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電力送配電DXレポート 第3回 次世代スマートメーターの活用ユースケース

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大塚 彩
日本アイ・ビー・エム株式会社
グローバル・ビジネス・サービス事業
公益サービス事業部

2020年より本格的な検討が開始された次世代スマートメーターでは、現世代よりも取り扱うデータの種類が増え、粒度も細かくなることが想定されています。それらのデータを活用することで、送配電事業の効率性を高めるとともに、顧客サービスの向上を図ることができると期待されます。今回は、「再生エネルギー/脱炭素化」「系統運用の効率化」「レジリエンス強化」の観点から、スマートメーターの活用に関してIBMのグローバルチームが海外の電力会社様と検討中、あるいは実運用を開始しているユースケースをご紹介します。

※ 本記事は公益サービス事業部主催「電力送配電部門様向けDXセミナー」の実施内容を基に構成しています。

次世代スマートメーターの機能に関する主な論点

我が国では2020年9月より「次世代スマートメーター制度検討会」がスタートし、2020年代半ばからの設置開始を目処に次世代スマートメーターの仕様についての検討が行われています。この中では2020年6月に国会で可決/成立した「エネルギー供給強靱化法※1」の「再生エネルギー/脱炭素化」「系統運用の効率化」「レジリエンス強化」といった観点も踏まえて議論が進められており、主な論点としては下表に示すようなものがあります。
※1 正式名称「強靱かつ持続可能な電気供給体制の確立を図るための電気事業法等の一部を改正する法律」


図1 次世代スマートメーターの主な論点

 

このように検討されている機能は多岐にわたりますが、本記事では「再生エネルギー/脱炭素化」「系統運用の効率化」「レジリエンス強化」の観点から、IBMのグローバルチームが海外の電力会社と検討中、あるいは実運用を開始しているユースケース/事例をご紹介します。

スマートメーターの主なユースケース

海外におけるスマートメーターの導入状況は地域や国によって大きく異なりますが、米国では2018年時点で需要家の7割程度、欧州では2023年末に7割程度まで普及すると見込まれています。米国は州によって導入状況に大きな違いがありますが、すでに導入が完了、あるいは最終段階に至った電力会社様では、自動検針だけでなく、スマートメーターから得られるデータをより広範な分野で活用する取り組みが始まっています。

次の図に示すように、スマートメーターから取得したデータの活用に関するユースケースとしては、顧客サービスと新商品分野に関するもの(お客様サービスと新商品分野)と、分散型電源を統合しながら送配電網のより高度かつインテリジェントな運用を目指すもの(グリッド最適化と分散電源の統合)の大きく2つに分けられます。


図2 スマートメーターから取得したデータの活用に関するユースケース

 

これらのうち、太枠で囲ったユースケースについて、IBMのお客様の取り組みを以下にご紹介します。

1.EV充電負荷のディスアグリゲーション

世界的なEVシフトに伴い、今後は電力需要に占めるEV充電の割合が高まると予想され、充電時間帯を適切にコントロールして供給ひっ迫を回避することが求められます。そこで活用が期待されている技術がディスアグリゲーションです。

ディスアグリゲーションとは、一戸分など大きな塊の電力使用量データから、内訳となる個々の使用量を推定する技術を指します。具体的には、一般住戸に設置された1つのスマートメーターで計測した全電力使用量データに対して、電流の流れの特徴をAIで分析してプロファイル化します。それに基づいて実際の電力使用状況をリアルタイムに分析し、「今、どの家電が何ワット消費しているか」を推定するといった具合です。

例えば、ある変圧器の配下設備について、EVの充電によって高い負荷が発生した需要パターンを特定する分析モデルを作ります。このモデルを使って各需要家の電力使用量データを分析し、EV充電をしている可能性が高い需要家に対して夜間利用が安くなるような料金プランへの移行を促したり、直接負荷制御などによって需要を夜にシフトさせたりといった対応が考えられます。

また、「送配電網管理業務の高度化」という観点では、ディスアグリゲーションで負荷の高い時間帯と使用率を把握し、より精緻な予測や合理的な設備形成に活用するようなユースケースが考えられます。

