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[セミナーレポート] カーボンニュートラルで勝ち抜く! 「持続可能な製造業」を実現するサプライチェーン
2022年03月03日
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2月16日、日本IBMとCisco社の共同開催にてセミナー『カーボンニュートラルで勝ち抜く! 「持続可能な製造業」を実現するサプライチェーン』が行われました。
当記事では、セミナー当日の登壇順に3つのセッションを抜粋し要点をご紹介します。
■ 新しいエコシステムの時代
サステナブルな価値を生み出す共創とデジタルの力
講師 | 衛藤 公洋 – 日本アイ・ビー・エム株式会社 特別顧問、元 日本銀行 理事
2021年3月まで理事として日本銀行で金融安定政策などに直接携わってきた衛藤は、「最後の3年間は気候変動とデジタルがつねにホットなテーマでした」と日銀時代を振り返ると、IBMに加わり「両者のつながりが実に密接で、DXが叫ばれ続けているビジネス界において、デジタルが果たす役割がいかに大きいかを改めて強く感じさせられました」とオープニングで語りました。
衛藤はその後、前半にカーボンニュートラルの盛り上がりと、その実現に向かい社会・経済がスピードアップし続けている理由とその背景についての解説を、後半では、世の中のその大きな流れを製造業の強みに変えていくための力点を紹介しました。
その莫大な情報量と内容の濃さにもかかわらず分かりやすい説明には、「理解が深まり自社への提言に活用したい」という声が複数の参加者から寄せられています。
● 経済社会の動きを変えつつある気候変動への危機感とデジタル変革
昨年秋にグラスゴーで開催され、およそ200カ国が参加したCOP26に先駆けて公表された気候変動政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書では、「地球の気温は工業化前に比べ約1.1 ℃上昇した。人間活動により気温が上昇していることに疑いの余地はない」と記載されました。これは100%を断じることが非常にまれな科学の世界においては異例のことです。気候変動に対する危機感はこの1年で著しく強まっています。こうした中で、金融機関も企業とともに気候変動の問題への取り組みを強めています。
また、日本のネット通信量は2020年から爆発的な増加を見せており、ネットとデジタルは消費者の行動原理を大きく変化させています。消費者の企業活動に及ぼす影響力は高まり、気候変動と金融の関わりの構図に対しても強い影響を与えています。
● 消費ベース排出量 / 排出量の輸出入 / サプライチェーン排出量
日本のCO2排出源は、消費(最終需要)ベースで見ると家計消費が6割以上となっています。これが意味するのは、消費者の意識が変化し行動変容が起きれば、企業の生産活動にも大きな影響を及ぼしていくいくということです。そして、ネットとデジタル技術の普及によって、消費者のパワーは一段と強まっていくと考えられます。
なお、現在の日本は、CO2排出を輸出入の観点で見れば、中国などの「他国の消費のためにCO2を排出して生産しているCO2輸出国」から、製品と共にCO2を輸入している状態、つまりCO2輸入国です。
そして日本を代表する企業の中に 直接排出量である「Scope1」、エネルギー起源間接排出量である「Scope2」、その他間接排出量である「Scope3」のすべてを含む「サプライチェーン排出量」全体での炭素中立・削減を目指す先が増えてきています。
カーボンプライシング(排出権取引)は、まだ国・地域によるバラツキも大きく、広く実効性を持つには至っていませんが、徐々に採用が増えています。もし本格導入されればインパクトは大きいため、今後の動向が注目されます。もし何れかの国で炭素国境調整措置の導入などがあれば、意外な速さで価格の収斂・上昇もあり得ますし、いずれにせよ2050年に向けては炭素価格に上昇圧力がかかり多排出企業にはコスト増加要因となってくると思われます。
また、今後、デジタルの力で消費者の要請に応える形でサステナビリティ価値がより一層可視化され、消費者の参加型行動が進んでいけば、企業は「商品・サービスの成り立ちの透明性」を高める必要があるでしょう。
それは、企業間の新しい結びつきと共創、そしてサプライチェーンの全体最適化をより早めるものとなるでしょう。
● 資金供給とリスク管理に関する激しく大きい動きに先手を打てるか?
