Data Science and AI
世界の気候変動の追跡と対策への貢献を目指すIBMの新しい地理空間基盤モデル
2023年07月21日
カテゴリー Data Science and AI | IBM Data and AI | IBM Sustainability Software | IBM Watson Blog | ウェザービジネス
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IBMとNASAとのコラボレーションから生まれたwatsonx.aiモデルは、衛星データを洪水、火災、その他の気候変動の高解像度地図に変換し、地球の過去を明らかにし、未来を示唆するように設計されています。
現在、世界人口の4分の1近くが洪水のリスクのある地域に住んでおり、気候変動による海面上昇や暴風雨の増加に伴い、その数はさらに増加すると予想されています。洪水発生地域の正確な地図を作ることができれば、現在の人々や財産を守るだけでなく、将来的に危険の少ない地域に開発を誘導するための鍵ともなり得ます。
IBMが本日発表した新しい地理空間基盤モデルは、NASAの衛星による観測データを自然災害やその他の環境変化に関するカスタマイズされた地図に変換することで、この目標に向けた第一歩を可能にするよう設計されています。このモデルは、IBMが提供するwatsonx.ai地理空間サービスの一部であり、今年下半期にIBM Environmental Intelligence Suite(EIS)を通じてIBMのお客様にプレビュー提供される予定です。想定される用途としては、農作物、建物、その他のインフラストラクチャーに対する気候関連リスクの見積もり、カーボン・オフセット・プログラムのための森林の評価とモニタリング、気候変動の緩和と適応のための企業戦略立案を支援する予測モデルの開発などがあります。
NASAとの宇宙開発協定(Space Act Agreement)の一環として、IBMはわずか4ヶ月前に、地理空間データを分析するための史上初の基盤モデルの構築に着手しました。基盤モデルという新しいAI技術は、自然言語処理(NLP)に革命をもたらしました。すなわち、基盤モデル以前は、タスクごとに新しいモデルを学習する必要があり、そのために大規模で高品質のデータの収集と計算が必要だったのに対し、基盤モデルでは、ラベルのついていないテキストで基盤モデルを学習しておき、追加の学習でそれぞれのタスク用にモデルをカスタマイズできるようになりました。そして今回、IBMリサーチは、人間の言葉で基盤モデルを学習するのではなく、衛星画像を理解するモデルを学習しました。研究者たちは、NASAのHarmonized Landsat Sentinel-2(HLS-2)データを使ってモデルの事前学習を行いました。HLS-2は、NASA/USGSの共同衛星Landsat 8に搭載されたOLI(Operational Land Imager)と、EUのCopernicus Sentinel-2AとSentinel-2B衛星に搭載されたMSI(Multi-Spectral Instrument)から得られた地表面反射光データを提供します。この組み合わせにより、30メートルの解像度で陸地の全球観測が2~3日ごとの周期で可能になります。
そして、歴史的な洪水や火事の焼け跡、土地利用や森林バイオマスの変化などを認識できるように、手作業でラベル付けした例をモデルに与えました。
このモデルの使い方はシンプルに設計されており、ユーザーが入力するのは地域、作成する地図の種類、日付の選択だけです。例えば、ユーザーが検索バーに “Port-de-Lanne, France “と入力し、2019年12月13日から15日までの日付を選択すると、モデルは洪水がどこまで拡大したかをピンク色で表示します。ユーザーは他のデータセットを重ね合わせて、農作物や建物に浸水した場所を確認することができます。このような可視化は、類似した災害シナリオにおける将来の計画に役立ちます。すなわち、洪水の影響の軽減、保険やリスク管理の決定への情報提供、インフラの計画、災害への対応、環境の保護などに役立つ情報を得られます。
IBMは、ビデオ処理用のマスク予測オートエンコーダーによるモデルを構築し、衛星映像に適応させました。時間の経過とともに変化する一連の画像を理解するモデルを訓練するため、研究者たちは各画像の一部をマスクし、モデルに再構築させました。多数の画像を再構築させることで、モデルはそれらの画像が互いにどのように関連しているかをうまく理解できるようになりました。その後、画像の分類やセグメンテーション(区分け)といった特定のタスクのためにモデルをファイン・チューニング(微調整)しました。このファイン・チューニングの一連の処理は、時空間データ用に改良されたセグメンテーション・ライブラリを用い、PyTorchベースになっています。
モデルの効率性を良くするため、研究者たちは一度に取り扱う衛星画像のサイズを縮小し、データを小さな塊にして、少ない数のGPUで処理できるようにしました。そして、IBMリサーチのスーパーコンピューター「Vela」で、のべ5,000GPU時間以上を使用してモデルを学習しました。
このプロジェクトからは期待できる初期的な結果が得られています。実験では、洪水や火災の焼け跡の場所を特定する最先端のディープラーニング・モデルと比較して、ラベル付けされたデータの量が半分で、15%向上した精度を記録しました。このモデルを使えば、地理空間分析を3~4倍高速化し、従来のディープラーニング・モデルの学習に必要なデータのクリーニングとラベリングの量を削減できることでしょう。
私たちは、気候データをより簡単かつ迅速に分析し、そこから洞察を得る方法を模索している企業にとって、この技術がどのように応用できるかを考えています。例えば、災害対応チームはこのようなソリューションを使って、住宅に影響を及ぼす火災に備えることができるでしょう。あるいは、大手の消費財メーカーは、現在、原材料を購入している地域にインパクトを与える気候変動、悪天候、地政学的リスクといったマクロトレンドの理解を深め、将来的にはどこで原材料の購入を検討すればよいのかを把握するのに役立てることもできます。また、大規模な農業関連企業が、土壌の劣化や水質保全活動、あるいは田畑から地域の水域への流出によって引き起こされる汚染を削減する方法をよりよく理解することで、地域環境や周辺コミュニティーに対する農作業の影響をより適切に測定、追跡、緩和するのにも役立ちます。
IBMはまた、Esri社やその他の企業と協力して、企業の資産や業務に関して、空間的な状況についての理解を深める手助けをするため、地理空間マッピングに関する他のプロジェクトにも携わっています。
最新の地理空間AIを試す
watsonx.ai上で動作する基本の地理空間基盤モデルとファイン・チューニングされたモデル群のプレビュー版は、すべてIBM EISを通して利用可能になる予定です。このリリースは、データサイエンティスト、開発者、研究者、学生にとって貴重なものになると確信しています†。
プレビュートライアルでは、これら2つのツールセットをEIS内で利用できるようにします。これには、開発者が使いやすいように、ファイン・チューニングされたモデルを使って推論するためのAPIが含まれています。また、これらのモデルを適用し、トリガーを作成し、作業キューを活用して適用現場の運用システムを稼働させるサンプルソリューションも提供しています。
IBM EISのプレビュー・バージョンを試すための申し込みは、こちらをクリックしてください。
この記事は英語版IBM Researchブログ「Earth’s climate is changing. IBM’s new geospatial foundation model could help track and adapt to a new landscape」(2023年5月9日公開)を翻訳し一部更新したものです。
† IBMの計画、方向性、および意図は、IBMの裁量でいつでも予告なく変更または撤回される可能性があります。将来の製品および改良の可能性に関する情報は、IBMの目標および目的の一般的な考えを示すために提供されるものであり、購入を決定するために使用されるべきものではありません。IBM は、この情報に基づいて、いかなる資料、コード、または機能を提供する義務も負いません。
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