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伝統と革新 | 日本IBMユニバーサルデザイン・カレンダー制作の舞台裏

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日本IBMはこれまでおよそ40年間にわたり、日本の美術品や絵画をテーマに壁掛けカレンダーを制作し、年末年始のご挨拶の際にお客様にお渡ししてきました。

しかし、オフィス空間や室内内装の在り方が大きく変化したここ数年で、壁にかかった姿を訪問先で目にする機会は減っていました。

 

今回ご紹介するのは、そうしたお客様や社会の変容に向き合い、「いまのIBMらしさ」を体現 しようとしているユニバーサルデザイン・カレンダーです。どうぞご一読ください。そしてぜひ、機会を見つけて「ご自身の指で」 その日付に触れてみてください。

IBMユニバーサルデザインカレンダー(当カレンダーは非売品です)

目次

日本IBMユニバーサルデザイン・カレンダー2025の制作を担当するプロジェクトメンバー4名
(写真左より)
小笠原 真哉 (オガサワラ シンヤ) | 日本アイ・ビー・エム株式会社 マーケティング Blue Studio デザイナー
宮前さやか (ミヤマエ サヤカ) | 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 インバウンドセールス営業部 部長
彌永 まりえ(イヨナガ マリエ) | 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 TLS第二テクニカルサポート 部長
益成 宏樹 (マスナリ ヒロキ) | 日本アイ・ビー・エム株式会社 テクノロジー事業本部 クライアント・エンジニアリング事業部 シニア・デザイナー

 

 

● 「残念ですが非現実的です」——カレンダープロジェクトのスタート

「IBM社員が壁掛けカレンダーを制作してお客様にお配りしていることを僕が知ったのは、入社後しばらく経った2022年秋ころ でした。

そのとき、このカレンダーを通じて、お届けするIBM営業社員と受け取っていただくお客様の間で、共感やつながりが生まれているのだろうかと、疑問が湧きました。『作り手の気持ちやお客様への思い』は、きちんと込められ伝わっているのだろうか。そしてこのカレンダーは、本当に喜んで受け取っていただけているのだろうか? って。

それで2023年初春に、IBMブランド推進をデザイナーとして担当されている小笠原さんに、『このカレンダーには、現在のIBMブランドがしっかりと反映されているのでしょうか。そしてカレンダーのプレゼントは、貴重なIBMブランド体験の場なのではないでしょうか?』と、相談に行きました。」

 

クライアント・エンジニアリング事業部 シニア・デザイナーの益成宏樹は、日本IBMユニバーサルデザイン・カレンダー2025が生まれるきっかけを、そう回顧する。

社内に同じ考えを持つ仲間がいることに背中を押され、Blue Studio デザイナー  小笠原真哉は、さっそく益成とともに担当部門に話を持ち込んだ。

だが、そこで耳にしたのは「残念ですが、2024年分の発注締め切りはもう来週で、今からの変更は非現実的ですね」という担当者からの返答。「でも、これはとても重要な提案だと思うので、来年に向けて改めて連絡しますね」という言葉は、肩を落とす二人にはありきたりな断りの口実にも聞こえた。

小笠原は言う。「だから、翌月すぐご連絡をいただいたときはびっくりしました。」

 

● 毎日目に、指にするものを通じて伝えたいもの | 「そもそも」から見直す

「日本IBMには『Aspiration Leadership Committee(ALC)』という名の、いわゆる組織に「横串」を通した取り組みがあって、そこでは数十名の日本IBMの中堅リーダーたちが所属組織や部門、役職にとらわれることなく、会社を良くするためのチャレンジに自主的に取り組んでいます。

ALCは、リーダーたちに体験を通じネットワークを広げ、将来の経営陣を目指してほしいという趣旨のもとに運営されているもので、特徴は、直接経営層のサポートを受けられることです。

今回のユニバーサルデザイン・カレンダープロジェクトは、益成さんたちが話を持ち込んだご担当の方たちから執行役員 トランスフォーメーション&オペレーションズ担当の小野さんに話が行き、『これからの日本IBMに相応しい季節記念品の企画、提案として相応しいタスクではないかと思う。改善テーマとして取り組んでみてはどうか』とALCに持ち込まれたんです。」

こう話すのは、「新しいことやワクワク感が大好きなタイプ」と自己分析する、インバウンドセールス営業部 部長の宮前さやかだ。

 

