IBM Data and AI

【セミナー抄録】製造データからはじまる設計開発の新潮流

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2023年4月12日(水)13:00-14:00に開催されたセミナー「製造データからはじまる設計開発の新潮流 〜IoTデータを設計開発に活用するアーキテクチャーとデジタルツイン構築のポイントとは?」の抄録です。

 

製造業における設計開発におけるデータ連携の必要性

ある調査によると、製品設計力は5年前に比べてあまり変化がないとの回答が半数以上に達しています。製造工程のIoTやAI化は進んでいますが、製品設計工程については会社によってばらつきがあるのが現状です。そこで、進化をするために、部門間・企業間連携の必要性が高まっており、特に製品設計のリードタイム短縮を図るための、生産技術・製造部門間でのデータ連携の必要性が高まっています。

 

目指すべき改革のケース

設計力を製品設計力と工程設計力に分けて、連携が取れているか、データ連携の質はどうかに着目すべきです。その観点から、製造データなどを活用した、部門をまたがった設計開発の改革のケースは3つあります。

1.大量のデータによる製品・工程設計の品質向上

担当者は、出図、生産準備、初期流動などフェーズを切って品質を確保するのに苦労されています。また、品質の確保を、生産・製造のエキスパートに頼っている現状があります。
そのため、今後は製造で生み出されるデータから、不具合や改善の洞察を得て、エキスパートに頼らずに製品設計・工程設計の向上を目指す必要があります。

2.検査工程の刷新、品質予測・全数検査廃止

検査工程を人に代わってAIを使って自動化を進めている企業が多くなっています。
さらに、検査内容を拡張したり検査レスを前提とした製品・工程設計にしたり、工程の早い段階で歩留まりを予測し納期遅れをなくすアプローチへのシフトを目指す必要があります。

3.製造工程の刷新、最適プロセス化

多くの企業で既存の製造工程の改善・プロセスの改良に留まっている現状があります。
工程を改良するのではなく抜本的に変更することを目指し、研究開発の初期の段階から最適な製造工程のための設計開発を行う必要があります。

 

改革を目指すにあたっての問題点

最近では、検査工程で人間による検査から自動化にむけて大きく進化しています。特に、センサーやAI技術・およびロボット技術が大きく向上し、検査内容の拡大や検査予測にむけての取り組みが進められています。例えば、従来の抜き取り検査では全数検査ができませんでしたが、センシングデータから、加工条件、工程設計にフォードバックすることで効果を出していくことが可能になっています。

このように、データからの洞察やAI・自働化を推進するためには大量のデータを効率よく扱うことがが求められます。しかし、現場では人力でのデータ収集・利用が行われており、データ収集に大量の工数が必要なことから、以下のように思うように進んでいません。

  • 設計開発で検討・制御すべきパラメーターが膨大かつ微細になり、人力でのデータ収集が困難
  • 新製品の評価に必要なデータフォーマットを決めても、データのクレンジングや成形に都度、時間と工数を要する
  • 部門(量産工場と研究開発)をまたいだ原因分析や情報取得には、過去のデータが個人に紐づくため、人づてに確認していく必要がある
  • 工程や業務ごとに、異なる形でデータを扱っているため、検討内容が製品に紐づいておらず、類似の再検討の必要が生じる

人力でなく、自動化されデータが活用できる環境を用意することが喫緊の課題です。製造データを活用するための、データの流れを整理し処理する、以下のようなIT/IoTアーキテクチャーの設計が必要なのです。

  • 定型的なデータ処理を自動化し、省力化を図る
  • データ項目の追加・変更を容易にし、利用しやすいインターフェースを用意する
  • 量産(事業部)と研究開発のデータをつなぐ仕組みを作る
  • IT部門で管理している材料・製品マスターとIoTで識別する材料やワークのIDが一致し、情報を辿れる仕組みを作る

 

