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AI搭載犬型ロボットが刷新する保守保全の姿 | ボストン・ダイナミクスとIBMの取り組み

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ボストン・ダイナミクスとIBMがチームを組み
AI搭載産業用犬型ロボットでデータ取得と分析を刷新

 

「なんてつまらない仕事なのかしら。」
画面に示されるデータとその分析を見ながら、ローレンは心の中でつぶやいた。
とは言え、機械のあちこちを見て回って検査することに比べればずっとマシだ。

金曜夜の工場。ローレンは生産機械のセンサー監視のシフトに入っていた。

 

アラームが鳴り出した。画面には突然の機器センサーの圧力低下が示されていた。それが意味するのは、ヘルメットを被り、ゴーグルを着用し、工場の奥深くにまで向かわなければならないということ。ローレンは自問した。

「金曜のこの時間に気体漏れ確認…私、これがしたくて技術者になったんだっけ? …潮時かな。」

ローレンは、世界中にいます。彼女のような優秀な労働者を惹きつけ、留めることに、世界中のあらゆるメーカーが苦心しています。

今日の生産ラインは高度に技術的になっており、遠隔測定と自動化を用いた24時間の監視を必要としています。

機械に取り付けられている数百から数千のセンサーは、離れた場所にいる技術者の手元に、あるいは目の前のモニター画面に、収集したデータの情報をリアルタイム表示します。そしてデータは手動か、あるいはアセットマネジメント・システムにより即座に分析されます。

自動化が進んでいるとは言え、異常が確認された場合は、先のローレンのような担当者が問題の特定と対応をしに行かなければならないという点は今も変わっていません。たとえ、それが危険な場所や状況であっても、です。


ビッグデータ分析ツールを本当に活かそうと思ったら、すべての処理を手動で行おうとは誰も思わないですよね。設置プロセスの複雑さを考えれば、固定センサーだけでデータの問題を解決しようとするのが無理なのも同じで、明らかに効果的でも効率的でもありません。

マイケル・ペリー | ボストン・ダイナミクス事業開発担当副社長


■ 産業界のジレンマ 

ヘンリー・フォードがモデルT自動車の生産をスタートして以来、産業施設と生産ラインは進化を続けてきました。ロボット工学と自動化の成果が今日の工場を作りあげていると言ってもよいでしょう。

しかし先に述べたように、製造現場の成否の鍵を握っているのは「機械の保守および修理」です。それをスムーズに行うことで工場の稼働を維持するために、継続的なデータ収集と分析が重要な役割を担っているのです。

 

こうした状況を大きく進化させるのが、センサーデバイスと分析機能を搭載した犬型移動ロボット「Spot(スポット)」です。

定期巡回と異常発見時の対応をスポットに割り当てることで、労働者の業務効率は大きく向上します。そして同時に、IoTの導入・運用に関連するコストを低減します。

 

四足歩行ロボットの移動型ロボティクスのグローバルリーダーであるボストン・ダイナミクスの事業開発担当副社長、マイケル・ペリー氏は、次のように語っています。

「狭いスペースや階段、障害物や段差のあるフロア。従来の車輪型ロボットはこうしたものに対応しきれず、期待されたような活躍をすることができずにいました。それを変えるのがスポットです。

また、データ収集型ロボットが真の力を発揮するのは、現場から接続されているコンピュータにデータを送るときだけではありません。そこで起きている事態に、その場で対応を行えることにあるのです。」

企業はこれまで、機械が生成するデータの収集・分析に、主に2つの方法を採用してきました。

そのうちの1つは、より伝統的な方法で、定期的にデータを測定して記録するために工場全体に技術者を派遣するやり方です。故障頻度がたとえ1年に1回であっても、技術者はデータを毎日あるいは毎週記録して、重大な障害が発生しないように小さな問題にも目を光らせます。

そして故障が発生した際には、技術者は機器の保守や修理をときに危険な環境や激しい騒音の中で行う必要があります。

 

もう1つは、各機器にセンサーを設置し、資産管理アプリケーションを使用してデータを収集および分析する方法です。この方法を代表するのが、データ収集と分析をクラウド上で行うIBMのソリューション「IBM Maximo Application Suite」です。

しかしこの方法を実施するには、企業は最初にIoT機器を揃えて設置し、データの保存と分析ソリューションの使用契約を行わなければなりません。中小企業にとってこのコストは決して小さなものではなく、結果、従来のやり方を踏襲している企業も少なくないのです。

