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医薬品・製薬企業が生き抜くためのMRリモート面談のあるべき姿

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序論・概要

新型コロナウイルスが日本で確認され向き合い続けてきた生活も2年以上経ちましたが、第7派の対応等未だその終息は見えていません。医療業界・従事者へのインパクトは甚大で、日々対応に尽力している姿は多くの人が認識していることだと思います。
そうした中で、患者さんに医薬品を適切に届けるための製薬会社の情報提供活動も大きな影響を受けています。訪問規制を強化する施設も増え、面談回数が減り、Zoom等のツールを使ったリモート面談が当たり前になったことは、このコロナ禍での大きな変化の一つです。
今後コロナ禍が終息したとしてもリモート面談等の新たな情報提供スタイル・コマーシャルモデルが無くなることはなく、インターネットと同じような一つのチャネルとして積極的に攻略していくことが、各製薬会社が成長していく上で求められてくると考えています。
そこでこのブログでは、IBMが各製薬企業とプロジェクトを推進する中で見えてきた今後のリモート面談のあるべき姿について考察をしていきます。

昨今のコマーシャルモデルの変化

リモート面談のあるべき姿を考察する前に、昨今の国内医療用医薬品・製薬業界コマーシャル領域における変化について整理したいと思います。

医師の情報収集チャネルのデジタル移行はコロナ禍前から進んでおり、2021年10月の調査では「疾患・薬剤情報を効率的に取得するために利用したい情報源」において、インターネット講演会等のデジタルチャネルがTOP3を占めています。
一方で、MRによる情報提供の重要性も依然として大きな位置を占めています。同調査結果における「処方行動が変化した薬剤の情報入手先(情報源)」においてMR(面談・電話)が49.7%で1位となっており、特に新規処方においては2位のインターネット講演会と10%近く差を付けています。

MRによる情報提供チャネルは、訪問による面談が医師からのニーズとして依然として高いものの、コロナ禍によって『訪問 vs リモート』の二極化が進んでいるように見えます。特に病院・大学病院市場においてこの傾向は顕著にでており、医師の利用チャネル傾向の2位〜4位が訪問を除く情報提供を好むと回答しています※1。今後製薬会社は、この『訪問以外のデジタル・リモートを好む層』への情報提供をより高度化していくことが差別化の一つの要素となると考えられ、それはスペシャリティー領域に注力する新薬メーカーにとってはより大きな位置を占めると思われます。

※1出典 : ミクスOnline 医師の薬剤情報取得チャネル ネット情報の優位性変わらず 新規処方の意思決定は「MR」がトップ

また、MRに求められるスキルの変化も起きています。近年オンコロジーや希少疾患などのスペシャリティー領域にフォーカスして新薬開発を進める製薬企業が多くなってきています。また、スペシャリティー領域では作用機序や副作用等がより複雑で、個々の症例ごとに医師と会話できる高い専門性が求められてきています。

上記のことから、スペシャリティー領域の専門性を高めながら、MRによるリモート経由での情報提供活動を支援できる仕組みが必要だと考えられます。

リモート面談の課題と解決方向性

従来の訪問による情報提供活動を単にリモートに切り替えるのではなく、リモート面談だからこそ実現できる顧客体験及びリモート面談特有の課題を踏まえたあるべき姿の策定が重要と考えます。

これまでの活動きっかけの一つである医局等での待機と比較すると、リモート面談においてはより明確な目的を持ったアポイント取得が必要となり、1回あたりの面談の重要性が高まっています。医師が求めている情報内容を顕在的・潜在的な両面で把握し、ニーズに沿った情報提供を行うことが益々必要になってくると感じます。また、時間や空間の制約を受けづらくなった一方で突然医師から面談を求められるケースもあり、医師の情報の把握あるいはすぐに確認できるような仕組みも必要になっているといった声も伺います。

