IBM Partner Ecosystem
キー・パートナーに訊く |「よく生きるための技術を広めたい」田中正吾
2024年03月23日
カテゴリー IBM Cloud Blog | IBM Partner Ecosystem
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IBM Championとして2018年から活動を継続されている田中正吾氏に、日本IBM カスタマー・サクセス・マネージャーの加藤典子が訊きます。
<もくじ>
(写真右)田中 正吾(タナカ セイゴ) | 屋号「ワンフットシーバス」。2004年フリーランス。以後、FLASH制作を中心にインタラクティブコンテンツを主に行い現在に至る。
(写真左)加藤 典子(カトウ ノリコ) | 日本IBM カスタマー・サクセス・マネージャー、テクノロジー事業本部。
1. 2人の出会い | TJBotをみんなで作ろう!
加藤: 正吾さんとの出会いは…2018年かな。「TJBotをみんなで作ろう!」ってコミュニティーがあって、そこで頻繁に会うようになっていきましたよね。
田中: そうでしたね。それ以前も顔は知っていたけれど、仲良くなったのはその頃でした。
それにしても、TJBotコミュニティーはいろんな人がいておもしろかったですよね。ソフトウェア系だけじゃなくて、ハードウェア系やモノづくり系の人も多くて。
加藤: 「TJBot」は、IoTやAIなどの新しいテクノロジーの組み込みをDIYで体感できる、誰でも簡単に作れる紙製のロボットなんですけど、「はんだごてを手にしたら二度と離さない!」みたいな参加者の方もいらしていて(笑)。
そしてTJBotコミュニティーの多くのメンバーが、「教える人」や「セッション主催者」になっていきました。
参考 | (公開: 2019年07月18日)IoTで地方を元気にできるなら、私も貢献できるかも(Watson IoT 林 久美子)
田中: そうでしたね。技術的な学びや体験に加えて、現場におけるトラブル対応スキルもたくさん身につけられるコミュニティーでしたよね。
「え!? Wifi完備って聞いていたのに先着5台しかネットワークにつながらないじゃんこの会場!」みたいな。
2. 上手くいくかは分からない。けどやってみよう
加藤: 今回、この機会を活用させていただいて、私のIBM Championプログラムへの思いを語らせてもらえたらと思っているんですけど…いいですか?
田中: もちろん! ぜひお願いします。
加藤: IBM Championは「グローバルプログラムの日本での展開」という形でこれまでずっと運営されていたんですけど、日本側にはプログラム・スポンサーがいなかったんです。
それが今年、技術コミュニティーとの関係性の重要さを深くご理解いただいている大久保そのみさんがその役割を担ってくれて、私たち日本のIBM Championサポートチームもとても心強く思っているんです。
これを機に、今年はもっと多くの、そして幅広い技術者の方がたに、IBMのテクノロジー・コミュニティーとChampionプログラムに興味を持ってもらえるよう頑張ろうって、気持ちも新たにしています。
参考 | 【開催レポート】IBM Championウェルカムイベント
田中: 共感します。先日のウェルカムイベントでも、仲間としていろんな情報や体験を共有できる空気感が醸成されてきていましたよね。
僕自身、去年の後半からそういう変化を感じ始めていて、特に10月のTechXchange Conference Japanでは熱量がグッと上がりました。
加藤: IBM Championたちが集まり、TJBotを生成AIプラットフォームのwatsonx.aiと連携させるライブコーディングを行ったんですよね。あれはおもしろかったですねー。
人の顔を認識すると手を振って「ボクの名前はTJBotです」と自己紹介するようにコーディングしたんですが…思うように動かなくて、大変だったけど。
参考 | TJBotがTechXchangeを席巻(IBM TechXchange Conference Japan)
田中: そうそう。X(旧ツイッター)で実況していたら、IBMのAIテクニカルスペシャリストの瀬川さんのチームの方たちが助っ人に来てくれて。
当初の狙いではもっといろいろしゃべるようにしようと思っていたんだけど…。まあでも、少しはしゃべってくれたから、あれはあれで「成功」ってことにしましょう。
加藤: ああいう「上手くいくかは分からないけどやってみよう。そこからみんなで学ぼう」って、とても大切なスタンスですよね。技術コミュニティーには欠かせないと私は思っています。
