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製造業におけるインダストリー4.0の現在地は?

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製造業ではインダストリー4.0、第4次産業革命、スマート・マニュファクチャリングなどと呼ばれる、工業プロセスを高度化する取り組みが進められています。情報・ITシステム(サイバー・ITシステム)と現場のシステム(フィジカル・OTシステム)を統合して、経営資源やプロセスを効率化したり、資産効率、生産性、品質、リードタイムを向上させる施策です。

多くの企業からある程度の手応えを感じていると聞く一方、まだまだ道半ば、という声も多く聞きます。実際の現在地はどこにあり、先進企業は何を考えているのか。成功への道筋は見えてきているのか。IBMのビジネスリサーチシンクタンク、IBM Institute for Business Valueでは、世界32ヵ国の製造業経営層1,630人と管理職730人を対象とした調査(英語)を実施し、それらの疑問に対する解と洞察をまとめました。インダストリー4.0の成果をしっかり刈り取る鍵となるコンセプトを「製造4.0」という言葉で説明しています。この記事では調査結果と「製造4.0」の概要をお伝えします。

  1. インダストリー4.0の現在地:データは取れているが、情報として活用できていない
  2. 効果の刈り取りへの障害:テクノロジーと縦割り組織の壁
  3. 先進企業の特徴はデータ主導で改善を続ける文化
  4. データ主導文化の青写真:2つの基盤と3つの柱
  5. アクション・ガイド

1.インダストリー4.0の現在地:データは取れているが、情報として活用できていない

今回の調査では、生産組織に課された目標として、歩留まり率向上(48%)、品質向上(45%)、環境負荷軽減(42%)が上位に挙げられています。一方、スループットと歩留まり率の目標値が達成できていると回答したのはたった36%、目標と現実との間のギャップは大きいようです。

また、日々の改善に活用されている生産データは29%程度(平均値)生産設備やセンサーからデータを取得できている組織は29%、設備やセンサーから取得したデータを自動的に分析するシステムがあるのは22%の回答にとどまりました。リアルタイムデータの部門外活用、非構造化データを判断材料として使う、AIを診断や判断に使う、などの取り組みについて進んでいる企業は4分の1以下、となっています。

製造業全体でみると、取り組みの現在地は、道半ばというよりは、本格的なジャーニーはこれから、と言う方が良さそうです。

2.効果の刈り取りへの障害:テクノロジーと縦割り組織の壁

では、インダストリー4.0の取り組みを進める上で障害となっているものは何でしょうか。回答の上位に上がったのは、テクノロジー、縦割り組織の壁、取り組みの優先づけが不明瞭なこと、でした。テクノロジーについてもう少し見ていきます。

キーとなる技術と考えられるのがAIとセキュリティーです。それぞれ78%,70%が重要だと回答しています。そのほか、クラウド(68%)、IoT(67%)、高度な分析(65%)も重要と認識されています。AIの実際の導入率は生産管理で79%とそれほど低くないものの、大規模に展開できているのは10%以下(在庫管理、品質、生産計画など)とかなり低い数字です。生産組織全体に展開することに大きな課題があると推測できます。それは技術的な問題であり、また縦割り組織の問題などが複雑に絡み合うのでしょう。

3.先進企業の特徴はデータ主導で改善を続ける文化

ここで、インダストリー4.0の取り組みの先進企業の特徴をみてみましょう。今回の調査では、様々な取り組みへの意欲、関与度、達成度により、3つの企業グループに分けています。データ変革グループ(20%)、データ最適化グループ(42%)、データ探索グループ(38%)です。データ変革グループは、先進的な企業で、収益率、売り上げ伸び率ともに良い結果も出しています。このグループの考え方、取り組み内容、現在地が成功ポイントを考える上での参考になるのではないでしょうか。

先進グループが他の企業群と比べて突出している点の一つは、スピード感です。他の企業に比べてスピード感がある、と回答したのは先進・データ変革グループで79%、データ最適化(58%)データ探索(50%)グループを大きく引き離しています。また、うまく行っている施策として大きく差があるのは、エラーや不良品の根本原因究明 (79%に対して75%,63%)と、生産ライン切り替えの設定(69%に対して59%,45%)です。スループットと歩留まり率の目標値の達成については、先進企業(45%)とデータ最適化グループ(42%)はある程度の結果を出せている一方、データ探索グループ(26%)はまだ追いつけていない状況と言えるでしょう。

先進企業は、データ主導で日々の改善を続ける文化が根付いており、スピード感を持って動いている、と特徴づけられるようです。

4.データ主導文化の青写真:2つの基盤と3つの柱

では、データ主導文化を根付かせるために必要なことは何でしょうか。先進企業の分析とIBMのこれまでの知見をあわせて、データ主導文化の青写真を「製造4.0」のフレームワークとして提示したいと思います。

生産におけるデータ主導文化の青写真

データ基盤とセキュリティー基盤両方の整備について、先進企業は力を入れています。例えば、以下のような施策の実施状況について高い水準にあります。

    データ基盤関連:

  • データ・プラットフォーム上にAI、機械学習の統合環境を準備
  • データ・アーキテクチャー標準を規定
  • データ管理ワークフローの自動化
  • データ可視化、探索ツールの整備

    オペレーション・テクノロジー(OT)セキュリティー基盤関連:

  • 生産設備レベルまで含めたサイバーセキュリティー・インシデントの統合管理
  • セキュリティー指標とプロセスを合わせて分析し、重要な設備のリスクを把握

先進企業は、データとセキュリティー基盤をもとに、テクノロジー、エンタープライズ・アーキテクチャー、スキルの3本柱を合わせて整備しています。そして、生産デジタルと経営管理の仕組みを連携させ、生産現場発のイノベーションが起きやすい仕組みを作っています。

5.アクション・ガイド

今回の調査では、3つの企業グループごとに考えられるアクション・ガイドを提示しています。

先進・データ変革企業:まだモダナイズが完了していないアプリケーションについて更新を進める。オープンで標準化されたシステムへ移行する。データ・ファブリックを活用する。など

データ最適化企業:セントラル・データ・モデルの上にデータ・ガバナンスとセマンテック・データ・モデルを構築する。MESアプリケーションを更新する。デジタルツインを導入する。など

データ探索企業:デジタルと製造戦略の統合を検討する。データ標準とアーキテクチャーを整備する。工場のアプリケーションの更新を進める。など

これらの取り組みには時間もリソースもかかりますが、3つの優先事項を頭に置いて進めると良いでしょう。

  • デジタル製造の青写真を作成し、それをもとに施策を実行していくこと
  • 新しいテクノロジーを取り入れて製造現場をパワーアップする
  • 従業員の体験にも気を配る

IBMでは、様々な製造業のお客様とインダストリー4.0、それを実現するための「製造4.0」のジャーニーをご一緒させていただいています。現場で蓄積した知見とハイブリッドクラウドやAIの技術力、今回の調査のような指標をもとに、更に多くのお客様のお役にたてれば幸いです。

鈴木 のり子

鈴木 のり子
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBM Institute for Business Value
Global Research Leader – Automotive and Electronic Industry

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