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電機・電子業界におけるサステナブル・ソーシングの重要性と進め方

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シリーズ「日本の電機・電子業界におけるサステナビリティー」

第3回は、サステナブル・ソーシングの重要性と進め方を紹介しています。

サステナブル・ソーシングとは

「サステナブル・ソーシング(持続可能な調達)」とは、企業だけでなく社会や環境にも有益な調達活動のことです。企業が行う調達関連の意思決定は、エネルギー消費はもとより、サプライヤーの従業員の生活の質に至るまで、広範囲に影響を及ぼします。サプライヤーが倫理的に行動しているか、購入する製品やサービスがサステナブルか、それを購入することが社会・経済・環境問題への対策に役立つかといった確認を行うことが求められるようになりました。

国際標準化機構(ISO)の新規格ISO 20400「Sustainable procurement – Guidance」が正式発行され、調達領域でもサステナビリティーの規格への遵守が求められる時代になりました。本ブログでは、こうした動きを背景に、調達領域におけるサステナビリティー向上に向けた取り組み、及び関連するシステムについて紹介します。

ステップ1「規制遵守(Comply)」
サプライヤーとソーシング内容の評価

多くの企業が、RBA※1やISO 20400※2といった調達リスク評価や規制遵守を目指して対応を進めています。調達領域においては、調達リスクや人権尊重、安全衛生などに関する規制遵守が重要となり、それらの調査とスコアリング、対応策の策定および経過管理が必要になります。業務的には、これらを整理し開示するフローと、関連する承認業務の設計が必須です。システム的には、これらの情報を体系的に整理し、時系列や項目毎に分析を実施できるように保存できる基盤が必要です。規制遵守というステップでも、次のステップにつながるように業務やデータ、システムを整備することが重要となります。

※1RBA(Responsible Business Alliance)は、電子機器業界のサプライチェーンにおいて、労働環境の安全性、労働者への敬意と尊厳、製造プロセスの環境負荷に対する責任が確実に実現されるよう規定された国際基準。 数多くの電子機器企業が、CSR調達の取り組みを強化するために、RBAのメンバーとして活動しており、サプライチェーン上の労働者の権利(人権および労働条件)の保護・向上や、倫理・安全衛生の改善等を推進している。
※2ISO 20400(Sustainable procurement – Guidance)は、持続可能な調達に関する世界初の国際規格。アカウンタビリティ、透明性、人権尊重、倫理行動といった持続可能な調達の原則を定義しており、調達ポリシーや戦略、プロセスにサステナビリティーを組み込むためのガイドラインを提供している。企業は同規格を導入することにより、サステナビリティー目標達成、サプライヤー管理向上、サプライチェーンの持続可能性の改善、競争力向上の実現を期待できる。

ステップ2「エンドツーエンド最適化(Optimise)」
サプライチェーンにおけるサステナブル・ソーシング(持続可能な調達)の実現

サプライチェーンにおけるエンド・ツー・エンド最適化のステップにおいては、サステナブル・ソーシング(持続可能な調達)の実現が重要な鍵となります。カーボン・ニュートラルの実現に向けて、自社の生産工程のみならず、原材料や部品の調達も含めた領域での検討が必要なため、調達元となるサプライヤーとの協業が不可欠です。
規制遵守のステップで可視化されたサプライヤー情報を元に、改善施策やリスク削減施策の取組結果を反映した高精度の実績値把握と、更なる改革による将来の改善予測値の算出がエンド・ツー・エンド最適化のステップでは重要になります。
システム面では、Responsible Sourcing Blockchain Network(RSBN)のような、サプライチェーン全体のトレーサビリティを実現できる業界横断的なプラットフォームへの参画と連動が必要です。RSBNは、希少金属の責任ある調達を実現するために立ち上げられた、鉱物(鉱山)から製造物までサプライチェーン全体のトレーサビリティを実現するプラットフォームです。昨今、人権侵害やその他サプライチェーンリスクへの対応、規制強化、報道機関/消費者からの要請による責任ある鉱物調達の実証などが求められている中、サプライチェーンの可視性が欠如しているが故に、企業による責任ある調達の効果的な管理が非常に困難でした。そうした状況を背景として、IBMが提供し、RCS Globalが保証するRSBNは、『1.ブロックチェーンベースの製品トレーサビリティ』『2.責任ある調達管理』および『3.コラボレーションビジネスネットワーク』からなる3部構成のソリューションです。RSBNは、サプライチェーンの誰が、どの程度責任を負っているか・貢献しているのかをはっきりと理解できるようにすることで、責任あるサプライチェーンを強化します。
更に、分析の実施により、次のステップとなる製品とサービスの刷新にスムーズに移行し、環境負荷の観点からエンド・ツー・エンドでの最適化を実現することが理想です。