データ活用の観点

このアプローチをする上で、2つのデータ活用の観点で取り組むことが効果的です。

①エンジニアリング・ツイン

その1つが、エンジニアリング・ツイン、いわゆるデジタル・ツインです。
環境や画像・摩耗や異音など各設備の様々なセンサーが膨大なデータを生成します。データには、以下の特徴があります。

  • オペレーションで生み出される多くの種類(環境、製品形状、特性値など)の大量のデータである
  • サンプリングレートや精度が向上したセンシングデータである
  • 主にIoT技術を使いIoT主管部門が管理するデータである

同期的なデータ活用をする製造工程とは異なり、設計開発においては非同期でこれらのセンサーデータを活用します。データの相関関係や傾向を抜き出し、エンジニアリングに活かします。

②管理技術と固有技術データ

一方、設計開発から製造までのバリューチェーンにおいて、連携されるデータには管理技術にかかわるデータ(部品表・原価・納期・生産計画など)と固有技術にかかわるデータ(製品や工程の設計仕様・材料・許容誤差など)が存在します。これらのデータは業務のトランザクションに伴って増加します。また、データはPLMやERPなどのシステムごとに分かれています。データには、以下の特徴があります。

  • 製品開発や生産など各部門の業務・トランザクションによって生み出される
  • 製品マスターや部品マスターなどIDをもとにしたデータである
  • 複数のシステムが存在し(PLM,ERPなど)マスター管理などは個別管理されている例も多い
  • 主にIT部門が基幹業務システムとして管理するデータである

 

データ活用のアーキテクチャー設計のために

データ活用のためのアーキテクチャー設計では、①エンジニアリングツインのセンサーなどのデータと②BOMや製品仕様などに記録される管理や固有データを、どのように組み合わせて活用するかが鍵となります。そして、データ活用の5つの機能を意識して設計する必要があります。

  • 収集:どのようにデータを収集するか
  • 変換:どのようにデータを加工し変換するか
  • 保存:どのようにデータを基盤に格納するか
  • 分析:どのようにデータを使って分析を行うのか
  • アプリ化:どのように分析を定型化・自動化するのか

 

IT基盤の「リファレンス・アーキテクチャー」

通常、システム化するためのIT要件は、ユースケースから業務分析をし、並行してデータ活用の観点で整備します。次に、要件に基づく基盤構築・拡張を行いますが、検討するためのリファレンス・アーキテクチャーがあります。試作・量産ラインで得られる情報を研究開発で活用する「データ駆動開発基盤」に連携するリファレンス・アーキテクチャーです。
このアーキテクチャーは、①IoTデバイスを使って量産・試作ラインシステムから引き上げたデータを、データ駆動開発基盤に流す方法と、②業務システム(ERPなど)から量産・試作ラインシステム(生産計画、MES、PLC)への流れを示しています。
①はエンジニアリングツインデータであり、IoTデバイスから収集、変換、保存、分析を行います。②は固有技術・管理技術データであり、BOMなどのデータの一部とうまくつなぐことによって、製造データ活用の幅が広がります。工場量産DB(設備、在庫など)をハブとして①と②を連携できます。

 

MVP開発からIT基盤構築へ

迅速な業務適用のため、MVP(実行可能な最小限の製品)開発の手法を適用し基盤の活用を促進します。早期利用環境を用いてユースケースを検証すると同時に、IT要件を抽出しデータ基盤を拡張していくことで、ビジネス効果を最大化します。

 

MVP開発の進め方

IBMクライアント・エンジニアリングは、スタートアップのように早く、エンラープライズのスケールででお客様と共創します。多彩なチームとアジャイルな手法でできるだけ小さく作って、進めていく中で失敗しても、見つけたものを次に活かして成功に早く近づけることを得意にしています。データを司るテクノロジーであり、SaaSやソフトウェアとして購入いただけるIBM Cloud Pak for Data(以下、CP4D)を使いながら課題を解いていきます。

