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[セミナーレポート] 先進テクノロジーを活用した食品業界のDX事例紹介
2022年03月22日
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オミクロン株の急速拡大に伴い、オンラインのみでの開催へと変更された日本食糧新聞社主催のセミナー「先進テクノロジーを活用した食品業界のDX事例紹介」の様子をご紹介します。
セミナーは二部構成となっており、初めに『「江戸前からEDOMAEへ 」を実現する食の信頼プラットフォーム』と題し、食品関連での活用が進むブロックチェーンの動向について片山敏晴が講演を行い、続いて『先進テクノロジー(IoT, AI, 衛星画像)の活用事例と最新ソリューション』と題して、野ヶ山尊秀が講演を行いました。
それでは順に、2人の講演のポイントを見ていきましょう。
「江戸前からEDOMAEへ 」を実現する食の信頼プラットフォーム
「ビジネスの世界と一般社会の情報共有を比べると、誰もがソーシャルメディアで知人や友人に写真や動画で詳細情報を即座にまとめて伝えられるようになっているのに対し、ビジネスは、とりわけ日本の食品業界の大多数が、今もまだ電子メールと『EDI(企業間電子データ交換)』の世界に止まっているのではないでしょうか。
つまり、この10数年で、情報共有レベルはほとんど進んでいないと言えるのではないでしょうか?」
片山は、この問いかけからセッションをスタートすると、現在大きな変革を起こし続けているブロックチェーンについて、その基本的な特長を紹介しました。
ブロックチェーンの高い透明性や高監査性、不正防止力は、「貿易物流・金融」や「再生プラスチック」など食品業界以外でも活躍の場を広げ続けていますが、片山はこの日、食品業界に絞ってここ数年の導入および成功事例を紹介しました。
ここではまず、その中から海外の事例をいくつか取り上げます。
● ゴールデンステートフーズ(世界最大手のハンバーガーチェーンへの牛肉サプライヤー)事例
ハンバーガー業界の品質競争激化に伴い、納入先がビーフパティを冷凍から冷蔵へと全面変更することを決定。それへの対応に伴い、従来70日あった保存可能期限は14日へと大幅短縮され、フードロスを増やすことなく、品質管理とコスト管理を実現しなければならないという難しい課題に直面していた。
そこで用いられたのが、ブロックチェーンとRFIDラベルによる、各店舗へのビーフパティ納品方法の変更と在庫状況のリアルタイム把握。温度センサーを用いた輸送中の温度チェックなどのよりきめ細やかな品質管理の改善に加え、納品の必要性の高い順に店舗への配送を行うサプライチェーン全体の効率性向上を達成した。
● ギゴズ(乳児用粉ミルク)事例
100年以上の歴史を持つネスレ社の乳児用粉ミルク「ギゴズ」は、検査や原産地情報など製品トレースの詳細を、容器底にあるQRコード読み取りにより確認可能とすることで、消費者の信頼を高めている。
有機農法による農場で飼育された牛から採れた原材料のオーガニック牛乳の情報や、環境保護と生物多様性の尊重に日々貢献しているパートナー農家の紹介など、乳児用という商品の特性からも購入者が特に気にするであろう安心・安全をしっかりと提供している。
● Farmer Connect(持続可能なコーヒー農園の経営)事例
小規模コーヒー農家の持続可能な経営を支援するこちらの事例は、下記の記事にて詳細をご覧いただけます。
- 小規模コーヒー農家と消費者の距離を近づける
- 商品がどのように消費者に届けられたか追跡
- QRコードでシングルオリジンの「こだわりの一杯」に迫る
- Thank My Farmer – 2分で寄付が完了
● 水産物への応用(SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」をブロックチェーンで支援)事例
厳しいガイドラインに則った養殖魚の飼育・加工・流通を支援するこちらの事例は、下記の記事にて詳細をご覧いただけます。
- SDG14「海の豊かさを守ろう」を達成するために
- 水産トレーサビリティに必要なデータ例
- 水産養殖における規制と不当表示
- ノルウェイブランドを守る
- 71%の消費者がより多くを支払う意思を示している
● 江戸前フィッシュパスポートフェア事例
最後に紹介されたのは、日本の水産業界の事例です。
日本の漁獲量は、過去30年間で約60%減少し、生産額も約40%減っています。「好きな魚が食べられなくなる日も遠くないだろう」と、日本では若者ほど不安に感じているというデータも存在しています。
この大きな原因が「獲り過ぎ」であり、それを防ぎ対策を取るのに必要な「資源評価に必要なデータ」と「情報を管理に反映させるスピード」が足りていないことです。
こうした状況に対し、水産庁は既存の水産物流通のバリューチェーンの生産性を改善する取組を支援する「バリューチェーン改善促進事業」という取り組みを行なっています。その一環として実施されている実証事業が、ブロックチェーン技術を軸に漁業の現場から食卓をつなぐ「Ocean To Table(O2T)カウンシル」です。
詳細および日本の水産業が直面している現状と今後の展望について、ぜひ以下の記事よりご確認ください。
片山は最後に、食品業界のあらゆるプレイヤーにとって重要な「食の安全」「ブランドの向上」「サプライチェーン効率化」という全テーマに、ブロックチェーンによる食品トレーサビリティーが寄与することを改めて伝え、自身のパートを終えました。
先進テクノロジー(IoT, AI, 衛星画像)の活用事例と最新ソリューション
続いて登壇した野ヶ山は、テクノロジーを活用した製造革新・品質改善について、「製造の基礎(設備保全)」「IoT/スマートファクトリー」「コグニティブ・ファクトリー」を3つのステップとしてまず紹介しました。
