Data Science and AI
「データからお金を生み出す人」に必要なスキル 〜 DS協会「課題解決型人材コンテスト」で学んだこと
2021年02月12日
カテゴリー Data Science and AI | IBM Data and AI | データサイエンス
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みなさまはじめまして。IBMでデータサイエンティストをしている服部と申します。AIやデータ活用を通じたお客様のビジネス変革のお手伝いをしています。
日本には「データサイエンティスト協会」(以降「DS協会」)があるのをご存知でしょうか。データサイエンティストの育成と業界の発展を目的として、スキル要件の定義・標準化や、社会に対する普及啓蒙活動を行っています。一般会員数一万人を超える大きな組織で、IBMはその幹事会員の一社として、様々な企画や活動を推進しています。
2020年、DS協会の幹事会員が中心となり、「課題解決型人材コンテスト」が開催されました。実際の企業にリアルな業務課題とデータを提供いただき、参加者はチームを組んで、3ヶ月に渡り、データを分析し、示唆を出し、アクションを提言します。そしてお客様にとってどれだけ価値ある分析・提言ができるかを競い合うコンテストです。参加チームには主催者側からメンターがアサインされ、アドバイスやサポートをします。私も1つのチームのメンターを担当しました。
今回は、この取り組みが行われた背景とコンテストの特徴を紹介した上で、メンターを担当して分かってきた、これからのデータサイエンティストに必要なスキル要件を考察します。
「ビジネス力」の重要性と課題解決型人材コンテスト
■データサイエンティストに必要なスキルは3種類
DS協会では、データサイエンティストに必要なスキルは大きく分けて3種類と定義しています。データサイエンス力、データエンジニアリング力、そしてビジネス力です。
データサイエンス力は、数理統計や機械学習の仕組み等を深く理解し、適切に手法を選択・適用したりする力です。この力に長けている典型的な人は、数学や情報科学で修士・博士課程を出たアカデミックな人、といったイメージです。次にデータエンジニアリング力ですが、複雑なデータの加工をプログラムしたり、膨大なデータを高速に処理する術を知っていたり、構築したモデルを業務で使うためのシステムを構築したりする力です。この力がある典型的な人物像は、元システムエンジニア。
最後にビジネス力ですが、DS協会の定義では、「課題背景を理解し、ビジネス課題を整理・解決に導く力」とあります。・・・皆様はこれを聞いて、どんな人物像を思い浮かべますか?
■ビジネス力に長けた人は、「マネタイズのプロフェッショナル」
予測精度の高いモデルを作り、システムとして実装できるだけでは、データサイエンティストの仕事として十分ではありません。その予測対象がそもそもお客様にとってあまり役立たないものだったり、ユーザーにモデルの価値が理解されずに結局使われない、ということが往々にして起こりえます。
こうならないために必要なのは、お客様やユーザーの困りごとを深く理解し、リーズナブルな分析テーマを設定できる力であったり、分析結果や作ったモデルをアピールし、納得させ、感動させ、ビジネスを動かしていく力です。これがビジネス力であり、言い換えれば「分析を確実にマネタイズさせる力」であると私は理解しています。
この能力の重要性は近年さらに高まっています。私の担当するお客様からも、課題をきちんと定義できる人がいない等の声があがっている上、電気通信大学・斉藤史朗先生の書籍(「データサイエンティストの育て方」)には、分析結果をビジネス成果に結びつけられる人がいないことで、優秀なサイエンティストやエンジニアが十分な評価を受けられず、辞職・転職につながるケースがあると考察されています。ビジネス力は、サイエンティストやエンジニアの活躍の場を最大化させる点でも重要なのです。
■ビジネス力を育成するための「課題解決型人材コンテスト」
このような状況の中、DS協会が2020年にスタートしたのが「課題解決型人材コンテスト」です。今回は大手通信販売会社様にお客様となっていただき、リアルな業務課題とデータを複数提供いただきました。参加チームはお客様と電話会議やチャットで直接やりとりしながら、課題の(再)定義、分析アプローチの設計、データの分析、アクションの提言の4つのフェーズに沿って活動を進めます。最後に実施される最終報告会で、DS協会理事とお客様の審査により優勝チームが決まります。
IBMはその企画の中心として、コンテストの建て付けや評価基準の策定など、活動の推進に貢献しました。
世の中にはKaggleやSignateのような分析コンペが存在します。これらがモデルの精度のみを競い合うのに対し、課題解決型人材コンテストはお客様にとっての価値で競い合われます。したがって予測モデルの精度以前に、何を予測すべきで、それによって何がうれしいのかを(再)定義することや、そのモデルを使ってどうアクションをとるべきかを提言する力などが問われます。まさにビジネス力の有無が勝敗を分けるコンテストであり、これを含めた総合的な能力を表す言葉として「課題解決型」とネーミングしました。
