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PwDA+クロス | 学習障害の子どもが輝ける社会へ 読み書き配慮代表 菊田史子
2023年02月09日
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「発達障害」という言葉を目にする機会が増えています。注意欠如・多動症や自閉スペクトラム症、ニューロダイバーシティや「大人の発達障害」など、関連するさまざまな言葉が社会のさまざまな場面で用いられるようになり、総合的な理解が進みつつあるのではないでしょうか。
しかし、いくつかに分類される発達障害の中でも、「学習障害(LD: Learning Disability / Disorder)」についてはあまり理解が進んでおらず、社会的関心も比較的低いままとなっていないでしょうか。
「周囲が気づきにくい」という特性があると言われる学習障害。一方で、必要とされる配慮はシンプルなケースが多いとも聞きます。今回は、学習障害に詳しく、社会を変えていくためのさまざまな啓発活動を続けられている「一般社団法人読み書き配慮」代表の菊田史子さんにお話を伺ってきました。
菊田 史子(きくた ふみこ)
元新宿スイッチ代表。元新宿区教育委員。2018年、一般社団法人読み書き配慮を設立し代表理事に。学習障害に特化した配慮のデータベースをウェブで公開しており、保護者、教員、専門家、行政関係者などが会員となっている。
著書に『これでピタッと!気づけば伸ばせる学習障害―事例から学ぶ“解決”教えたいのは挫折ではなく生きる力』(株式会社BookTrip、2020)。共著『LDの「定義」を再考する』(金子書房、2019)。
1. 最後に「手書き」を求められたのはいつですか?
「手書きで文字を書く機会はぐっと減っていますよね。職場による違いや個人差はもちろんあると思いますが、『紙に手書きしなければいけない』という機会はそう多くはないんじゃないでしょうか。IBMさんではどうですか?」
——こう言われて考えた。職場で「手書きで紙に書かなきゃならない」という場面が最後にあったのはいつだったろう? ちょっとしたアンケートが紙で渡されることはある。だがそこにはほぼ必ず「スマホやPCからでもご回答いただけます」との記載が。
一体最後の「手書き必須」はいつだったのか…。筆者は今も思い出せずにいる。
一般社団法人読み書き配慮代表の菊田史子さんには、慶應義塾大学に現在在学中の息子さんがいる。彼は書字が苦手、いわゆる「ディスグラフィア(書字障害)」と呼ばれる特性を持っているが、知的発達の遅れはなかった。口頭での情報伝達や意思の疎通にはまったく問題はなく、むしろ、小学生レベルの算数や理科を超えた、複雑な数学の公式や物理学なども理解する聡明な小学生だったという。
「でも、小学5年生までは本当に大変でした。文字を書くのが極端に苦手なので、学校での授業についていけない。本人も自分に自信が持てず自己肯定力が非常に低い。さらに酷いことに、そんな息子の気持ちを理解できていなかった私が、学校で大変な思いをして帰ってきた彼をさらに追い込むような言動を取ってしまっていました…。」
もちろん「手書きで文字が書けた方が良い場面」というのは今も存在している。だが、職場でも日常生活においても、そうした場面に直面するのは極めてまれであり、代替方法はある。
「コンピュータ全盛の今、書字障害という問題の大部分は解決済みと言ってよいのではないでしょうか。手書きにこだわっているのは、学校だけのように感じられます。」
2. 学校が子どもたちを別の障害へと追い込んでしまうことも…
「先生が考え方を、あるいはやり方を少し変えさえすれば、子どもを追い込んでしまったり、病気にしてしまったりということもなくなります。文章を読むのがどうしても苦手な子は、音声で耳から情報を聞けばいいし、計算がどうしてもダメなら、計算機を使ったっていいですよね。学習障害への配慮不足が、不安障害などの二次障害を引き起こしてしまうことも少なからず起きています。」
筆者と共に一般社団法人読み書き配慮のオフィスを訪問した濱尾裕梨は、菊田さんのこの言葉に自らの経験を語り出した。
「私も、義務教育の期間、特に中学校では本当に辛い思いをしました…。
私は学習障害という診断は受けていませんでしたが、小学生時代に精神疾患を発症していました。それで、小学校時代は配慮をいただける先生たちに囲まれていて授業に参加できていたのですが、中学に上がるときに『濱尾さんは、普通学級でみんなと一緒にやるのが難しいのなら、特別支援学級に進んだ方がいいのではないか』と、特別支援クラスの選択を迫られました。
でも、自分がどういう学校生活を送ることになるのかイメージできず不安で、ひとまず普通級へと進学しました。ただ授業になると、文字幅や行間隔が狭い教科書だと、どうしても同じ箇所を何度も繰り返し読んでしまうんです。」
「授業に出席するのがだんだんしんどくなってきて、途中からは行事のときや定期テストのときだけクラスに行くようになりました。でも、記憶力は良い方だったし、自分なりに工夫して勉強はしていたので、テストでは平均点以上取れていました。でも『濱尾さんは平常点がないから…進学は難しいね』と先生に言われてしまって…。
結局、私学の通信制高校を見つけてその学校に通いました。」
濱尾のこの話に、菊田さんは「私のところに来ている子どもたちとほとんど同じ!」と強く共感を示していました。
3. 読み書きの苦手な子どもたちに特化した教室「KIKUTA」
「簡単な話です。タブレット端末やパソコンの標準機能を使うだけで、問題は解決します。自分に合った文字表示方式に変えればいいし、読み上げソフトを使ってもいい。手書きよりタイピングやフリック入力の方が入力スピードはむしろ早いですよね。
読み書きという勉強の基礎部分に対して従来のやり方では問題があるのなら、それを補うICT機器を使うことを認めてあげればいいだけなんです。ちょっとした配慮で問題は解消するのですから。
