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「性格推定AIへの期待に応えたい」新生IBM PI誕生秘話(Watson PIサルベージ劇場)

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今回ご紹介するのは、ひょっとしたら「IBM社内のゴタゴタに過ぎない話」かもしれません。

ただ、私たちがどんな想いでビジネスに取り組んでいるのかを知っていただく良い機会ではないかと考え、自らゴタゴタに飛び込み、問題解決の糸口を見つけ出したイノベーション・コンサルタントの三上幸司さんに寄稿を依頼しました。

決して、まだ「問題を解決した」と言い切れる状態にあるわけではありませんが、ぜひ「ビジネスの裏側」を覗くような気持ちでお読みいただき、私たちに叱咤激励の声を頂戴できれば幸いです。


 

第1章 Watson PIサービス終了アナウンスの衝撃

「性格分析って、占いみたいなものでしょ?」

Watson Personality Insights(Watson PI)は、「知る人ぞ知る」APIだった。GoogleやAWS、MS Azureなどの大手AIベンダーが持たない「Only IBM」なAI機能であり、それがもたらすビジネス効果やサービスの将来性を考えれば、もっと拡がっていいはずのものであった。

だが、社会に大きなインパクトを与えられるようなビジネスでの活用シーン(ユースケース)が浮かばないまま、Watson PIのアセット提供終了のアナウンスは顧客へと送られていった。

 

一部のクライアントは「ノーベル賞クラスの素晴らしいAI、世界のIT史に残るはずの、最高技術」と、Watson PIに最大限の賛辞を寄せていたという。それを考えれば、終了アナウンスが大きな衝撃を与えることも、本来は十分予測できることだったのかもしれない。だが、事が大きくなっていったのはこのあとだった。

「顧客が怒っている。どうすればいいんだ。」「これからどのようにサービスを展開させればいいのか…」。Watson PIを組み込んだサービスをお客様に提供していた日本のクライアントから、Watson PIのリーダーを務めていた須田(Data & AI事業部)の元にたくさんの戸惑いの言葉が届き始めていた。

「ユーザーの声をきちんと集約し届けることができれば、サンセットを取り止めることが可能なのではないか?」。そう考えた須田は調査を開始し、Watson PIのオーナーであるWatson研究所チームにサンセット決定の理由を確認し、継続の可能性を模索した。

値付けに問題がありアセット利用者が増えてもインフラ維持コストに見合うものとならないということ、ビジネスで価値を生みだすユースケースが不十分であること。この2つの大きな問題に直面し困り果てた須田は、IBM Garage所属の三上、川上に相談した。

 

「先行きはまったく明るいものではないけれど…。でも、これだけの『なんとかして欲しい』という声、情熱を持って取り組もうという人たちがいるのなら、何らかの解決策を見つけることができるかもしれない。」微かな手応えを手に三上、川上の両名は動き出した。そしてこの両名の動きに呼応するように、周囲は「PIサルベージの会」を組成した。

 

 

Strategy & Solutions DATA & AI SMEs GEO Leader 須田 佳代子

 

「当時、テクニカル・サービス・チームでWatson PIを担当していた私の元に、アセット提供終了予定の第一報が入ったのは2021年9月。ご利用いただいているお客様はもちろんのこと、新たにご利用を検討されているお客様もいる中での、まさかの終了予告でした。

日本の状況を伝え必要性を訴えるも、リクエストは届かず。2021年12月1日をもって正式にサンセットされることが発表されてしまいました。

『お客様にご迷惑をおかけすることはできない!』。途方にくれつつも、日本でWatson PIの開発に携われた那須川さんをはじめ、社内のさまざまな関係者に相談したところ、最後の最後で三上さんと川上さんが『日本独自のアセットとしてのサービス提供なら、なんとかできそうだ』と救世主として現れました。

そこから諦めずにエスカレーションをし続けたところ、日本での提供継続が承認されたのです。」

 

第2章 グローバル・アセット登録と予算集めを開始したが…。新生IBM PIの誕生秘話

見通しが明るいわけではなかったが、Watson PIの機能を継続して使用し続けるために、ボランティア有志による「PIサルベージの会」は積極的に活動をスタートした。

日本のアセットとしての登録に必要な、利用できないロジックやOSSを取り除くといったソースコードの改修作業や、シンプルな使い放題プランへの課金方法の変更、移行・契約作業に関する手続きをまとめた移行ガイドの整備など、やるべきことは多かったが、次々とそれを進めていった。

