デジタル変革(DX)
デジタル化の加速 – Thrive in Travel & Transportation
2021年09月02日
カテゴリー IBM Consulting | デジタル変革(DX)
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パンデミックによる経営危機においてテクノロジーが収益成長率を伸ばしているが、その成功のためのテクノロジー・ミックスのレシピはパンデミック前後で変化している
IBM Institute for Business Value (IBV)が調査した役員(Executive)のうち、60 %が変革の必要性と機会を認識して自社のデジタル変革を劇的に加速させるために、このCOVID-19パンデミックの機会を利用していると言及しています。 そして、以前、抵抗勢力に直面していた変革活動がパンデミックによって前進したとその役員の3分の2が回答しました。
デジタル変革というものはテクノロジーを活用しビジネスを土台から再構築し改善することを意味します。今やテクノロジーがほとんどの企業にとって中核となる戦略的基盤となっており、組織の生存と成功を左右する重要な決定要因となっていることを皆が理解し始めています。
収益への最大のインパクトをもたらすテクノロジーの順位は、このパンデミックの間に劇的に変化したことがわかってきています。
図1:収入に影響するテクノロジーのランキング変遷
出典:IBV “Digital Acceleration TRENDING INSIGHTS” Figure 3
IBMでは、最新の財務パフォーマンス (2020年前半期) と組み合わされた広範囲にわたる調査データを活用し、18の業界を対象とした当社の分析による重要なキーポイントを特定しました。
- COVID-19による混乱の中で、テクノロジーを積極的に採用することが重要なパフォーマンスの差別化要因となりました。テクノロジーに精通した組織は、同業他社に比べてパフォーマンスが平均で6%上回りました。これはテクノロジーがパフォーマンスの差別化要因として機能したことを意味しています。
- 成功のための「テクノロジー・ミックス」のレシピは常に変化しています。クラウドとAIはますます企業収益パフォーマンスの差別化要因になってきています。
- 各業種には固有の「はっきりした特徴(フィンガープリント)」があります。 ある業界にメリットをもたらすテクノロジーは、必ずしも別の業界にとって差別化できるものとは限りません。
以降においては、Travel & Transportationに焦点を当てて記載します。
背景
COVID-19のパンデミックは、G7諸国が2020年の第2四半期にGDPの10.8%の減少を記録するという前例のない経済的課題を引き起こしました1。
旅客運輸・旅行業界では、2017年から2019年にかけて力強く成長しましたが、パンデミック後には深刻な収益ダウンとなり、かつてない赤字の状態が続いています。
- IATA(International Air Transport Association:国際運送協会)の予測では、2023年中にはパンデミック前になる2019年の需要に回復するだろうとの予測を立てていますが、パンデミックがない元々の2019年以降の需要予測モデルに回復することはないだろうと考えています。またビジネス出張は以前のようには戻らず、レジャー旅行が大きく占めることになると見ています2。
- 鉄道業界では、JR4社と大手私鉄が2020年度において最終赤字に転落しています。各社によって影響の内訳は詳細には異なるものの、共通していることとしては、在宅勤務や緊急事態宣言時に通勤・通学がなくなり、定期券収入という通常期であれば一定額の安定収入の要素が突如として無くなった影響が大きくあります。今後、鉄道収入は従前の70%〜80%にとどまるのではないかとも言われています3。
- 今後旅客関連では、新たなるデジタルコンテンツによる需要創出、MaaS(Mobility as a Service)による交通のシームレス化、住まい(不動産)を中心としたサービスとのつながり、旅行サービスのパーソナライズ化やサービス利用におけるストレスの軽減(旅行サービスのプラットフォーム化、Fast Travel等)などの新しいビジネスを作り出す必要に迫られています。
一方で、物流においてはパンデミックによる影響は弱含みではあるものの、よく見ると成長と課題が新たに発生していることがわかり、下記はその中の例となります4。
- 国内物流においては、BtoBでは製造拠点などにおける感染対策や一時帰休の影響により、生産活動が停滞し、サプライチェーンの一連の影響が出たために運送収入は大幅に減少しています。一方で、BtoCでは在宅勤務・巣篭もり需要によるWebサイトからの注文増加により、宅配便での個別配送個数は対前年比で10%〜20%増加しました。
- 国際物流では、各国の生産活動・消費の減少に伴い、貿易貨物は大幅に減少しています。これに伴い、航空貨物では旅客便減便による輸送スペースの減少や海上物流でもサプライチェーンの不安定化による遅延リスクが顕在化しています。
パンデミック時においても、旅客サービスに従事するスタッフや物流サービス従事者は、需要に対してサービスを止めることなく提供する必要があり、それらの従事者は「エッセンシャルワーカー」として再認識されました。一方で、感染対策を鑑みると、従来のオペレーションとして継続していたアナログな処理(手書き伝票、紙ベースでの処理、ハンコ、対面での応対など)は接触リスクがあるため、必要に迫られて「非接触・非対面」を徹底的に考える必要が出てきました。
図2:2019年前半期と2020年前半期での収益の差異
出典:IBV “Digital Acceleration TRENDING INSIGHTS” Figure 2
