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世界一高精度な気象予報プロバイダーTWCの「知られざる真実」
2022年07月15日
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「気象予報精度1位」と検索すると実に多くの企業や団体の名前が出てくる。そしてそれぞれの団体の紹介ページを見ると「予報精度No.1」を謳っていることも珍しくない。
「そんなにたくさんの『気象予報精度1位』があるのはおかしいのではないか。真相はどうなっているのか?」
−− そんな疑問を晴らしに、TWC(The Weather Company: ザ・ウェザー・カンパニー)のアジア太平洋気象予報センターを訪問した。今回は上記質問の答えを含め、TWCの「知られざる真実」のいくつかを紹介する。
もくじ
1. TWCは真の意味で「世界一高精度」な気象予報プロバイダー
2. 「世界一高精度」を実現するIBM独自の3つの強み
3. 実はこんなところにも気象予報世界一のTWCが
4. 「Weather Data API」と「EIS」の豊富で使い勝手の良いメニュー
1. TWCは真の意味で「世界一高精度」な気象予報プロバイダー
2016年のM&AによりIBMのグループ企業となってから6年、TWCは「ビジネスを支える気象予報プロバイダー」として着実に日本でもその活動範囲を拡げている。
だが、その活動はほぼ「黒子としての役割」。それもあってか、ビジネスパーソンの中での知名度は決して高くない。
「TWCで働いている者としては『歯痒さ』を感じています。でもそれは、私たち自身がビジネスにおけるポテンシャルをしっかり伝えきれていないからですよね。
お客さまに対してもIBM社内においても、これからしっかりとご理解いただくための活動をしていこうと考えているところです。」
そう語るのは、先日7月1日にTWC アジア太平洋気象予報センタージャパンリーダーに就任した西川 貴久(にしかわ たかひさ)だ。
「『世界一高精度』の気象予報会社が何社もあるのはなぜか? という質問ですよね。その理由は、予報の対象『期間』や『範囲』などを狭めて、そこだけを取り上げて『世界一』を語る組織が多いからです。対象期間を広げれば、本物の世界一高精度がどこなのかはっきり分かります。
もう一つ重要なのは、精度調査を実施しているのがどこのどういう機関かということです。自社調査で1位と言うのは簡単です。」
そう言うと、この4月にTWCに加わったテクニカルセールスの富井雄太(とみい ゆうた)は以下の資料を表示した。
「ニュースリリース『IBMのThe Weather Company、世界一高精度な気象予報プロバイダーの座を維持』にも示されているように、昨年、第3社機関であるForecast Watchは、全世界を対象とした気象予報会社17社の過去3年間にわたるデータの比較調査を行い、IBMグループ企業である私たちTWCが最も精度の高い企業であることを発表しています。
さらに、TWCは2010年以降、世界1位の精度評価を獲得し続けており、年を追うごとに他の気象会社との格差は拡大しています。」
2. 「世界一高精度」を実現するTWC独自の3つの強み
それでは、その精度の高さをどのように実現しているのだろうか? 西川はこう説明する。
「いくつかの理由がありますが、大きくは3つです。
まず第1に、世界の178の気象モデルを購入し、それぞれの強みを統合してAIを通じて提供している点です。なぜ178もの多くのモデルを採用しているのかには理由があり、それぞれのモデルに地勢、時間、気候に関して得手不得手があるからです。その得意な部分を中心に、そしてまた最近の予測精度なども踏まえて、AI予測エンジンが要因重み付けをして分析し予測を提供しています。
第2に、179番目のモデルとして、IBM独自の世界初の1時間ごとに更新される世界規模の気象予報モデル『IBM GRAF(Global High-Resolution Atmospheric Forecasting)』を立ち上げたことがあります。
私はTWCアジア太平洋予報センターのメンバーとなってから、3年間以上ほぼ毎日気象予報に携わっていますが、IBM GRAFが採用されて以来、明らかに予測精度が上がったことを感じています。」
そして第3に、世界の予報センターに散らばりながらも密に協力している175名の気象専門家の存在があります。重要なのは世界のさまざまな地域に、地区や天候パターンという特性に精通しているメンバーがいることです。世界的な気候変動が進む中で、特定地域内だけの従来の見方や考え方だけでは説明しきれない気象の動きも出てきていますから。」
3. 実はこんなところにも気象予報世界一のTWCが
冒頭にTWCのビジネス分野での活動はほぼ「黒子としての役割」であり、あまり知られていないと書いた。では、実際にはどのような分野でどのように使われているのだろうか?