田中: 間違いなくそうですよ。
ちなみに、4月から「TJボットをみんなで作ろう!」コミュニティーを復活させる予定です。そこでは先月発表された生成タスク用AI基盤モデルwatsonx「Granite(グラナイト)」日本語版との連携にもチャレンジする予定なので、ぜひ多くの方に参加していただき、みんなで学んで楽しんで欲しいです。…とはいえ、上手くいくかは分かりません(笑)。
参考 | (プレスリリース)信頼できるデータで構築した基盤モデルGraniteの日本語版を提供開始し、日本のお客様の生成AI活用を加速
3. 背中をちょっとだけ押してあげたい
田中: 「パッションを持ってやる」ことも同じくらい大切ですよね。「業務だから…」や「上から言われたから…」じゃなくて。
加藤: そうですよね。私のIBM Championプログラム支援活動も、「それがやりたいことだからやり続けている」っていう感じです。
会社の中での役割って、「やりたいことなのでやらせていただきます」の方がいい結果につながることも多いですよね。なんでもはっきり白黒つけるよりも、その方が進めやすい場合はそれでもいいと私は思うんです。
田中: そう。どんな形であれ、やり続けているからこそ未来へつながるってところもありますからね。派生力というか派生効果というか。「あのときやっていたアレが、今のコレにつながっているな」って。
ときどき思うんです。もしも「IBM Championの活動をやらないと、一切の収入がストップします」なんてパラレルワールドが存在したら…って。そうしたら、いちいち結果や効率ばかりを気にするようになっちゃって、大変だろうしつまらないでしょうね。
コミュニティーって人間の活動なんで、そういうスタンスからは生まれないものや、本来の意味を失ってしまう部分も少なからずあると思います。
加藤: たしかにそうですよね。
これはちょっと違う話かもしれないんですけど、IBMがお付き合いしている企業に所属しているエンジニアの方たちの中には、「私なんて…」と一歩引いて考えてしまう方が多い気がするんです。実際は、エバンジェリストのスキルも素養もすごくお持ちの方であっても…。
私は、そういう方たちの背中をちょっとだけ押してあげたいんです。そこから大きく羽ばたいていく姿を、これまでたくさん目にしてきたので。
それに、「自社社員に技術エバンジェリストになって欲しい」と思っている企業も、かなり多いですから。
4. 降りてきたクリエイティブを逃さない
田中: 僕は、東京造形大学の出身で美術系の出自で、ちょうど情報テクノロジーがアート界にどんどん入ってきた1990年代後半に学生をしていたせいか、テクノロジーを絵筆や画材のような「道具」として見るところがあるんです。
そのせいか、やたらとこねくり回さないと使えない技術なんかを手にすると、他の絵の具との混ざりがひどく悪い絵の具を渡されたような、「クリエイティブが逃げていく」気分になるんですよね。
自分のところに「降りてきた」アイデアや発想をしっかり掴んで実装したいのに、準備にやたらと時間がかかって熱が冷めていく…。そういうクリエイティブを阻害するテクノロジーは極力避けたいですね。
加藤: …「IBMの技術は取っ付きにくい」と言われることもあるんですけど、その点はどうですか?
田中: 僕はむしろ「味わい深い」と感じますけどね。たしかにインターフェースは最初わかりにくいと感じる人もいるでしょうけど、「クリエイティブが逃げていく」感じはないですね。
加藤: 味わい深さと取っ付きにくさ。その違いは何なんでしょうね。
田中: 僕が思うに「なぜそうなっているのか」、意味をちゃんと感じられるかどうかじゃないかな。
たとえば、IBMテクノロジーはオープンソースをたくさん使っていますが、それを変にこねくり回したりバラバラにして使うみたいなことは少ないですよね。オープンソースを使っている意味を感じられるし、そこに素直さがあります。
どことは言いませんが、それが分からない製品や思想がないように見える企業も結構ありますからね。
加藤: なるほど。
田中: 思想の有無や方向性って本当に大事だと思いますね。そういうのって、良いコミュニティーが持っている「熱」と同じで、伝わるものなんですよね。
5. ファミリーテックとアカデミアテック
加藤: 正吾さん、ファミリーテックについても語ってください! 私、あれですごく目を開かされたんです。
田中: そうですよね。その話は欠かせないなって思っていました。
