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「病気の治療と仕事の両立」、誰もが自分らしく働けるインクルーシブな職場をめざして
2023年07月27日
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目次:
はじめに
近年の企業におけるダイバーシティーの考え方の浸透もあり、病気や障がいを持つ人が活躍できる職場が増えています。筆者自身も、病気治療を続けながらプロジェクトの第一線で働く当事者であり、また同時にマネージャーとして、病気や障がいにより業務の遂行が難しい社員を支援する役割も担っています。両方の立場を経験している筆者が、仕事と治療等とのバランスをとり、自分らしい働き方をするためにどのように取り組んでいるか、周囲はどのようなサポートを検討すべきか、自身の体験を例に考察します。
職場における多様性(ダイバーシティー)の重要性
多様性(ダイバーシティー)という言葉を聞く機会がここ数年でとても増えたように思います。多様性とは何か、その定義もさまざまですが、ここでは“性別、年齢、国籍、障がいの有無、宗教や政治的な信条など、我々の身体的特徴・文化的志向の違い” と捉えます。また、これらの違いを尊重し、受け入れ、お互いの個性や特性を活かそうとする考え方そのものも多様性ある考え方の1つと解して話を進めます。
さて、なぜこのように多様性が重要だと言われ、私たちが働く職場や身近な生活環境にも浸透するようになってきたのでしょうか。多くの観点がある中で、職場における多様な人材の活躍という点に着目すると、以下が主なポイントと言えます。
- 多様な視点で新しい発想が生まれる
- 多様な人材の能力を業務やビジネスに活かせる
- 障がいや病気を持つ方の雇用等の社会的責任を果たす
平成30年版厚生労働白書(※1)では、「障がいや病気などと向き合い、全ての人が活躍できる社会」というテーマで、障がい者、難病患者やがん患者らが最大限に能力を発揮し、個性を活かして生きていける社会、誰もが安心して暮らせる社会をめざした取り組みが推進されていることが述べられています。私の周りでも多様性が尊重され、いろいろな人材が多様な働き方を実践できる環境が整備されてきたと感じます。
当記事では、筆者が病気の治療を続けながら働き、また障がいのある社員と一緒に仕事をしてきた体験から得た気づき、対応の実例をいくつか紹介します。いま現在、障がいや病気を抱えながら働いている当事者の方や、あるいは職場に多様な人材を受け入れ、誰もが働きやすい環境を作りたいと考えている方の参考になれば幸いです。
病気や障がいを抱えて働く具体例
読者の皆さんに病気や障がいを持ちながら働くイメージを描いてもらえるよう、筆者と身近な社員の働き方をもとに3つのケースを取り上げて説明します。
- ケース1: 病気と闘いながら働き続ける場合
- ケース2: 障がいを持つメンバーと共に働く場合
- ケース3: 多様な個性 / 特性を持って働く場合
それぞれのケースで、働くうえでの制約や実際に対応したことを紹介します。
- ケース1: 病気と闘いながら働き続ける場合
病気を抱える人が治療の状況や症状などに応じて就業を続けることは、企業にとっては継続的な人材の確保や生産性の向上につながり、また当事者にとっては、自分の能力を発揮して会社や社会に貢献し、それにより収入を得ることができるなど大きな意義があります。
筆者の場合は2022年半ばから、国の難病指定を受けている病気と闘いながら業務を続けています。
以下は、私が治療を受けながら働く上での困難と、それに対し実際に対応してきていることです。
(1) 症状のコントロールが難しく、特定の時間帯に症状が悪化する傾向にある
私の場合は就寝する頃から症状が悪化し、翌朝から午前中まで継続することが多い傾向にあります。そのため、所属長や仕事の関係者に事情を話したうえで、会議は体の調子が良い時間帯にまとめることにしています。お客様対応や急ぎの作業が入る場合など、時間のコントロールが難しくなりそうな場合には、作業時間を調整してもらうなど周囲にフォローを依頼しています。
(2) 移動や長時間の会議が困難である