「日本に住んでいる人なら誰もが知っている超有名なスポーツドリンクの需要・出荷予測に、『Weather Data API』が提供する地域毎の体感温度予測データなどが用いられています。
それから、某自動車メーカーさんは、アルミニウムの鍛造・鋳造に大きく関係する露点温度の予測に使用しています。他にも、世界の多数の空港に航空気象予報を提供したり、エンターテイメントの世界ではニューヨークのワン ワールド トレードセンター展望台の来客数予測などにも用いられていますよ。」
これまでTWCで5年にわたり「天候データとテクノロジーを掛け合わせる」ソリューションを開発してきたエンジニア、高田 颯(たかだ はやて)はそう言うと、今後の展望をこう語った。
「少し専門的な話となりますが、太陽光発電を考える上では全天日射量だけではなく直達日射量のデータやそれを元にした予測値が非常に重要となります。
世界的な異常気象とエネルギーの需要供給への関心が高まる中、これらの予測精度が高ければ高いほど、再生可能エネルギーの創出量が正確に予測できるようになります。それがあってこそ、脱炭素社会により早く近づくことも可能となります。
ビジネス的にも社会的にも、今後はこうした精度の高い気象予測データがより活用されるようになっていくべきでしょうね。」
高田の話を受け、西川はこう解説した。
「今の高田さんの話はその通りで、日射量だけではなく風力関連の予測や、水力発電に大きく関与する降水位置や降水量予測など、再生エネルギーの発電量予測には高精度な気象予報が一層欠かせないものとなっていくと思われます。
しかし実は、気象予測とそれに基づく予報の提供については、昭和27年に制定された『気象業務法』という法律が状況を難しくしています。たとえば、台風予報で言うと、『気象庁の情報の解説の範囲内にとどめること』、洪水予報にいたっては『当面許可しないこととする』という明文化された『縛り』があるんです。
→ 参考 | 出せない予報 ~70年前の法律の壁~
→ 参考 | 気象庁: 予報業務を行うためのガイドブック[PDFファイル形式:405KB]
私たちとしては、世界一高精度な気象予測技術で計算された予報データをご提供させていただくことで、もっと多くのビジネスや行政地区をサステナブルにすることができると思っています。しかしこの辺りは法的な活動やロビイングなども関係してくることで、一概には言えません。
ちなみに、私は『気象予報士』の資格を持っていますが、これは日本だけの国家資格で、世界の他の国にはこの資格はありません。」
4. 「Weather Data API」と「EIS」の豊富で使い勝手の良いメニュー
一部の「予報」には法的な観点での検討が必要だが、データ提供についてはその限りではなく、ビジネスの健全性とサステナビリティを考えるとむしろ積極的な活用が必要ではないだろうか。
「先ほどWeather Data API(前出画像参照)の話が出ましたが、STANDARD契約であってもかなり詳細なデータをご利用いただけますし、再生可能エネルギーや農業分野のお客様にはPREMIUM契約でより業界や業種に特化したデータを活用いただいています。
また、Weather Data APIだけではなく、地理空間を時系列に合わせて複数要素から分析する『Geospatial Analytics』や、必要なウィジットを選択するだけでデータをダッシュボード形式で見やすく提供するサービスなど、 IBM Environmental Intelligence Suite(EIS)にはより幅広いサービスも揃っています。」
富井はそう言うと、EISの紹介資料を表示した。
「今後は、Weather Data APIやEISを通じたデータやインサイトの提供だけではなく、私たちTWC アジア太平洋予報センターのメンバーによる講座やアドバイスをセットにして提供するのも良いかと思っています。
なぜなら、世界的なサプライチェーンの結びつきが強くなる中において、どれだけ気象の変化を先取りして適切に組み込めるかが、ビジネスをより大きく左右することは間違いないでしょうから。
私たちTWC アジア太平洋予報センターの役割は、お客様の悩みを解決していくことですから、そうしたご希望への対応も柔軟に考えていこうと思っています。お気軽にご相談ください。」
アジア太平洋予報センター ジャパンリーダーの西川はそう話すと、予測業務へと戻っていった。
The Weather Company
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