ファミリーテックの始まりは、当時まだ1歳だった息子の睡眠状態をチェックするアプリでした。部屋のドアを開けるとどうしても子どもが目を覚ましてしまうことが多くて、それを寝室に設置したカメラとスマホをIBM Cloudでつなげ、寝姿をチェックしたり、子どもが快適に過ごせるよう部屋の温度や湿度を手元で確認できるようにしました。
妻も「この人は技術のための技術だけじゃなくて、私たち家族のためにも取り組んでくれているのね」って喜んでくれて。その後のファミリー・テックの取り組みにも積極的に協力してくれました。信頼感が増しましたね。
加藤: IBM Cloudは、家族愛をも強くする(笑)
田中: その後は、息子の排せつ状況の記録をボタン1つで簡単に記録できる「排せつボタン」などを作りました。長押しやダブルクリックでうんちの状態も簡単に記録できるようにして。
これ、夫婦間での共有にはもちろん役立ったんですが、託児所や病院との情報共有にもすごく便利だと評価していただきましたね。みんなに喜んでもらえました。
参考 | BMXUG女子部勉強会で登壇させていただきました(田中家う○こボタン(息子用)!ファミリーテックはじめました。)
加藤: 当時、私は家族の介護をしていたので、この取り組みにすごく触発されたし、パワーをいただきました。
田中: 僕自身も、ファミリーテックの取り組みですごくエネルギーと自信を取り戻すことができたんです。あの頃、「自分はこれまで身に付けできた技術を、ちゃんとハンドリングできているのだろうか?」って悩んでいたんです。無能感というか…。「本当に自分のやっていることは価値を創出しているのか。社会に役立つのか?」って。
でも、一連のファミリーテックの取り組みを通じて、「テクノロジーで生活そのものを良くしていきたい」という自分の願いにしっかり向き合い、やっていけるという自信を取り戻しました。
技術的にも思う通りできたし、あそこまでやれれば周りもやりたがるようになるんだって、実感することができましたね。
加藤: そんなファミリーテックを経て、アカデミアテックの活動も進化していきましたよね。
田中: そうですね。「よく生きるための技術を広めたい」ってモチベーションが、すごく強くなりました。
それで、みんなにも「自分ごととして考えて欲しい」「自分でハンドリングして欲しい」という思いもいっそう強くなり、技術を噛み砕いて教えることにも注力するようになりました。
今は、東京テクニカルカレッジやデジタルハリウッド、バンタンゲームアカデミーなどの学校で、Raspberry Pi(ラズベリーパイ)やObniz(オブナイズ)という機器や、Node-REDやJavascriptを使い、IoTやAIを実装するための授業をやっていますね。
メッセージのコアな部分は、「自分の暮らしや老後をよくするのは、自分自身の取り組みですよ!」です。
加藤: 少し技術に歩み寄れば、誰でも簡単に技術を活用できるようになっているのが現代ですよね。でも、おそらく多くの人が、「テクノロジーを用いて自分の老後を自分でよくしていこう」ということを諦めてしまっていると思うんです。あるいは、そもそも考えてもいないのかもしれない…。
私は、正吾さんがそんな社会を変えてくれるって、ずっと期待しているんです。
田中: 僕もその期待に応えたいと思っているので、そのやり方が分かるレシピを出し続けていきますよ!
そしてもう1つ僕が授業で大事にしているのが「プロトタイピング」です。
僕は、知識と実践をできるだけ近くに配置したいんです。教えるのはそこそこにして、早めに体験してもらいたい。「知識を教え終わってから」では、実践に至るまでに時間がかかりすぎます。
加藤: すごく重要なポイントですねそれ。それでは最後に、IBMへの叱咤激励をお願いします。
田中: IBMさんには、良い結果だけじゃなくて途中経過も発信して欲しいし、話して欲しいです。成功事例だけじゃなくて、うまく行かなかった話もつまびらかに。だって、大事なのは経過なんですから。
うまくいかなかった経緯がアウトプットされれば、そこから対話が生まれ、新しいアイデアやクリエイティブにつながっていきます。そして多くのエンジニアや企業にとっての学びや気づきとなり、IBMさんとの共創機会増加にもつながっていくと思いますね。
もう1つリクエストがあります。これは先ほどの話にも通じるんですけど、僕は企業にも、もっとプロトタイピングして欲しいんです。IBMさんにはぜひその流れを作り、リードして欲しいですね。
加藤: 正吾さん今日はいい話をたくさんありがとうございました。
じゃあ最後に、記念写真を撮って終わりにしましょう。
TEXT 八木橋パチ
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