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障がいのある学生インターンシップを担当してわかったこと ー必要なのは一律の支援ではなく、その人を知ること

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著者:五領 舞衣   (Mai Goryo)
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(IJDS) デジタル事業部所属。社内の施策推進担当者として、Access Blue(IBMの障がいのある学生向けインターンシッププログラム)支援やニューロダイバーシティ理解推進、障がいのある社員の活動支援など、広く社内のダイバーシティ推進に取り組んでいる。

 

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著者:金田 優紀   (Yuki Kaneda)
日本アイ・ビー・エムデジタルサービス株式会社(IJDS) 管理.事業企画推進所属。Access Blue支援、ニューロダイバーシティ理解推進などのダイバーシティ推進活動のほか、学び続ける文化の醸成や社員のエンゲージメント向上に関する活動に従事している。

 

はじめに

日本での障がい者数増加のニュースを昨今よく目にします。その理由は障がいに対しての認知度の高まりや高齢者の障害者数の増加などさまざまのようですが、近い将来、障がい者と共に働くことが誰にとっても当たり前となる日が来るだろうと感じています。
日本IBMでは、障がいのある学生に向けて、ITやビジネスの実践的なスキルを身につけることができる長期インターンシッププログラム Access Blue Program (以下、Access Blue) を実施しています。プログラムの詳細は、弊社ブログ「障がいがある学生の可能性を広げるインターンシップ「Access Blue Program」をご覧ください。

私たち日本IBMデジタルサービス株式会社(以下、IJDS)では、昨年2021年よりAccess Blueの受け入れ組織として、障がいのあるインターン生を職場に招き、OJTやワークショップなどのプログラムを提供しています。その際に「障がい者といっても、誰もが特別な配慮を必要としているわけではない。まずは積極的に関わり、その人を理解することが大事である」ということに気づきました。人はつい「障がいのある方=困っている方」と思い込み、助けようと手を差し伸べがちです。しかしそれは、逆に彼らが自律・自立して働くチャンスを狭めているかもしれません。
本記事では、私たちがAccess BlueのOJTや、障がいのある学生との交流の中で得られた気づきや経験をもとに、障がいのある方と働く上で大切にしていきたいと感じたことをご紹介します。

 

始まりは1年前のAccess Blueインターン生のOJT受け入れから

 
「障がい者向けインターンシップのOJTを担当して下さい」

ある日突然そう言われたら、あなたはまず何と感じるでしょうか?
読み進める前に、5秒ぐらい考えてみてください。

・・・どう感じましたか?何を思いましたか?
 
2021年の夏に上司からそう言われた時に私が真っ先に思ったことは、以下のことでした。
「障がい者」ってどういう方々なのだろう?
コミュニケーションはどんな風に取るのがベストなのかな?
何気なく言った一言が、差別と言われてしまったらどうしよう。

障がいのある方に関わった経験といえば、小学生の時に聴覚障がいを持つクラスメイトがいたことと、大学で手話を少し習ったことぐらいでした。他の障がいのある方とは話したこともなく、障がいに関する基本的な知識もほぼありません。そんな私がいきなり「Access BlueのOJTの企画・受け入れ」というミッションを背負うことになったので、うまくできるのだろうかと不安でいっぱいになりました。
とはいえ、この不安は「知らないことからの不安」だと自分で認識できたので、まずは障がいのことについて詳しく知ろうと、インターネットを検索しました。いわゆる身体的な障がいだけでなく、最近耳にすることが多くなった「発達障がい」とはどういうものか、接する際にどのようなことに気を付けたらよいかを理解しようと努めました。

次の点は、私なりに調べて理解の一助になったことです。
• 発達障がいがある人は、コミュニケーションや対人関係をつくるのが苦手といわれている。
• 発達障がいは、複数の障がいが重なって現われることがある。また、障がいの程度や年齢(発達段階)、生活環境などによっても症状は違ってくることがある。
• 発達障がいと知的障がいは異なる。発達障がいは、知的障がい(知的機能の発達水準が全体的に低い)ではない。
• 発達障がいと精神障がいも異なる。発達障がいは先天的なもの、精神障がいは後天的なもの(一方で、発達障がいは精神障がいに含まれる、という分類もされています)。

私は、障がいについて調べるまで、発達障がい・知的障がい・精神障がいという言葉を混同していたことに気づきました。IBMグループでは、障がいがある方のことを「PwDA(People with Diverse Ability : 多様な能力を持つ人々)」と呼んでいますが、まさにこの言葉がぴったりだと思いました。
このように理解を深めていくうちに、不安が少しずつ薄れていったのを覚えています。また私自身もコミュニケーションで悩んだ経験があるため、障がいではないにしてもその時の経験が役に立つかもしれないと考え、障がい者の方と働くことを前向きに捉えることができるようになったのです。

 