宮前は、他のALCプロジェクトにも参加していた。

「でも、私はデザインやモノづくりへの興味もあったし、デザイナーの方と一緒に実際にものづくりをできる機会なんてそうそうないですよね。それに、純粋に楽しそうだし、おもしろそうだなと思って」と、ユニバーサルデザイン・カレンダープロジェクトにも自ら手を挙げ加わった。

そしてもう一人、プロジェクトに参加したのが、TLS第二テクニカルサポート 部長 彌永まりえだ。

「私は長年サービスデリバリー部門に所属していたので、営業社員のように、お客様に直接カレンダーを手渡す経験をしたことがありませんでした。

それに入社当時、日本IBMがこだわりをもって日本美術のカレンダーを作成しているという話を聞いたこともあったし、これまでのカレンダーのファンがいることも知っていました。だから『別にこのままでいいんじゃない? どうして変えなきゃいけないの?』という気持ちも正直ありました。

でもだからこそ、『こういう懐疑的なスタンスを持ったメンバーも加わったほうが、むしろいい結果につながるのかも?』なんて思いを持ちながら、参加を決めたんです。」

 

彌永は続ける。「カレンダーじゃなくて、もっと一年を通じてお客様にお渡しできる季節記念品やノベルティーの方がよいのではないか?——そんなふうに『そもそも』のところからメンバーで議論し直しました。」

宮前も言う。「議論を深めていく中で、私たちは、時代とともに自らの事業を変化させながら、社会の変容を促進する創造的なカタリストであるIBMという会社に誇りを持っていることを再確認しました。

私たちIBM社員がお客様にお渡しするものなのだから、『ぜひお飾りください』と自信を持って伝えられるものであるべきだと、強く思いました。」

 

日本IBMとは何者で、何を目指し、どこへ向かおうとしているのか。

どのような体験とストーリーを届け、共創をお客様とどのように実現しようとしているのか。

年末年始という特別な時期にお渡しするものを通じて、そして毎日目に、あるいは指にするものを通じて、それを伝えることができたら。

議論は形となっていった。

 

 

● クラフトマンシップを極めた真美堂とIBMのコラボレーション

「工芸作品としての最上級を追求した真美堂 手塚箔押所のクラフトマンシップをしっかりと受け継ぎ、その上でIBMデザインの哲学が加わった『再解釈』。それがこの日本IBMユニバーサルデザイン・カレンダー2025です。

デザイン的にも機能美的にも、これ以上は動かせないところまで突き詰めて試行を重ねました。これほど深くデザインと向き合う経験を持てたことは、デザイナーとして本当にありがたい体験でした。」

 

小笠原は、真美堂への最大限のリスペクトを込めて、言葉を加える。

「10年にわたりユーザーとともに試行錯誤を重ねてきた、真美堂さんのバリアフリー・カレンダーは、見た目、機能共に、とても洗練されています。『このフォントはどうしてこの太さになっているのだろう? この配置はなぜなのか?』——デザイナーとして、真美堂さんオリジナルのカレンダーで表現されているデザインの意味を慎重に考えながら、一歩ずつ制作を進めました。

そしてオリジナルが積み重ねたものを活かしながら、さらにIBMデザインへのカレンダーとするために、0.1ミリ単位で異なるフォントを何十種類も試し刷りして、床一面に並べてうんうんうなる日々を過ごしました。でも、至福の時間でもあって、とても楽しかったですね。

…これはちょっと細かい話ですが、実は真美堂さんのカレンダーとIBMのカレンダーのデザインで同じところって、『日付数字のベースラインの行幅』一カ所だけなんです。あとはすべて違っています。じっくりと見ていただければ、その違いが発見できると思います。」

職人技が光る真美堂の手作業の様子

 

「この違いは、プロでも見分けるのが難しいかもしれません。」益成はそう言うと、カレンダーの他の注目ポイントを語る。

「すべての数字とロゴが浮き出し加工されているカレンダーなんて、他にはないと思います。僕は初めて見ました。これにより全盲や弱視の方たちも、指先で文字を読むことができます。

そして、浮き出し加工のこの美しさ…。真美堂さん以外に、これほどの美を作り出せるところはないんじゃないでしょうか。日本人の指のサイズに合った非常に精度の高い細密性と、紙を痛めない両面加工や汚れにくい表面加工。触り心地と耐久性も両立されています。

他にも、語り尽くせない程のストーリーが満載の大満足な仕上がりです。」

印刷とエンボスを寸分違わず合わせる真美堂の技

 