その日の体調により、出社や出張、長時間の会議への参加が難しいことがあります。
新型コロナウィルス感染拡大以来、出社や出張の機会が大幅に減少したことで、移動にまつわる負担が減りましたが、一方で、機会があればできるだけ人に直接会って会話したいという思いもあり、バランスを取っるのが難しいと感じることもあります。無理をせず、自分のコンディションと仕事の状況を見て、1つ1つの機会を大切にするようになりました。
(3) 定期的な通院、投薬治療の継続が必要である
病気を抱えて働いている方の中には、定期的な検査や通院治療を行っている方が多くいらっしゃると思います。私もその1人です。診察時間を調整し、できるだけ勤務への影響が出ないようにしていますが、やむを得ず、検査や通院のために仕事を休む場合もあります。
このような場合に備えて、周囲にあらかじめ、急に休んでしまった場合のカバー体制を整えてもらっておくのが理想です。誰かに迷惑がかかると心配したり無理をすることがなくなりますし、組織やチームでの支援体制が準備されているという安心感があることで、治療と業務を両立しやすくなります。
ここまで筆者の実体験を述べてきましたが、私の場合はいずれのケースでも職場の上司や仕事で関係する身近な人たちの理解が欠かせないと感じています。
病気を抱えながら仕事をしている方の中には、病気を周囲に知られたくないという方も多いと思います。以前は私もその一人でしたが、業務を続けていくためには、自身だけの調整では困難なことに気づき、考えを変えました。
病気の症状や職場環境、個人の考え方は人ぞれぞれですが、もし周囲に病気であることを伝えることで理解やサポートを得られそうな環境にいらっしゃる場合は、私のように、まずは業務の管理をする立場の人やチームに話してみることで、必要な配慮を得られ働きやすくなるかもしれません。
また、病気を抱えて働いている方と一緒に働く機会のある方は、そのひとの状況を把握し、配慮が必要かどうか、必要な場合はどのようなサポートがあればいいのか、当事者の方と率直に会話頂きたいと思います。病気の症状や治療を受ける当事者の意向はさまざまであり、一様に考えることはできません。しかし病気と闘っている方の中には、いつ業務継続が難しくなるかも判らない、という不安とも闘っている方も多くいるのです。
そのような不安を少しでも取り除くことができるよう、もし職場でそのような相談を受けたら、その人が治療と健康管理を優先しつつも、仕事にも十分集中して力を発揮できるよう、柔軟にサポートできる組織づくりに取り組んで頂きたいと思います。
- ケース2: 障がいを持つメンバーと共に働く場合
障がいを持つ方にもさまざまなケースがあります。身体的な障がいがあるケースや、発達障害などを含め脳にそれぞれの個性を持っているニューロダイバーシティーと捉えることができるケースもあります。
筆者も障がいのある方と一緒に仕事をしてきた経験が複数あります。一例ですが、身体的な特性から移動が困難なため、一般の社員とは離れた勤務場所で仕事をすることになった方がいました。この時は、一人だけ異なる場所にいてチームメンバーと直接会話する機会が少ないことで大きく不安や疎外感を抱いてしまう点が課題でした。
このケースでは、いかに対面で会話したり意見交換できる機会を増やせるかを第一に考え、定期的に会って対話する機会を持つ、部門会議の時には、私から当事者の勤務場所を訪問し、その場所から一緒にリモート参加して、毎回チームとディスカッションすることを習慣化しました。小さなことですが、対話の機会を積み重ねたことにより、しだいに疎外感が薄れ、チーム全体としての一体感が生まれたように思います。
障がいの種類や支援の必要性はまさに人それぞれですので、状況に応じて、どのような支援を必要としているか、あるいは必要としていないかを、当事者と話し合いながら検討することが大切です。私が実践して最も効果があったのは、可能な限り対面で率直に会話する機会を持ち、言いたいことを言える環境を作ったことでした。本人が不安に感じていること、周囲に期待していることなどに丁寧に耳を傾けながら、時間を共有し一緒に対応を検討することが大切です。
- ケース3: 多様な個性 / 特性を持って働く場合
