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FinOps:進化するクラウド財務管理
2023年04月11日
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ハイブリッド、マルチクラウドのアプローチを採用する企業が増える中、価値の最適化とクラウド費用のコントロールに苦慮しています。その解決策はFinOpsです。
FinOpsとは「Financial Operations」の略語で、財務、テクノロジー、およびビジネスを1つにまとめてクラウドのユニット・エコノミクスを極め、効率的なクラウド使用のための運用モデルを構築するアプローチです。組織のあらゆる部分のクラウド・ユーザーにキャパシティーの計画、目標の達成、変動するクラウド・リソース消費の管理に関する責任を与えることで、効率の改善や予算要件や財務目標の達成を目指します。
FinOpsは、文字通り「DevOps」に対応した概念で、クラウド・コンピューティングを効率的に利用するための規律と考えることができます。システム、ベスト・プラクティス、文化変容を組み合わせることにより、企業がクラウド・コストを把握し、目的に応じたスマートな意思決定を行い、価値を高めるアクションを実行する能力を向上させます。そのためには、実質的に組織のほぼあらゆる部分に影響を及ぼすコスト管理と価値管理に対するアプローチを見直す必要があります。リーダーから新人エンジニアに至るまで、すべての人に果たすべき役割があります。
FinOpsは、企業によっては抜本的変革につながる場合もありますが、うまくいけば部門の枠を超えたチームワークを促進することで企業文化の一部にもなるでしょう。開発チーム、プロダクト・オーナー、財務チーム、営業チームなどの間の障壁を取り払い、仕事やコラボレーションのあり方を共同で見直せるようにします。また、「費用対効果に優れているか?価値をもたらしているか?」といった問いに対する適切な説明責任と指標を割り当てます。
FinOpsのメリットとは?
クラウドは、アジリティー、需要に基づく消費、および分散制御に対する変化をもたらし、イノベーションや生産性向上を促進しています。しかし、ハイブリッド、マルチクラウドのアプローチを採用する企業が増える中、価値の最適化とクラウド費用のコントロールに苦慮しています。
FinOpsは、エンジニアリング・チームのスピードとアジリティーを強化すると同時に、品質とコストについてのさらなる検討も要求することで、その両立を目指します。FinOpsでは、各チームや個人に果たすべき役割と説明責任があります。組織の文化を変えることは難しいかもしれませんが、貴重なメリットが得られます。
例えば、FinOpsフレームワークは、クラウド支出のROIを改善し、イノベーションを増加させます。また、透明性と当事者意識のある財務説明責任を促進し、クラウド使用の最適化を通じてコスト効率を高め、チーム間や部門間の信頼とコラボレーションを醸成します。詳細な分析に基づく品質とスピードのバランスを調整するクラウドのコスト管理は、開発チーム、プロダクト・オーナー、財務チーム、営業チームなどの間の障壁を取り払うために役立ちます。予測、価格設定、調達に細心の注意を払うことで、クラウド・コストの最適化につながります。
FinOpsを採用すべき理由とは
FinOpsは、企業にとって新しい用語であり、新しい手法ですが、新しい機能であるとは言えません。クラウド移行やコスト管理自体は、企業各社の間で四半世紀近くにわたって行われてきました。FinOpsは、クラウド支出と適切な配分の管理に苦労している企業に可視性と説明責任の向上をもたらします。
FinOpsが対応できるその他の課題として、クラウドの利用価値を証明することの難しさ、開発やデリバリーによるクラウド消費の最適化の遅れ、クラウド戦略と企業戦略との関連性の欠如などがあります。プログラムを首尾よく実行して、必要なビジネス価値を達成するためには、FinOpsプログラムのデリバリーで次の2つの単純な原則を重視する必要があります。
- 対処しようとしている課題は何か?
- 必要なフレームワーク、アプローチ、ツール、人材は何か?
IBMの経験によると、クラウドに関するよくある組織的課題として、次の3つが挙げられます。
- 既存のオフプレミスおよびオンプレミス・ハイブリッドクラウド・リソースへの過剰な支出(最適化されていないクラウド・コスト)
- 経営陣や上級管理職に対するクラウド・リソースとビジネス価値の可視化の不足
- パブリッククラウド戦略と全体的なテクノロジー戦略との関連性の欠如
FinOpsの6つのコア原則
実務者向けの方法論は、FinOps Foundationによって提示されています。FinOps Foundationは、FinOps実務者のコミュニティーで構成されており、標準やベスト・プラクティスを明らかにすることで、FinOpsジャーニーを通じてメンバーを支援しています。また、FinOpsの優れた実践手法の構築に関わる原則、ペルソナ、フェーズ、成熟度レベル、ドメイン、能力などを公開しています。
FinOps Foundationが策定した6つのコア原則は、FinOpsの実践に関するアクティビティーの指針となるものです。これらの原則はさまざまなクラウドをカバーしており、世界中のチームがクラウド・サービスの経験を積むに従い、必要に応じて見直しや調整が行われます。エンジニアリング、ITファイナンス、およびビジネス間のデータに基づく意思決定に重点を置き、ビジネス価値を最大化する6つの原則は、次のとおりです。
- IT全体の部門横断型サポート:各チームはコラボレーションする必要があります。財務、IT、エンジニアリングはすべて相互につながっています。FinOpsでは、コストはチームに関わらず効率性の指標です。クラウドのコストと使用に関するガバナンスおよびコントロールの定義と、実践手法の改善による組織全体にわたる効率性の向上とイノベーションの推進は、FinOpsの取り組みの一環です。
