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【AIの力で価値を創造するには?】後編

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2023年5月、IBMは「AI User から AI Value Creatorへ」をテーマとするwatsonxを発表しました。

それを受け、本ブログでは、価値創造について考察します。

前編では、AIに限定せず、ビジネスの現場で価値を創造するにはどうしたらいいか?について考えました。後編では、AIを活用して価値を創造する方法について、より具体的に考えていきたいと想います。

なお前回に続き、今回の内容についても、筆者個人の経験に基づくものであり、IBMの正式見解ではないことを予めお断りしておきます。

 

前編では、大切な要素として「心理的安全性」「多様性」「脱学習」を挙げました。

AIを活用して価値を創造するために必要な要素としては、

  • ゼロベース思考
  • ビジョンとリアリティ
  • 顧客基点

の3つを挙げたいと想います。

 

■ ゼロベース思考

AIの出現によって、ビジネスの世界は大変革を迫られると言われています。

しかし実際にどのような大変革が起きるのか、それを正確に見通している人はほとんどいないでしょう。

先が見通せない場合に大切なのは、これまでの延長線上ではなく、そもそも論から考えることです。

 

AIの出現によってビジネスの常識やルールが大きく変化する中で、「そもそも我々は何のために存在するのか?」「そもそも我々は本当に世の中に必要とされているのだろうか?」「我々が提供している価値とはいったい何なのか?」といった本質的な問いを立てること。

普段やっていることを当たり前と思わず、「そもそも何故これをやってるのだろう?」「何故こんなルールがあるのだろう?」「これをやらなかったらどうなるのだろう?」「もし何も制約が無かったとしたらどうなるのが一番良いのだろう?」「どうすればみんなが幸せになれる、より良い社会を創れるのだろう?」と問い続けること。

 

しかしそのような問いを立てる人は、多くはありません。

ほとんどの人たちが、当たり前のことを当たり前と捉え、思考停止してしまっています。

例えば学校教育を例に取るなら、ITやAIを前提にすれば、子供たちは好きなことを好きな時間に好きな場所で好きなだけ学ぶことができるはずです。

 

そもそも嫌いな教科を無理やり学ばせたところで、まったく身につかないし、嫌いになるだけでしょう。

そんな時間があるなら、興味のあることだけ学べばいいし、学区にとわれずに最も詳しくて教えるのが上手な先生から学べばいいし、むしろ学びたいことを実地に見に行ったり体験したりした方が、よほど効率的に楽しく深く学べるはずです。

でもほとんどの子供も親も、学校教育というのは決められた学区の学校に決められた時間に登校して決められた先生から決められた授業を受けるものだと思い、そこに疑問を抱かず、疑問を抱いたとしても仕方ないと諦めて受け入れてしまっています。

 

仕事も同じですね。

ほとんどの人たちが、決められた時間に出社して、決められた作業をすることが仕事だと思い、そこに疑問を抱かず、疑問を抱いたとしても仕方ないと諦めて受け入れてしまっています。

 

AIは、その当たり前を破壊します。

AIによって破壊された後に、激変した環境についていくのか。

それともそもそも論から考え、どうなったら一番良いのかを考え、そのためにAIを活用して、現状を変革していくのか。

AIを活用して価値を創造するためには、後者の姿勢が不可欠です。

 

しかし私たちの多くが、世の中の常識に自分を適合させるのに慣れ過ぎています。

常識に適合できる、ルールに従うことができる人が優秀とされ、そこから外れる人たちは未熟で幼稚で愚かだ、と思い込まされているからです。

それを破壊するためにも、前編でお伝えした多様性、自分の常識や成功体験を脱学習していくことが不可欠です。

ビジョンとリアリティ

そもそも論に立ち、どうなったら一番良いのかを考えることは、ビジョンを描くということでもあります。

ビジョンが無ければ、人は創造性を発揮できません。

「創造性を発揮しろ」などと部下に号令をかけても、それで創造性を発揮する人は少ないでしょう。

実現したい未来、ワクワクするビジョンがあるからこそ、アイディアも湧くし、創意工夫もするし、失敗しても諦めないエネルギーが生み出されます。

 

いま多くの会社で、AIを使って何ができるかを検討しています。

我々も、AIを使って何ができるかを一緒に考えるワークショップを多数開催しています。

しかしそこで出てくるアイディアは、どうしても平凡でありきたりな効率化・自動化になりがちで、お客様に提供する価値を抜本的に変えるような発想はなかなか生まれません。

 

それは何故かというと、ビジョンが欠けているからです。

大切なのは、「AIを使って何ができるか」ではなく、「どんなビジョンを描くか、そしてそのビジョンを達成するためにAIに何ができるか」を考えることです。

まず創りたい未来、ワクワクする未来、楽しそうな未来を描くこと。

「あんなこといいな、できたらいいな」「これができたらめちゃくちゃ嬉しいな」という子供のような純粋な好奇心。

ビジネスの現場で、この純粋な好奇心を持ち続けるのはなかなか難しいかもしれませんが、好奇心を持ち続けるためにも、前編でお伝えした心理的安全性が不可欠です。

 

