IBM Data and AI

AIがオーバーウォッチ・リーグでの複雑なデータ課題を解決

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2021年5月10日

執筆者:Corey Shelton

 

私がIBMで働くことが好きな理由のひとつは、ここでしか体験できない独自の課題を解決する機会に出会えることです。それを実感したのは、私のチームにブリザード・エンターテイメントからオーバーウォッチ・リーグ (外部リンク、英語)の新しいソリューションを開発するように依頼が来たときでした。オーバーウォッチ・リーグは幅広い層に人気があるeスポーツ・ゲームを、IBM Watson(以下、Watson)の性能を活用して、プレーヤー、ファン、放送局にとって今以上に魅力的なものへと進化させることを望んでいました。

 

オーバーウォッチ (外部リンク、英語)はチーム対戦型のFPSゲームで、私も何年もプレイしています。展開が速く、複雑で、チームの6人のプレーヤー(と選択したヒーロー  (外部リンク、英語))それぞれのスキルと能力を組み合わせる必要があります。オーバーウォッチ・リーグは、ゲームプレイの促進を目的として設立された国際的なeスポーツ・リーグで、ロサンゼルスからロンドン、上海まで、世界中の都市で20団体ものプロ・チームが結成されています。

 

同リーグのオペレーションは他のプロ・スポーツ・リーグと同様に本格的で、世界中に何百万人ものファンやスポンサー企業が、そして参加チームやプレーヤーのスポンサー契約制度もあります。しかし、1回のゲームで膨大かつ多様なデータが生成されるため、オーバーウォッチ・リーグはプレーヤーとチームのパフォーマンスを客観的に評価することが難しいと感じていました。プレーヤーそれぞれが別々のマップで異なるゲームモードをプレイし、ヒーローもプレーヤーによって異なる場合、リーグではどのようにしてプレーヤーAとプレーヤーBを、またはプレーヤーB、C、Dを見分けているのでしょうか。

 

 

ブリザードのOverwatch eスポーツ担当バイス・プレジデントであるジョン・スペクター(Jon Spector)氏は次のように述べています。「オーバーウォッチのプレーヤーやチームを追いかけている非常に有能なアナリストがいますが、試合中には大変多くのことが発生しているので、人間の目だけですべてを観察して評価することはできません。すべてのプレーヤーのすべての動きをキャプチャーして分析し、その分析結果を余すところなくランキング・システムに提供する、完全に客観的で信頼性の高い方法が必要でした」

 

そこで、Power Rankings with Watsonが導入されました。これは幅広い層に人気があるオーバーウォッチ・リーグでプレーヤーとチームのパフォーマンスを評価する、AIベースの客観的アプローチです。Power Rankings with Watsonのメリットは2つあります。1つは、オーナー、コーチ、プレーヤーが実力を評価できる方法を得られる点です。これは、何百万ドルもの賞金が懸かっているゲームには重要なことです。ですが、より大きなメリットは、ファンがゲームを積極的に観戦し、さらにはファン同士がゲームの魅力を伝え合うことのできる、迅速かつ簡単な方法が生み出されたことです。スペクター氏はこう言っています。「このランキングはオーバーウォッチのファンや放送局にとって新たな会話のきっかけとなる素晴らしいものです。それから、オーバーウォッチ・リーグのファンは『世界で最高のメインタンクは誰か?』といった話が大好きです。Power Rankingsで、そういった会話がより豊かで楽しいものになります」

 

10月のパートナーシップ発表後、チームはソリューションの実現に向けてすぐにでも動き始めたいと考えていました。Power Rankings with Watsonを開発するために、IBMは、データサイエンティスト、AIスペシャリスト、ソフトウェア開発者などの専門家を世界中から集めてチームを結成し、IBMのArea 631 (英語)プログラムによって協働しました。オーバーウォッチ・リーグは、4月16日の2021シーズンの開幕前にソリューションを稼働させることを望んでいたため、チームはアグレッシブな方法で開発をスピードアップさせました。Area 631はIBM Garage MethodologyをベースにしたIBM社内インキュベーター・プログラムで、カナダで始まり現在は世界中の開発ラボで運用されています。このプログラムでは、6人の専門家が3カ月間かけて1つのソリューションを提供します(これが631という名前の由来です)。IBMチームは、プロセス全体でオーバーウォッチ・リーグと緊密に連携し、最終的にはわずか2カ月でソリューションを開発しました。

 

このプロジェクトのリードUXエンジニアであるステファン・ロデ(Stephane Rodet)は私に次のように語りました。「私たちはオーバーウォッチをたくさんプレイし、大量のデータを取得しました。何より、私たちは楽しみながら仕事ができたので、熱心に仕事に取り組むことができ、進捗が早くなったのです。しかし、今回の仕事ではっきりとわかったのは、適切な人材と適切なテクノロジーが組み合わさることで非常に困難な問題でも解決できるということです」

 

チームは問題に取り組むにあたり、3つの重要なステップを踏んで進めていきました。

 

まずは、統計に焦点を当てました。オーバーウォッチ・リーグでは「1秒あたりの回復量」から「武器の精度」、「アルティメット発動率」まで、パフォーマンスに関する360以上の指標をすべての試合で測定します。データには信頼性と透明性を持たせることが重要です。そのため、IBMチームはIBM Cloud Pak for Dataを使用してこの膨大な量のデータを集約、整理、調整した上で分析を行いました。

 

次に、アドバンスト・アナリティクスを使用して各統計と試合結果の間の相関関係を決定しました。別の言い方をすると、さまざまなパフォーマンス指標が勝ち負けにどのような影響を与えるかを発見していきました。

 

最後に、すべての統計が同じように作成されるわけではないため、チームはIBM Watson Studioの機械学習とAutoAI機能を使用して、それぞれの統計に重み付けをしました。すべての統計がPower Rankingsに影響していますが、中でも重みが大きい統計が約30項目あり、それがランキング内の変動に大きく関係しています。

 

AutoAIは開発を進める重要な鍵でした。AutoAIは基本的に、AIモデルを構築するプロセスを簡素化します。データサイエンスの博士号を持つ人材がいなくても透明性を提供してモデルの信頼性を向上できる機械学習機能です。ユーザーは基本的に、特定の変数を解決するようにAutoAIに要求します。今回の場合、ゲームから得られるさまざまな統計を比較検討して優先順位を付ける方法を知る必要がありました。すでにあらゆるデータが揃っていたので、私たちはただ要求するだけで済みました。

 

では、なぜIBMはeスポーツ・リーグのランキング・システムを作成するにあたって、この課題を経験することになったのか。これについてIBM Sports and Entertainment Partnershipsのバイス・プレジデントである私の同僚、ノア・サイケン(Noah Syken)は次のように述べています。「これは、現在のデータおよびAIで何ができるのかを示す強力なデモンストレーションとなりました。私たちはこれまで何年も、銀行、航空会社、小売店でデジタル変革を推進するために、同じようなテクノロジーに頼ってきました。しかし今、何百万人ものオーバーウォッチ・リーグファンがIBM Watsonに何ができるかを見極めようとしています。ゲーミングやeスポーツはエンターテイメントの未来であり、そこにクラス最高のアナリティクスをもたらすことでファンの体験を豊かにできることを、私たちは誇りに思います」

 

 

 

当報道資料は、2021年4月13日(現地時間)にIBM Corporationが発表したブログの抄訳です。原文は下記URLを参照ください。
https://newsroom.ibm.com/IBM-the-Overwatch-League-and-the-power-of-AI-to-solve-complex-data-problems (英語)

 

 

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