「私も、語らずにはいられない大好きなストーリーがあるんです。」宮前が話を継ぐ。

「真美堂さんに作成いただいたテスト版を、全盲や弱視のIBM社員にお渡ししてインタビューさせていただいたんです。そうしたら『浮き出し加工のカレンダーが存在することを初めて知った。すごく分かりやすかったので、多くの人の手に渡ってほしい』とか、『初めてIBMのロゴや書体を確認することができた!』とか、とても嬉しい声をいただけました。

これはぜひ実際に触ってみて欲しいんですが、IBMの『M』の一番下のところに、すごく小さいポッチのような浮き出し加工がされているんです。IBMのストライプロゴが、8本線から成っていることがわかるように。」

 

「そうそう。それから、『私たちも仲間に含めてもらえていること、IBMの一員として認められていることが伝わってきて、感動しました』とも言ってもらえたよね。」彌永が加えた。

 

 

● 価値を新たに | 伝統と革新。職人芸と先進技術。調和と独自性。

最後に、改めてこれまでを振り返りどう思うか、そして今後どんなことが起きたら嬉しいかを4人に聞いた。

 

益成 宏樹 | 当初思っていたよりもプロセスは大変だったけれど、この4人がそれぞれの強みを持ち寄れたこと、そして後押ししてくれるIBM社員が周囲にたくさんいたことが、この結果につながったと思っています。まずは何より、この素晴らしいカレンダーをすてきな仲間と作り上げることができたことに、大・大・大満足しています。

そして『社員4人の取り組みが、40年以上にわたる伝統を変えることができる』ということを証明できたことの意味は、社内的にも決して小さくないとも思っているんです。

とはいえ、これで終わりとはまったく思っていません。他にも本質的な意味の観点から見直すべきものはまだ社内に数多く残っているとも思っているので、これを始まりにしたいですね。

 

宮前さやか | 自分の人生と同じくらいの長さを持つ、これだけの歴史と伝統あるものの変化に参加できる経験って、そうそうないと思うんです。『本当に素晴らしい形にできた! やり遂げてしまった!』という達成感が、今は本当に大きいです。

営業部マネージャーの1人という立場からは、お客様に手渡す営業部員の皆さんには、1分でも2分でもいいから、しっかりこのカレンダーに込めたIBMの思いをお客様と会話してほしいなって思います。

 

小笠原 真哉 | 少し気の早い話ではありますが、このデザインが3年先、5年先と、紙の壁掛けカレンダーというものが存在する限り続いてほしいですね。ユニバーサルデザインに取り組む事への価値や意味の浸透には、それくらいの時間がかかるものだと思いますから。

そしてこれは私の願望ですが、このカレンダーに何かの機会で触れたお子さんたちが点字という存在を知り、あらゆる人たちと分かり合い、つながり合うための『ユニバーサルデザイン』を通して、より広いダイバーシティー&インクルージョンに興味や関心を持ってもらえたら最高ですね。

 

彌永 まりえ | まずはIBM社員のみんなに、「見て! 触って! 本当にすてきでしょう」って私は、言いたいです。だって高級百貨店に並んでいてなんら違和感のないレベルの、本当によいものだと思っているから。

だから、さっき小笠原さんが言っていたように、これがしっかりIBMの新しい文化として根付いてほしいと思います。

そして「来年はぜひ自宅にも飾りたい」って、そんなふうに言っていただけるお客様がたくさんいらっしゃったら嬉しいですね。そうした声に応えていけるようにしたいです。

デザインを検証するメンバー

 

伝統と革新。職人芸と先進技術。調和と独自性。

そんな言葉を、宮前が最後に再び思い起こさせた。

 

「IBMは、古くはタイプライターの世界にイノベーションを持ち込んだ会社。その時代から、クラフトマンシップへのこだわりを持って、より多くの人に価値を提供することへの追求を続けてきた企業です。

その一員として、誇れるものを生み出せたことが本当に嬉しいし、IBMのあらゆる施設にこのカレンダーが設置されてほしいですね。

この記事をご覧になり、『まずは見てみたい!』と思った方は、ぜひIBM社員にお声かけいただきたいです。それが、あらゆる人たちがお互いの環境を思い合い、より良い関係へとつながる一歩になると、私は思っています。」

参考 | オープンソース・フォント「IBM Plex」誕生の経緯

参考 | IBM Selectric typewriter

 


 

TEXT 八木橋パチ

 

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