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「心のバリアフリー」を広げるために(Divers Map × IBM九州DXセンター) | PwDA+クロス10

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日本アイ・ビー・エムグループの社内コミュニティー「PwDA+」では、障がいの有無に関わらず、誰もが自分らしく活躍できる会社の実現を目指し、障がいのある社員とアライ社員(当事者を支援する社員)が日々さまざまな活動を実践しています。

社外の団体・個人とも積極的にコラボレーションを行っており、それらの活動のいくつかは「PwDA+クロス」としてブログ記事でも紹介しています。

以下はその第一弾記事として、2023年2月に公開した記事に掲載したものです。

これまで、社内での活動を「インサイド・PwDA+」というシリーズで紹介してきましたが、今後は、その目的をさらに強く意識し、より広く「暮らしやすい社会づくり」に向かいたいという思いから、その実現に向けて活動している実践者たちとの対話・共創活動も発信していくこととし、「PwDA+クロス」というシリーズ名を付けました。クロスという言葉には、「出会う」「交わる」「乗り越える」などの意味があります。今後の「PwDA+クロス」の活動・発信にご期待ください。

https://www.ibm.com/blogs/solutions/jp-ja/iot-pwda5/

 

そして2024年02月には、車いすやベビーカーの利用者が「通りづらい道」を避け、安全に通れるルートを共有できるアプリ「DiversMap」の街歩きイベントと、アプリ開発の取り組みを、以下の記事にて紹介しました。

参考 | バリアフリーアプリ「DiversMap」街歩きイベントレポート | PwDA+クロス4

 

上記記事公開後も、IBM九州DXセンターのメンバーが中心となり、Divers Project代表の内山大輔さんとはコミュニケーションを続けているのですが、ここ数カ月、内山さんやDiversの活動が急速に勢いを増し拡大しているのを感じているところです。

今回、北九州初開催となる「Divers Map まち歩きイベント in 北九州」に参加し、内山さんと一緒にイベント運営や協賛・協力している方たちにお話を伺い、ステップアップの秘密を探ってきました。

2024年10月5日に北九州市黒崎にて開催されたイベントでのトークセッション、ワークショップ、街歩きなどの様子

 


目次


 

● エフェクチュエーションとクレイジーキルト

イベントの様子やお話を聞いた方たちの話をご紹介する前に、皆さんに一つ質問です。

「エフェクチュエーション」という言葉をご存じでしょうか。

 

「変化が激しく不確実性の高い状況・時代にとりわけ効果的な、未来を創造していくための実践アプローチ」と説明されることの多いエフェクチュエーションは、優れた起業家が共通して実践している意思決定パターンの体系化から生まれたもので、数年前から起業家や経営者の間で話題となっています。

5つの原則を持つエフェクチュエーションですが、そのうちの1つが「クレイジーキルトの原則」と呼ばれるもの。出会いを大切にして、興味関心でつながった異なる背景やリソースを持つ方たちをパートナーとして共創価値を産もうというマインドセットを示しています。

 

今回、内山さんの活動の秘密を探る中で浮かび上がってきたのが、このクレイジーキルトの原則です。

クレイジーキルトとはもともと、大きさや形、色、柄、形が異なるさまざまな布を、ランダムに縫い合わせて刺繍を施したキルトのこと。その独創性から、観賞用として、あるいは手芸として高い人気を誇っています。

内山さんは、異なるフィールドで活動している人たちとの出会いを積極的に活かし、自らも変化しつつ、多くのパートナー(個人的には、「仲間たち」という言葉の方がよりふさわしい気がします)との共創を通じてその活動を広げています。

 

そんな内山さんの仲間たちに、内山さんとDiverse Projectに協力している理由とご自身の活動について、街歩きイベント会場でお聞きしました。

 

 

● JST-SOLVE「公共空間マネジメントDXプラットフォーム」(高取千佳)

高取 千佳(たかとり ちか) | 九州大学大学院 芸術工学研究院 准教授。博士(工学・東京大学)。地域の関係者と一緒に考えながら将来のビジョンを描き、公共空間マネジメントの研究・実践活動に取り組んでいる。専門は景観生態学、都市計画。

 

内山さんとの出会いですか? ちょうど一年くらい前でしょうか。すでに4〜5回イベントを共催していますし、準備などのやり取りも多いのでついついもっと昔から知っているような気がしてしまうのですが、案外と最近です。