以下に、衛藤の講演のまとめ5点を記載します。
- 気候変動問題への危機感とデジタル変革の進展が経済社会の動きを変えつつある
- デジタルの力で消費者が企業活動に及ぼす影響力が高まっていく
- 企業間の共創から生み出される付加価値がより重要になっていく
- 金融機関も、融資先企業の気候変動リスクを計測し、トランジション支援を強めつつある
- (規制や開示等への義務的対応としてでなく)先手を打ってこれらの変化を力に変えていくことが、企業価値・競争力の強化につながる
■ シスコのカーボンニュートラルへの取り組み
メーカーとしての脱炭素実現に向けてのアプローチとテクノロジー活用
講師 | 白川 智之 – シスコシステムズ合同会社 業務執行役員 シスコカスタマートランスフォーメーション
2040年までに、製品使用、オペレーション、サプライチェーンを含め全スコープでの温室効果ガス排出量のネットゼロ実現を公約しているシスコ社。
その公約実現に向け、「革新的な設計によって製品エネルギー効率を高める」「再生可能エネルギー(再エネ)」の利用を加速する」「 ハイブリッドワークを促進する」「脱炭素ソリューションに投資する」「サステナビリティとサーキュラーエコノミーの原則を事業全体に組み込む」という大きく5分野における取り組みが進められています。
セッションでは、これらの取り組みと、サプライチェーン全体の最適化にむけたテクノロジー活用について紹介されました。
→ Press Release | シスコ、2040年までに温室効果ガス排出ゼロの実現を公約
● 「ファブレス・メーカー」シスコのサーキュラーエコノミー
シスコ社は自社工場を所有せず、すべての製品を委託製造する「ファブレス・メーカー」です。そして中心製品であるネットワーク製品は、24時間使用され続けられるという特性を持っています。
これらの特徴から、シスコ社が排出している温室効果ガスのほとんどが、Scope3の「販売した製品の使用」「購入した財・サービス(資本財を含む)」「上流の輸送と流通」の3つに帰するそうです。
2008年から温室効果ガス削減へさまざまな取り組みを進めているシスコが現在特に注力していることの1つが、ビジネスモデルとサプライチェーン全体にサーキュラーエコノミー(循環型経済)の考え方を組み込んでいくことだと白川氏は言います。
「最大の要点は消費の循環です。サーキュラー・ループへと資源を戻すことを考えると、製品利用者に任せるよりも、メーカーが『消費のループ』を管理した方がライフサイクルの効率化が進みます。いわゆるサブスクモデルやX as a Service(XaaS: ザース)の考えを積極的に取り入れていきます。
また、資源循環性を考える際には、設計段階から常に再利用性やエネルギー効率を強く意識し続ける『サーキュラーデザイン』の原則が大変重要となります。そして製品そのものだけではなく、梱包や配送時に用いられる素材の選択やモジュール化、パッケージ効率向上も重要欠かせません。」
● パートナーとのサステナビリティ・エンゲージメントの重要性
白川氏はこの後、外部依存度が高いメーカーとして、「カーボンニュートラル実現に向けてのビジョンをパートナーと共有し、明確な期待とゴールを示すことが重要です」と、パートナーとのサステナビリティ・エンゲージメントの重要性について語りました。
シスコは直接生産を委託しているTier1パートナーに対して排出量の把握、削減目標の設定と進捗状況の報告を求めているそうです。また、求められる情報開示のレベルとサイクルが今後より詳細かつ短サイクルになっていくであろうことから、システム的な対応が必要となる可能性についても触れていました。
● デジタルサプライチェーンの進化
サプライチェーン全体を最適化する「デジタルサプライチェーンの進化」がネットゼロ実現の鍵を握っていると言います。
そして「システム統合とプロセス変革」「データ分析能力の強化」を数年前に終えた今、テクノロジー領域においてはデータとビジネスプロセス・ビジネスイベントを連携させた「サプライチェーン・オーケストレーション(全体の協調)」と、ルーチンワークの判断自動化や未来の発注予測の可視化などの「AI活用」に注力し、投資を進めていると話しました。また、デジタルサプライチェーンの実現に向けては社内外の拠点を安全につなぐネットワークが大前提となることも話していました。
以下に、白川氏が講演まとめとして最後に強調した3点を記載します。
- Factに基づいた明確な 戦略・変革ビジョン・ ロードマップ
- プロダクト / ビジネスモデル / エコシステムの変革とそれを可能とするテクノロジーへの投資
- サプライチェーン・パートナーとのビジョン共有と協創
■ カーボンニュートラルで勝ち抜く!
