NIJIT」でのトークイベントで、海外で同性婚されたことや妊娠、そして周囲へのカミングアウトと出産の準備などについてお話しされていましたよね。あれから3週間経ち、ご出産から2週間過ぎたわけですが、心境の変化などありますか?

あきさん: そんなに大きな変化はないかな…うん、ないですね。変化と言えば、心境ではなくわたしの「決断スピード」がすごく早くなりましたね。

それはそのスピード感じゃないと、子どもの成長に追いつけないからなのかもしれません。毎日どんどん成長してくれる姿を見るのが楽しいし、おもしろいですね。

心境の変化があったのは、出産後ではなくて、子どもを持とうと決めたときから出産前の期間ですね。心境というよりは意識の変化かな。

 

——具体的にはどのような「意識の変化」があったのでしょう。

あきさん: たとえば、妊娠も後期になると「お腹ふっくらしてきたね」とか、周囲の人から身体についてコメントされることがすごく増えるんですよね。わたしはなかなかそれに慣れることができなくて、「え! 他者の身体のこととか外見的なことを、そんなに言葉にするの?」って感じで。

以前のわたしは、悪意からではなくても、ちょっと受け入れ難い言葉を発する人を「この人はこういう発言をする理解のない人」と決めつけてしまい、心の壁をすぐに作ってしまうタイプだったんです。

でも、昨年カナダで結婚証明書を取得して妊娠・出産の準備を始めた頃から、そして親戚やご近所の方たちにカミングアウトしていた頃から、「これは善意から来ている言葉なんだ。善意をそのまま受け入れる勇気を持とう」って意識して、相手の言葉を受け止めるように意識してきました。

 

——ご近所の方にもカミングアウトされたんですね。

あきさん: 産まれてくる子どもに、「同性の親のことや自分の生い立ちは隠すべきことだ」という認識を持ってほしくなかったんです。

現在の日本では、出産しない側の同性パートナーが法的に親になることはできません。それでも、わたしたちの場合は「ママ2人と子ども」として一緒に公の世界に出て行こうと決めました。理解してもらえるかどうかはわからないけれど、これを契機に、お互いの親戚全員と普段から仕事で関係する人、ご近所の方たちにカミングアウトすることを決めたんです。

 

——ご近所の反応はどうでしたか?

あきさん: 妊娠中に、さきほどの善意の話とつながる出来事がありました。すでにカミングアウトを済ませていた仲の良いご近所さんが、わたしのパートナーに「パパになるの? ママになるの?」と聞いてきたんです。

まあまあ偏見というか、勝手な思い込みからくる質問ですよね。

「ママになります。2人ともママです! 」とパートナー が元気に答えたら、それを聞いていた他のご近所さんたちもみんな「そっかー。そうだよねー!!」って。わたしたちのことを祝福してくれました。

「そうか。こうやってわたしたちは、社会と新しい関係性を作っていくんだ。嫌な経験をすることもあるだろうけれど、それでも、もっと自分たちから開いていこう。他者との間に橋をかけてつながりを作って生きていくんだ」と強く感じた出来事でした。

 

——これまでには本当にいろんなことがあったのだろうと想像します。あきさんはどんな学生時代を過ごされたのでしょう?

あきさん: 先日のイベントでも少しお話ししましたが、わたしが生まれ育った町は閉鎖的で、実家も伝統的な旧家で、「この町では本当の自分として生き抜くことは不可能だ」と、子どもの頃から確信していました。

だからこそ、町を出るために受験勉強を頑張って東京の大学に行ったし、就職活動も、望まない閉鎖的な地域への転勤などの可能性が低く、金銭的にも親に頼らずに済むようにと、外資系テクノロジー企業を就職先に選びました。

そうやってずっと、自分で自分の身を守れるようになることを最優先に、そのために一番良い方法を常に考えて、それを手にできるようにと過ごしていましたね。

 

——大学時代はLGBTQ+を支援するサポート団体を立ち上げていたと聞きました。

あきさん: はい。わたしは「待っていればいつか誰かが変えてくれるなんて、そんな都合よくはいかない」という価値観を持っていたので、自分が安心して過ごせる場所がないことに対して「LGBTの学生が安心して過ごせる場所を!」と大学総長にプレゼンテーションを行い、居場所を作るきっかけ作りをしました。

 

——その頃から現在まで、社会は変化したでしょうか。

あきさん: 大学卒業の頃かな、LGBTという言葉が社会に浸透しだして。それまでは「変態」だとか「病気」だとか思っている人が社会にたくさんいたのが、電通ダイバーシティ・ラボが「LGBT調査」を初めて出したり、その少し前にはアメリカでオバマ大統領が就任演説で「同性愛者への法の下での平等」を訴えたりと、社会の側が大きく変化しだしたんですよね。それが2015年くらいかな。

兆しが見え始めたのがその頃で、そしてここ2,3年でかなり前に進んで、正確な知識を持つ人も増えている気がします。

 

——社会ではなく、ご自身の変化はどうでしょうか?

あきさん: 自分のこととしては…うーん、難しい質問ですねぇ…。

わたし、今の「自分らしくいられる状況」を手に入れるために、ものすごい労力を費やしてきたんです。さっきお話ししたように、中高生のときも「脱出」だけを目標に頑張ったし、東京に来てからも、攻撃されたり傷つけられたりしないようにガードを上げて、身を守ることに力を注いでいました。

でもなんだか、そろそろ「自分を許す」というか、「大丈夫だよもうそこはやり切ったから」と、認めてあげたいって思っているんです。

 

——認めてあげてください。

あきさん: …「あなたは恵まれている」と言われてしまうかもしれないですね。

だけど、今はもう、仮に攻撃にあったとしても、わたしを理解してくれる人たちや、守ろうとしてくれる人たちが周囲にたくさんいる状況になったと感じています。

 

——それは「恵まれている」のではなく、あきさんがファイトして手に入れたものです。それでは、10年前、15年前の自分に声をかけられるとしたら、あるいは今のユース世代に声をかけるとしたら、どんな言葉を伝えたいですか?

あきさん: 10代のわたしには、自分の心を守るために隠す以外の方法はなかったので仕方がないことだったんですが、でも、今となっては、嘘をついて守りたいもの、隠し通して得られるものって、本当にそんなに価値あるものだったんだろうか? と考えてしまいます。

勉強の動機もそうだし、就職も「わたしはITがやりたいことだったのかな? 外資系に行きたかったんだっけ?」って考えると、そうじゃなかったんじゃないかなって。

…だから、昔のわたしに言葉をかけることができるのなら、「もっと、自分の好きなこととかやりたいこととかに集中できたら良かったのにね」かな。「力を入れた方がいいよ」じゃないんです。そうはできない状況だったから。

そして今のユース世代の人たちには、「自分の好きなことを見つめられたらいいね」と声をかけたいです。自分の負っているマイノリティ性だけに、すべてを費やさずにいられる時間を少しでも持てたらいいなと思っているので。

「費やさないで」って言ってあげられたらいいんだけど、生き抜くために準備したり考えたりしなきゃならないことが目前にたくさんそびえたっているのは知っているから…。

でも、そう思っています。いや。そう祈っていますと言った方が正しいのかもしれないです。

そしてそのような環境を作るのは大人の責任だと思っています。

 


 

前編では、海外での同性婚〜出産という最近の話と、地方都市で過ごした学生時代から就職までの話という過去についてお話しいただきました。

後編では、LGBTQ+を取り巻く現在の社会状況について、そして未来に向けての提言などをお伺いします。お楽しみに。

 

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TEXT 八木橋パチ

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