IBM Consulting
コングロマリット製造業におけるデジタル変革(DX)
2021年12月07日
カテゴリー IBM Consulting | デジタル変革(DX)
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我が国には、複数の製品事業を持つ企業が数多くあります。磨きをかけた基幹技術を様々な市場に適応させた結果、事業が多様化した企業です。重工や総合化学などの企業がその典型です。
近年加速化するデジタル技術の進化とその活用は、言うまでもなく、これらの企業にも多大な影響と機会を齎します。しかしながら、そうした所謂DXの推進に、単一事業企業よりも苦戦されるケースも目にします。この記事では、このようなコングロマリット製造業におけるDXの難所と着眼点を論じます。
難所「DXって何ですか?」
デジタル変革(DX)という言葉は幅広く使われています。情報経済下での爆発的な成長を事業に取り込むプラットフォーム戦略推進から、データ活用とUI統合による顧客または従業員体験の向上、情報の電子化や業務の自動化まで、様々な取り組みがDXの名の下に進められているのが現状です。単一事業の企業であれば、デジタル時代に適応した事業の将来像を描き、それに従う形で取り組みを選択することで、自社にとってのDXを定められます。コングロマリットで同じことをやろうとすると、事業の将来像がいくつもあるために、なかなか取り組みを絞り込めません。検討が具体化しては逆戻り、を繰り返してしまうのです。
ここでよく取られるのが、各事業に自由にDXアイデアを出させ共通項で括ったものを、自社のDXと定義しようとする方法です。率直に言って、この方法は賭けです。そもそも戦い方に違いがあるからこそ事業を独立させているのです。各事業の独自性が含まれたDXアイデアの共通点を抜き出せば、勝ち方に寄与する「美味しい」部分が削ぎ落されてしまう可能性が高いでしょう。「機器から取ったデータを活かす」というような、正しいけれども解像度が低くて、どこの会社のものかわからないコンセプトに落ち着いてしまうのです。
難所「我が社は中小企業の寄せ集めだから」
コングロマリット製造業で頻繁に聞かれる表現です。一つ一つの事業が小規模であること、事業横断での企業規模を活かした組織マネジメントが不十分であるという意味が込められています。事業を念頭にDXを進めようにも、小規模な事業で刈り取れる効果から考えると、投資も絞られてしまいます。結果、DXという大仰な言葉からするとこぢんまりとした施策案が並ぶことになります。一つ目の難所「DXって何ですか」に逆戻りです。
「まずクイックウィン、そしてそれを横展開」という作戦もよく聞かれます。最初から展開した時の効果を見据えてクイックウィンに十分な投資をするのです。しかし、展開できることをどうやって保証するのでしょうか。展開可能性が高める仕掛けが必要になります。
多様な事業を貫く自社の強みから、DXを定める
ここまでお読み頂いた方は既に見当がついておられるかもしれません。各事業の勝ち方には様々な能力が寄与しているはずです。顧客との関係、基礎技術、生産技術、製品マーケティングの巧みさ、組織文化や従業員のスキルなど。その中でも事業を越えて発揮されている強みを中心に、自社のDXを考えるというのが、本稿の提言です。その際の着眼点が、コングロマリット製造業におけるDXの明暗を分けると考えます。本稿でも一つ具体例を挙げて締めくくりたいと思います。
着眼例「ハイデジタル×ローフィジカルによる代替」
書籍「イノベーションのジレンマ」で説明された破壊的イノベーション。これをデジタル時代に重ねて考えると、一つのパターンが浮かび上がります。製品技術だけで実現しようとすると難易度が高い価値が、デジタル技術との組合せによって簡単に代替できてしまう現象です。例えば、製品の耐久性を高める技術開発はこれまでも行われてきているはずです。これをさらに伸ばすのは大変なことです。利用者からすると、製品が壊れてしまう前に修繕もしくは交換できれば、価値は同じです。データを活かした予防保全は決して目新しいアイデアではありませんが、顧客価値の代替性に着目すれば、投資に値する機会または脅威になります。
まず自社よりも製品技術に優れた企業が占める市場を、デジタル技術との組み合わせで奪える機会です。もちろん、デジタル技術は自社だけを利するものではありません。逆の立場で考えると、同じ論理で、自社が製品技術を武器にしている市場が、製品技術に劣った他社に奪われる脅威もあり得ます。この防御策を用意するのもまた、DXの一つの在り方と捉えるべきでしょう。
「デジタル技術との組合せによる価値の代替可能性」という共通の着眼点を各事業部に投げかけ、技術部門とも連携させることで、自社らしく事業を越えて展開できるDX構想が生まれる可能性が高まるでしょう。
これは一例であり、他にも着眼点は考えられます。本社側でDXをリードする部門には、複数事業を貫く自社の強みに照らして、筋の良い着眼点を発想または選択することが期待されるでしょう。
木村 泰徳
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
インダストリアル・プロダクツ・サービス事業部 アソシエイトパートナー
15年以上のコンサルティング経験を有し、現在は複数のコングロマリット製造業の企業担当パートナーとして、DX推進を支援している。
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