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旅客を呼び戻す決め手はワクチンパスポートと検査証明書

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この記事は米国時間2021年4月12日に掲載した“Safety first: the new airline tools restoring traveler trust post COVID (英語)”の抄訳です。

安全を最優先に: アフターコロナの世界で航空業界が旅行者の信頼を取り戻すための新しいツール

旅客を呼び戻す決め手は新型コロナウイルスワクチン接種種証明書(ワクチンパスポート)と検査証明書

今年の3月28日、米国内の1日の航空旅客数が150万人を突破したことをアメリカ運輸保安庁が発表しました。この規模の旅客数を記録したのは3月に入って3度目で、この1年間でも3度目の記録でした。

2020年2月末の旅客数は235万人でした。これは例年どおりのオフシーズンの旅客数です。3月14日になると、それが151万人になりました。さらに2週間後には、その10分の1の14.6万人になりました。そして1カ月後の4月14日には、これまでで最少の8.7万人となりました。

どの業界も、今もパンデミックの影響は色濃く、「例年どおり」の旅客数というには100万人でも少ない状況ではありますが、短期間でここまで回復したことは異例といえるでしょう。しかし、お客様を空の旅に呼び戻すには、必要性だけではなく、形のない得難いもの、すなわち信頼が不可欠です。 これまで制限されてきた空の旅への需要が急激に高まっていることは明らかですが、まだ躊躇している人々に対して、空の旅が安全であることを周知する必要があります。

お客様に安心していただくだけでなく、心からの信頼を取り戻すことができる航空会社、宿泊施設、そして旅行会社が、困難から立ち直り、再び前進することができるのです。

IBM Institute for Business Valueの調査によると、6カ月以内に宿泊を伴う旅行を検討している人のうち、ワクチンを接種済みの人は、接種していない人のおよそ1.5倍でした。一方で、調査対象の4人に1人は、ワクチン接種後も、2021年の内に旅行をする予定はないと答えています。

このような相反する意見から、1つの事実が浮かび上がってきます。それは、お客様の安全と信頼確保のために多大な努力を重ね、システムやプロトコルを強化した旅行会社が、乗り気になっている旅行者の心を掴み、二の足を踏んでいる旅行者の背中を押すことができるということです。

驚異的なスピードで進んだ新型コロナウイルスワクチン開発と、世界中で加速するワクチン接種率の高まりにより、安全を示す主な手段は、旅行前の検査からワクチン接種の状況に本格的に変わり始めました。近い将来には、「ワクチンパスポート」と呼ばれるワクチン接種の証明書が、アフターコロナにおける安全な空の旅の標準的な資格情報になるでしょう。

これは、楽観的な観測を示す一方で、空の旅の回復が、システムやプロトコルをどれだけ整備できるかにかかっていることを示唆しています。

世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)の代表兼CEOのGloria Guevara氏は、同時多発テロ事件後の復興から得られた最も重要な「ある洞察」を、旅行業界のコミュニティー全体でも認識することが不可欠であると考えています。それは、調整の重要性という洞察です。

Guevara氏は、最近開催されたWorld Aviation Festivalのオンライン・イベントで次のように述べています。「国ごとにセキュリティー・プロトコルが異なるということ、つまり共通性の欠落が、旅行における信頼性の低下につながり、回復の障害となっていました。同じ過ちを繰り返さないためにも、各国の官民が積極的に調整を行い、国際的な標準とプロトコルを確立することが肝要です。」

パスポートの照合

ワクチンパスポートのシステムを作るとしたら、どのように構築するべきでしょうか。どのような証明書を採用すればよいのでしょうか。さらに、それをアフターコロナにおけるお客様の旅行体験にシームレスに組み込む秘策はどのようなものでしょうか。WTTCは新型コロナウイルス感染症が流行する前から、空港での体験をデジタル的に合理化する方法についてIBMとアイデアを出し合い、デジタル旅行証明書の導入プロセスを検討していました。

しかし、今回の事態によって、そのようなプロファイルの中心に健康に関するデータを組み込まなくてはならないという新たな課題が生じました。

航空および旅行関連サービス担当のIBMグローバル・リーダーであるGreg Landは、航空業界が今必要としていることを総合的な視点でとらえています。航空会社は、デジタル検査証明書が、一連の日々の業務や、チケット・カウンター、搭乗ゲート、機内、コックピットなどさまざまな場所で使用される自社のITシステム全体に、スムーズに組み込まれる必要があると考えています。

