IBM Sustainability Software
炭素会計(カーボンアカウンティング)とは(その1)
2023年09月25日
記事をシェアする:
温室効果ガス排出量の的確な算定と、適正な排出量の削減目標を設定するために
「炭素会計(カーボンアカウンティング)とは(その1)」では以下4つのポイントをご紹介します。
- 炭素会計(カーボンアカウンティング)とは
- 炭素会計が重要な理由
- 炭素会計の課題
- ESG専用ソフトウェアのメリット
炭素会計(カーボンアカウンティング)とは
炭素会計(カーボンアカウンティング会計)とは、企業および国の活動から直接・間接的に排出される二酸化炭素をはじめとする温室効果ガス(GHG)の量を、一定枠内で算定する取り組みです。
人間の活動によって排出される最も一般的な温室効果ガスは二酸化炭素(CO2)なので、その他の主な温室効果ガスにはすべて、二酸化炭素換算数値であるCO2e(CO2 equivalent)が与えられています。
ある温室効果ガスのCO2eは、そのガスの量に地球温暖化係数(GWP)を乗じて決定されます。GWPは、二酸化炭素1単位を基準として、そのほかの温室効果ガスがどれくらい放射強制力(地球を温暖化させる能力)があるのかを示した数字です。
GWPが高いほど、その温室効果ガスは地球温暖化に大きな影響を及ぼします。
投資家や企業が脱炭素化へのコミットメントを次つぎと示す中、GHG排出量の的確な算定・報告への要求は急速に高まっています。2023年2月現在、世界のGDPの92%を占める国と地域が、2050年までのネット・ゼロ達成を表明しています。
GHG排出量の算定・報告に最も一般的に使用されている国際的な基準は、GHGプロトコルです。GHGプロトコルのコーポレート基準は、排出量を3つのスコープに定義し分類しています。
スコープ1
事業者自らによる温室効果ガスの直接排出
「直接排出」とも呼ばれるスコープ1の排出は、企業が所有または管理する排出源から直接排出されるものです。たとえば、製造工程から発生する排出、漏洩排出(石炭採掘によるメタン排出など)、石炭を燃やすことによる自家発電による排出などが含まれています。
スコープ2
他社から供給された電気・熱・蒸気などの使用に伴う間接排出
「間接排出」とも呼ばれるスコープ2排出は、企業が購入した電気、蒸気、暖房、冷房から排出されるものです。2015年、GHGプロトコルのガイダンスが改訂され、スコープ2排出量を計算する際はロケーション基準(グリッドベース)手法とマーケット基準手法の両方を用いることが推奨されるようになりました。
スコープ3
Scope2以外の間接排出(自社の事業活動に関連した他社の排出)
しばしば「バリューチェーン排出」とも呼ばれるスコープ3排出は、自社の事業活動に関連したあらゆるサプライヤーからの温室効果ガスの排出を指します。
平均的に、企業が直接排出する量の5.5倍に相当する量が当該企業のバリューチェーンから排出されているといわれています。したがって、企業はバリューチェーンに影響を及ぼすことにより、グローバル規模での排出削減に大きく寄与することができます。
炭素会計が重要な理由
正確で詳細なGHG排出量データへのアクセスは、排出量削減努力や戦略の効果的な策定や、排出量削減イニシアチブの効果追跡や分析をしようとする企業にとって不可欠です。
多くの場合、企業は炭素排出量ネットゼロの目標達成のために、エネルギー効率改善や自然エネルギーの導入、オフセット証書などのクレジット取引などを行うこととなります。
どこが排出源となっているかを示す詳細なデータは、排出削減努力の方向付けに役立ちます。さらに、GHG排出量を継続的に追跡することで、削減イニシアチブが望ましい結果を達成しているかどうかが分かり、的確な打ち手を講じることができます。
ESG報告のための情報開示
GHG排出量データは、ネットゼロ目標に対する進捗状況を追跡・開示したい組織にとって不可欠です。
炭素会計は、環境・社会・ガバナンスからなるESGレポートの「環境」における重要要素です。ブラックロックのラリー・フィンクCEOが2020年のCEO宛書簡で強調したように、「サステナビリティ・リスクは投資リスクである」という認識が投資家や金融機関の間で高まっており、ESGレポートの重要性は急拡大しています。
ESG開示フレームワークでは、定量的または定性的な情報を提供し、点数などを用いて同業他社との比較ベンチマークを提供します。この情報は主に、投資家、株主、取締役会による企業価値判断などに活用されます。
報告フレームワークは、企業活動が環境にどのような影響を与える可能性が高いか、また気候変動が、企業の財務的あるいはその他の価値を生み出す能力にどのような影響を与える可能性が高いかを示すものです。
この情報は主に投資家、保険会社、債権者といった財務上の利害関係者に関連するものですが、一般の人びとにも関連する可能性があります。
ESG開示フレームワークは例外なく企業活動の環境に対する影響の開示を要求しており、そこにはGHG排出量が含まれることとなります。
投資家のESGパフォーマンスに対する関心の高まりを考えれば、企業の炭素会計の処理方法には、金融機関対応レベルの厳密性が求められるようになったのも当然といえるでしょう。
炭素会計の課題
炭素会計は複雑なプロセスであり、算定には正確な現在と過去のエネルギー利用データと、多数の因子が揃っている必要があります。
エネルギー利用データは、排出量をその発生源までさかのぼって開示し、コンプライアンスに対応することができるよう、組織の階層と関係性を反映したものでなければなりません。
また、企業のネットゼロ目標に対するパフォーマンスを開示期間ごとに比較してベンチマークできるよう、データは定期的に更新される必要があります。
さらに、データ収集と排出量計算の方法は、国際的に受け入れられている基準に根ざしたものでなければなりません。
