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土木の「協調領域」に新しい礎を | 清水建設とIBM Maximoのチャレンジ
2022年07月13日
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「まだ始まったばかり」−−この言葉が最も適切に状況を表しているのかもしれません。
でもビジネスに長く関わってきた方であれば、往々にして最も難しいのが「始めること」だということをご存知ではないでしょうか。
今回紹介するのは、土木インフラにおける施工・維持管理段階の情報連携に向けた取り組みであり、いわば「誰もが手を付けず放っておいた」重要な第一歩です。
東京大学大学院工学系研究科の「i-Constructionシステム学寄付講座」(以下、i-Con寄付講座)を舞台に、その重要な取り組みをスタートさせた清水建設の松下文哉さんと宮岡香苗さんにお話を伺いました。
松下 文哉(まつした ふみや) 清水建設株式会社 土木技術本部 イノベーション推進部先端技術グループ |
宮岡 香苗(みやおか かなえ) 清水建設株式会社 土木技術本部 イノベーション推進部 先端技術グループ |
もくじ
- 背景 | i-Constructionと寄付講座
- 課題 | 土木・インフラ分野における「協調領域」の重要さ
- 取り組みとその成果 | 道路トンネルとCOBie
- 今後の展開 | 協調領域の確立に向けて
- 土木業界の未来へ向けて
1. 背景
今回の取り組みの基盤となっているi-Construction(アイコンストラクション)と、「i-Constructionシステム学寄付講座(寄付講座)」について
宮岡: i-Constructionは、国土交通省が推進している取り組みで、ICTの全面的な活用を通じて、建設生産システム全体の効率化や生産性向上を実践していこうというものです。
詳しくは国土交通省のi-Constructionのページを見ていただくのが良いかと思います。
松下: i-Con寄付講座は、宮岡が今お話ししたi-Constructionの実践・実現を加速するための研究および人材育成活動のために東京大学に設置された研究教育組織です。清水建設から派遣された研究員として、宮岡は2020年6月からそして私は2018年10月の開設時から所属し活動しています。
i-Constructionと同様の取り組みは世界中のさまざまな国で行われていまして、パンデミック前ですが私はこれまで研究の一環としてフィンランドやシンガポール、アメリカなどに視察に行ってきました。
特に印象的だったのはフィンランドです。Linux発祥の地としても知られているように、フィンランドにはオープン性や共創が文化として根付いているのを感じました。土木・インフラ分野においても、幅広い関係者にしっかりと協調領域の重要性が理解されていましたし、実践されているのを見てきました。
2. 課題
土木・インフラ分野における「協調領域」とその重要さについて
松下: 土木に限らず建築にも言えることですが、建設業における生産性を向上するには一社での取り組みには限界があり、解決できない問題が多数あります。
業務プロセスやデータを業界内や企業間で広く共有し、共通プラットフォームやシステムを利活用する「協調領域」の確立が必要だとi-Con寄付講座の活動を通して強く感じるようになりました。
宮岡: 土木構造物は建設の規模が大きくなればなるほど、専門工事業者や資機材メーカー、建設コンサルタントなど、発注者と工事施工者以外にも関係するプレイヤーが増えていきます。こうした構造下で、現場ごとや相手ごとに毎回新しいシステムを作っていては、むしろ効率を下げてしまいますよね。
松下: 建設業界が製造業と大きく違うのは、サプライチェーンの固定化や確立がされていないことです。土木は一品生産のため工事ごとにサプライチェーンが構築されると認識しています。また、ある専門工事会社が別の現場では別の元請と仕事することも珍しくありません。
こうした状況だからこそある元請だけが作るシステムではなく、複数の元請、サプライヤーの皆さんが活用可能な協調領域のシステムの確立が急がれているという課題を認識しています。
i-Con寄付講座が設置されたのは、特に、この協調領域に資するシステム開発を、産官学が力を合わせて取り組みましょうということを示している面もあるのだと思います。
宮岡: そしてシステム開発する際には、それを使用するユーザーが開発段階からしっかりと参画しなければ、何がどこでどう必要とされるかはっきりしないままに作られてしまい、結局使われないということが起こってしまいがちなのかなと個人的には考えています。
3. 取り組みとその成果
IBMとの協業と取り組みの成果
松下: i-Con寄付講座のセミナーに、主にビルや工場などの建築物の維持・運用管理に用いられるFM(ファシリティーマネジメント)システムの紹介を数社から行っていただく機会を設けさせていただきました。
私たちは建築物ではなく、土木構造物の設計・施工時に用いられる3次元モデルのデータをFMシステムに取り込み、運用・維持管理に適応させていこうと考えていました。ただその進め方については、具体的なイメージができない部分も多くありました。
そこで、2021年9月にi-Con寄付講座のセミナーの打ち合わせで知りあったIBMの磯部さんにいくつか質問をさせていただいたところ、その場ですぐにとても的確な回答をいただけたました。
宮岡: そこからは急ピッチで話が進み、2021年の11月にIBMさんとのプロジェクトがスタートしました。…まだ1年も経っていないんですね。とても濃密なプロジェクトだったので、何だかもう2年くらい経ったような気もしていました(笑)。