メンターを担当して学んだ「課題解決型人材」の要件
メンターとしてチームの活動をサポートする中で、ビジネス力を構成するスキルは実に様々であると気付かされました。具体例を交えて、挙げていきたいと思います。
①経営課題を分析上の問題に落とし込むロジカルシンキング
今回の課題の一つは「一回購入して離れてしまう顧客が多い。継続的に買ってもらえるようにしたい」というものでした。これに対しあるチームは、顧客の典型的な行動フローを定義し、どこにボトルネックがあるのかをデータから明らかにしていきました。最終的に、「サイトに流入してからカートに投入するまでに閲覧するページに、継続的な購買意欲を左右させるページがあるのではないか?」との課題仮説に行きつきました。このように、受け取った経営課題を論理的に分析上の問題に落とし込むことで、納得感もあり、失敗も少ない分析を可能とすることができます。
②業務の知見や仮説を引き出すインタビュー技術
データ分析者は、分析対象の業界や業務に必ずしも詳しいわけではありません。今回のコンテストでも、参加者の所属する業種はメーカーから金融まで様々でした。そのため通販業界の常識や業務の特性などは、お客様から聞き出さなければなりません。参加チームは、聞きたいことについての自分なりの仮説を記載した資料を作ったり、事前に質問リストをお客様に渡しておいたりと、様々な工夫をしていました。
③データからビジネスを理解するための基礎的なプログラミング
お客様のビジネスを理解し真の課題を導くには、同時にデータを理解し、データで検証していくことが必要となります。したがってPythonなどの言語を自在に操り、自分の知りたい情報をデータからストレスなく取り出せるプログラミング力も重要なスキルの一つとなります。
④効果的に活動を進めるための分析プロセスや方法論への理解
今回のコンテスト同様、多くの分析プロジェクトは短期間で成果を出すことが求められます。確実に一定の成果に結びつくよう、手当たり次第に分析するのではなく、まず活動全体を設計する必要があります。今回は先述の4つのフェーズをベースに行われましたが、このような分析プロセスを理解し適用する力も重要です。
⑤個々のメンバーの持つ力を最大化するチームワーク
多くの分析プロジェクトはチームで行われるため、それぞれの持つ力を最大化することが、活動の成否を左右します。私がメンターを担当したチームでは、毎週の定例会で、各自の宿題を明確化し活躍の場をそれぞれが持つようにしており、結果的に良いチームワークが発揮できていたと思います。
⑥分析結果やモデルの価値をアピールするストーリーテリング
どんなに良い分析結果やモデルを作っても、その成果をうまく伝えられるかで次に繋がるかどうかやお客様の評価が決まるのですから、最終報告会は最も重要で気を遣う場面の一つだと思います。聞き手は経営層なのか実務者なのか、興味がある部分はどこなのかなどを考え、相手の知りたい順序で伝えられるよう、各チームとも工夫を凝らしていました。
⑦困難な局面を打破するアイデアとモチベーション
最後にあげるのは根気の良さです。分析活動をする中では、思うように成果が出ず煮詰まってしまう局面が必ず発生します。私のチームでも、活動の終盤、モデルの精度が上がらず苦労しましたが、それでも改善策や代替案を諦めずに考え続け、良い成果に結びつけることができました。
以上が、今回メンターを担当して私が重要だと思った「ビジネス力」の要素です。コンテストは21年度も継続して実施予定です。上記のようなスキルを実践して身につけたい方、ぜひご応募をお待ちしております。(DS協会の一般(個人)会員に登録いただくと、ご案内がゆく予定です。)
IBMの「課題解決型AI人材育成プログラム」
最後にIBMのサービスを一つ紹介させてください。IBMでは、自社のデータサイエンティストを育てたいお客様に対して人材育成サービスを提供しています。その中の一つに「課題解決型AI人材育成プログラム」があります。
分析による課題解決の「型」を身につけ、同時にテーマを発掘する
このプログラムでは、架空のお客様のフワッとした経営課題をAIの問題に落とし込み、モデルを作り、アクションを提言するまでの一連のプロセスを数日間のワークショップで擬似体験していただくことで、課題解決の「型」を実践しながら身につけることができます。また同時に、それを自部門での困りごとに置き換えて考え、AIを活用した自部門の課題解決の企画書を一本書いていただきます。これにより、単なる研修で終わることなく、実際に現場に価値を提供する第一歩とすることができます。
データやAIで確実にお金を生み出す人材を育成したい企業様からのご相談を是非お待ちしております。
服部 翔大
日本アイ・ビー・エム株式会社
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