IBM Sustainability Software
施設管理を活用して患者ファーストに取り組むUCSF Health
2023年05月10日
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新しいがん治療ビルの建設に向けて、UCSFとMaximoが構造の中心部にデータを据える高度な3Dデジタル・モデルを作成
建物のスマート化を進めれば、医療施設はすばらしいものになるに違いありません。University of California, San Francisco (UCSF) HealthがIBM Maximoと協力して、最先端の医療施設をつくり、患者の治療環境を安全に保とうとしているのはそのためです。
その始まりは、UCSF HealthとIBMが既存の医療施設の管理を最適化する目的で提携したことでした。これには合計300万平方フィート、約5万3,000個の設備資産が含まれていました。また、完成後に日常業務を通知するため、デジタル設計の中心部からのデータ出力を指定し、収集するというまったく新しいことも行いました。
構造の中心部にデータを据える
Mission Bay HospitalのPrecision Cancer Medicine Building(PCMB)が認可を受けたのは、ほんの数年前です。この7階建て(18万平方フィート)の建物は旗艦の複合施設であるMission Bay Hospitalに追加されたもので、2019年に開業し患者の受け入れを開始しました。その施設で、PCMBは臨床チームと研究チームを統合して腫瘍ベースのさまざまなプログラムで発見した内容を活用し、共同研究を行っています。これは崇高な使命であるため、従来の建設プロジェクトとは異なり、チームが最初に着手したのは建築設計ではなく、データでした。
伝統的な建築構造は歴史的にプロセスがサイロ化されています。多くの場合、アーキテクチャー、設計、運用はたいてい分離され、建物情報と資産情報はそれぞれ異なるプロセス内で結合されています。つまり、プロジェクトが完了した後に建物がどのように運営されるのか、その全体像を明確に把握することが非常に難しいということです。さらにそのために、保守や日常業務について明確に意思決定を下すのが困難になります。
3Dモデルを活用して別の道を進む
PCMBを新設するにあたり、UCSF Healthはまったく異なる道を選択しました。統合されたプロジェクト・デリバリー・アプローチにより、提案された建物(図1を参照)について高度な3Dデジタル・モデルを作成し、エンジニアリング・チームがコンピューター上でナビゲートできるようにしました。親しみを込めて「BIM4FM」と呼ばれ、業務側のMaximoで管理されるこのモデルには、配管、機械、電気の各システムも含まれています。壁や窓のような物理的な構成要素、そして何より重要な病院設備を備えた完全体です。
その結果として非常に緻密な仮想ロードマップが完成し、建物がライフサイクル全体でどう機能するかを把握できるようになりました。業界にとっては、大きな変革をもたらす出来事です。
図1. UCSF Health Facilitiesのセントリック・ビュー
統合アプローチ:RevitとMaximoで高度なモデルを実現
このプロジェクトの要は、BIM(Building Information Modeling)とIBM Maximoの一体化でした。具体的には、Autodesk Revit (2017) Object Based Architecture BIM OutputとIBM Maximo Computerized Maintenance Management System(CMMS)の統合で、UCSF Healthでは「BIM4FM」と呼んでいます。
基本的に、BIMは建物の建設に使用される物理特性と機能特性をデジタルで表現したものです。つまり、建築設計の建物の仕様書に関連する重要データを組み込む、インテリジェントな3Dモデルです。こうしたハイスペックなメタデータ・セットには、資産の構成要素、重量、材料、製造元、シリアル番号などの指標が取り込まれます。この新しい引き渡し要件セットは、CMMSを直接フィードできます。
Autodesk Revitで作成されたモデルはIBM Maximoと統合されているため、こうした情報をすべて1つの場所で簡単に表示できます。これは、統合されたプロジェクト・デリバリー・モデルと運用保守システムを文字通り融合したものです。その結果、2Dとして抽出したり、ビデオ・ゲームのように流し込んだりもできる非常に高度なモデル(「操作どおりに動く(Living, as operated)」モデルとして記述されているもの)が出来上がります。エンジニアはMaximo内から資産または機器を隔離することができます。その後、有効なその使用に関連するメタデータを簡単に抽出できます。
Maximo:フィールド・エンジニアの親友