ビジョンは、ROE何%や業界トップシェアなどの数値目標ではなく、自社も、関わる人たちも、社会全体もより良くなるようなビジョンであることが望ましいです。

最近ではパーパス経営が注目され、社長やCEOが自分の体験に基づいて、借り物ではなく自分の言葉でパーパスを語るようになってきているのは、非常に良いことだと想います。

ビジョンは未来、パーパスは今と未来、など定義の違いはありますが、人の心を震わせる、ぜひ実現したいと思える憧憬、という点ではビジョンもパーパスも同じなので、ここではパーパスも含めた意味でお考えください。

 

このビジョンを示すのは、リーダーの役割です。

リーダーとは、社長や部長などの役職者とは限らず、むしろ逆に、ビジョンを提示する人がリーダーであるとも言えるでしょう。

そして重要なのは、ビジョンだけでなくリアリティ、両者を的確に示すのがリーダーの役割だということです。

 

ありたい姿だけでなく、それに対して今の現実はどうなのか?

現実をあるがままに、良い悪いのジャッジをすることなく観察することです。

ビジョンだけ示してリアリティを無視すれば、それは地に足の着かない、絵に描いた餅に過ぎなくなります。

 

またビジョンを持たずにリアリティばかり見ていたら、問題が次から次に出てくるだけで、問題解決に明け暮れるのにビジョンの実現には一向に近付かないということに陥ります。

その両方を正しく捉えるからこそ、その間をつなぐ力学、緊張構造が働きます。

この緊張構造については、ロバート・フリッツやピーター・センゲの著書に詳しく書かれているので、興味のある方は是非読んでみてください。

 

■ 顧客基点

そして大切なのが、顧客基点です。

ビジネスの本質は価値創造ですが、この価値を決めるのは、あくまでお客さまです。

提供する側がどれだけ価値があると思っても、お客様がお金を出してでも欲しいと思える価値でなければ、少なくともビジネスは成立しません。

 

ビジョンは自分自身の内発的な想いや志がベースになりますが、そのビジョンを実現する中でお客様に実際に提供する商品やサービスは、提供者側の視点ではなく、お客さまの視点で考える必要があります。

だからこそ、常にお客様の立場に立ち、お客様の声を聴くことが極めて重要です。

 

お客様の声を聴かずに、ネットで情報収集したり、コンサルに高いお金を払ってレポートを書かせたりする会社もありますが、そんなことをするよりもまず、実際に最低限のベータ版を作ってお客さまに提供し、生の声を集めることの方が遥かに重要です。

そんなの当たり前じゃないかと思うかもしれませんが、リサーチにはお金を使うのに生の声を聴くのを躊躇する会社は結構多いです。

 

IBMでは顧客基点のデザイン思考ワークショップを提供し、ペルソナを明確化した上で、全てをペルソナ基点で考え、ペルソナのニーズに応えるものづくりをしています。

多数のワークショップをご提供するなかで、ワークショップの成果がビジネス上の成果に結びつくのは、やはり顧客の生の声を実際に聴いたときです。

時間の制約などで、ペルソナは設定したものの顧客の生の声を十分に聴けない場合は、やはりどこかでズレたものになってしまい、残念ながらビジネス上の成果に結びつかないことも少なくありません。

 

不完全なものはお客様に提供できないと考える会社も多いですが、次々に新しいサービスを生み出す会社は、ベータ版を躊躇なく提供して、顧客からフィードバックを受けて素早く改良し、アジャイルに展開しています。

完璧主義を手放し、素早くフィードバックと改善のサイクルを回していくことが大切です。

そしてここがまた難しいところなのですが、常にお客さまの声を聴きつつも、ただお客さまの言いなりになればいいというわけではない、ということです。

お客さまの声を聴いて応えていればビジネスとしては成立しますが、それではただの御用聞きだし、ビジネスをしてる側も楽しくないでしょう。

 

だからこそ冒頭に戻りますが、ワクワクするビジョンが必要です。

こんな素晴らしい未来を実現するために、今この仕事をしているんだ、と思えるビジョンです。

常にビジョンを描きながら、顧客の声を聴く。

難しいですが、この二つの視点が常に大切だと想います。

 

長くなりましたが、前編でお伝えした心理的安全性、多様性、脱学習、そして後編でお伝えしたゼロベース思考、ビジョンとリアリティ、顧客基点、これらを大切にしながらAIを使って価値を創造する。

本ブログでは、watsonxについての解説は省きましたが、watsonxはセキュリティが守られた信頼できる環境で、業種や業務に特化した基盤モデルを多種多様に組み合わせ、価値を創造するために最適な、お客様独自のAIを構築することが可能です。

 

私たちがそのためのパートナーになれれば幸いです。

 


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