テクノロジーで危機をコントロールする
クラウドやAI、IoT、モバイル、RPAなどのテクノロジーの採用については、パンデミック発生前には「あれば望ましい」「ROIを検討してから」「事例などがもう少し出るまで様子を見る」と反応するエグゼクティブが圧倒的でした。しかし、パンデミック後においては、通常期のビジネスモデル・収益モデルが根底から覆される事象が多く発生しており、なりふり構わずコストの見直し、収益を創出できる新しいビジネスモデルの検討と実行に迫られています。実際、COVID-19の混乱の中でテクノロジーが大きな差別化要因となった12の業界全体で、ハイテク積極採用企業の平均収益プレミアムは6パーセントポイントを超えていました。これらの調査結果は、パンデミックの間デジタル技術が競争優位性の重要な源となったことを示しています。
これらの結果からも、デジタル化の加速がさらに進む(テクノロジーが積極採用され、もう検討段階ではなく実行に移す)であろうと考えられます。
ただし、すべてのテクノロジーが同じような効果を生むとは限りません。個々の業界内で最適なパフォーマンスを実現する独自のテクノロジー・ミックスを理解することが重要です。
どのようなミックスが最も重要なのか
図3は、調査した各業界が主要なテクノロジーの表に対してどのように1つの軸上にマッピングされるかを示しており、どれが”Differentiator(差別化要因)”、”Opportunity(機会)”、”Essentials(必須項目)”、”Emerging(先端)”であるかどうかを示しています。
図3:テクノロジーがフィットする領域
出典:IBV “Digital Acceleration TRENDING INSIGHTS” Figure 5
旅行・運輸において、クラウドはパンデミック時の収益パフォーマンスにおいて非常に貢献しました。パンデミック前にクラウド機能に比較的多く投資していた企業は、パンデミック時の収益パフォーマンスの点で大幅に改善されています。また、モバイルは業務パフォーマンスへの貢献にプラスの変化をもたらしており、IoTは多くの業界でますます採用され、不可欠になっているテクノロジーでもあります。特にIoTにおいては、今後の運輸サービスにおいては、航空機・鉄道車両の整備・物流における輸送動態把握(コンテナ・車両・輸送物資)など多くの分野においてデータに基づくコスト最適化(整備部品在庫の最適化・部品の延命化・現地視察の頻度削減と労力最適化・配送最適化など)に貢献してゆくことになります。
しかし、気をつけなければいけないことは、テクノロジーを積極的に活用してゆくということは、この先の長い「デジタルトランスフォーメーションの旅」における一時的な転換点ではないということです。将来の混乱期と次の通常期のどちらにおいても成功するために必要な機能とテクノロジーについて、もっと根本的な変化を引き起こしてゆくのです。
この先のアクションガイド
企業のリーダーたちは、将来のビジネスモデルと運用モデルを形成するテクノロジーの重要性を再考しています。この1年ほどで、このレポートで取り上げるテクノロジーの台頭により、ビジネスアーキテクチャの変化の新時代が始まりました。この革命的な変化を「コグニティブ・エンタープライズ」と呼んでいます。
コグニティブ・エンタープライズでは、インテリジェント・ワークフローやバーチャルツールなどを組み合わせて、組織・従業員・お客様に対して根本からの再構成・新しい組織・新しい働き方が必要になります。そのためにテクノロジーを大いに活用し、物質および場所の制約なしに作業を行う方法に革命をもたらし、エコシステム全体でルーティン・ワークを減らし、お客様、従業員、およびパートナーの権限を拡張してゆきます。
一方で、テクノロジーを活用し、効果的にビジネスの結果を出してゆくためには、企業レベルでのビジョンと構想策定、その個別計画の具体的なスケジュール化と実行は不可欠です。また、テクノロジーはデータ分析・データ項目の選定判断に基づくものが多く、いわゆるデータサイエンティストが各業務部門で育成されていく具体的なプラン(必要とされる学問の特定、教育ロードマップの策定と人材の選出、ガイドラインの策定)もしくはそれを補完するパートナーを選定し、共に活動する計画・実行がなくては、効果的な活動には繋がりづらくなります。
このレポートでは、Travel & Transportationに焦点を当て、パンデミック前後での変化とパンデミック後に現れているテクノロジーの組み合わせ例をもとに、必要となるアクションを述べました。次世代のアウトパフォーマーを決める競争は始まっています。あなたの組織はビジネスの主導権を握る準備ができていますでしょうか?
吉田 究
アソシエイト・パートナー・
航空・運輸・旅行サービス事業部
グローバル・ビジネス・サービス
kiwamuy@jp.ibm.com
https://www.linkedin.com/in/kiwamu-yoshida-12652b24/
航空・鉄道・運輸・旅行業界において20年以上の経験をもち、最上流のグランドデザインから、要件定義・パッケージシステムのfit&gap、設計から稼働保守までの一貫したシステム開発、大規模基幹系システムのプロジェクト運営等、幅広いシステムインテグレーション技術を使ってお客様を支援している。
航空・鉄道・旅行業界における数年先を見据えたPoint of View(戦略的見解)の執筆・監修を推進している。
この投稿は、2020/11/10に発行された”Digital Acceleration(英語)“の抄訳およびその中におけるTravel & Transportationに着目した記事です。
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