 

IBMの技術理事であり、IoTソリューションのディレクターであるナンシー・グレコはこう話しています。「エッジベースのセンサは、大量のデータを生成してクラウドに送ります。企業の担当者は請求書を見てこう思うのです『なぜ、すべて問題がないということを示すクラウドのデータ確認に、これほど多くの費用を支払わなければならないのか?!』と。」

 

そんな状況に対して生まれたのが3番目の解決策です。

ボストン・ダイナミクスが開発した犬型ロボット「スポット」を送りこみ、定期的に機器を検査させ、測定機器からデータを収集するという方法です。

スポットは人間が行ける場所であればどこにでも行くことができます。そして人間よりも頻繁かつ正確にデータを取得できます。とは言え、どれだけ高性能のカメラやセンサーを備えているとは言え、スポットが自身でデータを解釈することはできません。

スポットが異常を発見した場合には、データ分析と解釈、そして判断をして問題を解決するために人間の介入を必要とします。


狭いスペースや階段、障害物や段差のあるフロア。従来の車輪型ロボットはこうしたものに対応しきれず、期待されたような活躍をすることができずにいました。それを変えるのがスポットです。

また、データ収集型ロボットが真の力を発揮するのは、現場から接続されているコンピュータにデータを送るときだけではありません。そこで起きている事態に、その場で対応を行えることにあるのです。

マイケル・ペリー | ボストン・ダイナミクス事業開発担当副社長


 

■ 移動型ロボット +  AI

「生産ラインのデータを安全に取得し、エッジで分析できるだろうか?」「作業員をデータ計測に伴う危険から解放できるだろうか?」「機器コストや関連費用の削減を支援できるだろうか?」 — ボストン・ダイナミクスとIBMは、共にこれらの疑問を確認してきました。

「我われが協力すればすべて解決できる。」これが、両社の明確な結論です。

 

ペリー氏はこう言っています。

「IBMもボストン・ダイナミクスも、解決しようとしていたのは同じ問題でした。お客様から求められていたのは『工場の複雑な環境において、何が起きているかを正確に把握するにはどうすれば良いのか?』ということです。

私たちボストン・ダイナミクスとIBMはお互いのテクノロジーを統合して、データ取得とデータインテリジェンスを組み合わせた、犬型ロボットスポット向けのAIベースソリューションを作成しています。」

 

スポットにより、すべての機器へのセンサー設置は不要となります。

現在、IBMはAIの力とMaximoソリューションの機能をスポットに付与しており、これによりスポットは、エッジ・コンピューティングにより分析と解釈をリアルタイムに行うことができるようになります。いわば、搭載されているカメラとセンサーを通し、「見た」ものを「解釈」できるようになるわけです。

 

「スポットはローミング用エッジデバイスであり、ユーザーが必要としている場所に分析テクノロジーを運ぶロボットでもあります。狭い場所にも入り込み、階段を登っていくこともできるAI搭載エッジデバイスなのです。」

ペリー氏はさらにこう説明します。

「スポットは異常が発生していないか、敷地を巡回して確認します。そして問題を発見したときには、Maximoの機能を用いて次工程への作業指示書を自動的に生成します。これは高度なカスタマイズが可能な最適化されたAIモデルを搭載しているスポットならではの動きでしょう。」

 

スポットが手にしたのは、AIとMaximoの機能だけではありません。IBMのコンサルティングチームが有する資産管理や関連業界における豊富な経験と専門知識も手にすることができたのです。

さらに、5Gテクノロジーや、IBMグループのRed Hatがもたらす高度なテクノロジーを使用することで、ハイブリッドクラウド環境にも素早く費用効果が高いアナリティクスの導入を実現できます。

ペリー氏は両者の関係をこのように説明しています。

「ボストン・ダイナミクスは、ロボットプラットフォームであるスポットに機動性と柔軟性をもたらしています。

そしてIBMは、収集しているデータを理解するための知性をスポットにもたらしているのです。」

 

ロボット工学とインテリジェンスの組み合わせがイノベーションを推進するのです。それは世界を感知するという能力を越えた、感知した世界とインタラクションするという能力なのです。

マイケル・ペリー | ボストン・ダイナミクス事業開発担当副社長


 