製造業を支援するソリューションデモ
講師 | 磯部 博史 – 日本アイ・ビー・エム株式会社 コグニティブアプリケーション事業部 マスターシェイパー
セミナー最後のセッションでは、カーボンニュートラル時代への適応を早急に求められている製造業のお客様に向けて、温室効果ガス削減に向けたアクションを実行するためのサステナビリティー・ソリューションが紹介されました。
参加いただいたお客様からは、製造業における社内担当者の役割に合わせた具体的なユースケースとデモンストレーションが特に好評でした。
● このままではSDGsゴール達成は半分どまり…デジタル活用は必須!
講師の磯部は「このままの進め方では2030年のSDGsゴールは半分程度の達成に終わるのではないかと言われています。総務省が『デジタル変革時代のICT グローバル戦略懇談会報告書』などで言っているように、この状況を変化させるにはデジタルの活用が欠かせません。IBMもその分野で貢献をしたいと考えています」と語り、IBMの強みを下記4点であると説明しました。
- 自社の実践 | IBM自身が50年に渡り、サスティナビリティーに取り組んできたノウハウ
- コンサルティング | グローバルでの先進事例をもとにコンサルティングが可能
- 研究開発 | 社会課題を解決するための研究開発
- テクノロジー | 実際にテクノロジーを活用した施策の実現
その上で、各社がサスティナビリティーの取り組みを社内で具体的に進めていくためにまず必要となるのが、各企業内における担当者別の課題と役割の明確化、そして現状の正確な把握と対応策の具体化、さらに企業全体、あるいはサプライチェーン全体を含むチームプレイとIT機能のトータル・コントロールが鍵となると語りました。
● IBMサステナビリティー ・ソリューションのラインアップ
IBMはここ数年、従来からの製品やソリューションへの気候変動対応やカーボンニュートラル施策を進めると同時に、サステナビリティー関連企業やサービスの積極的な買収を行いそのラインアップを充実させています。
中でも注目すべきソリューションが、今年1月に買収を完了したEnviziです。
→ IBM 、 Envizi 社の買収で、サスティナビリティー・イニシアチブの促進や環境目標を実現
そのEnviziとの機能統合が進んでいるのが、IBM Environmental Intelligence Suite(EIS)です。
EISは、2016 年に買収した世界で最も正確な気象データ・プロバイダー「The Weather Company」の持つ優れたデータと、IBM社内の数百名の気象専門家の知見を用いた、製造、エネルギー、輸送、保険など、さまざまな業界で必要とされる環境観点における統合ソリューションです。
「世界中の超詳細気象データと高精度の地理空間分析機能にカーボン・アカウンティング機能を組み合わせることで、日々の運用におけるCO2排出削減の進捗状況確認はもちろん、中長期にわたるサステナビリティー戦略策定をも幅広く支援するのが大きな特長です」と磯部は説明しました。
この後磯部は、サステナビリティー担当者が、社内で取られている複数のエネルギー削減プログラムやCO2排出量削減施策がどの程度の実績を出しているかを手早くダッシュボードで確認し、効果とトレンドの分析やサステナビリティー・レポートの自動作成を実施するデモ動画を紹介しました。
ご興味をお持ちの方は、当記事下部の「問い合わせ情報」よりご連絡ください。
● 持続可能なサプライチェーンを実現するトレーサビリティー・プラットフォーム
「サステナビリティーの実現はもはや単一企業では不可能です。企業の垣根を超えた、複数社による取り組みを可能とするプラットフォームの構築や活用を検討すべきでしょう。その基盤となるのがブロックチェーンであり、重大なサプライチェーンの問題をより迅速に特定して解決するのに役立つコントロール・タワーです。」磯部は最後にそう話すと、IBMが支援している国内外の事例をいくつかを紹介しました。
その中からいくつかの概要をご紹介して、セミナーレポートを終了します。
Ocean to Table
IBM Food Trustというブロックチェーン技術を基盤技術として、トレーサビリティや認証制度、魚価を上げるための活動などを通じて、日本におけるサステイナブルな漁業の推進を進めるコンソーシアム
BLUE Plastics
資源循環社会の実現に向け、プラスチックの回収、ペレット化、成型および最終製品化のリサイクルチェーン全工程で関係各社が協力する、プラスチック資源循環プラットフォーム
→ 旭化成、プラスチック資源循環プロジェクト「BLUE Plastics」を日本IBMと開始
CO2NNEX(コネックス | 三菱重工)
CO2を回収して貯留や転換利用するCCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の取引サイクルを活性化し、カーボンニュートラルの早期実現を目指すエコシステム
上記画像をクリックすることで、別ウィンドウでCO2NNEX紹介動画をご覧いただけます。
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