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Ocean to Table × Anastasiaセミナーレポート | ブロックチェーンで社会課題解決
2021年08月13日
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地球温暖化や水産資源の乱獲などにより、水産業は危機的な状況にあると言われている。
「持続可能な漁業」という言葉を耳にすることも増えているが、具体的にはどうすれば、地球環境を守りつつ、消費者も生産者も真の意味で豊かな生活を続けていけるのだろうか?
その大きなヒントとなるセミナーが先日開かれた。今回はその『Ocean to Table × Anastasia 漁業の現場から食卓をつなぐブロックチェーン技術』セミナーの模様をお伝えする。
■ 地域課題の解決方法を横展開するためのマーケットプレイス
セミナーで最初に紹介されたのは、地域のスマート化を支援するIT基盤「Anastasia(アナスタシア)」だ。
Anastasiaについては、これまでも当ブログでその取り組みを紹介してきているので下記の記事をご覧いただきたい。
→ 希望自治体へ無償提供 | Anastasia(アナスタシア)が地域にもたらすもの
→ 進む地方行政DX | サービス・ソリューションプロバイダー マクニカの参入で拡がる範囲と未来
今回は、Anastasiaが提供する4つの主な地域課題解決策: 「1. データ流通のインターフェイス提供」「2. 課題解決方法を横展開するためのマーケットプレイスの提供」「3. 地域課題抽出のためのツール提供」「4. 地域課題解決型人材の育成」の中から、2の「マーケットプレイス」に注目してみよう。
マーケットプレイスとは、文字通り「売り買いの場」を意味する言葉であり、Anastasiaで売買されるのは「地域課題解決策」だ。課題解決策を求めている地域行政担当者は、そこでソリューションに関する相談や購入をすることができるし、解決策を生みだしたユーザーはそれを出展することができる。
Anastasiのマーケットプレイスの特長の一つが、売買可能な「地域課題解決策」のきめ細かさだ。
「アプリケーション」「データ」「ハードウェア」「ソフトウェア」「ナレッジ」というソリューションタイプによる区分けや、「農林水産」「環境・エネルギー」「情報政策」などの課題カテゴリーによる区分けなど、行政担当者は自地域が必要としている解決策を容易に検索、閲覧することができる。
Anastasia紹介パートの最後に触れられたのが、今後Anastasiaを通じた提供が検討されているOcean to Tableだ。
■ 一週間の経済活動停止をわずか数秒に | ブロックチェーンが変えた「安心安全」
「Ocean to Table」は、「持続可能な漁業」を実現するためのプロジェクトだ。
「漁場(オーシャン)から食卓(テーブル)まで」という言葉が示しているように、プロジェクトは魚の水揚げ、あるいは養殖からスタートし、加工、出荷、そしてレストランや自宅で美味しく食べていただくまでの全プロセスを包括的に対象としている。
ここ30年間で漁業生産量が半減した日本の水産業の課題に対し、ブロックチェーンを活用したエコシステム構築により、「持続する豊かな海」の実現に向けさまざまな取り組みを進めている。
それでは、Ocean to Tableプロジェクトが生まれた背景とこれまでの歩み、そして現在と未来の展望について、コグニティブ・アプリケーション事業部 片山敏晴が語った内容を振り返ってみる。
「SNSなどで消費者の世界では瞬時に情報が共有されるようになったのに対し、企業の世界はまだまだ遅れていると言われています。中でも遅いものの代表格とされているのが、食品業界です。」片山はこう言うと、リアルタイム動画中継が「普通」のSNSに対し、食品業界の現状を「郵便による絵ハガキ」、あるいは「せいぜいe-mail」であると説明した。
その遅れを取り戻し、一気に情報の正確性と対改竄性を高めるものとして注目されているのが、ブロックチェーン技術だ。
食品業界での注目が一気に高まったのは、米ウォルマートを中心とした実証実験が「IBM Food Trust(IFT)」という正式商用サービスとして広く提供されるようになった、2018年10月のタイミングだという。
このサービスはウォルマートの取引先だけではなく、カルフールやゴールデンステートフーズなどにも採用され、管理の省力化や低コスト化だけではなく、食品の高い品質を保証することで「安心安全」というブランディングの向上と売上アップにも貢献していると片山は説明した。
「IFTはブロックチェーン技術を使用していますが、消費者の方がたにはそれを意識いただく必要はまったくなく、手軽に安全安心を確認できるのが良い点です。
消費者以上に多くのメリットを受けられるのが生産、食品加工、物流、小売といったサプライチェーンの当事者たちです。以前であれば食品に何らかのトラブルが発生した際には、調査究明が終わるまでの数日あるいは丸一週間ほど経済活動を停止せざるを得ませんでした。それが、IFTの活用により、わずか数秒で対応の必要箇所を特定できるのですから。」
■ 「日本でも一緒にやりましょう!」 | 船橋港での出会いがOcean to Tableへ
IFTの信頼と透明性を担保する機能は、水産物にもすぐに応用されるようになった。片山は言う。
「天然魚の海洋捕獲、水産養殖という分野でIFTの活用がすぐに始まりました。たとえばノースアトランティックの自然ホタテ漁、ノルウェー北極圏での養殖サーモンなどです。
ホタテ漁の場合は、「1. どの海域で 2. どの漁業者が捕獲し 3. どこで水揚げ・出荷され 4. どういう経路でレストランに届き 5. どんなレシピで調理されているか」が、スマートフォンで簡単にわかるようになっています。
ノルウェーの養殖サーモンについては、下記の記事で紹介されていますのでご確認ください」
→ SDGsの目標14「海の豊かさを守ろう」 | 水産養殖漁業をブロックチェーンで支援
それでは日本での動きはどうだったのだろうか?