2.短期的な発電量/需要予測での活用(Short Term Load Forecasting)

スマートメーターから得られる実績値を短期的な発電量や需要の予測に活用するユースケースも考えられます。例えば、あるお客様は従来ピーク時の月単位の使用量を基に予測を立てていましたが、使用量の実績や気象データと機械学習による予測モデルを組み合わせたシステムを構築し、より精緻な短期負荷予測を実現されました。

ポイントとなるのは、スマートメーターから得られる実績値のほかにも、複数のデータソースから粒度が異なるデータをリアルタイムに収集して変電所やフィーダー、変圧器などの単位で集約/予測を行い、その結果を既存の配電システムや計画システムでも活用していることです。

今後、日本では系統の混雑回避を目的として分散型電源を直接制御する動きが本格化すると見られます。次世代メーターで5分値なども取れるようになることから、リアルタイムに近い実績を用いた予測分析の活用が必要になると考えられます。

3.位相監視による不平衡/負荷インバランスの検知

海外のあるお客様は、三相交流回路における中性線の破損や、各相の不平衡による焼損/地絡事故を防止するために、位相を監視して不平衡や負荷のインバランスを検知する目的で異常な電流の流れを検出するモデルの作成を進めています。

具体的には、スマートメーターから得られる電流値を収集して正常な場合と異常な場合の電気の流れのプロファイル・データをパターン化したモデルを作り、それとマッチングさせることで異常な状態を検出するソリューションが検討されています。

また、各相の不平衡への対応として、変圧器の接続などを変更する際、現地で確認作業を行う代わりにスマートメーターのデータから同様のモデルを作り、変圧器が接続されている接続層を判断するというユースケースも検討されています。

4.配電網の信頼性向上を目指した停電/断線の検知

高圧線の断線は、日本では配電自動化システム、海外ではSCADAなどで検知していますが、海外のあるお客様では、高圧線の中でも分岐線など既存のシステムでは検出できない区間や、低圧線の断線をスマートメーターで検出することを検討されています。国内でも現世代のスマートメーター・システムですでに実装済み、あるいは導入を検討されいるお客様がいらっしゃいますが、次世代スマートメーターを使うことでさらに検出精度が高まると期待されます。

現世代のスマートメーターでは、システム側から定期的に死活確認のコマンドを送り、その応答を受けて停電もしくは断線の発生有無を確認しています。ただし、停電や断線以外の理由で応答が返らない場合もあるため、無応答の際には他のイベントの発生有無や周辺のスマートメーターの死活確認を行ったうえで「停電もしくは断線発生の可能性あり」と判断するようなロジックをシステム側に組み込んでいます。次世代スマートメーターにLast Gasp機能(停電時に通知する機能)が搭載されると停電が発生した瞬間にその旨を通知するようになるため、通知情報もロジックに組み込むことで、より速く正確に停電や断線の発生を検知できるようになります。

5.Last Gasp機能を活用した停電/断線の検知

5つ目は、Last Gasp機能を活用した停電/断線検知のユースケースです。これは当DXレポートの前回、前々回でも紹介した米国テキサス州の送配電会社Oncor社の事例です。

Oncor社は、既存の停電管理システム(OMS)を補完するかたちでLast Gasp機能を使って停電の発生をピンポイントで把握し、顧客のスマートフォンに通知するサービスを実現しました。具体的には、OMSが停電を検知してLast Gaspも上がった場合には確定情報として通知し、OMSが停電を検知したもののLast Gaspが上がっていない場合は「停電の可能性あり」と通知しています。

日本では米国ほど頻繁に停電が発生しないため、Last Gasp機能の活用法としては、いわゆる“隠れ停電”の検知や、大規模災害で広域停電から復旧した後の復電確認などになると予想されます。

IBMが考える次世代スマートメーターシステム・フレームワーク

これらのユースケースも踏まえて、スマートメーターから得られるデータの使われ方をシステムの観点で見ると、スマートメーターのデータをより高速にリアルタイムに近いかたちで収集/分析するという方向性と、プロファイル・データを収集して特定の状態を判断するモデルを作り、機械学習なども取り入れて分析/判断するといった高度な利用の方向性が見て取れます。