人の個性 / 特性には、外見で判断できるものもあれば、内面的で目には見えないものもあります。一緒に仕事をしているうちに、その人の隠れた身体的な特性に気づくことがあるかもしれません。中には配慮が必要なケースもあります。
ここでは外見では判らない筆者自身の特性を例に挙げます。私は生まれつき、色の識別が得意ではありません。参考までに私が業務で気を付けていることお話しましょう。
業務でプレゼンテーション資料を作成する際の「色の使い分け」はとても重要で、資料の出来栄えにも大きく影響します。私は色の識別が難しいため、ページに書かれた文字や図表の一つ一つについて、プロパティー情報を表示して何色かを確認する、という作業を行っています。色の確認に関する負担を減らすため、チームで予め色分けを含めたテンプレートを作成してそのフォーマットに従うことをルール化したこともありました。
また、周囲とのメールや文書やりとりの中で、文字を強調したり目立たせたい場合は、文字に赤や青の色をつけるのではなく、太字で示すことも習慣にしています。
ここで挙げた筆者の特性に関する対応は一例に過ぎません。世の中には隠れた特性を持つ人がたくさんいます。特性の種類も当事者の意向もさまざまですので、私と同じ特性を持っていたも、異なる対応をとられているケースもあるでしょう。
大切なのは、皆さんの周囲にも目には見えない特性を持つ人がいるかもしれない、ということを、ほんの少し意識してみることだと私は思います。
おわりに 〜病気を抱えながらも、自分の仕事に責任を持ち、力を発揮するということ
これまで述べてきた通り、病気や障がいを抱えて働くと言ってもいろいろなケースがあり、当事者の症状や周囲の状況、当事者の仕事に対する考え方も千差万別です。
ただ、共通して言えることが1つあります。病気や障がいがある人も、「自分の仕事に責任を持つ」ことを意識して取り組むことが大切だという点です。
私たちは誰でも、どの職場においても、ひとりひとりに与えられた役割や職務があります。それを理解したうえで成果を出し続けることが職業人として求められます。
もちろん病気や障がいの有無や重度によって、求められる成果の内容も量も異なり、配慮が必要なケースも多くあるでしょう。しかし、自分の仕事に責任を持つという1点だけは、働く全ての人が意識すべきことだと私は思います。
筆者も病気を抱える身ですが、自分自身の役割や仕事で求められる成果について常に意識し、上司とは定期的に、業務の報告や相談、今後のスキルアップのためにどのような努力をすればいいかなど、自分ができるだけ良いパフォーマンスを発揮するために様々な対話をしています。こうしたことは病気になる前からの習慣ですが、これらを継続しているからこそ、IT技術者、マネージャーとして、現在もプロジェクトの第一線で力を発揮し続けることができていると思っています。
病を得たことで苦労も不安もありますが、それよりも仕事を通じて得られる充実感や自分の責任を全うできた達成感は何物にも変え難く、働きがいを感じています。
私は、病気や特性を含め多様性あるさまざまな社員が、自分の仕事に責任を持ち、その人らしく力を発揮し活躍できる職場が今後ますます増えていくことに期待しています。そのためには、繰り返しになりますが、治療をしながら仕事をしている人や、業務を遂行するのに困難を有する人について、個々の状況に応じてケースバイケースに職場の組織やチームで考えることが大切です。特に、以下の2つの機会を創出すことをお勧めします。
- 多様性を知る機会(より多くの事例や情報を紹介する)
- 具体的な配慮やサポートをチームで話し合う機会(当事者がサポートを必要としているのであれば、自分達にどのようなサポートができるか、何を実施すべきかをチームで検討する)
ここで紹介した筆者の体験が、病気や障がい・さまざまな特性を持つ人が治療と仕事を両立しながら活躍し続けることができるインクルーシブな職場づくりの一助になれば幸いです。
※1:本稿では厚生労働省の平成30年版「厚生労働白書」を参照しています。参照元:平成30年版厚生労働白書
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