ポイントとなるのは、真っ直ぐに右上に向かって進化していくのではなく、「IoT/スマートファクトリー」化が進む中で見つかる「基本的な部分の改善点」にしっかりと対応していくことにあります。
スマート化の取り組みの最中に、社内における品質情報の共有管理を再強化や、出荷後の製品トレーサビリティーの強化、MES(製造実行管理)の見直しなど、課題の解像度が上がっていき、対応すべき事柄の勘所がより明確になっていきます。それにタイムリーに対応していくことが重要です。
そして製造設備や設置された各種センサーからのデータ収集とリアルタイム分析を行い、IoT/スマートファクトリーを実現した後は、「画像」「テキスト」「音声」「音響」「人の動き」などのさまざまなデータを活用し、熟練工の知の継承や、複雑化する製造現場の支援をAIにより実現していく「コグニティブ・マニュファクチャリング」へと進化させていきます。
「DXという言葉はバズワード化していますが、その実態は、すでに導入済みのシステムを含めてデジタル化により上手に連携させ、たくさんのトライ&エラーを高速で実践できるようにすることです。この繰り返しが企業に強みをもたらし、それを強固なものへと変えていきます。
そのために必要な全ステップをコストを抑えてカバーできるのが、IBM Maximo Application Suiteです」と野ヶ山は説明した。
● 製造の基礎 & IoT/スマートファクトリー事例
「サントリー天然水 北アルプス信濃の森工場」における設備保全統合管理システム「IBM Maximo」の導入を紹介を3つのステップの1つめ「製造の基礎(設備保全)」の事例として紹介した後、野ヶ山はIoT/スマートファクトリー事例として「クラフト・ビール醸造所のインテリジェント化」を紹介した。
この事例では、大規模データのリアルタイム可視化、AIによる異常検知、構成可能なダッシュボードを提供するリモートモニタリング・ソリューション「設備監視機能(Maximo Monitor)」が、設備の運用パフォーマンスの最適化を実現しているという。
また、IoTセンサーなどから定期的にデータを取得して機器の現在のヘルススコア値を算出し、状態基準保全(CBM)を実現する「設備診断機能(Maximo Health)」も併せて紹介された。
続いて、カリフォルニア州のプロセス制御エンジニアリング会社Novate社の、クッキーの製造工場における製品品質30%向上と廃棄物15%削減を実現した事例が紹介された。
この取り組みでは、制御装置PLCや駆動・変速装置VFD、VSDなどからのデータを統合して監視し、壊滅的な故障の発生前に故障を予測・検出する「設備性能予測機能(Maximo Predict)」が適用されているという。
事例紹介の最後を飾ったのが、四国化工機の木綿豆腐検品システムだ。
このコグニティブ・ファクトリーの取り組みにおいては、プログラミング無しで画像AIの開発が可能なソリューションMaximo Visual Inspectionを利用し、「生産能力1.6倍」「検品作業時間1/10」「自動化による省人化約1/3」を達成している。
なお、野ヶ山は「すべてGUIで作成できるAI画像モデルの重要さが、まだ十分に理解されていないのではないか?」と感じているという。
それは、冒頭に話した「できるだけ高速でトライ&エラーを繰り返して前進させる」というDX成功のポイントを手にすることができるようになるには、外部への依頼を不要にできなければ難しいからだ。
社内の実担当者が自らAIモデルの作成を行うことで、「現場の人間にしか分からない微妙なズレ」の発生が抑えられる。それが、トライ&エラーの高速化という取り組みの発展に重要な役割を果たすということだ。
● 農を進化させるスマート農業「Weather Business Solutions」
食品産業の起点とも言える農作物。その収量向上は食品バリューチェーン全体の課題と言っても過言ではないだろう。
IBMは、気象データや地理データをまとめ上げて分析する「IBM Environmental Intelligence Suite」と呼ばれる製品において、収量予測や農作物病害予測を実現している。
たとえば、圃場ごとの土壌水分、温度、その他の項目について、深さごとや時間ごとの変化を確認できるダッシュボードや、穀物の健康状態や病害に関する状態を画像診断する機能など、農業分野でのソリューション活用が進んでいるという。
● IBMの新しい価値共創の取り組み | コンサルテーションとPoCをすばやく3カ月で
野ヶ山は最後に、IBMの「お客様との価値共創」における新しい取り組み「クライアント・エンジニアリング」を紹介して、セッションを終了した。
「ここまでご紹介してきたように、IBMはテクノロジーを通じて食品関連のお客様と共創を行なってきました。そしてこれからは、今まで以上により広範囲に、そしてスピーディーにお客様のイノベーションやDXを支援していこうと新たな取り組みを進めています。
その最も代表的なものが、多くの異なるプロフェッショナルな視点を組み合わせながら、コンサルテーションとPoCを3カ月程度のスピード感ですばやく実施していく『ガレージ・メソッド』を用いた取り組みです。
デザイナー、データサイエンティスト、 クラウドエンジニアなど、さまざまな異なるスキルを持ったメンバーからなる『スクワッド』と呼ばれるチームが、お客様と一緒に価値を共創していきます。
ご興味をお持ちの方は、ぜひお声かけください。」
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TEXT 八木橋パチ
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