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【Webセミナー抄録】労働安全の即戦力! AIによる危険源の見える化
2022年06月20日
カテゴリー IBM Data and AI | IBM Watson Blog
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5月26日(水)13:00-14:00に開催されたWebセミナー「労働安全の即戦力! AIによる危険源の見える化〜経営課題に安全の確保を掲げる三井化学様の安心安全な労働環境づくりへの貢献事例のご紹介〜」の抄録です。
持続可能性と労働安全の最新動向
IBMの調査レポート「新型コロナウイルス感染症はビジネスの未来をいかに変えるか」によると、経営層の認識と従業員の受け止め方との間には大きな隔たりがあります。経営層は、従業員に提供しているサポートやトレーニングの効果を過大評価しています。その一方、従業員は、会社が自分たちに真摯に向き合っていると考える割合は約半数にとどまっています。経営層は、従業員の安全性やスキルを重視しながらも、従業員の満足度は二の次にされる傾向があります。
従来、持続可能性への取り組み戦略は、汚染や気候変動などの環境問題が中心でした。しかし、パンデミックで人類の健康危機に直面したことにより、持続可能性の定義は、健康と安全の問題が加わることで、拡大し複雑化しています。環境に関する要件に加えて、健康や安全に関する要件も同時に満たす必要性が生じているのです。
従業員の安全については、労働災害による休業4日以上の死傷者数も年間13万人に上っており、減少トレンドには至っていません。従業員の安全と体調管理は、個々人の問題ではなく企業の責任という認識が定着しています。経営視点から、持続可能性の鍵は健康と安全であるといえます。
また、社会経済環境の変化によって、産業の現場で様々な問題が顕在化しています。労働人口の減少に伴って、人手不足が深刻になっています。生産設備が経年劣化し、設備の自動化・高度化によって、異常時の対応が困難になっています。年齢構成の偏りにより、作業に習熟したベテラン労働者が不足し、業務アウトソーシングの増加で現場管理がより複雑になっています。現場視点からも、労働安全衛生の確保が欠かせない課題となっています。
労働安全を実現するためのポイント
労働災害は、休職・退職と他従業員への負担、確認の不足や手順の省略といった不安全行動、過度に身体に負担のかかる業務によって発生します。これらの災害を防止するためには、経営者は、持続可能な運用基準を定義し周知する必要があります。管理者は、状況を監視し行動に起こす必要があります。作業員はリスクが最小限に抑えられているという確信を持って作業を行う必要があります。
労働安全衛生の確保のためのテクノロジーの鍵は、モノ視点、ヒト視点、データ視点での機能を実装することです。特に、データ視点では、ビッグデータであることは間違いありません。データの近くでリアルタイム処理を実現する超分散型コンピューティングで、リアルタイムにリスクを把握するとともに、AIテクノロジーを使って人間が気づきにくいパターンを探り出すことで、決断力と実行力を強化できます。
多くの企業では数値データに焦点が当てられてきましたが、テキストデータも扱うべき重要なポイントになります。数値データを集計・分析することで、いつ、どこで、誰が、何をしたかが見えてきたり、「この行動をした人は、次にこの行動を起こしやすい」といったことを数値で捉えることができます。ところが、数値データでは壁にぶつかることがあります。それは「なぜその行動を起こしたのか、なぜ起こさなかったのか」という理由が見えにくいということです。その壁を破るキーとなるのがテキストデータで、その理由を抽出することができる有用な情報がたくさん含まれています。
労働安全衛生への取り組みは、定期的、日次、そしてリアルタイムとさまざまなタイミングで実施することが重要です。そして、定期的あるいは日次の取り組みで着目すべきは、このテキストデータです。
労働災害リスクアドバイザーによる危険源の抽出
三井化学様における化学物質を扱う作業現場の先進事例
