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EAMの勘所:第15回 保全データの分析(3)

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資材に関する分析軸

EAMの勘所とは

企業資産管理を円滑に行うために「EAMの勘所」と題して定期的にコラムを掲載していきます。
第15回目は、資材管理と在庫管理の重要性と、Maximo ソリューションについてご説明いたします。


 資材管理は実は結構難しい分野。しかし効果は絶大

保全管理を行う場合に、メンテナンス作業で使用する予備品・交換部品の管理を行う必要がありますが、この情報をきちんと管理することは結構手間が必 要で、また難しい作業です。通常1つの設備に対して、予備部品や補充部品の種類は十数個~数十個になります(一つ一つの構成部品まで考慮すると数百種類以 上の部品が使われています)。従って、資材管理をきちんと行うためにはこれらの構成部品をデータベース化して管理する必要があるのですが、そのデータベー ス化には多くの時間と労力が必要になります。
この結果として、通常交換部品や補充部品に関して、きちんとデータベース化を行い、また在庫管理を行なっている企業や組織の数は必ずしも多くはありません。

しかし、交換部品・補充部品の在庫資産額は企業経営において大きなインパクトを与える場合があります。これは以下の理由によります。

  • 設備管理者やエンジニアは設備及びその運転に伴う生産に大きな責任を負っているため、「もしもの故障」に対応するために交換部品を廃棄したがらない。
  • 複数の工場や操業拠点にある在庫バランスに偏りがある(ある工場では在庫品がない場合でも、他工場に多くの在庫品が貯蔵されている場合がある)。
  • 在庫管理システムに在庫品が正しく登録・管理されている場合でも、資材名の標準化が行われていないために、不要な購入が行われている。
  • 在庫管理を行なっている倉庫以外に、現場持ち在庫品が存在する。

この結果として、在庫回転率を低下させ、繰延在庫資産額の増大を引き起こします。特に高額な資産を使用しているプラント系の工場では、交換部品自身が高額 であることは多く、在庫インパクトは企業経営にとって、より大きな影響を及ぼします。在庫品の調査を行うと、数年前に購入した交換部品が1度も使用される ことなく、在庫品として管理されていることも珍しくありません。在庫の回転がない場合、その価値は企業内では「価値を産まない資産」であり、その額を最適 化する必要があります。

このよう在庫品の的確な評価を行うためには、単純な在庫管理機能(数量管理)だけではなく、その在庫品がどの資産に適用され、またどの作業で消費されてい るかを正確に把握する必要があります。IBM Maximoでは保全作業に関連した在交換部品作業を作業指示書で記録することが可能で、かつ実際に出庫した資材は在庫管理機能により数量管理されるた め、Maximoを使用している場合はこのデータを分析することで様々な情報を得ることができます。


 在庫資産額とは

はじめに在庫資産額について説明します。企業会計では設備の交換用に購入した交換部品は、即時使用されるかまたは在庫品として保管します。即時使用 する場合は、その時点で費用として計上されますが、将来の利用のために在庫とした場合、その企業の資産として、一度登録されます。この登録された資産の評 価金額が在庫資産額です。在庫資産の計算には通常工場やプラントなどでは「標準原価法」「先入れ先出し法」「移動平均法」などが一般的に用いられます。

この在庫資産額は通常経理部門が評価する場合は、倉庫全体での金額算定を行い、貸借対照表にその資産額を組み入れます。しかし、保全管理でこの金額を利用して保全パフォーマンスを改善するために利用することができます。

Maximoでは交換部品などの資材と資産を関連付ける(予備部品タブ)ことが可能であるため、その在庫品がどの資産(設備)に使用されるものであるかを 特定することが可能です。従って資産単位にどれくらい予備部品を持っているかを計算することが可能です。この交換部品の資産単位における評価によって、当 該資産にどれくらいの在庫資産が結びついているのかを知ることができます。
資産台帳にはその資産の分類・機能・重要性などの情報を持っています。従って、在庫資産額をさらに様々な角度から分析し、企業にとって重要な投資金額を制御・管理することが可能になります。

表1 資産単位の在庫状況の評価表
設備 使用目的 適用
分類
優先度 部品名 在庫
数量
在庫
単価
在庫
金額
在庫
回転率
EQ001 生産ラインの主要
設備
生産 PART001 10 500  2
PART002 5 500  1
PART003 10 30 300  0.5
EQ002  ガス漏れ検知装置 安全 PART004 2 20  1
PART005 3 90  2
PART006 1 10 10  1