その一方、三上は不安を感じてもいた。PIの未来を考えれば、単なる「機能継続」では将来的に同じことが起きかねない。そのためには、ユーザーがビジネス価値を生みだしやすい新機能(仕組み)が必要だ。そして、作業規模の大きさを考えれば、ボランティア活動だけに頼るのはリスクが大き過ぎる…。

体制を維持するコストカバーのための社内調整も、サルベージ成否の鍵を握っていた。ここで大いに活躍したのが、IBMの技術理事である田端だ。

 

 

 Digital Transformation Distinguished Engineer 田端 真由美

 

「Watson PIはお客様がとても気に入ってくださっていた機能だったんです。最初はトライアル的な使い方でしたが、これまでにない観点で利用者を捉え、新しいサービスに活用できるのではとご期待いただいてたところでしたので、サンセットの話をしに行った時は気が重かったのを覚えています。

お客様もとても残念がっていましたし、何か新しい方法を考えなければと思っていたところに、復活させようという同志が多く集まっていたので、これは乗らねば! と思いました。」

 

リリースまでのドラマは割愛するが、田端や同志の活躍により日本では社内プロセスが完了し、Watson PIは新生「IBM PI」として生まれ変わり、既存顧客の環境移行作業も無事に終えることができた。

 

 

 

Japan CSU Innovation Incubation Projects Lab, China CIC Lead 川上 聡一

 

「Watson PIのアセット化にあたっては、テクニカル面とプロセス面でのチャレンジがありました。テクニカル面では、Watsonの仕組みを理解し、認証・認可などの一部機能の置き換え、また任意のコンテナ環境で動かせるように改修する必要がありました。

プロセス面では、USのWatsonチーム、グローバルのアセットチームと深夜・早朝に会議を何度も重ねて、アセット登録の承認を取りました。

今後ですが、私が把握している範囲だけでも、Watson PIをご利用中のお客様は、デンマーク、イギリス、カナダ、スペイン、ブラジルなど世界中にいます。いずれもHR系のサービスを提供している企業で、スキルセットに加えて、Watson PIの結果を、適切な職業のリコメンドなどに利用しているようです。この分野はこれからますます活況になると考えられ、Watson PIの真価が発揮される場面が増えるのではないでしょうか。

これからは、グローバルにおける継続希望のお客様をどうサルベージするか、私もグローバルの活動を支援していくつもりです。」

 

第3章 もっとわかりやすく! 反省をバネにIBM PI新機能で隠れた潜在能力を開花させる

ビジネスでの活用方法が分かりにくいがゆえに、大きなビジネスインパクトを与えるユースケースが思いつきづらいというのがWatson PI時代の最大の反省点であろう。そこで、新生IBM PIの誕生にあたり、5年ぶり新機能開発がスタートした。現在は今後のロードマップを公開している。

そして新機能の開発と実装に向け、社内外の有志による共創(オープン・イノベーション)を推進するために、PIファンによるユーザー会も準備中である。

 

以下、IBM社内のPI関係者に、今後の期待と将来展望について語ってもらった。

 

 

 Research-Tokyo, Senior Technical Staff Member 那須川 哲哉

 

「自分自身、PIの日本語版の開発に取り組むまで、実はPIの実力に懐疑的でした。しかし、社会心理学分野の高名な先生方とやり取りをしながら、Big5をはじめとした性格特性について学びつつ、さまざまな実験・調査を進めるうちに、PIに対する考え方が大きく変わりました。

私の認識を大きく変化させたきっかけの一つは、人の寿命と性格特性に関する知見の導出です。のべ数万人規模を対象とした数十年に及ぶさまざまな研究調査が百年前から繰り返され、近年になってやっと定説になった内容と同じ結論がPIにより短時間で導出できたのです。PIの信頼性・実力を強く感じた出来事でした。

PIには、性格特性に関する従来の研究手法に革新的な変化をもたらし、多様な発見を実現する可能性があります。そして人々の性格特性やその変化を把握し、適切な対応を実現することで、世の中をより良くできる可能性があります。

たとえば、社会的背景が異なる移民を受け入れる際などに、性格特性が近く共感し易い人が窓口になれば、対立が少なくスムーズな受け入れにつながる可能性が高いと考えられます。人と人の繋がりがより良くなれば、平和な社会の実現につながると考えられます。ノーベル平和賞も夢ではないかもしれません。」