「それと同じくらい重要なのが、その仕組みが長期にわたって機能するものであることです。そのため、プラットフォーム型のアプローチがニーズに最も適していると判断しました。」とLandは述べています。

人々に空の旅が安全であることを周知する必要があります。

Landはさらに、セキュリティーと証明書の問題が航空会社に難題をもたらしていると指摘します。航空会社は、検査証明書が空の旅に対する信頼と安全を回復させるための大きな一歩になると認識しているものの、顧客の健康データを保有、管理することについては後ろ向きで、航空会社の従業員も乗客の健康データを取り扱うことに不安を感じています。

「ほとんどの航空会社は、乗客のデータを安全でシームレスな方法で既存のプロセスに統合できる、エコシステム内での処理を望んでいます。」とLandは語ります。

旅の信頼を確保する検査証明書

デジタル検査証明書を導入することに関しては、航空会社は2つの理由から旅行業界をリードする立場にあります。1つ目は、空港での手続きは世界中で標準化されているものが多く、適用可能な枠組みがすでにあるという点です。2つ目は、空の旅において、アプリの運用がすでに浸透しているという点です。

しかし、肝心な運用プロセスの詳細は不透明なままです。システムを効果的に運用して真に価値のあるものとするには、宿泊施設、鉄道、船舶など、空港以外の場所にも展開する必要があるとLandは指摘します。「旅全体をサポートするシステムが必要なのです。」

また重要なのは、検査証明書は旅行中に関与するあらゆるシステムと簡単に統合できる必要があるという点です。例えば、航空会社のアプリや空港の旅客管理システム、また出入国管理のような各国が管轄するシステムなどです。そして、グローバルな旅行業のエコシステムで見られるような真にシームレスな体験を実現するために、何としても分断化を避けなければなりません。

空の旅の信頼と安全を取り戻すには健康証明データが不可欠です。

旅行サービスの信頼に必要なのは、シームレスなプロセスです。

しかし、各国の新型コロナウイルス感染症検査のように、分断化が避けられない状況にはどのように対応すればよいのでしょうか。シンガポールのアプローチは、英国や米国のものとは異なります。Landは、検査証明書の拡張性を確保するには、このような国ごとに異なるルールをシステムに組み込めるようにする必要があると考えます。

「お客様が旅行中に何度も場所ごとのルールを確認するようなことは現実的ではありません。信頼を得るために必要なのは、健康データの正確性と安全性だけでなく、旅行中のあらゆる場面におけるプロセスの整合性です。」とLandは述べます。

ルールの境界線を乗り越える

セキュリティー、プライバシー、そして柔軟な自動化に関する懸念を解決する方法の1つに、新しいテクノロジーであるブロックチェーンがあります。この変更不可能なレコードを使用して、グローバルで転送が容易なレコードと経路のアカウンティングを簡単に作成できます。 そこで、IBMはブロックチェーンをベースとした検査証明書のソリューション、IBM Digital Health Passを開発することにしました。

「Digital Health Passには、証明書を必要とするエコシステムの各メンバーが、検査、ワクチン接種状況、その他の項目のいずれについても、条件を設定できるという柔軟性があります。」とLandは述べています。「各国の要件だけでなく、トランジットや宿泊といった旅に関するさまざまな要素に対応できるためには、このような柔軟性が必要なのです。」

どうすればより安全な体験を実現できるかについて議論することが、アフターコロナにおける旅行の鍵となります。

この手法のもう1つのメリットは、航空会社の幅広いテクノロジー・プラットフォームに簡単に組み込めるように設計されている点です。デジタル・アダプターを使用すれば、航空会社はシステムを1カ所に統合できます。テクニカル・バックエンドや、デジタル・チャネル、あるいは従業員が利用するアプリケーションを一元化できます。

Digital Health Passはすでに、実装を開始しているニューヨーク州とドイツで注目を集めています。

アフターコロナに向けて旅行業界が検討すべき問題は「はたして回復するのか」「どれだけ早く回復できるか」といったことではありません。例えば、航空会社は変更手数料を廃止し、タッチレスの仕組みを増やしました。以前のようなビジネス状況に戻すための可能性は無限大です。

検査証明書はそのための重要な要素となります。

本ブログの日本語翻訳者

松本 深

松本 深
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
製造・流通・統括サービス事業
航空・運輸・旅行サービス担当
アソシエイト・パートナー
e33554@jp.ibm.com

航空業界において10年以上の担当経験を有し、現在は大手航空会社アカウント責任者を務めながら、航空・運輸・旅行サービスのお客様プロジェクトを多数支援している。

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