- コスト管理、イノベーション、その他の優先事項に関するビジネス目標に基づくクラウド関連の意思決定の推進:クラウドのメリットの1つは使用した分だけ支払うことですが、FinOpsがない場合は、クラウド使用の急増が予期しないコスト増につながる可能性もあります。チームがプランニングの際にビジネス目標を考慮に入れれば、そうした予期しない支出を抑えるか、それについての説明責任を果たすことができます。トレンド分析や差異分析などのツールと併せて、タイムリーでアクセス可能なレポートがあれば、支出をビジネス価値目標に直接結び付けることにより、使用や費用についてすべての当事者に説明することができます。内部チームによるベンチマーキングは、ベスト・プラクティスの遵守を促すとともに、ステークホルダーがクラウド財務管理の改善を明確に理解するために役立ちます。同業他社レベルのベンチマーキングを行えば、進捗状況をより広い視野から捉えることが可能になります。
- クラウドの使用と支出に関する個々の説明責任:FinOpsの優れた実践アプローチにおいては、チームは自らのクラウド使用を管理する権限を持ち、コストが予算内に収まっているかどうかを確認することができます。クラウド支出に対する当事者意識と可視性が全員にあれば、必要に応じて各自調整を行えます。エンジニアリング・チーム、設計チーム、マーケティング・チームかに関係なく、各チーム毎に目標を設定し、メンバーにクラウド・コストの説明責任を果たしてもらいます。
- アクセスしやすく、タイムリーなレポート:リアルタイムのフィードバックは、効率的な行動を改善し、ビジネス価値を高めるための重要な手法です。リソースの使用状況を可視化することで、プロビジョニングの過不足に対し迅速に対応が可能となり、またその発生を減らすこともできます。FinOpsの改善状況に応じて自動化を導入し、継続的に改善を推進することができます。
- FinOpsのオーナーシップの一元化:FinOpsは分散型のクラウド財務業務アプローチですが、一元的なチームがオーナーシップを持って管理しなければなりません。クラウドFinOpsのガバナンスとコントロールを一元化できれば、クラウド・プロバイダーの確約利用割引、予約インスタンス、アップグレード、数量割引を効率的に利用することが可能になります。また、購買プロセスを一元化すると、交渉力を持っていないチームが料金交渉業務から解放され、クラウドの最適化が促進されます。さらに、チームを一元化すれば、各担当チームにすべてのコストをきめ細かく配分することも可能になります。
- クラウドの変動コスト・モデルの積極的な管理:FinOpsでは、社内のあちこちでコストが膨らむままにするのではなく、クラウドのオンデマンド・コスト・モデルのメリットを生かすことを目指します。インスタンスやサービスを適切にサイジングできれば、すべてのチームが適切なリソース・レベルを確保できます。また、レポートや分析を活用することで、より的確なビジネス上の意思決定ができます。
FinOps<の現状とは
『State of FinOps Report 2021』は、FinOps FoundationがFinOps実務者を対象に実施した調査に関するレポートです。このレポートでは、さまざまな業種の実務者が自身のFinOpsジャーニーを進める中で得た経験や知識がまとめられています。そのデータの一部から、動向や今後の展望に関する洞察が得られます。2021年の主な調査結果は次のとおりです。
- おそらくクラウド環境の複雑さや連携が必要なチーム数の多さのために、大企業ではFinOpsの採用が急速に進んでいます。
- 90%以上の回答者が、FinOpsを間違いなく、またはおそらく自身のキャリア・パスの一部であると見なしており、FinOpsが新たなキャリア・パスのオプションであることが明らかになっています。
- FinOps成熟度の1つである「運用」段階に達している大企業では、FinOps実務者の平均経験年数は約3年です。
- 自社が成熟度の「運用」段階にあると答えた調査回答者は約15%にとどまっています。
- 平均的なFinOpsチームでは、調査実施までの12か月間でメンバーが4人から7人に増えており、ほとんどの回答者が今後1年間でさらに50%以上の人員増加を予想しています。
まとめ
FinOpsソリューションを導入するには文化的転換が必要です。うまくいけば、FinOpsは企業のDNAの一部になり、あらゆる選択肢やアクションが「費用対効果に優れているか?価値をもたらしているか?」という問いを中心に形作られるようになります。
成功を実現するためには、会社全体の幅広いステークホルダー間の障壁を取り払う部門横断型かつ協調型のソリューションが必要です。組織の最上層から最下層までのあらゆる階層が対象となります。経営幹部から新人エンジニアに至るまで、会社全体を網羅したFinOpsを実現するには、実践的なアクションと戦略的なリーダーシップの両方が不可欠です。FinOpsでは、クラウド支出がビジネス目標に貢献していることを証明できるよう、説明責任を持つ当事者が目標となる指標を設定し、単なるコスト削減のみならず価値の実現を目指します。
IBMとFinOps
IBMコンサルティング・ハイブリッドクラウド・アドバイザリー・プラクティスは、現場で実証済みの戦略と業界をリードするアセットやアクセラレーターを活用することで、クラウドのコスト管理を可視化すると同時に、説明責任を明確化します。具体的には、ビジネス目標をチーム・レベルの指標と結び付け、企業全体へのソリューション導入をシームレスに加速させます。IBMのFinOpsサービスの詳細については、IBMハイブリッドクラウド・アドバイザリーをご覧ください。
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この投稿は2022年2月25日に米国Cloud Blogに掲載された記事 (英語) の抄訳です。
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