三井化学様は「地球環境との調和の中で、材料・物質の革新と創出を通して高品質の製品とサービスを顧客に提供し、もって広く社会に貢献する」ことを企業グループ理念として掲げ、そして「化学の力で社会課題を解決し、多様な価値の創造を通して持続的に成長し続ける企業グループ」を目指されております。
その三井化学様大阪工場にて、工場の安全性向上を目指し、労働災害やトラブルにつながる過去事例を活用してタイムリーなアドバイスを行うために、2019年10月に本プロジェクトの活動が始まり、2021年4月に本番運用を開始しました。
課題
- 大阪工場の数十の組織で、過去発生した労働災害やヒヤリハットなどの知見が組織横断的に活用されていない。
- 現場作業時の安全対策レベルが、作業者の知識や経験に依存している。
- 熟練者から若手への技術伝承が急務であるが、これまでの教育方法では時間がかかりすぎてしまう。
- 組織ごとに文書整理などで安全活動担当者の業務負荷が高い。
対策
- 労働災害事例、ヒヤリハット、トラブルをWatsonに取り込んだ結果、探索・分析から重要度・危険度を算出・学習し、この情報を現場の作業者や管理者に提供することでタイムリーに労働災害のアドバイスを提示できるようにしました。
期待される効果
- 工場横断的な知見の活用・共有
- 作業内容に基づいた情報提供による属人性の排除
- 体系的なスキルの蓄積と技術伝承の効率化
- 安全活動管理工数の削減
三井化学様における2つのユースケース
実際にお客様とプロジェクトを進める過程でユースケースを二つ選定しました。
- 朝会時の作業前注意喚起
朝会前、当日の作業情報から類似する労災事例やヒヤリハットを検索し、朝会で内容を周知します。属人性解消、対策への結びつけ、タイムリーなアドバイスが可能となります。 - 「ヒヤリハット解析」の業務
職場の管理職や安全衛生委員会で、ヒヤリハットの傾向を分析し、危険源への対策立案に役立てます。省力化、属人性解消、対策への結びつけが可能となります。
今後、ヒヤリハットやトラブル報告書の検索分析により、労働災害の起因を発見できたというご報告をいただき、今後もさらなる利用拡大を検討し勧められています。
IBM Watson Discoveryを活用した労働災害リスクアドバイザー
三井化学様労働災害プロジェクトの基盤を支える製品として、新しい自然言語技術そしてAI学習の要素を持つIBM Watson Discoveryをご紹介します。
Watson Discoveryは多種多様な大量のドキュメントから適切な情報を抜き出し、パターンや傾向を読み取って適切な意思決定を支援するためのテキスト検索・分析エンジンです。様々な情報源から文書を収集してキーワードや表現を抽出し、抽出した情報をもとにカテゴリ付けや分類をします。分類やタグ付けが行われれば、その情報をもとに検索や分析を行うことができ、新しい気づきを獲得できます。具体的にはWatson Discoveryに情報を取り込むと、情報のキーワードを抽出して、そこから形態素解析、構文解析、そして弊社固有のパイプライン、フレームワークを介して情報を抽出します。さまざまなシーンにおいて検索・分析で活用していきます。
IBM Watson Discoveryの5つの特長
- データソースへの簡単な接続
多様な情報源に接続するための、クリック操作で設定できるコネクターを提供していますので、すぐに活用が可能です。 - 文書構造を理解した取込
GUI上で効率的に文書構造を学習させることができます。お手本をもとに、似たような構造のページであれば自動的に構造上の意味合いを区別します。 - 標準&カスタムでメタ情報抽出
付与されたメタ情報を組み合わせることにより業務固有のカテゴリ階層を作成し、精度の高い検索や分析で利用できるようになります。さらにルールの記述でなく、機械学習モデルによるメタ情報を付与する Watson Knowledge Studio と連携も可能です。未分類の文書に複数の分類カテゴリー(ラベル)を割り当てることができます。付与された分類カテゴリーは検索時に絞り込み条件として利用できます。 - ほしい情報を上位に表示
Watsonが質問と回答候補の関連性を学習することで、検索対象に対し最適なランキングモデルが育ちます。 - 大量ドキュメントから気づきを得る