この「操作通りに動く」モデルは、現場にいるエンジニアもモバイル・デバイスで使用できます。施設エンジニアはプロジェクト・デリバリー・フェーズ中に仮想スペースで非常に多くの並行時間を費やしたため、患者の1日目は、そうしたエンジニアが建物とその資産についてどれほど深い知識を身に着けているかを簡単に検証できる機会になりました。また、モデルと物理的構造との違いを突き止め、予防保全の作業計画を作成することもできました。このような異常やプロセスを早期に特定したことで、その後の工程でより複雑でコストのかかる問題が生じる前に、建設フェーズ中に速やかに修正できました。
「スマートな保守」とは憶測のない迅速な修正
UCSF Health Facilities(プロジェクト・チームと連携)は、BIMの出力形式、命名法、ファミリー、および分類を契約で指定し、実際の物理的構造を作成する前に建物のデジタルツインを規定することができました。これは非常に役に立つ試みで、病院がどれほど複雑であるかを判断する際には特に有効です。手術室の構成に欠かせない統合コンポーネントや潜在的に揮発性の成分(酸素など)は無数にあります。
保守を例に考えてみましょう。プロジェクト初期のある日曜日の夜、真夜中を迎える少し前に、UCSFチームはMission Bay Hospitalのカフェ内の柱から重大な液漏れが発生する事態に直面しました。液体はどこか上のほうから下へと、7階建ての垂直に立つ構造用鋼材の耐火溝に沿ってあふれ出てきました。漏れの出どころは、すぐには特定できませんでした。このとき初めて、エンジニアは2Dの図面セットを手動で詳しく調べる代わりに電子モデル(図2を参照)を調べ、垂直シャフトに影響しているシステムがどれかを突き止め、漏れが発生しているシステムを切り離すために、各システムを一度に1つずつ遠隔操作でオフにして診断を行いました。
インシデント:7階建ての垂直に立つ構造用鋼材の耐火溝に沿って流れ出す原因不明の液漏れ。Kitchen & Caféで発生し、月曜日の午前7時まで病院食の提供が脅かされました。
90分未満で問題を切り離す
この「仮想」診断プロセスのおかげで根本原因を90分未満で切り離せました。そして特定後、完全に修復するのに要した時間はわずか数時間でした。対照的に、同様の運用で3Dモデルのガイダンスがなかったならば、2、3日かかっていたかもしれません。また、防火溝はさらに大きな予備的ダメージを被っていたと思われ、その場合は他にも問題が起こっていたでしょう。その間、カフェは、漏れの発生源である手術室と同様に営業できなくなり、患者の治療に多大な影響が生じ、財務面でも影響が出ていたことでしょう。
3Dモデルの最大の利点は何でしょうか。エンジニアはモデルを活用して、他の建物の運用について提案された保守の効果を判断することができます。病院という環境では、修理に関して当て推量は許されません。今日運用されている最も複雑なインフラストラクチャー・モデルにおいては、文字通り、それは死活問題になりえます。現状、エンジニアは患者の健康をより適切に保護することができます。
データが多いほど向上するパフォーマンス
BIM4FMとデジタルツイン機能のおかげで、UCSF Healthは機械、配管、電気など複数のシステムを既にナビゲートすることができます。しかし、リアルタイム・データを収集し、建物のパフォーマンスについて理解を深める機会は他にいくらでもあります。資産のリアルタイム・ロケーション、温度、湿度、火災警報システム、および空気の圧力関係に関するデータなども、これに該当します。
チームは既にモノのインターネット(IoT)ソリューションを、病床の位置をリアルタイムで追跡するシステムに実装していますが、将来的にはさらに多くのシステムにIoTデバイスを装備したいと考えています。そうすれば、「操作どおりに動く」建物モデル自体が情報システムの役割を担い、日常業務のパフォーマンスに関して作成されたリアルタイムの情報を提供するようになります。
データの連続体を目指して
Maximoを使用するBIM4FMは、建物のライフサイクルの単一ビューを作成するのに大いに役立ちます。UCSF HealthのBIM4FMチームは、建物データの鎖をすべて1つの場所にまとめる取り組みを行っています。目標は、データに連続したつながりを持たせること(データの連続体)です。そのねらいは、入手可能な情報をすべて結び付ける建物ライフサイクル・プログラムを作成することです。これは、IoTデータから建物資産の命名、分類、および仕様まですべてに及びます。
このような連続体があれば、エンジニア、アーキテクト、設計者、および施設管理者は、建物のライフサイクル全体で運用データを活用することができます。建物の情報を完全に可視化することで、UCSF Healthチームは運用に関してよりスマートな意思決定を下せるようになります。これは、保守、運用、さらには設計に関わる予測モデルへの移行です。楽しみなのは、この可能性が実現する時期が迫っており、毎日近づいていることです。
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この投稿は2020年7月1日に米国IBM Blogに掲載された記事 (英語) を抄訳し、一部編集したものです。
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