IBM Sustainability Software
企業人として世の中をより良い方向へと導く一端を (ブロックチェーン事業部 水上 賢)
2019年12月26日
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Watson IoTチームメンバー・インタビュー #25
水上 賢 ブロックチェーン事業部 担当部長
Watson IoTチームのメンバーが、IoTやAIに代表されるテクノロジーを踏まえ、過去・今・未来と自らの考えを語るインタビューシリーズ。第25弾はブロックチェーンのスペシャリストであり、ビジネスを通じて環境問題に取り組み続けてきている水上さんにお話を伺いました。
(インタビュアー 八木橋パチ)
— 今日はよろしくお願いします。まずは水上さんのご専門であるブロックチェーンについて、私のような門外漢も理解できるように解説をお願いできますか。
はい。今日はどうぞよろしくお願いします。
ブロックチェーンはバズワード化していて、多くの人たちがそれぞれさまざまなイメージを持っているのが現状だと思います。そのせいかいろんな解釈が世間に飛び交っていますね。
切り口としては、大きく「パブリック型」と「許可型(コンソーシアム型)」の2タイプで考えてもらうのが分かりやすいと思います。
— 「パブリック型」と「許可型」ですか。私などはブロックチェーンと聞くと一番最初に「仮想通貨」をイメージしてしまうのですが。
そうですね。パブリック型の代表格がビットコインなどの仮想通貨ですね。その特徴は「誰もが自由に参加できる民主的ネットワーク」であることです。
私が所属しているブロックチェーン事業部が推進しているのは、主としてもう一つの「許可型」の方でコンソーシアム型とも呼ばれていて、限定されたメンバー間だけで使用するものです。
— では、その「許可型ブロックチェーン」を一言で説明してもらえますか?
一言では無理ですよ(笑)。ただパブリック型も許可型も、ブロックチェーンの本質は「非改ざん性」と「執行力」にあると言われています。
「非改ざん性」は「正しい情報だと保証されること」で、「執行力」は「事前に決められた取り引き(コントラクト)」が実施される」ということですね。
その特性を誰もが参加できる開かれたプラットフォーム上でやるのが「パブリック型」、それに対して参加を承認しあった特定メンバー間で行うのが許可型ブロックチェーンです。ビジネスの世界では、データアクセスコントロールを実現しやすいなどの理由で、許可型のブロックチェーンが好まれる傾向があります。
— 許可型ブロックチェーンの具体例はたくさんあるのでしょうか?
はい。どんどん増えているところです。
例えばTradeLens(トレードレンズ)という貿易に用いられるものは、莫大な量のアナログでのやり取りをデジタルに置き換え、透明性を上げ業界全体の非効率さを取り除く仕組みです。他にも色々なバリエーションがあるのですが、ソニー・グローバルエデュケーションさんと一緒に作り上げた教育や採用活動を支援する仕組みなどが知られています。
— 水上さんはブロックチェーンに携わる前は何をされていたんですか?
IBM入社前は、拓銀(北海道拓殖銀行)に勤めていまして、そこでディーリング業務を担当し日々巨額のお金のやり取りをしていました。でも、正直言うとディーリングという仕事に疲れてきていて、これからのことを考えていたんです。そうしたら、まさかの経営破綻で職を失い…。
そんなこともあり、「これからはITを知らないとやっていけないだろう」と思ってIBMに転職しました。「まあ3年くらいいれば一通りわかるだろう」くらいのつもりで。
— 当初は腰掛けだったんですね。
まあそうです(笑)。ただIT関連の仕事に面白さを感じ始めた頃に、当時アメリカ副大統領だったアル・ゴア氏の『不都合な真実』に大きな衝撃を受けたんです。
そして地球温暖化などの環境問題をITで解決できないだろうかと考え、IBM社内で、グリーン・イノベーション事業推進の立ち上げに参画しました。
— それって10年以上前ですよね? 当時は今よりも、IT企業が地球規模で環境問題を解決策しようというのは珍しかったんじゃないですか?
そうですね。今のようにESG投資(環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)要素を考慮した投資)は注目されていませんでしたし、日本のGPIF(Government Pension Investment Fund: 年金積立金管理運用独立行政法人)もESG投資の運用を始める前でしたから、多くの企業さまには、残念ながらご理解いただけませんでした。
そんなわけで、グリーン・イノベーション事業推進は、その後「未来価値創造事業」という部門に吸収されました。
— 未来価値創造事業ではどのような活動をされていたんですか?
先進テクノロジーを活かして新たな社会基盤を生み出そうという、日本独自の取り組みでした。でもしばらくしてグローバルIBMとしてスマーター・シティー事業がスタートしたので、そちらに一本化されました。
その後ブロックチェーン事業部へと異動して今に至ります。なんらかの形でずっと社会問題に取り組み続けてきていますね。
— 先日の東京都との共催イベント「TOKYO x SDGs 都市における美しい資源循環モデルとは?」には、私もテーブル・ファシリテーターとして参加させていただき、水上さんのショート・プレゼンテーションとパネル・ディスカッションを聞かせていただきました。
そうでしたね。あの日は本当に短い時間だったのであまり細かい話はできませんでしたが、ブロックチェーンでフードロスを削減しているアメリカのウォルマート社の取り組み事例を紹介させてもらいました。
参考: 【ACT SDGs】 TOKYO x SDGs 都市における美しい資源循環を考える イベントレポート
参考: 【事例】ブロックチェーンで生産から消費まで「食のサプライチェーン」を可視化する
— そうでしたね。ブロックチェーンがフードロス解決にどのように貢献しているのか、ここでもう一度説明していただけますか?