ステップ3「製品とサービスの刷新(Reinvent)」
環境負荷の軽減を織り込んで製品とサービスを刷新

刷新のフェーズでは、エンド・ツー・エンドでの環境負荷の可視化結果を元にシミュレーションを行い、製品やサービスの設計変更が、調達・生産・物流などの過程に対しどれくらいの経済インパクト(コストや作業負荷)や環境負荷インパクトを与えうるのかを定量化したうえで、企業戦略に沿った統合的な判断を実施することが重要です。
製品やサービスの刷新を実施するタイミングでは、サプライヤーと協業して、環境負荷が少なくなるように製品のリモデル・リエンジニアリングを行う必要があります。同時に、その製品の製造・物流・消費の過程でも、環境負荷が少なくなるように改革をする必要があります。
ここで欠かせないのは、AI技術です。AI技術の活用により、まずサプライヤーや部材についてスコアリングを実施します。次にデータ分析に基づいて環境負荷、気候変動リスクや将来的に課税対象となりうるリスクなどを算定し、人間の判断を補うような業務と運用の再設計を行うことで、調達業務の再構築を実施することが可能となります。

ステップ4「サステナブル・リーダー(Lead)」
統合的な可視化と社会貢献の実現に向けて業界横断で協業

Reinventの次ステップでは、サステナブルという視点を加えて刷新された製品とサービスをより継続的に進化させます。業界横断や社会のプラットフォームと連動した取り組みが必要になります。
刷新のフェーズで導入したシミュレーションやデジタル・ツイン技術から、製品のライフサイクルに合わせ、必要となる新技術を付き合わせることが必要となります。個々の製品の設計のみならず、新技術を組み込んだ結果の製品やサービスのライフサイクル全体における経済的・環境的インパクトを統合的に評価できる基盤が必要になります。
サプライヤーとも協業して、個々の製品やサービスだけではなく、複数企業または業界横断で、プラットフォームや公開データと常時連動しつつ、個々の企業のKPIや開示情報を各種ステークホルダーに提供していくことが求められます。

結論

調達領域においては、特に希少金属や資材、材料廃棄物への影響が大きいため、RSBNなどの業界横断のプラットフォームへの参画を早期の段階から検討する必要があります。
これらの変革に備えるとともに、その先にある高度なシミュレーションや業界連動のロードマップを常に検討しながらサプライヤーと協業する事が、これからのサステナブル・ソーシング(持続可能な調達)を進める鍵になります。

小野 真理の写真

小野 真理
日本アイ・ビー・エム株式会社
IBMコンサルティング事業本部

製造業の戦略やリスク調査、M&A、デジタル・トランスフォメーション(DX)を目的とする、ITシステム導入、ビジネス・プロセス・リエンジニアリング(BPR)、リスク管理などの案件を中心にコンサルティング経験を多数有する。オーストリアと米国のMBAを持ち、米国、日本をはじめとし、東南アジア、欧州、北南米のプロジェクトや赴任経験、また、バーチャルでのプロジェクト推進経験を多数有する。

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