障がいのあるインターン生のOJTは、スケジュールも情報も詰め込まない。コミュニケーションルールを話し合うことから始める

 
OJTを企画する際には、インターン生一人一人の障がいの状況が異なることを踏まえ、以下の点に気をつけました。
• スケジュールを詰め込みすぎない(通院や薬の副作用がある人もいるため、余裕を持たせる)
• 情報量を多くしない(処理が追いつかず混乱を招くことがある。どうしても長い説明が必要な場合は、休憩を入れる、書面を用意するなど、できるだけ負担をかけないように工夫する)

ただし、上記を守っていても退屈な内容であっては、インターンシップとして良くありません。そのため、会社で働く想像ができるようになることを意識してOJTの企画を行いました。

図1 OJTでは余裕のあるスケジュールでチャットボットを開発

図1 OJTでは余裕のあるスケジュールでチャットボットを開発

 

OJTで特に丁寧に行ったのは、一番初めのインターン生とOJT担当チームとの顔合わせです。2週間という短い期間ではあるものの、毎日顔を合わせる仲間として、お互いによく知ることが大切だと考えたためです。ひと通りの自己紹介あと、「大学ではどんなことを学んでいたか」というような簡単な質問から、「どんなコミュニケーションをして欲しいかか、あるいはして欲しくないか」など、お互いの認識と要望を擦り合わせる質問も加えました。彼らの「して欲しい・して欲しくない」を確認するだけではなく、こちらの「して欲しい・して欲しくない」も伝えるようにしたのです。

例えば私の場合は、「話す内容を考えている間は、まとまるまで待っていて欲しい」、「オンラインでのやりとりで無反応は寂しいので、アイコンでもなんでも反応が欲しい」の2つを伝えました。コミュニケーションをとるうえで知っておいて欲しいことやルールを共有したことで、インターン生の皆さんと私たちとのコミュニケーションが円滑になり、OJT終了までお互い信頼しあって過ごすことができたと思っています。

OJTではあるプロジェクトで作業してもらい、期間中にあえて多くの社員に関わってもらいました。インターン生にとっては初めてのIT職場体験となった一方で、これまで障がいのある方と接する機会がなかった社員にとっては、初めて「障がいのある人と一緒に働く」体験となったのです。
こうして昨年のAccess BlueのOJTは、共に働く体験を共有したAccess Blueインターン生と職場の社員の双方にとって、多くの気づきや学びを得る有意義なものとなりました。そして今年2022年は、Access Blueプログラムの中に、OJTの他にも「IJDS Day(弊社IJDSで過ごす1日)」として独自プログラムを体験してもらう日が設けられました。

 

職場で1日を過ごす「IJDS Day」体験プログラムで得られたこと

 
前述の1年前のOJTを担当して以来、障がいのある方でITに興味のある方は、ぜひ就職先として弊社IJDSを選んでもらいたいと強く思うようになっていました。本人の強みを発揮してもらうことで、十分にデジタル人材として活躍してもらえるとわかったからです。
しかしそれには、障がいのある方とインクルーシブに働ける環境を整える必要があります。組織として障がいのある社員を受け入れ、日々一緒に働いていくために知っておくべきことがたくさんあるはずです。そのようなことを考える中で、障がいのあるインターン生が弊社で1日を過ごす「IJDS Day」体験プログラムは、組織で働く社員が、OJTだけでなく日常のいろいろな場面で障がいのある方と交流できる貴重な機会となりました。
「IJDS Day」では、私たちが日頃お客様をご支援している「デジタル変革」をインターン生にも身近に感じてもらい、また彼らができるだけ社員と直接コミュニケーションがとれるように、以下の2つのプログラムを体験してもらいました。
  1. オンラインDX推進ワークショップ
  2. IT開発プロジェクト現場で働く社員、マネージャーとのラウンドテーブル

 
図2 Access Blueインターン生が参加したDX推進ワークショップ(画面下部に音声認識による字幕が表示されている)

図2 Access Blueインターン生が参加したDX推進ワークショップ(画面下部に音声認識による字幕が表示されている)

 

これらを実施して得られた成果をご紹介しましょう。特に1つ目のオンラインのDX推進ワークショップではいくつもの発見がありました。例えば、
• 大学生生活のデジタル変革をテーマにしたグループディスカッションでは、障がい者ならではの視点と発想で、社員では思いもつかないようなイノベーティブなアイディアが多数生まれた。
• 運営側が1番心配していたオンライン・ホワイトボードなどのデジタルツールを使用することへの戸惑いや時間の浪費はほとんど見られず、本来議論すべきテーマに集中できていた。

この時、もし運営側が過度な配慮で初めから彼らの作業範囲を小さくしていたら(例えば、デジタルツールを使うのをやめたり、社員が事細かにファシリテートしたりするなど)、その人の能力を発揮する機会を狭めてしまっていたかもしれないと気づきました。

2つ目のラウンドテーブルは、Access Blueインターン生、一般社員、ラインマネージャーの三者が一堂に会し自由に意見交換する場としました。どの立場の参加者も、互いの役割や思いを理解するためです。
実施後には、三者三様の感想が寄せられました。(図3参照) これを見ても、それぞれの人が、相手の立場を思いやったり、お互いが理解するにはどうすればいいかを考えるきっかけになったことがわかります。