■ 人間の行けないところへ

製造業のお客様にとって、生産ラインを止めることなく稼働させ続けることは収益の源です。スポットがもたらす最大の効果は、「ドカ停」へとつながりかねない異常を発見し、ダウンタイムを削減することにあります。

スポットは、センサー機器やストレージのコストの問題から、これまで積極的なデータ分析施策を行えなかったあらゆる規模の企業に、ローミング用エッジデバイスによるダウンタイム削減を提供する手段なのです。

 

グレコはこう言っています。

「お客さまは皆、機器の故障、生産ラインの停止を避けるためのリスク軽減を、コスト的に無理なく実施したいと思われています。スポットは設置費用の削減、データ保管費の削減、遅延とセキュリティという問題の解消をすべて同時に実現します。」

 

スポットは自身に組み込まれたIBM Maximoの分析機能を用いて、問題箇所を発見すると、問題の根本原因と対処方法についてのアドバイスを行います。そして作業指示を行い、小規模の問題に対してはこれまでとは違う対応方法を検討します。

こうして、スポットは機器の稼働時間を増加させていくのです。

ペリー氏はこう言います。「IBMのサービスとつながっているスポットの指摘やアドバイスにより、お客さまはダウンタイムを削減するだけではなく、機器の寿命や稼働時間を長らえることもできるでしょう。」

 

スポットは、人間の労働者に取って代わるものではありません。労働者に、より安全でより効率的な働き方を提供するものです。

グレコ氏はスポットを「協働ロボット」を意味する「コボット」と読んでいます。

災害救助犬とハンドラーの関係をイメージしてください。化学物質などの危険物質や騒音がひどく、人間には立ち入れない場所や危険区域に、機敏な犬型ロボットが活躍してもらうのです。

 

冒頭に登場したローレンは、これからはギアを装備する代わりに、スポットを確認に向かわせることでしょう。

そしてローレンはスポットを訓練し、より適切な巡回ルートを学ばせたり、問題の対応にあたらせたりするようになるのです。あるいは、保守作業はスポットに任せて、技術的により高いレベルの業務や、社内のより重要な役割を果たすことに専念するかも知れません。

そしてこの工場は、必要に応じてメンテナンスをスケジュールする「コンディション・ベースド・メンテナンス(CBM)」を実践することとなるでしょう。

 

ペリーは言います。「時間とエネルギーを費やして、退屈で面倒な、あるいは危険な作業を人に行わせることは健康の問題を引き起こしかねません。それよりも人びとの能力を活用して、問題を解決する方が良いですよね。

スポットは、反復作業の繰り返しや危険を伴う業務から人間を解放し、人びとをより高付加価値の業務や訓練へと向かわせてくれるものなのです。」

コボットは人間の居場所をなくすのではなく、人間の能力をより有効な活動に向かわせるものなのです。

 

IBMのコンサルティングチームは、スポットとIBMアナリティクスの組み合わせが存分にその力を発揮するユースケースを続々と持ち込み、IBMとボストン・ダイナミクスのお客様に最大の価値を提供する方法が広がっています。

たとえば、5G分野のエコシステム・パートナーと協力して、その最新テクノロジーをスポットに適用するなど、スポットの解釈スピードやインテリジェンスを向上させることで、さらにビジネスに大きなアドバンテージをもたらすことでしょう。

そしてボストン・ダイナミクスが引き続きスポットの機能を強化するのと同時に、IBMはより正確なAIモデルの構築を継続します。いずれ、IBMの研究所は、音響や匂い、組成分析などの分析機能を順次スポットにもたらすでしょう。

 

ペリー氏は最後にこう語りました。「ロボット工学とインテリジェンスの組み合わせがイノベーションを推進するのです。それは世界を感知するという能力を越えた、感知した世界とインタラクションするという能力なのです。」

ボストン・ダイナミクスについて

ボストン・ダイナミクスは、高度な移動型ロボットの開発と展開における世界的リーダー企業であり、ロボティクス分野のパイオニアとして、社会にポジティブなインパクトをもたらすことをミッションとしています。1992年、MIT Leg Labからスピンアウトして設立された同社は、「2020年Inc. 誌が選ぶ働きがいのある企業」の1社に選ばれています。


 

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当記事は事例『Edge-based analytics drive smarter operations』を日本のお客様向けにリライトしたものです。

 

 

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