このうち、リアルタイム化に関しては、日本では計画値同時同量制度により30分値を60分以内に小売事業者へ連携するというリアルタイム収集に近いことがすでに行われています。加えて、これからは送配電事業の業務をより高度化するためにも、現在の負荷状態をリアルタイムに収集し、既存の配電自動化システムや今後本格化していく分散型電源の制御システムに統合し、より高度に運用していくといった方向性が予想されます。

このような方向性を踏まえると、新たなスマートメーター・システムについても、将来的にはデータをリアルタイム/高速に活用できる基盤を目指すことが1つの指針になると言えます。その場合、次のような点を構築済みのシステムをベースに考えていくことになるでしょう。

●Aルートの通信方式をどう考えるか?
●大量のデータの高速処理に関して、従来と同様のシステム基盤/技術で不足はないか?
●既存の配電系システムや系統運用向けのシステムとどのように棲み分け、どう連携するか?
●データ分析基盤をどこに、どう組み込むか?

下図に示すのは、IBMのグローバルチームが新たなリファレンス・アーキテクチャーの一例としてご提案しているものです。現世代のスマートメーター・システムと比べると、HES(Head End System)とバックエンド・システムとの間に「Integration(システム連携)」の層が設けられ、「Analytics(分析)」機能が導入されていることが大きな特徴となります。


図3 次世代スマートメーターシステム・フレームワーク

 

新たなユースケースに対応するための最新アーキテクチャー導入事例(台湾電力公司様)

最後に、IBMがご提案しているリファレンス・アーキテクチャーに基づいて実際にスマートメーター・システムを構築された台湾電力公司(Taiwan Power Company)の事例をご紹介します。

同社は台湾で約1,400万件の需要家に電気を供給している垂直統合型の電力会社です。台湾は、これから第1世代のスマートメーターの導入が本格化するという段階にあります。高圧用メーターの導入はすでに完了しており、低圧用メーターは昨年末までに約100万台を導入。2024年内に約300万台を導入し、最終的には1,400万件全てに導入する予定です。

また、MDMS(Meter Data Management System)を含むシステムの構築は完了しており、これから段階的に展開が進められる予定です。システムで実現を目指した機能としては、下表のようなものがあります。

表 台湾電力公司様が新スマートメーター・システムで実現を目指した機能

 

このシステムは複数ベンダーのソリューションを組み合わせたものとなりますが、IBMはシステム全体の設計と構築管理、およびIBM担当機能の構築や他システムとの連携部分をご支援しています。

台湾電力公司様のシステムの概要は下図のようになります。


図4 台湾電力公司のシステム概要

 

当システムの特徴的な点は、将来的な拡張を見越してクラウド・ベースのソリューションで構築している点と、前述のリファレンス・アーキテクチャーと同様に、HESとMDMSの間にIntegration機能を入れている点です。リアルタイムな連携や分析が必要なOMSや分散電源管理システム(DMS)、SCADAなどのシステムに対しては、①のIntegration機能を介して「①→④」または「①→⑤」といった経路でバックエンドのシステムと連携を行っています。また、②のMDMはCISで料金計算を行うためのデータの収集/蓄積/保管を行うもので、HESとはバッチで連携します。

もう1つの特徴は、図中に「Business Application Supporting(IT Zone)」「Grid Operation Supporting(OT Zone)」と示したように、情報系と制御系の各バックエンド・システムとセキュアに連携できるようIntegration機能を構築し、ITとOTの統合を実現している点です。

このように、IBMは現在、国内外の公益企業様に向けて、戦略策定からアーキテクチャー設計、導入、運用保守に至るまで、スマートメーター・システムに関するさまざまなお手伝いをさせていただいています。それぞれのお客様の個別の課題や取り組みも踏まえて、次世代スマートメーターを活用した業務改革のユースケースの検討やデータ分析に関する技術検証、システム全体の設計などもご支援いたします。スマートメーター・システムに関するお悩みやご相談事がおありの際は、ぜひ私どもにお声掛けください。

 

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シリーズ:電力送配電DXレポート

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