多くの企業は、年次炭素会計とESG評価の複雑な計算プロセスを、手作業によるデータ収集とスプレッドシートを用いて実行しています。
これは人的エラーによるリスク増大と生産性の低下を引き起こしています。特に、複数の開示フレームワークに対応することとなるグローバル企業においては、大きな課題となっています。以下、代表的な課題を羅列します。
– データの分散・サイロ化。スプレッドシートでの保管
炭素、エネルギー、廃棄物、水、社会的取り組みの状況などの指標は、事業全体にわたる異なるソースから取得され異なるリポジトリーに収められているので、レポーティングや意思決定に用いることが困難な状態となってしまっています。
– データの質に一貫性がなく、信頼性に欠ける
手作業で取得したデータは、人的ミスにより不正確あるいは不完全なものとなっている可能性が高いと言わざるを得ません。
金融機関対応レベルの報告書を作成するには、データそのものの信頼性と、データ収集からレポート作成に至るまでのプロセスの双方が、監査に耐えうるものである必要があります。
– レポート作成がサステナブルではない(膨大な時間と費用)
企業規模が大きくなれば、活動データを取得し、排出量算出に必要な係数を管理・配分するプロセスは、手作業でスプレッドシートを用いて管理するにはあまりに時間と労力がかかり過ぎます。
– サステナビリティ・パフォーマンスを継続的に把握できていない
統合された正確なデータにアクセスできなければ、持続可能性パフォーマンスを継続的に監視・管理することは難しく、サステナビリティ・プロジェクトのパフォーマンスを継続的に追跡・分析することはできません。
ESGレポーティング・ソフトウェアのメリット
ESGレポーティング・ソフトウェアを使用することで、企業はデータの収集、保存、分析に関する多くの課題を解決することができます。
企業のサステナビリティ・パフォーマンスに関するデータ収集を自動化し、単一記録システムに統合することが可能となり、さらに、重要な洞察を生み出し、脱炭素化目標に向け大きく前進するのにも役立ちます。
以下、ESGレポーティング・ソフトウェアの代表的なメリットを羅列します。
– データ収集の合理化
ESGレポーティング・ソフトウェアは、幅広い種類のデータ収集を通年で自動化します。
ソフトウェアには、データの割り当てや報告ルールの事前定義や、データの完全性と品質の検証をレポーティング時期に先立って行う豊富なツール群が含まれているべきです。
– レポートへの高信頼性
ESGレポーティング・ソフトウェアは、データ収集からレポート作成に至るまで、プロセスのあらゆる段階で監査に耐えうる信頼性を担保し、金融機関対応レベルの正確性と適時性を提供するべきです。
– 全社的なエンゲージメントの促進
理想的なESGレポーティング・ソフトウェアは、多様な利害関係者に信頼できる情報源へのアクセスを提供し、それぞれの事業領域でサステナビリティの成果を出せるよう円滑に情報と洞察を提供することで、全社的な協力体制を築きます。
– 戦略の重視
ESGレポーティング・ソフトウェアは、コンプライアンスと管理レポーティングに関する使い勝手の良いテンプレート群を提供することを通じ、価値向上のための戦略的な取り組みにより多くの時間を費やせるように支援するものでなければなりません。
– 監査と保証の簡素化
ESGレポーティング・ソフトウェアは、裏付けデータやドキュメント、監査証跡などのすべてを一カ所にまとめた単一システムを通じて、サステナビリティ・データを監査人に容易にかつ迅速に共有できるようにするものであるべきです。
– KPIの管理と追跡
理想的なESGレポーティング・ソフトウェアは、事前に設定したベンチマークやKPIに照らし合わせて、サステナビリティ・パフォーマンスを継続して測定・追跡・分析することができるものです。
「炭素会計(カーボンアカウンティング)とは」の(その2)と(その3)では、それぞれ以下をご紹介します。
- 金融機関対応レベルの炭素会計データの確立
- 報告・開示のためのGHG排出量の計算
- 複雑な炭素会計をマスターする
- ESGレポーティング・ソフトウェアの必要要件
- 炭素会計が生みだす機会
当記事は『What is carbon accounting?』を日本の読者向けに編集したものです。
製品・サービス
問い合わせ情報
この記事を読んだあなたへのおすすめ
日本Maximoユーザー会2024@天城ホームステッド 開催レポート
IBM Partner Ecosystem, IBM Sustainability Software
2024年10月15〜16日の2日間に渡り、IBM天城ホームステッドにて1年半ぶりの「日本Maximoユーザー会」が開催されました。 石油・化学企業、産業機械製造企業、エネルギー企業、エンターテインメント企 ...続きを読む
トヨタ紡織「 A-SPICE レベル3」取得活動事例 | シートシステム/車室空間開発の未来に向けて
IBM Partner Ecosystem, IBM Sustainability Software
「Automotive SPICE(A-SPICE)の取得を意識し、実際に検討を本格化したのは2021年です。そして昨年2023年3月にレベル2を取得し、そこから約1年半で今回のA-SPICE レベル3の取得となりました ...続きを読む
「何度でもやり直せる社会に」あいふろいでグループ代表 吉谷 愛 | PwDA+クロス9
IBM Partner Ecosystem, IBM Sustainability Software
「日本は一度ドロップアウトした人にとても厳しく、いわば『敗者復活』の機会が残念ながらとても限られています。ただそんな中で、半年程度の準備期間で再チャレンジの機会を手に入れられるのが『IT』です。 私自身、ITに救われた身 ...続きを読む