図3 Access Blueインターン生、先輩社員、マネージャーの三者が参加したラウンドテーブル

 
誰でも、知らないことから漠然とした不安を感じ、前に進めなくなることがあります。そのような不安を感じなくて済むように、不安を感じないシチュエーション=「自分と違う属性や特性の人と触れ合わない環境」に身を置いたままでいる方が楽だと考える人もいるかもしれません。
私もはじめは障害のある方とのコミュニケーションに不安を抱いていましたが、今回実際に体験してみて、これから障害のある方と一緒に働くうえでのヒントになりそうな気づきがありました。

✔︎ 障がいのある方への説明は、相手が混乱しないよう解釈が一意になるような文章で伝えること
✔︎ オンライン会議では、音声認識ソフト(*)による字幕表示機能を使うと聴覚障がい者も参加者の会話を文字で読むことができる           
✔︎ 字幕表示を読み取りやすくするには、できるだけ簡潔な言葉で話すこと

(*)今回はMicrosoft PowerPointの字幕機能を使用

このように、障がいを持つインターン生とのコミュニケーションで得られた気づきは枚挙にいとまがありません。また、障がいのある方が自身の特性を見極め、得意を伸ばそうと努力を続ける姿には感銘を受けました。
 
一般に、多様性を積極的に受け入れる職場環境が新たな価値の創造やイノベーションを生むと言われています。今回の障がいのあるインターン生との交流においても、多様な人材によるチームでお互いを認め合いアイデアを出し合うことによって、新たな発想がたくさん生まれることがわかりました。こうしたことがより良い組織風土の醸成にも繋がっていくだろうと実感しています。個々人の事情や特性に配慮しあえる組織では、お互いのことを認識するためにコミュニケーションをとる機会もおのずと増えるため、心理的安全性も高くなると考えられます。そのような職場は、障がいの有無に関わらず、誰にもが働きやすい環境と言えるのではないでしょうか。

 

おわりに

 
これまで述べてきたAccess Blueに関する活動を通じて気づいたことは、「障がい者だからといって、いつでも配慮・援助が必要なわけではない」ということです。
もちろん、障がいに合わせて何らかのサポートが必要な人はいます。車椅子の人にはエレベーター、視覚障がいの方には拡大器、聴覚障がいの方には文字起こしと言ったように。一方で、必ずしもサポートが必要でない人もいます。特に発達障がいの方はそれぞれ特性があるため、一律「こういったサポートをすべき」という基準がありません。もしサポートをするのであれば、本人の特性を理解して、本人が求める支援を行うことが大切だとわかったのです。

皆さんの中にも「障がいのある人」と聞くと、「困っているんだ。助けてあげなければ」と思う方も多いのではないでしょうか。
アメリカの記事で恐縮ですが、「Workplace access and success barriers result in the unemployment rate of autistic college graduates in the U.S. as high as 85%, while 46% of employed autistic adults are over-educated or overqualified for their roles. (筆者訳:職場へのアクセス・成功の障がいにより、自閉症を持つ大卒者の失業率が85%と高い一方、雇用されている自閉症の成人の46%は彼らの職務に対して高い教育を受けているか、多くの資格を持っている)」という報告があります。
これはあくまでもアメリカにおける数値ですが、今回のAccess Blueでのラウンドテーブルでも「障がいを開示することで、単純作業しか任せてもらえないのではないか」と心配する声が多く寄せられました。このことからも、職場で彼らに過度に配慮するあまり、簡単・単純な作業しか任せず、彼らの能力を活かせていないようなケースが実際にあるのではないかと思います。
 
私たちが行わなければいけないことは、配慮や援助の提供だけではありません。彼ら一人一人の特性を積極的に知り、理解して、彼らが自律・自立して働いていけるように、彼らの能力を最大限に活かせるように考えることです。
 
最近では、エクイティ(公正性)という言葉がダイバーシティ&インクルージョンの言葉と共に使われるようになりました。これは「スタート地点が異なる人々があらゆる機会に同じようにアクセスできることを保証するために、障壁を取り除く」という考え方です。私たちは、PwDA(People with Diverse Ability : 多様な能力を持つ人々)を一律に支援するのではなく、どうすればこの人が働きやすくなるかを一人一人について考え、エクイティを実現していくことに努めていきたいと思っています。

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Access BlueのOJTでは、一律に支援するのではなく、一人一人を知ることから始める(五領(左)、金田(右))

 
ここまで読まれて、障がいのある方と働くことについてどのように感じたでしょうか。やはり不安になるでしょうか。でもそれも当然です。一緒に働いてみない限りはその不安が消えて無くなることはありません。
本記事で述べたアプローチも、全ての人にうまくいくとは限りません。しかしそれでもやはり、一緒に働く障がい者の皆さんが個性を発揮し活躍していけるように、私たちは一人一人に向き合い、話してみることからはじめていきたいと思います。
皆さんも、不安な気持ちは脇におき、障がいのある方と一緒に働きながら多様性ある職場づくりに取り組んでみてはいかがでしょうか。
 
 

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