「欧米では、漁や養殖を行う際に、それが持続可能性の観点で正しく行われたものかを第三者機関に証明してもらうというのが当たり前になっていました。その上で、さらに消費者との直接的な関わりを強めていこうという動きが主流になりつつあったのです。
あるとき、アメリカのIBMのブロックチェーン担当者と日米の事例について話していると、『片山さん、水産国である日本では、水産業に活用する余地が大きいのではないの?』と、至極当然な質問を受けたのでした。それが、現在の「Ocean to Tableプロジェクト」へとつながっていったんです。
アメリカ人の同僚にその場で答えられなかった私は、後日インターネットで日本の状況を調べ、日本でサステイナブルな漁業を推進されている第一人者であり、当時、株式会社シーフードレガシー 取締役副社長であられた村上 春二さん(現 UMITO Partner社 代表)を訪ねたのです。」
片山は世界では成長し続けている水産業が日本では衰退していること、そしてその衰退の原因が乱獲によるものだと考えられていること、それを抑制するためのトレーサビリティの取り組みや認証制度の広がりが遅いこと、魚価を上げるための活動が不十分であることなど、日本の水産業が直面している問題を村上氏より学んだという。
「ブロックチェーン技術が役に立てそうだが、実装するのに一番難しいのは、実際に水揚げや養殖の生産をしている方たちに漁獲情報を登録していただくことだろう。そこをどう突破したものか…。」
そう考えていた片山の懸念を、一気に吹き飛ばしたのが村上氏に誘われて訪問した船橋港での出会いだったという。
「私が海外の漁業におけるブロックチェーンの取り組みについて紹介したところ、『それ、日本でも私たちと一緒にやりましょう!』とすぐに力強く声をかけてくれたのが、資源管理に立脚した持続可能な江戸前漁業を実践し、東京湾の水産資源を次世代に残そうと奮闘を続けられていた、海光物産株式会社の大野社長でした。
さらに、漁獲情報の登録に関する懸念を、私の前に講演された株式会社ライトハウスの新藤CEOが吹き飛ばしてくれました。なんと、水揚げ情報の一括登録を、すでに漁業IoTで技術的に実装されていると言うのです。」
■ Ocean to Table | ブロックチェーンで日本の水産業の課題を解決する
こうして、Ocean to Tableプロジェクトはスタートし、販売ECプラットフォームとして楽天市場 | EARTH MALL with Rakuten、東急沿線で営業しているオシャレな魚屋さんsakana baccaなどを運営する株式会社フーディソンをはじめとした、志を共にする11社(下記リンク先では設立時の7社と記載)からなる「Ocean to Table Council(カウンシル)」が設立された。そして今年になり、国内流通ばかりではなく輸出を見据え、輸出協力企業として双日株式会社も支援企業に加わった。
水揚げから食卓まで、まさにその名前通りの「Ocean to Table」が、日本でも確立したのだ。
→ 「Ocean to Table Council」設立のお知らせ ~海の豊かさを守り次世代へ繋ぐ~
「おかげさまで6月、このOcean to Tableプロジェクトが水産庁の[令和3年度バリューチェーン改善促進事業]に採択されました。この秋には、大傳丸が捕獲した江戸前のスズキが、sakana baccaを通じてお買い上げいただけます。
そしてそこでは、漁師さんたちがどんな想いでこのお仕事をされているか、スズキがどんな流通経路で店頭に並んでいるかなどを、スマートフォンでご確認いただけます。
また、東京湾のスズキだけではなく、長崎県松浦産の「鷹島(たかしま)本まぐろ」の養殖出荷にもOcean to Tableのアプリがご利用いただけるようになる予定です。
ぜひ、こちらも楽しみにしてください。」
「これはまだ始まりに過ぎない」と片山は言う。
実際に日本の水産業の課題は解決していないし、持続可能性も高くなったわけではないからだ。しかし、具体的な動きがスタートしたことは大きな意味を持つであろう。
セミナー最後の質疑応答では、片山今後の展望を語った。
「もちろん、これからもっと日本の水産業に広めていきたいと考えています。トレーサビリティ・データを魚の価値に変えていきたいし、変えていけられるはずだと強く信じていますから。
そして今後、食品がどれだけの水を消費しているかを可視化する「バーチャルウォーター」や、CO2の排出量の可視化にも、ブロックチェーンが活用されるようになっていくと考えています。
人びとの暮らしを真の意味でより豊かにしていくこと、そしてSDGsの目標達成にブロックチェーンを通じてこれからも寄与していきます。」
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TEXT: 八木橋パチ
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