きっかけは九州大学 総長補佐で、IoTとAIの研究で知られている荒川教授に、「高取さんの公共空間の研究と相性の良い取り組みをしている車いすユーザーの学生がいるよ」と、当時はまだ学生だった内山さんをご紹介いただいたんです。

 

私の「公共空間の研究」というのは、2023年9月に文部科学省の事業の一つである国立研究開発法人科学技術振興機構(略称JST)に採択された、JST-RISTEX SOLVE for SDGs「移動困難者の回遊・交流・社会参加を実現する公共空間マネジメントDXプラットフォームのシナリオ創出」というものです。

内山さんのDiverse Mapの取り組みと重なる部分も非常に大きいのですが、私の研究では、車いすセンシング・AIカメラの活用や、移動困難・制約者と街のサポーターのマッチングなども対象として、取り組みの一つとして、車いすやベビーカーの方のためのルート探索アプリを開発しています。

 

社会実装可能性の検証準備としてイベントなども行っていたんですが、初めてお会いした際にその話を内山さんにしたところ、ものすごい熱量で「一緒にやりましょう!」と言われたんです。

その後もメッセージでどんどんと情報が共有されて…。気づいたら今年1月から一緒にイベントをやるようになっていて、それ以来2カ月おきに実施しています。本当にすごいですよね。内山さんの周りを巻き込む力。

 

今後ですか? 内山さんと一緒に車いすでの街歩きイベントを続けていきたいですね。

それはやっぱり、移動制約者の方たちにもっと回遊・交流・社会参加を楽しんでもらえる街づくりにつなげたいからです。それには、「実際に人が歩いて実証した安全なルート」と「車いすに取り付けたセンサーで取得したデータによる解析」の両方があった方がいいし、さらには、車いすでの街歩きイベントに参加した人たちの、心の変化も大きいからです。

参加者アンケートでは、「車イスユーザーを目にしても、どうしていいかわからないから何もしない」と考えていた人の多くが、「今後はもっと積極的に、車いすユーザーに声をかけていく」と変化することがわかっています。

この活動で「心のバリアフリー」も進めていきたいですね。

参考 | 知っていますか?街の中のバリアフリーと「心のバリアフリー」 | 政府広報オンライン

 

● FaiREE(ファイリー)障がい者専用駐車場バリアフリーマップ(白石凌祐)

白石 凌祐(しらいし りょうすけ) | 株式会社ドーワテクノスにて新規事業開発に従事後、2024年2月株式会社FaiREEを設立。車いすユーザーである祖父と出かけた家族旅行での苦い経験をもとに、障がい者専用駐車のバリアフリーマップの開発・展開に取り組む。

 

内山さんとの出会いですか? 直接会って話したのはまだ最近でして、1カ月くらい前ですね。その存在は以前から知っていたんですけどね。

知り合ったきっかけは、IBM九州DXセンター長の古長さんです。「車いすユーザーのための駐車場マップを作っている? 白石さん、それなら絶対に内山さんに会ったほうがいいわよ!」とご紹介いただきました。

そのあとすぐ直接お会いしてお話させていただいたんですが、驚きましたね。だって「嘘でしょう!?」ってくらい、やりたいことや世界観がものすごく近くて。

 

やりたいことですか? それは障がい者をはじめとした移動制約者の方たちにもっと日々を楽しんでもらえるよう、さまざまなバリアフリーアプリを使いやすく統合した、いわば「マスターアプリ」と呼べるようなものを提供することです。

今は、目的別のアプリがそれぞれ独立した存在として提供されています。たとえば、内山さんのDivers Mapなどの安全なルート案内アプリ、道路などの周囲の状況を音声で伝えてくれるアプリ、多目的トイレやバリアフリーレストラン、バリアフリー駐車場を探せるアプリ、といった具合です。そして多くの場合、カバーしているのは特定の地域だけということが多いです。

これを、いちいちアプリを切り替えずにストレスなく一貫して使用できるようにしたい。使いやすいユーザーインターフェースで「これ一つあればOK!」というふうにしたいと思っているんですが、この話をしたら、内山さんが「僕もまったく同じことを考えているんです!」って。

 