はい。アメリカの大手スーパーチェーンでは、産地や流通経路がはっきり特定できないがゆえに、細菌性の食中毒などが特定の野菜で発生すると、安全のために店頭に並ぶすべての該当野菜が廃棄されていました。アメリカ中でですから、それはもうものすごい量の食料廃棄です。
でもブロックチェーンにより食品のサプライチェーンが透明化され、その信憑性が担保されることで、食中毒などの問題が発生した際には、細菌に汚染されたものだけを廃棄すればよくなりました。食料がなくて困っている人たちがあちこちにいるのに、食料を大量廃棄してしまうという社会矛盾を小さくできるわけです。
— 環境問題にビジネス面から取り組み続けてきた水上さんから見て、企業は10年前と今では変わったでしょうか?
正直に申し上げれば、今も企業は「現在の利益」を中心に動いていて、その点は変わっていません。でも、それがビジネスなんだと思っています。グリーン・イノベーション事業推進の頃に、嫌というほどそれを学びました。
とは言え、現在では、かつては不可能だったことがブロックチェーンをはじめとしたテクノロジーで可能となるので、これからは変化の激しさは増すのではないでしょうか。
— 変化を確かなものにするには何が必要でしょうか?
私は「インセンティブ・デザイン」だと思っています。許可型のブロックチェーンの場合、そのネットワークに参加したくなるメリットを明確にして、そのネットワークを維持するためのモチベーションを作り上げなければなりません。
「より良い未来」へつながる「現在の利益」が必要です。
— 許可型ブロックチェーンにおける「現在の利益」とはなんでしょうか?
許可型ブロックチェーンの運営母体は組織連合体(コンソーシアム)という形態を取ることが多いです。例えば先ほどのTradeLensの場合は、膨大な作業をスリム化して大幅なコスト削減できるのがメリットです。連合体への運営/参加コストと比較して、より大きなコストメリットがもたらされるのであれば、企業は頼まなくても喜んで参加します。結果として、業界全体の非効率を改善出来るわけです。
そして未来へつながる利益とは、自分たちが運営している許可型ブロックチェーンのプラットフォーム価値が上がれば、そこから新たなビジネスやサービスの創出が考えられるでしょう。さらに、社会への貢献につながれば、ESG視点での格付けにも用いられるかもしれません。
— 逆側から捉えれば、参加していないことがリスクになる可能性もありますよね。
その通りです。「責任ある調達」と私たちは呼んでいますが、例えば海外で児童労働によって採掘されたレアメタルが自社製品に用いられていたら、多くの消費者は製造元や販売会社を「人権を守ろうとしていない企業」とみなすようになっています。
サプライチェーンの透明性の確保は、今、多くの企業の急務になっていますね。
(「TOKYO x SDGs 都市における美しい資源循環モデルとは?」にて)
— 私はIoTを「それまで見えていなかった物事を可視化、データ化する仕組み」だと捉えているのですが、水上さんはそこにブロックチェーンがどのように関係してくるとお考えですか?
まず、ブロックチェーンとIoTは非常に相性がいいと思います。というのは、ムリ・ムダをなくすための最初のステップは可視化であり、パチさんが言ったようにIoTは物事をデジタルに可視化してくれるものだからです。
そして将来的には、ブロックチェーンとIoTはもっと深いつながりになっていくでしょう。
— 「もっと深いつながり」というのは、どのようなものですか?
ブロックチェーンの特性であり強みの1つは、やり取りされるトランザクションが改ざんされていない正確なものだという担保です。ただし、それは最初に入力された情報の正しさを担保はできません。
そこで最初の入力にIoTが用いられるようになれば、人為的、あるいは意図的な偽装データが入り込む可能性がグッと下がります。
— たしかにそうですね。
はい。ただ、今の段階では、IoTセンサーやIoTデバイスのデータ取得と書き込みが、どれだけ信ぴょう性を担保しているかには、まだ十分な注意が払われていないと感じています。
今後、IoTセキュリティーに対する意識が高まるに連れて、深いつながりがどんどん進化していくのではないですかね。
— 最後の質問です。SDGs(Sustainable Development Goals: 国連で採択された持続可能な開発目標)がターゲットとしている2030年、水上さんが目にしたいのはどんな世界ですか?
難しい質問ですね…。漠然とした言葉に聞こえるかもしれないけれど、「今」よりも「未来」を見て活動する企業が中心となっている社会を見たいですね。
SDGsで言えば、Goal17の「パートナーシップで目標を達成しよう – 持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する」が実行されていて、個人、地域、企業が共に循環型社会を作っていて欲しいです。
参考: SDGs達成に向けたアフリカ開発におけるSTIの可能性
ソリューション紹介: 世界中に価値を提供する IBM Blockchain
ソリューション紹介:Watson IoT Platformで、AIとCloudを活かしたビジネス価値の高いIoTを
インタビュアーから一言
先日の東京都との共催フードロス・イベントでも、何度も水上さんが強調されていたのが「企業人だからこそできる社会の動かし方がある。個人としてだけではなく、企業人として世の中をより良い方向へと導く一端を担いたい」ということでした。
こうした企業人が増え、他の企業や組織と手を出して組んでいけば、社会は本当に変わっていくんじゃないでしょうか。私も、私なりのやり方で一端を担いたいと思っているので、水上さんとまたコラボできるチャンスを探します!
(取材日 2019年12月10日)
問い合わせ情報
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