それなのに、『一部の生徒にだけ道具を使わせるのは不公平だから』だとか『漢字の書き取りができなきゃ将来困るから』とか言って、多くの小中学校では今も配慮を必要とする子どもたちのICT機器使用を認めていません。そんな状況を変えるために、私は複数の取り組みを行うようになりました。」
そのうちの1つが、2018年に設立した一般社団法人読み書き配慮であり、読み書きの苦手な子どもたちに特化した教室「KIKUTA(KI:機器も、KU:駆使して、TA:楽しく学ぶ)」だ。
「KIKUTAに来る子どもたちの中には、WISC(ウェクスラー式と呼ばれる子ども用の知能検査。知的能力や記憶・処理能力を数値化するテストの国際的スタンダードの1つ)で『発達グレーゾーン』と言われるIQ80前後の子もいます。
でも、子どもたちと丁寧に接すれば、一人残らずみんな輝いている部分があることに気が付きます。一律の測り方をするWISCでは点数の低い部分も出てくるでしょうが、学校にはそこでできない部分の底上げばかりにこだわるのではなく、『じゃあ、あなたはここを伸ばしましょう!』と、むしろ得意な部分に目を向け、子どもたちのやる気に薪をくべる場所であって欲しいのです。
でも、残念ながら現実はまだそうはなっていません。だから私は、子どもたちに夢と機会を与える場を作っています。子どもたちが自分の学びを追求できて、可能なら学校という場所により積極的に関わることができるようになるために、3カ月全9回のKIKUTAという教室を開催しています。」
4. 社会を変えていくために
「KIKUTAで子どもたちが元気になっていけば、親たちも元気になっていく。逆もあって、親たちが元気になっていけば、子どもたちも元気に、そして社会も元気になっていきます。それを身をもって感じたのが、10年以上前に石崎さんと一緒に立ち上げた親の会『新宿スイッチ』なんです。それ以来ずっと、石崎さんにサポートしてもらいながら、二人三脚でやってきました。」
菊田さんの隣に座る石崎江衣子さんは、自身も発達障害の子の親であり、KIKUTAのプログラム編成にもかかわるインストラクターだ。
「うちの子はLDではなくてASDでした。そして私自身も、自分が伝えたいものを言語化したり長い文章を読むのが得意じゃなくって。
でも、話すことが得意な菊田さんと一緒に自分たちの考えを整理して磨き上げてきて、今、社会に対して変化を促す活動を共に行っています。」
こうして2人が中心となり、子どもたちには学びの楽しさや方法を伝え、親たちとは連帯して安らげる時間を分かち合い、先生や学校には配慮の必要性を訴え続けてきた。そしてここ数年は、社会の理解とそこからの圧力の必要性を感じ、メディアにも積極的に登場しているという。
- 参考 | “書けない”学習障害と共に 親子の道のりから合理的配慮を考える | NHK ハートネット
- 参考 | タブレットを使えず点数が下がる子ども。クラスに3人? 学習障害(LD)に必要な配慮 | ハフポスト 特集
最後に、菊田さんの学校に対する要望を改めて紹介する。
「『輝くところがない人はいない。』これこそがスタート地点だと私たちは思っています。みんな誰もがそれぞれにスペシャルなんだから、それぞれが輝けるところで社会に貢献し、幸福になっていく。学校教育はそれを支援するためにある——これに尽きるのではないでしょうか。
そのためにも、学校という場が、決められた時間の中での言葉の出てきかたや、特定の方法での問題の解き方だけで、子どもたちの能力を測ってしまうのは誤りだと私は思います。必要なのは、その子にとって適切な支援を与えていくことだからです。
社会を変えていくためには教育現場の先生方の協力が必要ですし、その実現に向け、各学校の校長は先生たちがチャレンジしやすくなるように、率先して背中を押してあげて欲しいです。」
かつて製造業を中心とした工業大国として、人口および子どもたちの数が増え続けていく中で、日本にとって「効率性」に重きを置いた義務教育が最適だった時代があった。だがその後、時代に合わせて十分変化しているのだろうか。
そしてこれは学校教育だけの話ではないだろう。教育と社会はつながっている。企業も、学校と同じような一律性に捉われてはいないだろうか。日本は、子どもたちと学生たちの未来の可能性を狭めることにより、国としての未来も狭めているのではないか…。
日本IBMにできることは少ないかもしれない。だがそれでも、確実にそこにできることはあるはずだ。あらゆる組織や個人が、より良い社会に向けてそれぞれの立場で関与できるところがあるのだから。
私たち日本IBMとKyndryl(キンドリル)の社員が行動を共にする「PwDA+(ピーダブルディーエープラス=People with Diverse Abilities Plus Ally)コミュニティー」は、社内の障がいのある社員とアライ社員(味方として当事者を支援する社員)が一緒に考え行動を起こし、より働きやすい職場づくりを実現することを第一の目標として活動しています。
そして私たちの第一の目標「より働きやすい職場づくり」の先には、「より暮らしやすい社会」——すべての人の健康でウェルビーイングな人生というさらに大きな目的があります。
これまで、社内での活動を「インサイド・PwDA+」というシリーズで紹介してきましたが、今後は、その目的をさらに強く意識し、より広く「暮らしやすい社会づくり」に向かいたいという思いから、その実現に向けて活動している実践者たちとの対話・共創活動も発信していくこととし、「PwDA+クロス」というシリーズ名を付けました。
クロスという言葉には、「出会う」「交わる」「乗り越える」などの意味があります。今後の「PwDA+クロス」の活動・発信にご期待ください。
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