数年以内には、「マスターアプリ」に取り組みたいと思っていますが、今はまず、高機能・高精度の障がい者専用駐車場のバリアフリーマップの開発・展開を入り口として行っています。

僕が今年2月、株式会社FaiREEを設立したのは、車いすユーザーである祖父との旅行がきっかけなんです。

祖父はもともとすごく活発で旅行好きだったんですが、数年前に交通事故に遭い、車いすユーザーとなりました。それ以来、「迷惑がかかるから…」とずっと遠慮し続けていた祖父をどうにか説得し、ようやく一緒に家族旅行に行ったんです。でも、楽しみにしていた目的地で、車いす用駐車場が空いておらず…。こういう経験を、もう誰にもして欲しくないですね。

 

実は、内山さんと知り合った翌週、一緒に長崎に「車いす旅」動画シリーズの撮影に行ってきました。すごくないですか? 会った日に即決ですよ。「来週長崎に撮影に行くんですが、もしよかったら…」「行きます!」って。

今、絶賛編集中なので、完成したらぜひ多くの人に見ていただきたいですね。「車いすならでは」の旅行の楽しみ方なども紹介していくので、楽しみにしていてください。

 

● Divers Mapと「心のバリアフリー」を広げるために(内山大輔)

さらに2名の方にお話を伺ってみました。

 

・ あいふろいでグループ代表 吉谷 愛さん

私は「障がい者1000人をエンジニアに育てる」という使命を掲げて就労支援事業所を運営しているので、利用者の方たちにアプリ開発経験を積んでもらうことができ、同時に障がいがある方の支援もできるということで、内山さんの活動を支援させてもらいました。

参考 | 「何度でもやり直せる社会に」あいふろいでグループ代表 吉谷 愛 | PwDA+クロス9

 

・ KCS福岡情報専門学校学生 上運天さん

内山さんは学校の先輩で、私はDiversが学生団体として活動していた頃からずっと参加しています。理由は、単純におもしろいからです。先輩と活動していると、イベントなどを通じていろんな意見や考え方をする人たちとも出会えて、本当におもしろいんです。コロナ禍でも楽しく充実した学生生活を送れたのは、内山先輩のおかげです。来春の学校卒業後も、なんらかの形で関わり続けていきたいです。

 

最後に、内山さんに今後の活動予定と抱負を語っていただきました。

(写真左)内山 大輔(うちやま だいすけ) | 中学生の頃からの車いすユーザー。横断歩道の小さな段差が原因で大怪我をした経験もあり、「車いすで街に出かけにくい問題」の解消に取り組む。学生時代に学生アプリ開発団体「Divers」を立ち上げ、卒業後の現在「Divers Project」に。

 

多くの方たちと活動をご一緒させていただくことで多くのことを学ばせてもらっています。また、多くの企業や組織の方たちにもアプリ開発やイベント開催に協賛・ご支援をいただいていて、皆さんの気持ちや期待にしっかり応えていきたいと思っています。本当に、皆さんには感謝しかないです。

 

Diversを支援していただいている高取先生のJST-SOLVEのプロジェクトに僕もメンバーとして参加しているのですが、実は昨日、そこで学んだ『心のバリアフリー』の重要性を改めて強く感じる経験をしました。

福岡・天神地下街で、電動車いすが突然壊れてしまうというアクシデントが発生したんです。通路の真ん中で立ち往生している車いすの僕の脇を、数百人の人たちが通り過ぎていきました。でも、中には声をかけてくれる人も、5人くらいはいらっしゃいました…。

 

今後、バリアフリールート共有アプリ『Divers Map』をよりよいものへと改良していく中で、必要なときには周囲にサポートを求める機能や、周辺のお店に助けてもらった際にはサンクスポイントを送る機能などの実装も視野に入れています。

それから、まち歩きイベントはこれからも2カ月に一度は開催していきますし、仲間を増やして開催地も広げていけたらいいなと考えています。ご興味をお持ちの方にはご連絡いただきたいですね: diversproject.contact@gmail.com

 

そしてぜひ、この記事を読んでいただいた方がたにも、Divers Mapのような助け合いアプリの開発に積極的にご協力いただければと思います。そして街中で困っている様子の障がい者を見かけたときには、ひと声かけてもらえると嬉しいです。

 


TEXT 八木橋パチ

 

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