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EAMの勘所:第17回 企業ワイドの保全管理の仕組みづくり(1)

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企業全体で取り組む保全管理の仕組みづくり

EAMの勘所とは

企業資産管理を円滑に行うために「EAMの勘所」と題して定期的にコラムを掲載していきます。
第17回目は、「企業ワイドの保全管理の仕組みづくり(1)」です。
これから数回に分けて、企業ワイドで保全管理の仕組みを構築するためには、どのような手続きが必要になるかをご紹介いたします。

(※本文中のEAMとは、 IBM Enterprise Asset Management の略です。)


動機付けの重要性

通常保全管理の分野では、既にプラントや工場は稼働しており、また保全管理を強化しても、生産能力が向上することは希であるという意見によく直面し ます(保全は順調に行われているし、生産能力は保全活動では変わらない・・・)。では、なぜ保全管理の仕組みづくりを行う必要があるのでしょうか?

図 1 保全と健康管理のアナロジー
図 1 保全と健康管理のアナロジー

これは私たちの身近な病院のモデルで考えると理解しやすくなります。
設備を人間に例えると、その導入から廃棄までは人生と同じです。数年から数十年にわたり稼働する設備には初期的な問題点、安定時期、老朽化と私たちと同じような健康状態を示します。

ここで保全担当者は設備のファミリードクターであり、その個別の特徴や対処方法をよく理解しています。医療記録はカルテとして記録されるように、保全履歴もその担当者が記録していきます。

通常、ファミリードクターが抱える患者さんの数は数百人程度であることが一般的です。

しかし、プラントや工場が所有する設備の数は数千から数万、時には十数万点にも及ぶ場合があります。このような場合はファミリードクターだけでは、全ての 人々(設備)の健康を守り維持することができません。従って地域の総合病院と連携して健康管理(保全管理)を行うとともに、重症な問題に対しては総合病院 が受け持ちます。この総合病院が保全部門にあたります。

図 2 個人医院と総合病院:保全担当者と保全部門
図 2 個人医院と総合病院:保全担当者と保全部門

このように考えると、保全担当者の役割と保全部門全体としての役割が明確になります。ひとりの担当者ができる範囲は限定的ですが、部門全体で取り組むと、効果的な管理を行うことができます。

では企業ワイドの保全管理システムとはどのような概念でしょうか?これは地域医療、病院、大学病院、保健所、薬局など医療関係を統合して管理を行う厚生労働省のような存在です。

ひとつの地域の病院で成功している例を全国に展開し、また薬害などの情報を各医療機関に周知徹底をする管理部門が厚生労働省です。

企業ワイドの資産管理では各地域工場の問題点を水平展開し、業界内またはベンダーから提出された問題情報を各地域工場に展開します。また保全に関連する各 部門(例:経理部門、人事部門、調達部門、技術部門など)と連携して情報共有を行います。さらに厚生労働省と同じように保全に関する予算を確保し、各地域 の工場に配分します。

しかし残念ながら現在の保全管理の分野には統制のとれた日本の管理体系のような環境はまだ完成されていません。個別の保全担当者と保全部門で閉じられた環境になっていることが非常に多く見られます。

まず、保全管理システムを統合し、統一的な管理を行うためには、各保全担当者および保全部門長に、上記で説明したような階層的な管理体系の重要性とその効 果をきちんと認識していただく必要があります。この議論を抜きに保全管理システムに統合を行うと、単純な情報システムの統合プロジェクトとなり、その効果 は非常に限定的になるばかりではなく、各部門の管理効率を低下させる可能性も十分にあります。

企業ワイドで統一された保全管理体系を導入するには、厚生労働省役の企業経営層、大規模病院役の保全部門長(および保全部門全員)、個人役の保全担当者からなる組織の作成なしには成功することはできません。

まず初めに行う事は以上のような関連担当者が集まり、企業ワイドでの統一された保全管理に関するディスカッションを行い、共通認識を構築します。具体的には以下のような内容に関して議論します。

  • 標準化された企業ワイドの資産・保全管理システムの意義
  • プロセス・システムの統合によって、どのようなメリットを享受することができるのか?
  • なにが達成できたら、統合が成功したのか!という評価指標

 プロジェクトを作ろう!

取締役や執行役員を交えて、企業ワイドの保全管理システムに興味を持つ人たちのグループができたら、プロジェクトチームを構築しましょう。
このチームはまだ正式なものではありません。あくまでも意思を同じくする者の同士をあつめたものです。

では、このチームで何をするのでしょうか?

それは EAM に関する勉強会を行います。
どんなビジネス管理のモデルでも、その意図は方法論を説いた参考書が出ています。また様々なコンサルタント企業・ソフトウェアベンダーなどが 営業目的で様々な情報共有を行なっています。このような機会を有効に利用して EAM に関する勉強会を行い、メンバーの知識を養成します。

メンバーに十分な知識がついたら、以下のような内容に関して検討を行います。

検討内容 説明
検討範囲の決定 企業には多くの組織、工場があり、どこまで EAM の検討対象範囲にすべきか?また可能なのか事前検討を行います。またビジネスエリアに関する改革なのか、技術エリアに関する改革なのかを明確にします。これは後段のコンサルティング会社を選定する場合に重要です。
効果概算算定 プロジェクトを正式に発足するためには稟議承認が必要な場合が多く、その時に必ず求められるのが効果です。現時点では正確な効果を算定することができませんが、ある程度の効果算定を行います。
通常企業ワイドの資産管理を導入するためには数千万~数億円規模のコストが必要である場合が多く、このコスト算定である程度の対投資効果が見つけられない場合、プロジェクトが失敗に終わる場合があります。
プロジェクトスケジュールの概要 通常 EAM を導入するためには最低6ヶ月~18ヶ月ほどの導入期間が必要です。またデータの標準化には数年必要な場合も多々存在します。システム導入は情報の標準化 や、変更管理、エンドユーザ教育など様々な活動が必要となり、関連部門が多ければ多いほど複雑にまた長期間になっていきます。
従って、プロジェクトは長期間になることを覚悟する必要があります。
組織編成 EAM の導入を実行する社内の組織体制、担当者の割り当てを行います。このとき最も重要なのは「片手間」仕事ではない!という認識を各保全担当者に認識させるこ とです。保全管理では管理面・技術面の両方から様々な評価を行う必要があり、導入のリーダーシップをとる担当者は専任であるべきです。
その担当者を割り当てられないか否かによって、企業としてプロジェクトの「本気度」を察することになります。
コンサルタントに招聘 EAM の知見があるコンサルタントをプロジェクトに協力させます。コンサルタントは通常有償サービスであるため、ある程度のコストを準備しておく必要がありますが、プロジェクト計画の進め方など多くの知見をもつため、コンサルタントを利用することは有益です。
また EAM 製品を販売するベンダーの営業に相談すると、様々な情報提供を無償で受けることが出来る場合があります。
稟議書の作成 実際に正式なプロジェクトを発足させるための、予算および執行権を獲得するためにプロジェクト稟議書を作成し、上申します。

まずは、正式な検討プロジェクトを立ち上げることが必要です。
 

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