では、どうやってMVP開発をしていくのでしょうか、お客様のデータ基盤を構築するのでしょうか。まず、ウォーターフォールでなくアジャイルで、小さく区切られた期間のスプリントで小さく開発していきます。コンサルティングの活動と協力し、検証内容を決めてインプットにします。計画、実装、評価、整理を1サイクルで課題を整理していきます。
お客様が触ってイメージしたものと実装したもののギャップについて議論し、本当に求めていたものがどういうものなのかを評価していきます。うまくいかなかったもの(課題が残ったもの)は、実装を変えたり、他の機能と組み合わせたり、既存システムと連携したります。すぐに試せないものは積み残しをするものに分け、IT要件にインプットしていきます。この小さいサイクルを回すことによって、早く検証でき軌道修正ができるわけです。

 

実際の進め方の事例をご紹介

大手製造業様では、3ヶ月で3回のスプリントに取り組みました。データ基盤をどうすればよいか、どう活用すればよいか具体化していなかった中で、スプリントで実際に試すことで明確になりました。

スプリントでは、カタログの使い方を検証。どうやって管理されるのかを検証するのがスプリント1。それをインプットにして、スプリント2でデータ分析に入り、業務上実施している作業がどう自動化されるのかを検証しました。スプリント3では、データカタログの使い方、分析の仕方が分かってきた段階で、業務としてデータ基盤として実行していくのかを検証しました。

スプリント1

データカタログは、普段業務をしていると、個人のPCや共有フォルダーにたまっていきます。知らないと活用はできません。部門間ではアクセス権がなかったり、コピーすると他部門にも散在していってしまいます。会社・組織の資産にしていくのが、データカタログの使い方です。データの意味を整理して、すぐに使えるものにする。そうすると、データの属人が解消され、部門横断で活用されていきます。高齢化社会での退職や新人教育にも、資産として引き継ぎも円滑に行われます。エグゼクティブがダッシュボードとしてみることもできます。

「カタログ」というソフトウェアの名前や機能で議論するのではなく、実際の物を見ることで、業務の中でどう使っていくのか、どういったメリットがあるのかをイメージしながら議論を展開できます。机上では出てこない様々なデータ活用に向けた疑問、課題が浮き彫りになります。

スプリント2

次にデータ分析に着手。利用者のレベルや経験に依存しない環境を提供します。CP4Dの分析サービス(Watson Studio)を利用することによって、個人のPC、会社のサーバー、Pythonのバージョンの違いなど、従来は分析者によりバラバラだった分析環境が統一され、レベルの違う誰もが同じ土俵で分析可能になります。
また、コードやデータがプロジェクトの単位で管理され、一連の取り組みそのものが資産となります。カタログに
整理したデータ資産のそれぞれだけでなく、プロジェクトとしての取り組み自体も引き継ぎ可能になります。

業務の中で実施している分析をSPSS Modelerを利用して再現すると同時に、本来実施したい分析も簡易的に実装します。GUIベースで矢印をつないで実装していくのが特徴で、Pythonが書ける必要はなく、nodeの意味さえ分かれば、それをつないで実装ができます。また、分析結果はBIツールと連携しダッシュボードで可視化できます。分析、BIツールの連携を実装することによって、データ基盤としての活用イメージがさらに具体化します。

スプリント3

CP4Dが提供するGUIベースのデータ活用を体験しましたが、必要に応じて各種機能を連携させ、実行したい業務・ユースケースを実現していきます。データの場所に捉われず、他社クラウドとも容易に連携できます。CP4Dの一連の機能を使って、データの変換、加工、データクレンジング(データの前処理で欠損値をきれいにするもの)、データ分析、可視化をします。

MVP開発によって、漠然としていたデータ基盤について、どう使えば良いかが明確化され、カタログとデータ分析を一連の業務として使えることを示しイメージを掴むことができます。そして、出てきた課題をIT要件としてアウトプットできます。

 

以上は、4月12日(水)13:00-14:00に開催されたセミナーの抄訳です。本内容に関するお問い合わせは、次のフォームにお気軽にご記入ください。

 

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