実際のプロジェクトでは、IBM Maximoを包括的な情報共有基盤として、土木構造物の維持管理に用いるシミュレーションを行いました。
プロジェクトの検討内容:
- 土木構造物(シールドトンネル)へのCOBieの適用
- 土木構造物特有の線形情報のCOBieでの取り扱い方法
- COBieによりMaximoに連携したデータの活用のユースケース
磯部: 私は7〜8年前から、オフィスビルを中心とした建設物に関してはCOBie*を介してBIMとFMシステムを連携させるBIM活用検討プロジェクトを何件か実施したことがありましたが、トンネルやダム、上下水道などの社会インフラを対象としたCIM*に関しては、これまで維持管理段階にまで活用した事例が国内外でほぼなく、私自身も実際に取り組みを行う機会がありませんでした。
ですから私としても、今回のお話はぜひ進めさせていただきたいし、協力させていただきたいと申し出たんです。
→ 参考 | 公共インフラ補修・修繕に新時代の到来を
磯部 博史 | 日本アイ・ビー・エム株式会社 サステナビリティ・ソフトウェア事業部 マスターシェイパー
宮岡:過去に「JACIC(一般財団法人日本建設情報総合センター)」が発表したレポートでは、土木インフラに対するCOBieの適応が検討されていますが、まだ国内で具体的なプロジェクトへの活用には至っていないという認識です。
ですから今回、高速道路のトンネルの一部分の維持管理にIBM MaximoというFMシステムを使用するというユースケースを作り、それをシミュレーションできたことの意味は大きいと思います。
ビルなどの「何階の何フロアの何区画」という、建物の情報をFMシステムに受け渡すために標準化されたCOBieを、トンネルなどの面的に広がる土木構造物の情報の受け渡しに用いる方法の土台作りの一助になれたのではないでしょうか。
4. 今後の展開
協調領域の確立に向けて
宮岡: COBieによるデータの受け渡しにどのような留意点があり、何ができて何ができないのか。そしてどういう取り組みが今後必要となるかなど、3カ月という短い期間ではありましたがかなり明確になりました。
基礎的な洗い出しは行えたので、プロジェクトの次フェーズではさらに分類体系に関する研究を重ねていく予定です。もちろん課題はまだたくさんありますが、グッと前に進めることができましたし、さらに進められる手応えを感じています。
今回は道路トンネルという構造物でしたが、「ボックスカルバート」と呼ばれる地中に埋設されるコンクリート製の箱状の構造物や、地下鉄トンネルや高架橋などの構造物への展開準備も進めたいですね。
松下: 今回は、設計段階からのデータの受け渡しをいかにうまく行うかに最注力しましたが、今後は別システムに文書ドキュメントとして保管されている施工データとどう連携させていくかという点も、しっかりと考えていく必要があります。
さらに踏み込んだ維持管理のためのデータ取扱いについて、関係者で協議するための俎上作りにつなげていきたいですね。たとえば、施工時の「ひび割れ誘発目地」(ひび割れ発生というコンクリート構造物の避け難い特性を踏まえ、要点を避け、あらかじめ問題のない場所にひびが入るようにする制御方法)の詳細情報どう取り扱うのかということです。こういった情報が維持管理にデータとして引き継がれれば、そのひび割れが有害なものか否かが分かるのではないかと思います。
磯部: そもそも土木インフラは人間より遥かにライフスパンが長いですし、設計施工の期間よりも維持管理の方がずっと長いですよね。その上、職業人として技術者がノウハウを直接的に後進に引き継げるのも30年前後というのが実情だと思います。
今回の取り組みで、土木を取り扱うプロフェッショナルと我われデジタルシステムのプロフェッショナルの相互理解が進んだと思いますし、多くを学ばせていただきました。
今後さらに、土木におけるサプライチェーン間の相互理解の発展を支援させていただき、協調領域の確立により貢献させていただきたいと願っています。
5. 土木業界の未来へ向けて
技術革新が起きやすい日本の土木業界を
松下: 今回のシミュレーションを踏まえて社会に実装していくためにも、今後は、土木インフラの維持管理の主体事業者の方と一緒に取り組みを進めていきたいと考えています。
また、個人的には、土木インフラ施工作業における立会検査の自動化や支払いの自動化・円滑化の推進にも引き続き注力していくつもりです。
i-Con寄付講座に着任してからこの領域の研究を続けてきていまして、ブロックチェーンとスマートコントラクト(ブロックチェーンに保存された契約を自動実行する仕組み)の活用が有効だと考えており、そろそろ現場試行をスタートするタイミングに来ているのではないかと考えています。
磯部: それはいいですね! データの非改ざん性とトレーサビリティというブロックチェーンの特長と、サプライチェーンが長く関係者が多いという土木インフラの特徴は相性がとても良いと思います。
→ 参考 | ブロックチェーンのスマート・コントラクトとは
松下: ずいぶんと大きな話となりますが、日本の土木エリアの市場規模から考えると、本来もっと他業種や産業からの投資や参入が行われていていいはずだと私は思っています。
宮岡: 私は先ほどもお話ししたように、異なる組織やシステム間での情報の連携・連動が達成されるよう、i-Con寄付講座での活動に注力し、プロジェクトをしっかりと次フェーズに進めていきたいです。
IBMの皆さんとは長いお付き合いをさせていただければと思っていますので、引き続きよろしくお願いします。
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TEXT 八木橋パチ
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