※上記表の情報は説明のための架空のデータです。

表1 資産単位の在庫状況の評価表では、設備EQ001のために準備されている資材PART003は在庫回転率が低いにも関わらず、多くの在庫数量を抱えている ことがわかります。またEQ002の資材PART006は設備が安全に係わる優先度の高い設備の交換部品にも関わらず、PART002やPART003よ りも少ない在庫しか所有していません。これは在庫管理上、正しいバランスとはいえません。

このように、資産(設備)単位に在庫数量・在庫金額が理解できるようになると、効果的な資金投資の配分を管理することができるようになります。


 在庫回転率とは

在庫回転率とは、購入した在庫がある一定期間(例:1年)に何回使用され入れ替わっているかを評価する値です。在庫回転率を把握することは在庫数量の適正化に最も寄与する重要な評価指標です。在庫回転率は以下の計算式で簡単に計算することができます。

在庫回転率 = (出庫在庫資産数) / (在庫数量)

日付 トランザクション 入庫
数量
出庫
数量
在庫数量 標準
単価
出庫
金額
在庫
金額
棚卸 10 100 0 1000
2012/1/1 出庫 1 9 100 100 900
2012/2/1 出庫 2 7 100 200 700
2012/4/2 出庫 1 6 100 100 600
2012/5/21 出庫 1 5 100 100 500
2012/7/22 入庫 3 8 100 0 800
2012/10/1 出庫 1 7 100 100 700
2012/12/14 出庫 1 6 100 100 600
当期
出庫数
期末
在庫数
当期
出庫金額
期末
在庫金額
7 6 700 600

※上記表の情報は説明のための架空のデータです。

表2 在庫回転率の計算の表のデータに基づき在庫回転率を計算すると

在庫回転率 = 7 / 6 = 1.17

となります。年間でみると在庫資材PART001は1.17回転していることがわかります。またこれと同様の計算を在庫金額で行うこともできます。
この在庫回転率が1を下回る場合は、当該在庫品が評価期間内に1度も使用されなかった資材があることを示します。在庫回転率が高いと、交換部品などの在庫品に投下した資金が滞留せず使用されていることを示します。


 資産に対する在庫品出庫

在庫回転率がよければ、管理が「効率的」であるとは必ずしも言えません。これはある特定の資産に対して出庫される交換部品が定期的に使用されていることを示しているのであり、本来交換回数が少なければ、資料する資金の量も少なくてすみます。

Maximoでは資産またはロケーションを設定した作業指示書で、資材の出庫トランザクションを入力すると(または出庫アプリケーションで出庫先の資産またはロケーションを明示的にしていることでも同様)、当該保全対象に対する在庫出庫を自動的に記録することが可能です。

従って、資産単位に出庫されている交換部品の履歴を調査することによって、その部品の寿命を評価することが可能です。この結果、交換作業を含めた部品費用 が、より安くなる(効率的になる)資材へ変更することで、部品交換回数を減らし、部品交換作業による生産の停止を削減し、交換作業による設備に対する状態 の変化を防止する(メンテナンス作業で順調に稼動している設備を停止させ部品交換を行うと、メンテナンス作業の品質・単純ミスなどにより設備が故障するこ とがあります)ことができるようになります。

また部品交換は日常的なルーチン作業になってしまうと、部品を交換することが「仕事」になり、なぜその設備でん部品を頻繁に交換する必要があるのかの「問 題」にまで言及されずに、単純作業として部品交換作業が長期間・誰にも指摘されずに継続してしまう問題を抱えてしまいます。

また設備間での部品の消耗度を見つけることができるため、設備改善の基本情報としても有用です。

このように通常在庫管理だけでは、発見できない部品交換と設備の関係をMaximoは作業指示書への情報の記録だけで簡単に行うことができるようになります。

表3 部品交換履歴表
部品名:PART001 部品交換月 合計
設備番号 機器製品名 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12
EQ001 ABC-D01 1 1 1 1 4
EQ002 ABC-D01 1 1 1 1 1 2 1 1 9
EQ003 ABC-D01 1 1 1 1 2 6

※上記表の情報は説明のための架空のデータです。

表3 部品交換履歴表では同じ型(ABC-D01)という設備3台(EQ001,EQ002,EQ003)に対する部品の出庫履歴を表します。同じ設備であるに も関わらず、EQ002の部品出庫数が他と比べて非常に高いことがわかります。これは運転パラメータの違い、材料の違いなどがによる原因も考えられます が、設備の特徴である場合もあり、設備改善の対象として詳細な調査を行うことが設備信頼性の改善につながります。
 

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