Watson Discovery の検索機能に加え、強力な自然文データの分析機能をご利用いただけます。また、出現数を示す「カウント」ではなく、絞込み条件と言葉との関連の強さを表す「相関」により少数であっても際立った特長を得られます。
デモ
厚生労働省に掲載されている 平成29年に発生した死亡災害、休業4日以上の労働災害事例をダウンロードし、Watson Discoveryに取り込みを行いました。発生した災害の状況や発生時間、事業場の規模に加えて、業種、起因物、事故の型等の各種情報が格納しています。
三井化学様事例でご紹介した、朝会時における作業前注意喚起を促すユースケース、そして「ヒヤリハット解析」の業務のユースケースでの使い方が分かるデモ(10分40秒)をご覧いただきます。
IBM Maximo Safetyで実現するリアルタイムな危険の見える化
IBM Maximo Safetyの業務適用ステップ
数値データから危険を見える化するMaximo Safetyは、生体データと環境データをリアルタイムに収集・蓄積する機能と、アルゴリズムに基づいた分析処理する機能の2つから構成されます。
データ収集、危険検出、アラート発信分析という3つのステップを踏みます。はじめに、リストバンドやビーコンといった生体センサーや環境センサーから、心拍数や体温、労働環境の温度・湿度・照度・騒音・酸素・二酸化炭素、さらに位置情報などのデータを収集します。データはIBM Cloudに蓄積されます。次にそのデータに危険検知アルゴリズムを適用し、どういった危険が起きそうかを予知します。そしてその結果を危険を作業者本人や監督者・管理者に通知することによって、危険を未然に回避します。
管理者の画面では、位置情報に基づき、従業員がどのような場所で業務を遂行しているかを監視します。監督者の画面では、その時間と場所における環境情報で、従業員の安全に関する洞察をリアルタイムで獲得できます。さらに、取得したデータを独自のロジックで分析して、従業員の過労や心労、ガスなどの危険が検出されると、作業者の画面でアラートを出します。
なお、従業員の位置と近くで発生したアラートを統合して分析することで、作業頻度と危険度の両方が高い地域を示すヒートマップを生成でき、管理者は集中を回避する対策が可能になります。IBM Maximo Safetyには、労働環境の危険を特定するだけでなく、特定された危険性の排除を促すまでをカバーするという特長があります。
IBM Maximo Safetyのユースケース
Maximo Safetyは、エッジ・クラウド連携を実現することで、過酷な条件下にいる、あるいは不安全行動をする従業員を保護します。
従業員の疲労レベルから休憩時間を提案するだけでなく、従業員データと位置情報から、天候などの外部データと統合して分析することで、高熱や有毒ガス、重機の近くといった危険度が高い環境で働く従業員を、熱中症や体調リスクから保護できます。
建設の現場では、墜落・転落防止のためのハーネス型安全帯や、大音量や研磨音などの騒音環境下での耳栓などの聴覚保護具など、作業標準に則していない服装・装備に対するチェックができます。
また、重機のような危険度が高い設備・機器に従業員が接近した際にアラートを送信するだけでなく、従業員の位置情報と作業管理とを統合することで、作業管理にない予定外作業や稼働中の危険エリアに近づいた作業員にアラートを出すことができます。
「安心安全な社会」を目指して
複雑さが増している環境下で、経営層は、労働安全の実現に向けて、リーダーシップによりインスピレーションを触発し、従業員を新たな方法でリードし、巻き込み、サポートする必要があります。そして、従業員のウェルビーイング、およびスキル開発を加速させます。これらが、信頼関係を構築し、長期にわたって適切な人材を社内に定着させるために役立ちます。
IBMは、単なるITの導入ではなく、労働安全のあるべき姿の議論からスタートし、お客様の現場の状況に応じたシナリオを考え、AIとIoTによる設備・機器データの戦略的活用までを、共に創り上げていきたいと考えています。
以上は、5月26日(木)13:00-14:00に開催されたセミナーの抄録です。
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