上記、医師のニーズに沿った情報提供活動や医師の背景の把握といった課題が重要度を増す一方で、リモート面談だからこそ活かせる特徴も存在すると考えます。課題の際に述べました、時間や空間の制約を受けづらい点に関しては、医師の都合に合わせたタイミングでの情報提供や、社内の上長や他MR等との同席による面談の実現等のメリットも出しうると考えます。また、デジタル空間での面談によって、必要に応じた相手の同意を得た上で、音声や表情データの活用余地もあると考えます。リモート面談を含めたマルチチャネルの情報がこれまで以上に正確かつ詳細に蓄積されることによって、活動ナレッジの収集が加速し、データ収集に留まらずデータの活用に繋げることができるかが新たなコマーシャルモデル実現の一つの鍵になるのではないでしょうか。

ニューノーマル時代を生き抜くためのリモート面談のあるべき姿

データ・AIを活用したリモート面談のあるべき姿の要素として3点挙げさせていただきます。

1. 面談リアルタイム解析によるタイムリーな顧客ニーズの把握とコンテンツ・レコメンド

次に、AI活用によるリモート面談への付加価値をご紹介させていただきます。
まずは、タイムリーな顧客ニーズの把握です。面談中の会話をAIに解析させることで、顧客の潜在化/顕在化しているニーズをMRはいち早く把握することができます。例えば、顧客が会話の中で何気なく発した、院内スタッフへの困り事、院内外連携での困り事、薬剤への興味など、ニーズの種類は様々です。現場経験の少ない若手のMRでも、AIを活用することで聞き漏らしを減らすことができます。

また、社内に蓄積された膨大な資料の中から、顧客ニーズにマッチした有用コンテンツ(資材・製品QA等)を瞬時に検索し情報提供できることも、AI活用のメリットの一つです。MRはAIにレコメンドされたコンテンツを、リモート面談ツールの枠外で確認し、実際に顧客に伝えるべきかを判断することができます。専門性の高さがよりMRに求められる昨今、AI活用により面談ごとの品質向上に繋げることができます。また、質問の持ち帰り対応時間の削減効果も期待できます。顧客の質問に面談中に回答できない場合、持ち帰り調査し、別途メール等で回答するケースが存在します。この調査/回答作成時間は、1回あたり数十分から1時間程度かかると言われており、面談中の回答品質の向上は業務効率化にも繋がります。

2. 音声・表情解析によるコミュニケーション・スキルの把握と改善

AI活用による付加価値は、直接的な面談品質の向上に留まりません。
MRは自分自身の営業スキルにおける長所・改善点を把握することができます。例えば、シンプルな分析では、顧客との対話時間比率や、質問回数、沈黙時間等から、MRは自身の会話特徴を把握できます。一方、近年のAIでは一歩進み、会話の内容にまで踏み込んだ特徴理解ができるようになってきています。例えば、顧客ニーズに対し深堀りした質問や情報提供を行えたか、結果として顧客の好感触な反応を何回引き出せたかなどを定量的に把握することができます。分析された内容は、MR自身の課題認識に役立つだけでなく、上長による部下の評価の定量化/均一化に活用することもできます。

3. 情報提供内容・顧客反応解析によるマーケティング・営業戦略立案の活用

DX推進をご検討中のお客様から、よくご質問いただく項目のひとつにデータ不足があります。特にMRの自由入力に依存する顧客情報(持ち患者数、処方嗜好、面談での情報提供内容および反応等)は未入力になるケースも少なくなく、データ活用の妨げになる場合があります。そこで、リモート面談時に取得できる会話・音声データをCRMツールに自動連携させることで、データ不足の解消に役立てます。本社は蓄積されたデータを活用することで、より高度な顧客理解/分析に基づき、今後のマーケティングや営業戦略を検討することができるようになります。

終わりに

今回は、IBMが考えるリモート面談に関わる背景や課題、あるべき姿をご紹介させていただきました。
DX推進やコロナ禍など様々な要因で、各社が「リモート」という新しい働き方の重要性を認知し始めています。例えば、ご紹介させていただいた「リモート面談」だけでなく「リモート教育」へのAI活用も期待されている分野のひとつです。今回のご紹介が、皆様の「リモート」活用促進に向けた一助となれば幸いです。本テーマに関して興味・ご関心がございましたら、是非ご連絡をいただけたらと思います。

鈴木 健

鈴木 健
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
Healthcare & Life science

 

小林 智久

小林 智久
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
Healthcare & Life science

 

中泉 大輝

中泉 大輝
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部
Healthcare & Life science

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