 

 

 

 IX Consulting & Design Associate Partner 高荷 力

 

「情報や選択肢があふれる社会で、人びとは何を頼りに自分に相応しい選択を行っていくのかが、前職からの私の研究テーマでした。

人びとが氾濫する大量情報との付き合い方を模索する中、マーケティングは大きく変容しています。そうした中、企業としては、自社の顧客理解の解像度を向上することでユーザーから信頼を獲得し相互の関係を深める努力が必須となっています。

ですが、社会的な機運として個人情報保護への意識が高まり、大幅なクッキーの利用制限が行われ、今後、企業サイドはどの様に自社の顧客資本を強化していくのかが課題となっているはずです。

そんなタイミングだからこそ、人びとの性格を入り口にあらゆる情報とユーザーのマッチングが行なえる可能性を持つPIは、マーケティング領域において救世主になるかもしれません。

そんな期待から、私がこれまで研究していた買物インサイト(買い物を決定づける心のツボ)とPIの掛け算による、新しいマーケティングアプローチなどを検討させて頂いています。ぜひ、IBMから、次世代のマーケティングアプローチを誕生させて、人と社会に真に優しい未来を創造したいものです!」

 

 

 

 Talent & Transformation Partner – Innovation Unit Leader 石田 秀樹

 

「組織パフォーマンスを向上させるためには、従業員一人ひとりを深く理解することが求められるが、残念ながら、多くの企業において、定量的な情報でさえも完全に把握できていない状態が永遠と続いている。

タレントマネジメントシステムを導入するだけで自然と対応できるものでもない。将来の事業活動に必要となる人材像・人材要件などの未来要件を展望し、必要となる人的情報を意図的に獲得することが本来求められる。

途方もない取組みが予想されるが、悩むことはない。ここにデジタルテクノロジーを活かすべきである。その一つが、人間だからこそ持ち合わせる一人ひとりの人間性・個性(Personality)の言語化である。

IBMが開発したAIの一つ”PI”はパワフルに働く。既存のドキュメントに記載されている文章を読み込ませるだけで、そこから人間性を紐解き、どのような人間なのかを明らかにしてくれる。

このテクノロジーの有意性をどこで活かすかを考えることが、本来の人材マネジメントの実践の第一歩になるのではないか。なぜならば、人事領域における永遠の課題である「適材・適所・適時・適量」の具現化には、人間の”見える化”の継続的な担保が欠かせないからだ。不連続な変化が恒常化している未来への備えとして、今ここで真剣に検討することを個人的に推奨したい。」

 

有志のチカラから創出されるイノベーション、新機能の開発状況

 

 

IBM Garage Sustainable Innovation DX, SX, AI and Innovation Consultant 三上 幸司(寄稿者)

 

顧客・世の中からの期待が大きいテクノロジーにもかかわらず、再びサンセットに陥ってしまうような同じ轍を踏まぬよう、もっとわかりやすくビジネス価値を生み出せる新機能の開発を推進していますが、これらは集結した有志のアイデアによるものです。

これからはトップダウンアプローチで創出されるイノベーションではなく、現場からの声・ギルドとして集結した有志のチカラから創出されるイノベーションが当たり前の時代に入るのかもしれないと強く感じています。

最後に、今後IBM PIが提供を予定している新機能を3つ紹介させていただきます。

 

新機能「Empathy Matching API(API2)」

ユーザーが入力したアンケート結果やコメントデータをINPUTに「IBM PI」の性格分析結果から、共感度にて相性(0〜100%)を数値化、共感度が高いヒト同士を結びつけます。

 

 

新機能「Marketing Categorizer API(API3)」 

「IBM PI」の性格分析結果から、顧客が製品・サービスを購入する際の「購買行動パターン」で分類できます。次世代マーケティング情報として期待され、従来の性別・年代ターゲティング情報との組み合わせで、さらに精度向上が可能となります。

 

 

新機能「Creative Teaming API(API4)」

「IBM PI」の性格分析結果から、同じ役割が被らないようにバランスを取った「理想的なチーム編成」をリコメンドすることができるので、組織上やワークショップ時のチーミング、プロジェクトチーム立ち上げ時に役立てることができます。

 

 

問い合わせ情報

お問い合わせやご相談は、IBM PI運営事務局 pi@ibm.com まで、ご連絡ください。


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