Data Science and AI

AIの未来は、密室ではなくオープン・コラボレーションで形作ろう

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著者: IBM シニア・バイス・プレジデント、IBM Research ディレクター ダリオ・ギル(Dario Gil)

OpenAIのCEO、サム・アルトマン氏が突然解雇されてから復帰するまでの 96 時間をソーシャル・メディアなどで見守っていた人たちは、この顛末がいつか映画になったとしたら、どの有名俳優がかのAI研究者を演じるだろうかと推測し始めました。

宮廷の陰謀と権力をめぐる波乱にも似た物語は、まるでスクリーンのために作られたもののように見えました。しかし、コンピューティングのフロンティアを拓くために努力している多くの人々にとっては予見されたことであり、AIが世間一般に認知されて以来議論の中心になってきた、壮大な理想と闇をはらんだ現実の間に存在する矛盾の顕在化でした。

どんな新技術であれ、そのフォーカスが少数の人間や組織に完全に集中してしまうと、映画とは異なり、事態はほぼ間違いなく悪化してしまいます。AIはあまりに重要な技術であり、少数の人たちによって秘密裏に形作られるべきものではありません。AIはすべての人の生活を変える技術であり、私たちは皆、その発展の当事者なのです。

より良い進め方があります。

その方法とは、今日のAIを実現した基礎的な進歩に何十年も貢献してきた、多様な科学技術コミュニティーを認めることから始まります。そのコミュニティーには、好奇心に基づいた探究的な研究を支援する科学機関、長年にわたりコンピューター科学者や AIの専門家を教育・輩出している大学、AIシステムの画期的な実用を実現する企業研究所、AI製品やサービスを商用化・拡大するスタートアップから多国籍企業までの幅広い企業が含まれています。

この半年間、IBMはイノベーションのためのよりオープンで透明性の高いモデルを立ち上げるために AI コミュニティーと連携してきました。そして、カリフォルニア大学バークレー校、スイス連邦工科大学チューリッヒ校、東京大学などの大学から、Hugging Face や Anyscale などのスタートアップ、Meta、AMDIntelDellOracle、および ソニーグループなどの大企業、CERN(欧州合同原子核研究所)、NASA、NSF(米国国立科学財団)、Cleveland Clinicのような科学的研究機関を含む、産業界、スタートアップ、学術機関、研究機関、政府の 50以上の団体に呼びかけました。これらの組織は、AIの教育、研究、テクノロジー、アプリケーション、およびガバナンスのあらゆる側面にわたって、時には個別に、時には共同してイノベーションを起こしています。これは、社会のニーズと複雑さへのより良い対応を目的とした、真に多様で国際的な組織連合です。

今日、この世界中のイノベーターのネットワークを「AI Alliance」と名付けました。

実際に、私たち全員がAIの未来に関心を寄せています。 それを求めるかどうかにかかわらず、今後数年にわたり、AIが人々の生活においてより顕著な役割を果たし、働き方、遊び方、学習方法、コミュニケーション方法などを革新していくのは間違いないでしょう。そして、私たち全員がこの強力なテクノロジーの成長に関わっているため、AI の進化は個人ではなく、共有された原則によって導かれることが不可欠です。

オープン・サイエンスとオープン・イノベーションは、AI Allianceを実現させた中核となる原則です。今日私たちが目にしている閉鎖的環境における混乱とは異なり、AI Allianceは、未来づくりに参加したいすべての人々の多様なスキルと視点を生かし、より広範な組織のエネルギーと創造性を活用します。このアライアンスは、AIのオープン・イノベーションを加速するために必要なコンピューティング、データ、ツール、および人材を結集します。アライアンスは、ソフトウェア、モデル、ツールにわたるオープン・テクノロジーを構築してサポートし、学生や開発者、科学者によるオープン・テクノロジーの理解、実験、採用を促進し、組織や社会のリーダー、政策や規制の策定機関、そして一般市民に向けてオープン・イノベーションの価値を提唱します。

このオープンなエコシステムは、科学的な厳格さ、信頼、倫理、レジリエンシー、責任といった、社会の最も根本的に重要な原則によって支えられた AIのビジョンを推進する触媒となります。AIが進化するにつれ、ガバナンスと安全性を向上させる能力も進化させなければなりません。これは、意思決定とアウトプットに関する意見交換やコラボレーションを促進する、オープンで健全な AIコミュニティーの集合的な力を通じてのみ実現できます。

この活動は私たちだけのものではありません。世界経済フォーラムの AI Governance Allianceや EUのEuropean AI Allianceなど他のイニシアチブも、責任あるイノベーションのためのオープンなエコシステムの重要性を認識しています。

AIの未来は、分かれ道に差し掛かっています。一つは、AI産業について閉鎖的で独自のビジョンを持つ少数の企業によって推進されていて、AIの支配的なコントロールを生み出す危険性のある道です。この道の先にある混乱の片鱗はすでに見えており、曲がり角の先にイノベーションの行き詰まりや、利益の抱え込み、疑念を抱かせられる管理監督が待ち構えていることは想像に難くありません。

もう一方は広く、見通しのひらけた道につながっています。これは少数の人たちではなく皆で共有する高速道路で、協力して作られたガードレールで守られています。AI Allianceを通して、私たちはAIの未来を形作ります。そこでは、価値観と原則を共有する多様でより多くの機関が、オープンイノベーションに根差した、安全で責任あるAIを推進するのです。

この記事はウェブ版Fortune誌に掲載された寄稿記事「The future of AI is too important to be decided behind closed doors. There is a better way」(2023年12月5日公開)の抄訳です。

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